The war of searching

黒縁めがね

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コーラス遺跡都市防略

第22話コーラル防略、①

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コーラル遺跡都市へ向かうドラゴ兵団。
奇襲を警戒して本隊を中央に隊列を組み、指示が通りやすいようにしていた。
デイビッド達は特に話すこともないので、ただ黙って歩いる。すると本隊メンバーの1人である、横にいたセンター分けの白髪に赤毛が混じった、一本のアホ毛が頭のテッペンで直立したすごく特殊な髪型の、右腰に二刀のシミターを刺した、デイビッドと同じくらいの身長をした男が話しかけて来た。
「君たちぃ、新入りでしょ?」
デイビッド達はその男の顔と話したことも殆ど無い、なにせ忙しかったから。本人達は気にしていない様子だが、初陣のレイジェナードからは8日しか経っていないのだ。レイジェナードの宿では宿泊した宿に本隊メンバーはいなかった。兵団本庁期間時、3人はそのまま湯浴みすると疲れたのか寝てしまった。
場面は移り変わる。デイビッドの顔には冷や汗がダラダラと垂れ始めた。理由は、今更すぎるが自己紹介をしていない事を思い出したからだ。
田舎特有の頭の悪さだろうか?
これ以上言うと、彼じゃなく私が惨めになるので少し黙ろう。
デイビッドはその事を思い出すと慌てふためいて言葉を紡ぐ。
「あ、あ、えっと、自己紹介し忘れてごめんなさいっ!」
答えるべきはそこでは無い。男はその謝罪を聞くと軽く笑って、それから笑顔で返す。
「いいよ!、別に。それで、そこの2人も新入りだよね?」
"そこの2人"と言うのはハイミルナンとヨーストのようだ。2人は辺りの荒野や景色を楽しんでいるようだった。
「は、はい、僕の同期です。」
その言葉を聞くと、デイビッドは2人を手招きする。それに気づいた2人はとぼけてデイビッドに近づく、男の存在に気づくと何かを思い出したようにデイビッドに同じく冷や汗を流すが、顔は「はい、何でしょう?」とでも言いたげな何食わぬ顔で近づく。
「君たち新入りでしょお?名前、教えてよ。
聞きそびれちゃったし、君たちも大変そうだったしさ!」
デイビッドはそれを聞くと、口を開いた。
「じゃあ、僕から。デイビッド・L・ウィリアムです。」
続いてヨースト。
「俺あヨースト・G・ウィリアズです。」
そしてハイミルナン。
「私は、ハイミルナン・J・ロイドです」
3人の名乗りを聞くと、男は口を開いた。
「へぇ、ウィリアム、ウィリアズ、ロイド…3人とも身分は農民なんだぁ。しかも狩人、木こり、農家の三種類がこんな綺麗に揃うなんて珍しいね。」
ちなみに、ミレス帝国では名前の最後で身分が決まる。狩人の多いウィリアム、木こりの多いウィリアズ、農家の多いロイド。
言葉にこそしていないが、商人の彼にとってはそう言った身分に対する知識は人生の必修科目でもある。
「俺はレワイド・ラッセル・ラリラだよん。俺は商人だから"商人様"って呼んでくれたまえよ、フハハハハッ!あ、もちろん冗談だぜぇ?」
「「「あはは…」」」
レワイドはふざけた口調でそう名乗っり笑った。一連の動きで怒るわけでも、悲しむわけでもなくただふざけるだけのレワイドの様子に苦笑いしながらも「ほっ」と息をついた3人達だった。それを気にせずレワイドは言う。
「そういえば3人とも新入りなのに前の突撃生き残るなんてすごいねぇ、先輩は関心しちゃったなぁ。俺に自己紹介してないって事は、アイツにもしてないよね、紹介するわ!
ラーゴ!」
レワイドはそう言い馬車の方にいる灰色の髪に青の毛が混じり入った長髪。ヨーストよりも一回りほど小柄だが、肩幅がかなり大きい。
斧刃が柄の両方についた特殊な戦斧___いわゆるダブルヘッドタイプの斧を腰にさげる男をラーゴと呼び、こちらに招いた。
「…何だ、レイワド。」
無愛想な口ぶりで答える。
レイワドは招くとラーゴに寄り、肩を組むように左手をラーゴに回し、レイワドはニッコニコでラーゴを紹介した。
「この無愛想な変な奴はラーゴってんだ。俺の従兄弟だぜ、よろしくな!」
「…"よろしく"は自分の台詞だ、レイワド。だが、まぁ、感謝する。」
ラーゴははにかみながら
「あ、そうそう、こいつ人見知りなんだ__」
ラーゴは流れるように肩にかけられた手を払いのけ、反対に首を腕で引き寄せながら脇で首を固めるラーゴは何故か顔が真っ赤になっていた。
(いえない、話しかける勇気がなかったなんて言えない!)
ラーゴは心の中でそう叫ぶ。
知る由もないデイビッド、ヨースト、ハイミルナンはその様子をぽかんと見ているだけだった。ラーゴはそのまま口を開き、赤面のまま言う。
「…失礼、自分はラーゴ・ラメル・ラリラだ。さっき聞いた思うがレイワドとは従兄弟だ、よろしく頼む。」
「ちょ、ちょ、ちぬ、ちぬ!」
首を脇で固められたレイワドはその苦しみにそう喘ぐが、ラーゴはそのまま力を強めた。
そんな2人を見て、デイビッド達は思わず呟いた。
「「「ああ、まだ平和だなぁ」」」



~~~


コーラル遺跡都市南西発掘街。
あれからコーラルに到着したドラゴ兵団は、本隊を先頭に南西の壁に向けて街を歩いていた。
「団長!団長!あれ何!あれ何!」
ハイミルナンは商店らしき所へ指をさしながら目をきらめかせながら団長に問う。団長は目を細め嫌々という感じでそれに応じる。どうも団長は幼い頃に一度ここに来た事があるらしくハイミルナンがそれを聞くや否や、団長に質問責めを決行した。好奇心旺盛な子供は大人にとって少し厄介すぎる。団長はハイミルナンの指をさした先を見ると、黒く、酷い土汚れのついた箱が店の前の屋台に三つほど積み重ねて他の商品と同じように、並べられていた。その箱は平べったく平行四辺形の形をしていて、よくわからないザラザラとした材質で囲まれて横の面には三つラインが一周して彫られており一番上の線のさらに上の面には"P S 4"と書かれている。上底面にはPともSとも見て取れるよくわからないデザインが彫られていた。よくわからないその黒い箱を見ると団長は答える。
「あぁ、あれは古代の宗教、家庭など行事に使われた簡易の聖書的なものだと言われているな。」
ハイミルナンはその返しを聞いて更に問う。
「文字なんて書いてないのに、どうやって文字を書いてるんですか?」
「あれを開けると更に鉄の今が嵌め込まれていてな、二、三枚ほどこじ開けると、金属でできたひし形のプレートの装飾が施されてた緑の板が出てくる。それが聖書だと言われている。」
「すごい!私ちょっと見て来ま___」
ハイミルナンはそれを聞くとさらに目の輝きを一層強め、その商店に行こうと駆け出した時。
「___きゃっ!」
地面にある石に左足をぶつけて躓いた。
団長の後ろにいたデイビッドがすかさずお腹を支え、その転倒を阻止した。ハイミルナンはデイビッドに「ありがとう」と言い、体勢を立て直す。背後にいたヨーストが言う。
「大丈夫か?」
ハイミルナンは笑って返す。
「ええ、ピンピンよ!」
デイビッドはそう言い笑うハイミルナンに心配するような声色で言った。
「でも気をつけてね、多分しばらくはよく躓くと思う。」
ハイミルナンはその言葉を聞くと、元気いっぱいに答えた。
「大丈夫よ!死んでなけりゃそんなのかすり傷だもの!」
その言葉を聞いてどことなく、"いつものハイミルナン"を見れた気がしてホッとしたデイビッドとヨースト、そんな3人を呆れたように見るアメリナ。アメリナが口を開き言葉を発そうとした時、それに被さるように2人の背後から団長に声がかけられた。
「団長ォ、俺ちょっと買って来てもいいっすかねぇ!」
レワイドだった。
彼もハイミルナンに同じく目を輝かせていた。
ため息をついて呆れたように、どこか諦めたように言った。
「残念だが、そんな暇は無い。明日か今日中には王国の連中が落としにやってくる。せめてこの戦いが終わってからにしろ。」
「ちぇー、けっちぃ!」
そう悪態をつくレイワド。当然の事だがそんな暇は無い、本当に無いのだ。なにせ、もうその"王国の連中"は壁のすぐ中にいるのだから。


~~~


壁の外からも見えるほど大きいゴシック式の建物___コーラル遺跡都市、遺産省倉庫前通路曲がり角。サムライは、倉庫前の完全武装したハルバードを持つ警備兵2人を見て考え込む、母国語で。
(ここまで忍び込んだのはよかろうが、ここまで厳重に守られていては盗むモノも盗めぬなぁ…この際、一思いに___おや?)
立ち往生するサムライはそう思い刀に手をかけようとするが、警備2人の他にもう1人そこへ現れた事を視認するとそれを中断する。
やって来たのは、帝国兵らしき軽装の長弓を持つポニーテールの赤毛の低身長、6本ほどの小さなダガーを左大腿に差し、背中に21本ほど矢の入った矢筒を背負う女は警備達に言う。
「ここらに不審な人影が見られたと通報が入りました。戦の混乱に紛れて遺物を盗む糞尿以下のチンカスドブカスクソ低脳人間性欠落者の可能性があります。」
もはや何を言いたいのかわからないほどに汚い言葉使いの女に警備の1人は言う。
「つまりは"遺物を狙った賊に気をつけろ"と言う事ですね?
アルドラ弓兵隊長殿。」
アルドラと言われた女は笑顔で答える。
「ええ、そう言う事です。私はこの遺産省本庁の外回りの警備を任されているので、一度外へ戻ります。」
女はそのまま倉庫前を通り過ぎて行こうとした時、動きが止まる。
「どうしたのですか、アルドラ弓兵隊長殿?」
ゆっくりと、ゆっくりとサムライの方へ振り向く。
(な!?、有り得ぬ。気配は消していたはず。)
女は不気味な笑顔を顔に貼り付けながら警備達に言う。
「貴方達ぃ出番ですよ?ほら、そこの曲がり角の影!」
女は弓で矢をサムライへ射る…のではなく左大腿に刺したダガーの一本を抜き取りサムライの方へ投げる。サムライは飛び出すと投げられたダガーを左手で掴む___
「暗器よりも遅いでス!」
___それを警備の方へ投げると警備はハルバードの柄でそれを弾き、弾かれたダガーは乾いた音を通路へ響かせるだけに終わった。
アルドラは矢筒から矢を一本抜き取り、引き絞りながらサムライへ構える。警備の2人はその構えた弓の射線上に立たぬよう、アルドラの左右に立つ。サムライは刀を抜き両手で右肩の前で立て左足を前に出すように、構える。
「まったク貴方の言うとおりでしたネ、アン殿ッ!」
サムライは前に身を投げ出した。
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