The war of searching

黒縁めがね

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コーラス遺跡都市防略

第39話コーラル防略、19/格好悪い/空を舞う/執行編纂/時の戦

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「___左腕を切り落とすことになるかもしれない。」
「!、えっほえっえっほ…」
平然とした表情から発せられたその言葉を聞くと、デイビッドはさらに咳き込んだ。無理もないだろう。唐突にそんな最もあり得る可能性の高い、最も最悪の言葉を囁かれて仕舞えば咽せたくもなる。
アルチンゲールはすぐさまデイビッドの背中をさすった。そして、デイビッドに誤解させないために一言付け足した。
「落ちついて、デイビッド少年。何も今切り落とす訳ではない、これからそうなるかもしれないだけだよ。ただそれを念頭において欲しかっただけ。とにかく、今は落ち着いて。」
「…」
デイビッドはその言葉を聞くと、安堵したようにため息をつく。ため息と共に「ひゅう」と音が喉の奥で啼いた。デイビッドはその音にびっくりしたのか思わず喉を押さえる。
アルチンゲールはデイビッドのその様子を見ると、軽く鼻で笑い口を開いた。
「ごめんごめん!今、喉を治す。時間が掛かるから、少し話でもしようかな。さぁ、横になって。」
デイビッドは頷きそれに従い、木製の床の上で横になる。そしてアルチンゲールは、デイビッドの喉仏を人差し指と中指だけでそっと触れた。
「まずは、アメリナ達の話からしようか。
アメリナ達、ドラゴ兵団の行動可能な12名とアルドラ弓兵隊200名は増援として南部防壁に向かった。」
「…ぁ!」
デイビッドはその言葉聞いて思わず飛びあがりかけたが、アルチンゲールに制止される。
アルチンゲールはそのまま続けて喉を抑えて治療と言葉を続けた。
「治療が終わってからなら走れば間に合うさ。後を追うかは君の自由だがね。」
「…はぃ」
アルチンゲールの説明に掠れた声で相槌を打つデイビッド。喉が徐々に治ってきているようだ。アルチンゲールが続けて口を開く。
「それに、僕にはまだ治していない患者がまだまだ居る。…後は頼むよ、少年。」
アルチンゲールはそこまで言うと、デイビッドの喉仏から手を離した。傷が治ったようだ。
デイビッドは上半身を起こし、ルチンゲールの方を向き一言。
「ま、任せてください!」
自身があるのかないのかわからない神妙な面持ち、そしてなぜか若干赤い頬。アルチンゲールはそれをクスクスと鼻で笑い言う。

「うん、頼むよ!」



~~~





帝国騎兵は後へ駆けて行く。
「うっぐぅ…」
メネは斬られた左横腹を左手で抑え、右手に持つツヴァイヘンダーを杖に痛みに呻きながら片膝を付いた。左横腹からは血こそ出ているが、傷は浅く内臓までは達していない。
そしてメネに間髪入れず3騎目の騎兵が馬で駆け迫る。メネは3騎目の瞳を再び見つめた。
(___弱った敵に放つ一撃。それは、何?)
騎兵は身を低く、長槍の柄を脇で挟むように馬の頭を盾にするように構える。メネはそれを見ると、ツヴァイヘンダーを杖に立ち上がりそれを右肩に乗せるように構えた。
帝国騎兵はより馬のスピード上げて行く。
そして、メネは左半身を引くようにそれを見据え、帝国騎兵は今まさにメネを蹴散らさんとしたその時。


___腕が、空に躍り出る。
鮮血を舞わせながら腕は地面へ落ちた。
倒れる音が耳に入った。「ずっちゃ」と大人の倒れる音。
その正体は、馬から転落した帝国騎兵だった。



~~~


聖トルミア玉座の間。
玉座に座ったままアインは呟いた。
「コーラル遺跡都市、どうしよっかな」
玉座の前で跪いている執行騎士達の1人の血藍のメイヤが手を上げる。アインはそれを見ると、左腕で頬杖をつき、考え込んむ。
(メイヤのギフトはなぁ…ライカードの連中も巻き込んでしまうし…あ!)
アインは頬杖を解き、言った。
「ごめんね、メイヤ。君のギフトでは少しライカード軍を巻き込んでしまうかもしれない。
だからここは、君ではなくジンにお願いしようとおもうんだ。ジン、お願いするよ。」
そうアインが言うと、メイヤは手を下げた。
そして、アインはジンの方を向く。
ジンは立ち上がり、アインの前に一歩出ると
言った。



「執行騎士序列5位灰刀のジン、執行承る」


~~~


大隊長の刺された腰からは止めどなくどす黒い血が流れ出る。早く治療しなければならない。
それは、バーテイルにもわかっていたようだった。
「強がっている場合では、無いでしょうに」
そう言い、左手に持つスコーピオンテイルをぐるぐると再び回し始めた。大隊長は地面に左腕をつき、土を握りしめる。
スコーピオンテイルの風切り音が耳に入った。
大隊長は立ち上がり、バーテイルを睨みつける。
(あの武器の対策はできていた。超近距離での戦闘には向いていなさすぎることも、十分に。
この目眩しは、長くもって3秒、最低2秒ってところか。ショートソードも対応はできる。
ならよぉ___)
大隊長は、右手に持つブロートソードをバーテイルの喉元に突きつけた。その口元が少し緩む。
(___まぁ、問題はねぇな!)

バーテイルは大隊長へ大きく駆け出した。
大隊長もまた、バーテイルへ駆け出した。
大隊長は身を低く、低くしながらバーテイルへ迫る。バーテイルは大隊長へ左手に握るスコーピオンテイルを大きく振り下ろした。
大隊長はブロートソードの腹で頭を守るように
バーテイルへ翳しさらに素早く迫る。
そして、鉄球の内側へ入った大隊長。
「掛かったな!」
途端バーテイルそう言いながらは身を前に迫り出しながらショートソードを大隊長の顔へ突き出した。大隊長はそれを予測していたかのように横へ転がりながら土をバーテイルの顔にかける。ショートソードは空を突きバーテイルの顔には土埃が掛かり視界を奪う。
猶予は3秒。

バーテイルは素早くスコーピオンテイルを引きつける。迫り来る三つの鉄の流星。
それを握る防具の無い左手首を斬り上げる。
鮮血と共に左手、スコーピオンテイルが宙を舞った。
0.78秒
バーテイルはその痛みに叫びながら右手に握るショートソードを右から左上へ、左上から右下へ、振り回す。大隊長は左手甲を左下から迫るショートソードに顔の前で当てる。
そのまま真上へ左腕を振り上げた。それは所謂パリィ。バーテイルのショートソードは空へ打ち上げられる。
2.59秒
大隊長はバーテイルの懐に大きく踏み込み潜り込む。
2.71秒
そして、ブロードソードをそのままバーテイルの喉元へ突き出した。
2.89、2.91、2.92___
バーテイルの喉元まであと3寸ほど。
___3.98、3.99___





そして時は訪れる。
___4.01


__________________________


ご愛読ありがとうございます。伝言さんです。
投稿不定期で申し訳ありません…
黒縁の都合で、しばらく安定した投稿ができないということを伝言しに参った次第です。どうか、ご理解、ご容赦くださいませ。
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