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眠れない夜になりそうだ
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「こんばんは。七里ヶ浜くんのアカウントで合ってるわよね?」
『合ってます』
すぐにレスポンスがある。
――トークルームという二人だけの空間で、こんな夜に話せるなんて幸せすぎる。
「それなら良かったわ。いよいよ明日がデートの日だけど、予定を確認しておこうと思って』
送ってから重大なミスに気付く。
これじゃあ自分が本気でデートだと思っていると、言っているようなものだ。
ご丁寧に「いよいよ」なんて付けてしまっているし。気持ちが出過ぎた。
『そうですね』
『よろしくお願いします』
「デートの練習の日ということよ」
キーボードをフリックする指は過去最高速だったが、送った時には既に返事が来ていた。
後手に回った。
これでは余計に意識しているみたいではないか。
『訂正されなくてもさすがに分かりますよ』
「そう。ならいいんだけど。もしかすると勘違いしてしまうかと思ったから送っただけ。他意はないわ」
なんとか誤魔化せたようだ。
悟がうっすらと自分のことが嫌いだという、薄々感じていた事実を突きつけられている気はするけれど。
そして、それが現実に作用したかのように、悟からの反応がなくなってしまった。
「七里ヶ浜くん、どうしたの? 何か気を悪くしてしまったなら謝るわ」
もしかしたら、もしかしたら明日の予定をキャンセルされてしまうかもしれない。それだけは嫌だ。
『すみません』
『宅配便がきてしまって』
彼は優しい人だったと思い直す。
見ず知らずの自分を身を挺して救ってくれたのだから。
胸を撫で下ろした。
「あら、そうだったのね。しっかり受け取れたかしら?」
『おかげさまでバッチリです』
よし、普通に会話できている気がする。
彼の家族構成はどんなのだろうか。
まだ彼のことを全然知らない。
「それじゃあ明日の予定を決めましょうか。最初は無難なデートがいいと思うから、お昼過ぎに渋谷で待ち合わせ。カフェに行ってから服を見にいくのはどうかしら?」
無難に、そう言ってみた。
本当は考え抜いたプランだったが、慣れている感じをアピールできるかと思って。
果たしてその目論見は当たったが、またしても返事が来なくなる。
「それとも他に行きたいところがあったりするかしら?」
彼も考えてくれてたらいいな。
そんな「ご褒美」を想像していた涼を待っていたのは、想像を遥かに上回る劇薬だった。
『めちゃくちゃ楽しみしてるよ』
『待ち遠しい』
言葉の意味を完全に理解し切る前に身体が反応していた。
息を呑んだのではなく、胸の奥からこみ上げてくる熱くて苦しいものに気管が詰まったような感覚だった。
まぶたが震える。指先がほんの少し汗ばむ。
全身が「やばい、これは本当に特別だ」と告げている。
かと思えば、次の瞬間には堰き止められていたものが全て流れ出す。
頭の中は真っ白なのに心臓だけが暴走していた。
どくん、どくんと音がうるさくて、自分の思考が聞こえない。
「……んあっ……」
ぽつりと唇から漏れた声が自分のものだと思えなかった。
ただ「楽しみにしてる」と言われただけで涙が出そうだった。笑いそうにもなった。
でも何もできず、ただスマホを両手で抱きしめる。
この人が私の気持ちに少しでも気づいてないとしたら、それはもう、罪だとすら思っていた。
どのくらいの時間、放心していたかわからない。
涼は同じ画面のスクショを何十枚も撮り、ようやく平静さを取り戻す。
おかしい。悟がいきなりこんなことを言うはずがない。
真偽を確かめる必要がある。
「あなた何を言っているか分かってるの?」
「それは何? 私をからかっているつもり?」
「ねぇ、答えなさいよ」
「ねえってば」
あぁ、これだから私は。
高圧的になってしまうのを直そうとしているのに、彼に対しては自分をコントロールできない。
『すみません。先輩に認めてもらえるように男らしさを出そうとしたんですけど、見当違いでしたよね』
なぜか少しだけ安堵した。
がっかりした、と言い換えることもできるけど。
涼は「でも――」とすぐに思い直す。
(これが本当だったら私――おかしくなってしまっていたかも)
ショック死していてもおかしくないと本気で思い、おかしくなった。
「そういうことね」
「そうじゃないかと思っていたところよ」
彼の目に映る私は先輩なんだから、全て「分かって」いなければならない。
とはいえ――。
「なかなか素質があると思うわよ。これからも練習として送るように」
早くも虜になっていた。
自分は直線的な人間だと思っていたけど、デートのことといい、意外と策謀にも長けているのかも。
『送った方がいいんですか?』
そりゃあそうだ。怪しまれている。
でも、もう今さら引き下がれない。
「葉音のためだもの。くれぐれも恥ずかしがらないように。私を本当の彼女だと思って送りなさい」
「送信取り消しとかもしないように」
『善処します』
「それでいいわ。それじゃあ、明日は十二時に渋谷で待ち合わせね。体調が悪くなったりしたらすぐに言いなさい」
「おやすみ」
『おやすみなさい』
会話が終わると、どっと疲れが込み上げてくる。
疲れといっても幸せ疲れだ。
文章での会話だとたかを括っていた部分もあるが……明日はどうなってしまうのだろう。
頭の中でデートのシミュレーションをする。
予定を考えていた時にも通った道ではあるが、やりとりの前後で感じ方が明確に変わった。明瞭になった。
もう一度だけトーク画面を開いてみる。
慣れてきたはずだ。
「~~~~~~~ッ!!!」
ダメだった。
何度見ても、初めて目にした時の衝撃が襲いかかってくる。
(早く寝ないといけないのに……)
眠れない夜になりそうだと涼は理解した。
『合ってます』
すぐにレスポンスがある。
――トークルームという二人だけの空間で、こんな夜に話せるなんて幸せすぎる。
「それなら良かったわ。いよいよ明日がデートの日だけど、予定を確認しておこうと思って』
送ってから重大なミスに気付く。
これじゃあ自分が本気でデートだと思っていると、言っているようなものだ。
ご丁寧に「いよいよ」なんて付けてしまっているし。気持ちが出過ぎた。
『そうですね』
『よろしくお願いします』
「デートの練習の日ということよ」
キーボードをフリックする指は過去最高速だったが、送った時には既に返事が来ていた。
後手に回った。
これでは余計に意識しているみたいではないか。
『訂正されなくてもさすがに分かりますよ』
「そう。ならいいんだけど。もしかすると勘違いしてしまうかと思ったから送っただけ。他意はないわ」
なんとか誤魔化せたようだ。
悟がうっすらと自分のことが嫌いだという、薄々感じていた事実を突きつけられている気はするけれど。
そして、それが現実に作用したかのように、悟からの反応がなくなってしまった。
「七里ヶ浜くん、どうしたの? 何か気を悪くしてしまったなら謝るわ」
もしかしたら、もしかしたら明日の予定をキャンセルされてしまうかもしれない。それだけは嫌だ。
『すみません』
『宅配便がきてしまって』
彼は優しい人だったと思い直す。
見ず知らずの自分を身を挺して救ってくれたのだから。
胸を撫で下ろした。
「あら、そうだったのね。しっかり受け取れたかしら?」
『おかげさまでバッチリです』
よし、普通に会話できている気がする。
彼の家族構成はどんなのだろうか。
まだ彼のことを全然知らない。
「それじゃあ明日の予定を決めましょうか。最初は無難なデートがいいと思うから、お昼過ぎに渋谷で待ち合わせ。カフェに行ってから服を見にいくのはどうかしら?」
無難に、そう言ってみた。
本当は考え抜いたプランだったが、慣れている感じをアピールできるかと思って。
果たしてその目論見は当たったが、またしても返事が来なくなる。
「それとも他に行きたいところがあったりするかしら?」
彼も考えてくれてたらいいな。
そんな「ご褒美」を想像していた涼を待っていたのは、想像を遥かに上回る劇薬だった。
『めちゃくちゃ楽しみしてるよ』
『待ち遠しい』
言葉の意味を完全に理解し切る前に身体が反応していた。
息を呑んだのではなく、胸の奥からこみ上げてくる熱くて苦しいものに気管が詰まったような感覚だった。
まぶたが震える。指先がほんの少し汗ばむ。
全身が「やばい、これは本当に特別だ」と告げている。
かと思えば、次の瞬間には堰き止められていたものが全て流れ出す。
頭の中は真っ白なのに心臓だけが暴走していた。
どくん、どくんと音がうるさくて、自分の思考が聞こえない。
「……んあっ……」
ぽつりと唇から漏れた声が自分のものだと思えなかった。
ただ「楽しみにしてる」と言われただけで涙が出そうだった。笑いそうにもなった。
でも何もできず、ただスマホを両手で抱きしめる。
この人が私の気持ちに少しでも気づいてないとしたら、それはもう、罪だとすら思っていた。
どのくらいの時間、放心していたかわからない。
涼は同じ画面のスクショを何十枚も撮り、ようやく平静さを取り戻す。
おかしい。悟がいきなりこんなことを言うはずがない。
真偽を確かめる必要がある。
「あなた何を言っているか分かってるの?」
「それは何? 私をからかっているつもり?」
「ねぇ、答えなさいよ」
「ねえってば」
あぁ、これだから私は。
高圧的になってしまうのを直そうとしているのに、彼に対しては自分をコントロールできない。
『すみません。先輩に認めてもらえるように男らしさを出そうとしたんですけど、見当違いでしたよね』
なぜか少しだけ安堵した。
がっかりした、と言い換えることもできるけど。
涼は「でも――」とすぐに思い直す。
(これが本当だったら私――おかしくなってしまっていたかも)
ショック死していてもおかしくないと本気で思い、おかしくなった。
「そういうことね」
「そうじゃないかと思っていたところよ」
彼の目に映る私は先輩なんだから、全て「分かって」いなければならない。
とはいえ――。
「なかなか素質があると思うわよ。これからも練習として送るように」
早くも虜になっていた。
自分は直線的な人間だと思っていたけど、デートのことといい、意外と策謀にも長けているのかも。
『送った方がいいんですか?』
そりゃあそうだ。怪しまれている。
でも、もう今さら引き下がれない。
「葉音のためだもの。くれぐれも恥ずかしがらないように。私を本当の彼女だと思って送りなさい」
「送信取り消しとかもしないように」
『善処します』
「それでいいわ。それじゃあ、明日は十二時に渋谷で待ち合わせね。体調が悪くなったりしたらすぐに言いなさい」
「おやすみ」
『おやすみなさい』
会話が終わると、どっと疲れが込み上げてくる。
疲れといっても幸せ疲れだ。
文章での会話だとたかを括っていた部分もあるが……明日はどうなってしまうのだろう。
頭の中でデートのシミュレーションをする。
予定を考えていた時にも通った道ではあるが、やりとりの前後で感じ方が明確に変わった。明瞭になった。
もう一度だけトーク画面を開いてみる。
慣れてきたはずだ。
「~~~~~~~ッ!!!」
ダメだった。
何度見ても、初めて目にした時の衝撃が襲いかかってくる。
(早く寝ないといけないのに……)
眠れない夜になりそうだと涼は理解した。
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