【電子書籍1〜2巻発売中】ダジャレ好きのおっさん、勇者扱いされる~昔の教え子たちが慕ってくれるけど、そんなに強くないですよ?~

歩く魚

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おっさんと3人の冒険者

宝箱

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 1時間ほど歩いて第三層に到着した。
 途中で何度か戦闘があり、山では見たことがないような魔物が多数登場したが、ビギニングの面々はダンジョンという限られた地形を上手く利用して無事に勝利していた。
 ここでは剣を振るにも気を使う必要がある。
 山でも木を切り倒してしまわないよう武器を使っていた経験があるので、その点の苦労はよくわかる。
 武器の間合いをきちんと理解していないと、勝てる戦いも勝てなくなってしまうものだ。
 ダンジョンは地面が平らな分、注意する要素が一つ減っているが、もっと奥に進むと坂で戦うことになるのかもしれない。

「ここから第四層に降りることができます」
「坂の下が暗くなってるね。あまり人の手が入っていないのかな?」
「多少は整備されていますが、四層からは自力での攻略が求められています」

 第三層まではいわばお試しエリアのようなものか。
 徐々に難易度を上げていけば低ランクの冒険者も成長し、対応できるようになるわけだ。
 ここまで流れが確立されているなら、俺の出番などないのではないか?

「三層までは出番が少なかった松明もここから使うわけですね」
「そうです! 私の索敵魔術もここから本領発揮ですよ!」

 トアが胸を張って答える。
 彼女が戦う様子を見ていたが、火・水、そして土の三属性の素質があるようだ。
 三つ以上の素質を持つ者は珍しいと本に書いてあったし、将来有望そうだな。

「……ここからは僕が先頭を務めます……はい……」
「ネンテンくんが?」
「トアの索敵呪文だけじゃ対応できない時があるかもしれません……その時は……僕が…………やります」

 首を傾げていると、ビギンが会話に加わってくれる。

「ネンテンは警戒心が強いですから、相手の奇襲や罠に対応できることが多いんです。打たれ強さとしては僕の方が上なので、攻略済みのエリアは僕が、未攻略のエリアはネンテンがそれぞれ先頭を務めます」
「ははぁ、個人の特徴に合わせた戦略を取るわけですね。……俺もパーティ組みたかったなぁ」

 互いが足りない部分を補って旅するなんて楽しそうだ。
 俺には友達すらいなかったわけだし。

「なんだ、なら私とパーティを組むか? 今ならあのキャスとかいう娘を入れてやってもいい」
「残念だけど、二人がいる時点で俺はお荷物だよ……」

 ルーエとキャスに関しては足りないところが見当たらないし、仮にあったとしてもカバーできる実力を持つ者はごく少数だろう。
 老眼気味の俺なんかが戦っても足手纏いになってしまうだけだ。
 キャスは魔力から美しく、用いる魔術も煌めいていた。
 それに対して俺が使うのは泥臭いというか、そもそも外見から違っている。
 今考えていても仕方ないし、ビギニングの探索を見守ることにした。

「前方よし……後方確認お願い……」
「こっちも大丈夫だ。トアの索敵呪文は?」
「何も引っかかってないよ……あ! 次の曲がり角に呼吸を感じるよ」
「了解……」

 曲がり角から姿を現したのはゴブリンだった。
 名前はダンジョンゴブリンというらしい。
 ダンジョンに出現するゴブリンだからダンジョンゴブリンというのは安直なネーミングだと内心笑っていたが、俺もデカいトカゲとか呼んでいたのを思い出して微妙な気分になった。
 目の前では早速ゴブリンとの戦闘が始まり、軽いが速い一撃を、ネンテンが左手に持つ盾で受け止めた。

「トア……はやく……」
「呻け土塊、アースナックル!!

 トアが短い詠唱を済ませると、ゴブリンの足元……というか股の下から土の腕が飛び出し、彼の股間を殴りつけた。

「ゴ……ガッ」

 ゴブリンは苦悶の表情で崩れ落ち、その隙に背後から飛び出したビギンがトドメをさす。

「うわぁ……容赦ないねあの呪文」

 よく見ると、ビギンとネンテンの顔も引き攣っていた。
 絶対に喰らいたくない呪文の一つだ。
 だが、俺はあの呪文を知らなかった。
 本に記されていなかったし、ルーエもまた意外そうな視線を向けていた。
 時代によって流行る魔術に違いがあるのかもしれない。
 ……この魔術が流行った背景など考えたくもないが。

「……この先は小部屋がいくつかあるね。どうやって探索する?」

 可哀想なゴブリンを超えた先には一本の長い通路があった。
 左右にそれぞれ三つずつ、小さな部屋があるらしい。

「うーん、三層までなら各自探索で効率的に回りたいけど、ここからは何が起きるか分からないからね。みんなで一つずつ潰していこう」
「了解……」

 3人の後ろについて一つずつ部屋を見て回る。
 基本的には何もなく、何かあったとしても一、二体の魔物がいるだけだ。
 手間から順に消化していき、最後は右奧の部屋。

「あ、宝箱があるよ!」

 トアが嬉しそうに跳ねる。
 彼女の言う通り、部屋の真ん中にはポツンと木の箱が置かれていた。

「ミミックの可能性はないか確かめてみよう」
「……ミミック?」

 ビギンは懐から白い粉の入った玉を取り出すと、宝箱に投げつけた。
 箱に当たった衝撃で玉が割れ、白い粉が降りかかる。

「…………大丈夫そうだな。よし、開けてみよう」
「何が入ってるかなぁ……あ! 魔石だよ!」

 後から聞いた話になるが、ダンジョンには定期的に宝箱が出現するらしい。
 その誕生経緯は不明ではあるものの、中に入っているのは武器や魔石といった冒険に役立つものであるため、見つけたらラッキーらしい。

「それで、ミミックっていうのはなんですか?」
「初級のダンジョンには少ないですが、中には宝箱のふりをして冒険者を襲う魔物がいるんです。さっきの粉はミミックが嫌う成分が含まれているから、振りかければ見分けられるんですよ」
「へぇ……」

 山にも無害なふりをして獲物を捕食する植物がいたな。
 姿形は違えど、生態系は似ているのだろう。
 だが、期待させておいて魔物というのはがっかりしてしまうな。

「宝箱だやった――空箱か……ってことですよね?」
「あぁ、はい……そうです」
「今のは宝箱と、た、空箱が――」
「分かっててこの反応に決まっているだろう」

 良いジョークが思いついたのに、やっぱり探索中は余裕を感じられないのだろうか。
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