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番外編
その1
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丁寧に形を整えられた木材がゆっくりと空中を浮遊し、自ら意思を持っているかのように組み上がっていく。
広々としていたが、ただの素材の群れでしかなかった空間。
しかし30分もしないうちに、そこには立派な家が建てられていた。
「……っと、こんな感じでどうすかね」
男は汗を拭いながら声をかける。
金色の髪が陽の光によって輝きを増していた。
サイドが刈り上げられ、かつてこの世に存在したと言われる肉食獣の背のような刺々しさのある頭部。
軽々しい口ぶり。
明らかに道ゆく人々から避けられそうな見た目の男だが、彼を見つめる若い夫婦の視線は好意に満ちている。
「す、素晴らしいです! 中も拝見させてもらいましたが、まさしく理想通り!」
「私たちが要望を詰め込みすぎて他の職人さんには断られ続けていたんです……」
「本当にありがとうございます、ランドさん!」
ジオの教え子の一人であるランドは、家の設計から建築まで、あらゆる工程を一人でこなすことができる。
もちろん、他の職人に対して、経験という面ではまだ20代のランドは劣っていた。
だが、山の外では使われていない稀な魔術を用いることで規格外の速度で建築を行え、さらに自身が日々成長していることで、彼は並いる職人を抑えて人気を得ている。
この日も、望みの多い新婚夫婦の期待に見事に応え、その名声を広めたのだ。
「いえいえ、お役に立ててよかったっす。代金は前払いでいただいてるんで、それじゃあ俺はこれで。お幸せに!」
深く頭を下げる夫婦に背を向け、ランドは去っていった。
・
ジオと別れてから、ランドは様々な地域を渡り歩いてきた。
その目的は依頼のためであり、疲労と共に膨らむ財布を持って、彼はようやくマルノーチへと帰還した。
「あ~疲れた! 兄貴はまだマルノーチにいるかなぁ」
恩師のために建てた家に向かいながら、ランドは大きく伸びをした。
この時期には、すでにジオはケンフォードに向かっていたため、二人が会うことは叶わない。
だが、彼の出発を知らないランドは、とりあえずということで様子を見に来たのだ。
しかし、陽も落ちているというのに家のどこにも灯はついていない。
「やっぱりいないかぁ。ま、兄貴ほどのお方が一箇所に留まるわけがないし、また帰ってきてくれるだろ。なんなら、どっかの国の事件を解決してるかもな」
呟きつつ、彼はほど近くにある宿にでも泊まろうと踵を返した。
「……?」
しかし、何か違和感を感じたように足を止めると、もう一度家を眺める。
深く尊敬する兄貴のため、いつもの依頼以上に――むしろ一国の王から依頼を受けてもこれほどまでに力を入れないだろう――繊細に建てた家。
外観から住み心地が伝わってくるような、細部にまでこだわったデザイン。
おかしなところは何もない。
庭も大きく、たとえば子供がいても危険なく遊ばせることができる。
中央にはランドとジオ、それとキャスの3人で依頼を受けた際に石化させたコカトリスの像が守り神のように鎮座している。
誰かしらが家にいる時には欠かさず磨かれている石像だが、どこか違和感がある。
「……もしかして」
ランドは石像に近づいて、ゆっくりとコカトリスに手を当てる。
彼はしばし険しい表情をしていたが、やがて口元を緩めるとシャツの裾を捲った。
「ちょっと気になるけど……備えあれば憂いなしって昔兄貴が教えてくれたからな。やってみっかぁ!」
魔術を駆使して庭に巨大な穴をいくつか作り、石像に文字のようなものを彫っていく。
「待っててください兄貴! もっと良い家にしときますよおおおおおお!」
人の家に侵入して悪事を働く不審者として一晩のうちに数回の通報を受けたランドだったが、彼はめげずに仕事をやり遂げたのだった。
広々としていたが、ただの素材の群れでしかなかった空間。
しかし30分もしないうちに、そこには立派な家が建てられていた。
「……っと、こんな感じでどうすかね」
男は汗を拭いながら声をかける。
金色の髪が陽の光によって輝きを増していた。
サイドが刈り上げられ、かつてこの世に存在したと言われる肉食獣の背のような刺々しさのある頭部。
軽々しい口ぶり。
明らかに道ゆく人々から避けられそうな見た目の男だが、彼を見つめる若い夫婦の視線は好意に満ちている。
「す、素晴らしいです! 中も拝見させてもらいましたが、まさしく理想通り!」
「私たちが要望を詰め込みすぎて他の職人さんには断られ続けていたんです……」
「本当にありがとうございます、ランドさん!」
ジオの教え子の一人であるランドは、家の設計から建築まで、あらゆる工程を一人でこなすことができる。
もちろん、他の職人に対して、経験という面ではまだ20代のランドは劣っていた。
だが、山の外では使われていない稀な魔術を用いることで規格外の速度で建築を行え、さらに自身が日々成長していることで、彼は並いる職人を抑えて人気を得ている。
この日も、望みの多い新婚夫婦の期待に見事に応え、その名声を広めたのだ。
「いえいえ、お役に立ててよかったっす。代金は前払いでいただいてるんで、それじゃあ俺はこれで。お幸せに!」
深く頭を下げる夫婦に背を向け、ランドは去っていった。
・
ジオと別れてから、ランドは様々な地域を渡り歩いてきた。
その目的は依頼のためであり、疲労と共に膨らむ財布を持って、彼はようやくマルノーチへと帰還した。
「あ~疲れた! 兄貴はまだマルノーチにいるかなぁ」
恩師のために建てた家に向かいながら、ランドは大きく伸びをした。
この時期には、すでにジオはケンフォードに向かっていたため、二人が会うことは叶わない。
だが、彼の出発を知らないランドは、とりあえずということで様子を見に来たのだ。
しかし、陽も落ちているというのに家のどこにも灯はついていない。
「やっぱりいないかぁ。ま、兄貴ほどのお方が一箇所に留まるわけがないし、また帰ってきてくれるだろ。なんなら、どっかの国の事件を解決してるかもな」
呟きつつ、彼はほど近くにある宿にでも泊まろうと踵を返した。
「……?」
しかし、何か違和感を感じたように足を止めると、もう一度家を眺める。
深く尊敬する兄貴のため、いつもの依頼以上に――むしろ一国の王から依頼を受けてもこれほどまでに力を入れないだろう――繊細に建てた家。
外観から住み心地が伝わってくるような、細部にまでこだわったデザイン。
おかしなところは何もない。
庭も大きく、たとえば子供がいても危険なく遊ばせることができる。
中央にはランドとジオ、それとキャスの3人で依頼を受けた際に石化させたコカトリスの像が守り神のように鎮座している。
誰かしらが家にいる時には欠かさず磨かれている石像だが、どこか違和感がある。
「……もしかして」
ランドは石像に近づいて、ゆっくりとコカトリスに手を当てる。
彼はしばし険しい表情をしていたが、やがて口元を緩めるとシャツの裾を捲った。
「ちょっと気になるけど……備えあれば憂いなしって昔兄貴が教えてくれたからな。やってみっかぁ!」
魔術を駆使して庭に巨大な穴をいくつか作り、石像に文字のようなものを彫っていく。
「待っててください兄貴! もっと良い家にしときますよおおおおおお!」
人の家に侵入して悪事を働く不審者として一晩のうちに数回の通報を受けたランドだったが、彼はめげずに仕事をやり遂げたのだった。
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