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おっさんと終焉
予想外
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ジオ一行が会合に向かうのと同時刻。
カグヤノムラから数キロ離れた山中に、一人の男がいた。
彼は逞しい肉体……ではなく、スライムを連想させるような膨よかな腹をもち、佇んでいる。
竹林の中に立っていたが、傾斜はなく、平らな場所。
よくよく見てみると、彼の周りだけは、竹が伐採されていた。
「まぁ、下準備はこんなもんでいいかな。それにしても、あいつ……ナイトリッチって名乗ってたんだっけ? あいつがやられるなんて今でも信じられないよなぁ」
一人でいることへの寂しさからか、それとも開放感か、男は独り言を漏らしている。
「ジオってのはどんな男なんだろうなぁ。きっと、俺みたいな冴えないおっさんじゃなくて、筋骨隆々で若々しいやつなんだろう。絶対に仲良くなれないタイプだ」
腰に携えていた短剣を抜き、左の手のひらを軽くなぞる。
流れ出てくる血に魔術を混ぜて、縄のようなものを生み出す。
「はぁ……俺みたいに魔術も剣技も碌に使えないおっさんを仲間にしてくれたのはありがたいけど、本当にこれでジオってのを倒せるのか?」
縄を、星を描くように垂らしていく。
続いて、尻ポケットから小さい紙を取り出した。
「えーとなになに? 巨大な隕石を呼び寄せる魔術で、失敗すると使用者も死ぬ……ってまじかよ!? 成功すれば他の世界に行けるって、随分オカルトチックな説明だな……」
男は額の汗を拭う。
「同志のためなら仕方ないけど、俺はどこに飛ばされるんだ? あいつらと仲良くなったのは正解だったのか?」
そう言いながらも、もはや後戻りはできないと言うふうに、男は作業を続ける。
「仲良くなったと言えば、一緒に温泉入ったあの人とはまた飲みたいな。魔術の行使は明日の祭でだし、早いうちに村を出たほうがいいと伝えてやろう。ツヴァサンのメンバーも、それくらいなら怒らないよな」
この場所に着いてから1時間ほどが経過していた。
「……縄よし、魔術の構築よし、周囲の環境良し」
指さし確認し、男はもう一度紙に目を通す。
「一応、残りの手順も確認しておくか。明日になってあたふたしたくないしな。まずは、縄に魔力を通す……っと」
星型の縄の中心に立った男が、屈んでそれに触れる。
茶色い縄はすぐに真っ赤に染まった。
「次に、下記に記してある通りに手を動かしてください。続きは裏にあります……か。それじゃあ、とりあえず表面だけ覚えたら今日は帰るか」
男は数回、直線的に手を動かした。
これにて予行練習はおしまい。
続きは明日……のはずだった。
その時、一陣の風が男の手から紙を奪い取る。
ほんの少しだけ、ほんの少しだけ風に煽られたそれは、魔法陣の中にふわりと落ちた。
「おお、びっくりした。これがなくなっちゃあ、明日何もできなくなっちまう」
男はかがみこんで紙を手にする。
無事に取り戻せたことに安堵し、両膝を着き、祈るような形で紙を掲げた。
「……もしもってこともあるかもな。一応、裏面にも目を通しとく――か!?」
想定外の事態に目を剥く。
てっきり、紙の裏にはびっしりと今後の手順が記されていると思い込んでいた。
だが、実際には「最後にこのポーズをとってください」と、両膝を着き、天へ祈りを捧げるような姿勢が描かれているだけ。
「嘘だろ、嘘だろ!?」
紙を拾っただけ。
その動きが、自らの命を媒介にした魔術を完成に導いてしまうなど、誰が想像しようか。
男は必死に解決策を考えるが、徐々に身体が動かなくなっていく。
魔術の代償によって――天降石が地表に落下するまでの間、術者の生命を守る意味合いもあり――身体が硬質化しているのだ。
「バチが……当たっちまったのかも…………な……」
もはや自分の鼓膜にも届かない声。
しかし、それは巨大な隕石が空を裂く音として、人々の耳に突っ込んだ。
カグヤノムラから数キロ離れた山中に、一人の男がいた。
彼は逞しい肉体……ではなく、スライムを連想させるような膨よかな腹をもち、佇んでいる。
竹林の中に立っていたが、傾斜はなく、平らな場所。
よくよく見てみると、彼の周りだけは、竹が伐採されていた。
「まぁ、下準備はこんなもんでいいかな。それにしても、あいつ……ナイトリッチって名乗ってたんだっけ? あいつがやられるなんて今でも信じられないよなぁ」
一人でいることへの寂しさからか、それとも開放感か、男は独り言を漏らしている。
「ジオってのはどんな男なんだろうなぁ。きっと、俺みたいな冴えないおっさんじゃなくて、筋骨隆々で若々しいやつなんだろう。絶対に仲良くなれないタイプだ」
腰に携えていた短剣を抜き、左の手のひらを軽くなぞる。
流れ出てくる血に魔術を混ぜて、縄のようなものを生み出す。
「はぁ……俺みたいに魔術も剣技も碌に使えないおっさんを仲間にしてくれたのはありがたいけど、本当にこれでジオってのを倒せるのか?」
縄を、星を描くように垂らしていく。
続いて、尻ポケットから小さい紙を取り出した。
「えーとなになに? 巨大な隕石を呼び寄せる魔術で、失敗すると使用者も死ぬ……ってまじかよ!? 成功すれば他の世界に行けるって、随分オカルトチックな説明だな……」
男は額の汗を拭う。
「同志のためなら仕方ないけど、俺はどこに飛ばされるんだ? あいつらと仲良くなったのは正解だったのか?」
そう言いながらも、もはや後戻りはできないと言うふうに、男は作業を続ける。
「仲良くなったと言えば、一緒に温泉入ったあの人とはまた飲みたいな。魔術の行使は明日の祭でだし、早いうちに村を出たほうがいいと伝えてやろう。ツヴァサンのメンバーも、それくらいなら怒らないよな」
この場所に着いてから1時間ほどが経過していた。
「……縄よし、魔術の構築よし、周囲の環境良し」
指さし確認し、男はもう一度紙に目を通す。
「一応、残りの手順も確認しておくか。明日になってあたふたしたくないしな。まずは、縄に魔力を通す……っと」
星型の縄の中心に立った男が、屈んでそれに触れる。
茶色い縄はすぐに真っ赤に染まった。
「次に、下記に記してある通りに手を動かしてください。続きは裏にあります……か。それじゃあ、とりあえず表面だけ覚えたら今日は帰るか」
男は数回、直線的に手を動かした。
これにて予行練習はおしまい。
続きは明日……のはずだった。
その時、一陣の風が男の手から紙を奪い取る。
ほんの少しだけ、ほんの少しだけ風に煽られたそれは、魔法陣の中にふわりと落ちた。
「おお、びっくりした。これがなくなっちゃあ、明日何もできなくなっちまう」
男はかがみこんで紙を手にする。
無事に取り戻せたことに安堵し、両膝を着き、祈るような形で紙を掲げた。
「……もしもってこともあるかもな。一応、裏面にも目を通しとく――か!?」
想定外の事態に目を剥く。
てっきり、紙の裏にはびっしりと今後の手順が記されていると思い込んでいた。
だが、実際には「最後にこのポーズをとってください」と、両膝を着き、天へ祈りを捧げるような姿勢が描かれているだけ。
「嘘だろ、嘘だろ!?」
紙を拾っただけ。
その動きが、自らの命を媒介にした魔術を完成に導いてしまうなど、誰が想像しようか。
男は必死に解決策を考えるが、徐々に身体が動かなくなっていく。
魔術の代償によって――天降石が地表に落下するまでの間、術者の生命を守る意味合いもあり――身体が硬質化しているのだ。
「バチが……当たっちまったのかも…………な……」
もはや自分の鼓膜にも届かない声。
しかし、それは巨大な隕石が空を裂く音として、人々の耳に突っ込んだ。
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