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おっさんと終焉
6人
しおりを挟むミヤの説得によって設けられた、対天降石の会議。
村の重役たちとの挨拶を済ませ、ようやく本題に入るという頃、空が二つに割れているのかと思うような轟音が響く。
身体の芯を震わせるそれに恐怖心を煽られた人々は、本能的に驚きの声を上げることで、鼓膜への負担を減らそうとしていた。
しかし、会合の場にいたジオ、ルーエ、そしてミヤだけは、それぞれ感想を述べるだけだった。
「来たか」
「来たようですね」
「……早くない?」
女性陣は至って冷静だが、ジオの脳内には疑問が浮かんでいた。
確か、天降石が落ちるのは祭の当日、つまりは明日だったはず。
そのはずだが、明らかに空に現れるのが早い。
地表に到達するまで数時間ほどだったか。
今はまだ昼過ぎで、数時間後であっても、祭まで丸一日時間がある。
「後世に伝わる際に変化したのかもしれんな。人間は悲劇を好むわけではないが、それらしい理由付けは好きだろう?」
「では、本来なら祭の前日に落ちた天降石の話は、親から子へ、さらにその子へと受け継がれていく時に、語りやすく、覚えやすく変化したと?」
「あくまで推測だがな」
ルーエは驚き、腰を抜かしている村人たちを見て失笑する。
「自分たちが死ぬことにも意味を持たせたいんだろうよ。実際には、なんの意味もないというのにな。こいつらも、私たちも」
「まだ死ぬと決まったわけじゃない」
ジオは短く告げると、立ち上がって人々に呼びかける。
「みなさん、落ち着いてください! 予想していたよりも早く、天降石が落ちてくるようです!」
ジオは、低く、よく通る声で言葉を発したが、それと同時に、家屋の中に防音の魔術をかけて人々の恐怖を緩和した。
それによって、彼の話に耳が傾けられる。
「これから私たちは、どうにかして天降石が地表にぶつからないよう破壊します! みなさんの中に攻撃魔術の使い手や障壁魔術の使い手がいたら、お力を貸してください!」
手が上がったのはわずか5人。
カグヤノムラにはギルドはなく、魔物との戦闘を生業にしている者はいない。
今、挙手したのは、誰もが観光で村にやってきていた冒険者。
数人増えただけでも運が良かった。
障壁魔術を行使できるのは二人で、ジオは、彼らに村人を守るように伝え、残りの面々を引き連れて外に出る。
「……本当に、異次元の規模だ……」
天降石は空を埋めつくさんばかりの大きさ。
巨大過ぎて距離感が掴めず、どのくらいの速度で近付いているのか、はっきりとわからない。
「私はこれを食い止めたのか? とてつもない力だな……世界最強を名乗るだけのことはある」
ルーエは空を見ながら、誇らしげな笑みを浮かべて頷く。
「自画自賛はやめてほしけど」
「だが、この世にあれを一人で破壊できる生物などいないだろう? ジオであっても、独力でアレを破壊して、かつ地上を守るのは――」
「まぁ、人一人にどうにかできる代物じゃないよね」
彼女の左肩に手を置き、ため息を吐くジオ。
「ですが、今は三人おります。三人寄れば文殊の知恵と言いますし、ミヤたちであれば成し遂げられるかと」
ジオの3歩後ろから意見を述べるミヤ。
ナチュラルにハブられてしまった三人の一般冒険者も、さらに後方にいるものの、気合は十分だった。
というのも、最初のうちはとんでもないことに巻き込まれてしまったと尻込みしていたのだが、どこかのずる賢い魔王によって「あの中年が何を隠そう、最近話題の書の守護者、洞察賢者、あとは……まぁ、なんでもいい、ジオ・プライムその人だぞ。共に戦って生き残れば、一生酒場の人気者だろうさ」などと、上手く吹き込まれてしまったのだ。
6人は、死を物質化させたような天降石を見上げて一歩踏み出した。
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