【R18】騎士の涙、乙女の純愛

福永涼弥

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約束の成れの果て(前)

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 新婚生活が始まってからも、エステルは手洗いと入浴以外で自室から出てくることはなかった。
 エステルは引っ越しの翌日から三日ほどは体調を崩していて姿を見かける度に辛そうにしていたが、それは病気ではなく女性特有の体調の波によるものだとセルファースは理解していた。守護騎士として、恋人として四年もエステルの側にいたのだから周期的に体調を崩していることは何となく察せられる。引っ越しの日に手を握ろうとして拒まれたのはそれが理由なのだと思っていた。
 しかし、どうやらそうではないようだった。
 普段ならとっくに回復している頃になってもエステルは自室に閉じこもったままだ。月の乙女として常に誰かに身の回りの世話をしてもらっていたエステルには家事能力がない。当分は通いの家政婦とセルファースが家事をすることになっていたから生活には困っていないけれど、今のままでいいはずがなかった。
 セルファースの心に疑問と焦りが浮かぶ。

 あの襲撃はこれほどまでにエステルに深い傷を残してしまったということなのだろか。それとも。
 ――エステルは、俺を避けているのだろうか。
 結婚式をしたくないと言ったのも本当は俺との結婚を望んでいなかったからなのだろうか。

 できることならすぐにでもエステルの部屋に乗り込んで問い質したいくらいだったが、それが逆効果だということは考えるまでもなくわかっていた。エステルが話してくれる気になるまで待つしかないのだと自分に言い聞かせながらセルファースは日々を過ごしていた。
 半月経ってエステルはようやく部屋から出てきた。しかし、それはエステルの心境に変化が生じたからでもセルファースと話をするためでもない。
 当代の月の乙女ハブリエレからの呼び出しに応じ、聖地マヌラハへと向かうためだった。



 神殿からの迎えの馬車に乗り込むエステルを見送って家事を済ませた後、セルファースは騎士団の詰所に向かった。そろそろ身体を動かしたかったし騎士団の近況も気になる。守護騎士として神殿務めをしていた間に入団した者との顔合わせも必要だ。
 それに、家に一人でいるとエステルとの関係について思い悩んでしまうので気分転換もしたかった。
 あちこちの隊に顔を出してからデルクに軽めの稽古に付き合ってもらい、休憩しながら雑談を交わす。神殿にいた頃はこれが日常で、時々エステルが二人の稽古を眺めていることもあった。
 エステルは今も、神殿にいた頃と同じような肌を見せない服を着て手袋をしている。
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