引きこもり王子の優雅な生活と

爺誤

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引きこもり王子とおれ

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 男娼から得た知識を持って王子様のもとへ帰りたい。そのためには手紙を渡さなければ。
 気合いを入れ直して、ソメーリ王子へ接触するための手段を考えた。馬車には王族の紋章があるから、だめもとで当たってみよう。

「危ない!」
「キャー!!」

 車輪に巻き込まれなければ死なないはずだという勢いで、ソメーリ王子の乗る馬車に突っ込んだ。国王陛下は気難しいことで有名だが、その子供達は庶民にも優しいとの評判だ。
 ギリギリで馬にも馬車本体にも潰されずに済んだおれを、ソメーリ王子の側近が助け起こしてくれた。こちらもけっこう好みだが、理想のひとが現れた以上ふらふらしない。

「ソメーリ王子様に、弟君からの書簡を預かって参りました」
「ルーマ様は六年前に亡くなられている」
「亡くなっていない、閉じ込められているだけなんです!」

 やはり死んだことにされていた。だから全然人が来なかったんだ。姉が姿を消す直前に役人っぽい人間が見に来ていた。どうやってか知らないけれど、姉は王子様を殺したように見せかけたのだろう。

「ルーマが生きている?」
「ソメーリ殿下」
「屋敷まで同行させよ」
「はい」

 おれを止めようとした護衛の男は、馬車の中から聞こえた声に絶対服従のようだ。田舎で召使いもなく暮らしてる王子様とは違う、本物の王族はこんな風なのか。

 連れて行かれたところは王宮だった。王宮の一角にソメーリ王子は住んでいるらしい。
 広い部屋の立派な椅子に座るソメーリ王子の左右には、屈強そうな護衛が付いている。おれの両側にも兵士が立っている。

「ルーマの書簡が本物か私が確かめる。寄越しなさい」
「はい、ルーマ様は」
「これが本物なら話を聞こう」

 そうだった、この部屋に入る前に聞かれたことだけを答えるように言われていた。ソメーリ王子は神経質そうな雰囲気を作っているけれど、おおらかな性格なんだろうか。ルーマ様……おれの王子様が信頼する方だから、きっと良い人だろう。

「ルーマの字だ。私が教えたサインを使ってある。生きていた……」

 ソメーリ王子は片眼鏡を外して、目頭を押さえて俯いた。王子様がきょうだいの誰かに、と言ったのは仲が良かったからだろう。一人でいても幸せな記憶が彼を健やかに生かしたのかもしれない。

「おにいさ……いや、ソメーリ殿下、ルーマ王子は健やかに育ってごきょうだいに会える日を楽しみにされています」
「……君にお兄さん呼ばわりをされる筋合いはないが、それだけルーマに近い人間なのだということで許そう。すぐにルーマのもとへ向かいたいところだが、兵士の話や色々詰めねばならないことがある。五日後に出立するから、しばらく客人として滞在するといい」
「はい」

 五日か……王子様の食料は足りているだろうか。建物から出る手段はあるのだから、なんとかできていると良いのだけれど。
 きらびやかな王宮は当たり前のように黒い髪と黒い瞳ばかりで、明るい色彩の王子様は辛い思いをしていたのかもしれない。きょうだいが彼に優しくて良かった。
 見たこともない美味いものが多く、彼はこんな食事の生活から限られた食材を自力で調理する生活に変えされられたのか。もっと野菜も肉も研究して、あの肉体を健康に保たせてあげたい。
 ……いい身体をしていたけれど、どうやってあんな風になったのだろう。実はちょくちょく出歩いていたとか?  それならおれだけじゃなく、村の誰かが気付くだろうから違うか……。
 客人扱いといっても平民の田舎者に構う人間もなく、おれは静かに王子様の幼い頃を想像して出立まての日々を過ごした。



 ソメーリ王子に手紙を渡せてから五日後、宣言通りに出立の準備が整えられていた。王様に見つかるわけにはいかないらしく、立派だが王家の紋章のない頑丈そうな馬車だった。

「乗りなさい。非常に速い馬車だから揺れも激しい。気をつけて」
「ありがとうございます」

 馬車に乗り込むと、すでにソメーリ王子がいた。向い側に座るように言われて腰を下ろすと、新たな人物が入ってきた。
 花でも食べて生きているようなお姫様、ドゥリン王女だ。彼女も行くのか? 王女は当然のようにソメーリ王子の隣に座り、おれににっこりと笑いかけた。

「長い間ルーマお兄様を支えてくださってありがとう」
「あ、いえ、はい……」

 支えたと言えるのだろうか。自分の家の分を確保した上でしか王子様に差し入れをしていなかった。王子様があんな風だと知っていたら、おれは自分の食い扶持を削ってでもたくさん差し入れたかもしれない。そんな心の有り様は褒められるようなことじゃないのに、反論する言葉もなく項垂れた。
 馬車での移動時間は、ただの田舎者と王族では住む世界が違うことを思い知る時間だった。 

 ソメーリ王子とドゥリン王女は、たまにおれにルーマ王子の今を聞きながら思い出話をし続けた。また、侵入してきた兵士たちの話も出た。
 驚くことに兵士たちは始末されたらしい。それをしたのがルーマ王子のようだと言うのだ。まともに話も出来なかったから彼がどんな人物か知らない。
 だけど、一人でも音楽を奏で、本を朗読していた彼がそんなに攻撃的には思えない。何か理由があったのではないだろうか。おれが兵士たちに捕まってしまった時のような……。

 抱えられた時の、彼の逞しい腕や身体を思い出してしまう。おれも成人男性として農作業や狩りをするからそれなりに筋肉はついているのに、人種が違うとしか言えないような立派な身体つきだった。だけど、一度だけちらりと見た長兄である王太子様も同じような体格だったのに、おれの心が震えるのはルーマ様だけだ。
 彼が王都に帰ってしまうなら、おれも付いて行こう。王子様とふたりきりの世界でなくなるのは寂しいけれど、近くにいたら一度ぐらい何かの勢いでチャンスがあるかもしれない。やり方も聞いたし、おれなら妊娠しないし……。

「わたくし、兄妹でなければルーマお兄様と結婚したかったの」
「!?」

 全て聞き流していたのに、突然とんでもない台詞が耳に飛び込んできた。ドゥリン王女を見ると、口を尖らせて拗ねた表情を見せていて実に可愛らしい。おれが女性を好きなら惚れてしまっていたかもしれない。

「貴方から見てルーマお兄様はどうなの?」
「……っ実に、魅力的なかたです」
「男性の目から見ても?」

 会話に慣れていないから、何が正しい返答かわからない。おれがルーマ王子を好きだとバレなければ良いが。

「おれが男だから余計に魅力的に見えるのかもしれません。王子様は立派な体格をしているから」
「体格が立派?」
「兄上と似ているのかもしれないな」

 ソメーリ王子が口を挟んできて、王太子の姿を思い出した。

「そうですね、王太子様と雰囲気が似ていると思いました」

 兄と妹は顔を見合わせて、王子様の予想図を二人で話し出した。おれだけが今の彼の姿を知っていると思うと、優越感で顔がにやけてきそうだ。



 村に戻れたのは、おれが王子様のもとを離れてちょうどひと月ほどだった。
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