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9 心配していた
飛び出してきたフルーカは、スカートを履いて、髪にはリボンをつけていた。他の子どもよりもいい格好をしているように見える。孤児院に入ったんじゃないのか。
目の前で止まり、俺の頭から腰までを両手でぽんぽんぽんぽんと輪郭を確認するように触れていった。視線の低さは変わらないから、俺と同じぐらいフルーカも身長が伸びている。半年でずいぶん伸びたのに。
「ネイジェ、生きてる。良かった。よかったぁ~」
「お、おい。何でみんな、俺が死んだみたいに」
「だってロゴンに連れて行かれたの見てた子がいたんだ。そのあとぐったりしたネイジェを持ってった人がいたって」
この辺りにいた子どもたちは隠れるのが得意だった。ロゴンと手下に見つかると、何をされるかわからなかったから。でも金も稼がないといけないから、誰かが何かを落とすのを待っていたり、じっと息をひそめてチャンスを待っていた。だから、俺がやられたところも誰かが見ていたのだろう。
俺もロゴンたちに嬲られて死んだ奴を見てきたから、奴らに捕まった時は覚悟した。
「あー死にかけたのは本当。でも、そこの、領主サマの身内に助けてもらって」
説明が面倒だったから、かなり省略する。領主の伴侶であるシェンもいたから嘘ではない。
「そのまま子どもにしてもらったの? ネイジェは頭がいいもんね。領主サマは見る目があるね。あのね、フルーカも子どもにするって引き取ってくれる人がいたの」
やはり女でオメガだと引き取り手が現れるのだろう。フルーカの性格が素直なのもいいはずだ。
「そうか。良かったな」
「うん。ネイジェ、ごめんね。あたし、ネイジェのこと好きだったけど、本当の好きじゃなかったみたい……好きなひとができたの」
フルーカは背伸びをして、俺の耳元でこっそりと告げてきた。引き取られた先でいい出会いがあったのだろう。でも、アルファとオメガでちょうどいいからなんて言ってきたのはフルーカなのに、俺のほうが振られたようだ。楽しくやっているようで何よりだけど。
「幸せになれるよ、フルーカなら」
「うん。ネイジェも、がんばってね」
フルーカが離れると、子どもたちも帰っていった。
お前だけいい思いをしやがってと罵られることも予想していたから拍子抜けだ。
領主はまだ役人から何か話を聞いて、建物を指さして何事かを離している。
護衛の服を着たサナンがすっと近付いてきた。耳は目立つから隠している。
獣の耳をつける魔道具があるのだから、隠すためのものもあった。隠すための魔道具はイヤリングだ。サナンに人間の耳があり、イヤリングをつけていることが新鮮だ。
「ネイジェ。さっきの女の子、仲がいいみたいだね」
「ここに住んでた頃は同じ部屋で寝てたからな」
「君たちはまだ子どもだけど、将来を約束していたとか」
「まさか。俺もあいつも、ただ近くにいたから利用し合っていただけだ」
「そう……ロゴンもいなくなったことだし、ここに戻りたいと思う?」
その言葉の真意がわからなくて、サナンをじっと見上げた。真面目に聞いてきているようだけど、サナン自身も何故聞いているのかわかっていない雰囲気がある。
「俺が戻りたいって言ったら戻れるのか?」
「いいや、無理だ。君は正式にリヤードとシェンの息子として認められているから」
「じゃあ聞いてもしょうがないだろ」
「そうだね」
何かスッキリしない会話だと思ったけれど、互いの同意で終わったから、終わりでいい。
「ここにいた頃は、ロゴンを出し抜くことばかり考えてた。俺はアルファだから、俺だけがあいつを出し抜けるって思ってた」
「うん。群れのトップは一人だから、そう思うのは自然なことだ」
「俺は狼じゃないのに?」
「狼じゃなくても、アルファはそういう本能が強くなりがちだ」
「面倒くさいな」
「うまく飼い慣らす必要がある。本能が必要な時もあるから、抑えるだけじゃ駄目なんだ」
「サナンは本能強め?」
「強いほうだと思う」
こっそり調べた狼獣人の特徴は、身体能力が高く、アルファを頂点とした家族を作るという。独身の若い狼はつがいを見つけるまで一人でいるらしいけど、サナンがつがいを探している様子はない。
もしかして、俺と領主とシェンを家族とみなして守っているのかな。
家族……縁のなかった言葉がじわじわ沁みてくる。守られたいなんて思ったことはなかったけど、圧倒的に俺より強いサナンなら。
「どうした、ネイジェ。サナンがおかしいのはいつものことだ。人間でも狼獣人の中でも変だから、常識は通用しない」
「酷い言いようだ」
「オメガ相手に対等に接しようとするアルファは珍しいんだよ」
「リヤードがそれを言うか。人を性別や外側だけで判断したら面白くない」
サナンと領主は長い付き合いだという。国籍性別を問わない学校でシェンと共に同級生だったそうだ。シェンも拾われたと言っていたけれど、学校に通わせてくれる人が親になってくれたんだな。
「リヤード、用事が終わったなら帰ろう。ネイジェも疲れただろう」
「まだ来たばかりだから、俺は平気だけど」
「視察だと言っただろう。これから孤児院を見る」
「孤児院に問題はない。泣いてる子どももいないし、腹を空かしている子もいない」
「サナンの判断じゃなくて、オレとネイジェが見て判断するんだよ」
「だが」
「サナン、ネイジェのことになるとポンコツになるのどうにかしろ」
「ポンコツ……? そんなにおかしいか?」
「俺はこういうサナンしか知らないから」
「シェンに絡んでた時よりも変だ」
「ふむ」
サナンはずれていない眼鏡を直して、ため息をついた。
「どうしてかはわからないが、ネイジェのことはとても気になってしまう。大事にしまっておきたい」
「しまうとか、俺はモノじゃない」
犬が宝物を穴に埋めるようなものだろうか。サナンは狼だけど。
目の前で止まり、俺の頭から腰までを両手でぽんぽんぽんぽんと輪郭を確認するように触れていった。視線の低さは変わらないから、俺と同じぐらいフルーカも身長が伸びている。半年でずいぶん伸びたのに。
「ネイジェ、生きてる。良かった。よかったぁ~」
「お、おい。何でみんな、俺が死んだみたいに」
「だってロゴンに連れて行かれたの見てた子がいたんだ。そのあとぐったりしたネイジェを持ってった人がいたって」
この辺りにいた子どもたちは隠れるのが得意だった。ロゴンと手下に見つかると、何をされるかわからなかったから。でも金も稼がないといけないから、誰かが何かを落とすのを待っていたり、じっと息をひそめてチャンスを待っていた。だから、俺がやられたところも誰かが見ていたのだろう。
俺もロゴンたちに嬲られて死んだ奴を見てきたから、奴らに捕まった時は覚悟した。
「あー死にかけたのは本当。でも、そこの、領主サマの身内に助けてもらって」
説明が面倒だったから、かなり省略する。領主の伴侶であるシェンもいたから嘘ではない。
「そのまま子どもにしてもらったの? ネイジェは頭がいいもんね。領主サマは見る目があるね。あのね、フルーカも子どもにするって引き取ってくれる人がいたの」
やはり女でオメガだと引き取り手が現れるのだろう。フルーカの性格が素直なのもいいはずだ。
「そうか。良かったな」
「うん。ネイジェ、ごめんね。あたし、ネイジェのこと好きだったけど、本当の好きじゃなかったみたい……好きなひとができたの」
フルーカは背伸びをして、俺の耳元でこっそりと告げてきた。引き取られた先でいい出会いがあったのだろう。でも、アルファとオメガでちょうどいいからなんて言ってきたのはフルーカなのに、俺のほうが振られたようだ。楽しくやっているようで何よりだけど。
「幸せになれるよ、フルーカなら」
「うん。ネイジェも、がんばってね」
フルーカが離れると、子どもたちも帰っていった。
お前だけいい思いをしやがってと罵られることも予想していたから拍子抜けだ。
領主はまだ役人から何か話を聞いて、建物を指さして何事かを離している。
護衛の服を着たサナンがすっと近付いてきた。耳は目立つから隠している。
獣の耳をつける魔道具があるのだから、隠すためのものもあった。隠すための魔道具はイヤリングだ。サナンに人間の耳があり、イヤリングをつけていることが新鮮だ。
「ネイジェ。さっきの女の子、仲がいいみたいだね」
「ここに住んでた頃は同じ部屋で寝てたからな」
「君たちはまだ子どもだけど、将来を約束していたとか」
「まさか。俺もあいつも、ただ近くにいたから利用し合っていただけだ」
「そう……ロゴンもいなくなったことだし、ここに戻りたいと思う?」
その言葉の真意がわからなくて、サナンをじっと見上げた。真面目に聞いてきているようだけど、サナン自身も何故聞いているのかわかっていない雰囲気がある。
「俺が戻りたいって言ったら戻れるのか?」
「いいや、無理だ。君は正式にリヤードとシェンの息子として認められているから」
「じゃあ聞いてもしょうがないだろ」
「そうだね」
何かスッキリしない会話だと思ったけれど、互いの同意で終わったから、終わりでいい。
「ここにいた頃は、ロゴンを出し抜くことばかり考えてた。俺はアルファだから、俺だけがあいつを出し抜けるって思ってた」
「うん。群れのトップは一人だから、そう思うのは自然なことだ」
「俺は狼じゃないのに?」
「狼じゃなくても、アルファはそういう本能が強くなりがちだ」
「面倒くさいな」
「うまく飼い慣らす必要がある。本能が必要な時もあるから、抑えるだけじゃ駄目なんだ」
「サナンは本能強め?」
「強いほうだと思う」
こっそり調べた狼獣人の特徴は、身体能力が高く、アルファを頂点とした家族を作るという。独身の若い狼はつがいを見つけるまで一人でいるらしいけど、サナンがつがいを探している様子はない。
もしかして、俺と領主とシェンを家族とみなして守っているのかな。
家族……縁のなかった言葉がじわじわ沁みてくる。守られたいなんて思ったことはなかったけど、圧倒的に俺より強いサナンなら。
「どうした、ネイジェ。サナンがおかしいのはいつものことだ。人間でも狼獣人の中でも変だから、常識は通用しない」
「酷い言いようだ」
「オメガ相手に対等に接しようとするアルファは珍しいんだよ」
「リヤードがそれを言うか。人を性別や外側だけで判断したら面白くない」
サナンと領主は長い付き合いだという。国籍性別を問わない学校でシェンと共に同級生だったそうだ。シェンも拾われたと言っていたけれど、学校に通わせてくれる人が親になってくれたんだな。
「リヤード、用事が終わったなら帰ろう。ネイジェも疲れただろう」
「まだ来たばかりだから、俺は平気だけど」
「視察だと言っただろう。これから孤児院を見る」
「孤児院に問題はない。泣いてる子どももいないし、腹を空かしている子もいない」
「サナンの判断じゃなくて、オレとネイジェが見て判断するんだよ」
「だが」
「サナン、ネイジェのことになるとポンコツになるのどうにかしろ」
「ポンコツ……? そんなにおかしいか?」
「俺はこういうサナンしか知らないから」
「シェンに絡んでた時よりも変だ」
「ふむ」
サナンはずれていない眼鏡を直して、ため息をついた。
「どうしてかはわからないが、ネイジェのことはとても気になってしまう。大事にしまっておきたい」
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