路地裏に捨てられた絶望アルファは希望を知る

爺誤

文字の大きさ
15 / 23

15 王宮

 いつも派手派手しいし領主がさらにギラギラに着飾り、俺もまた似たような装飾過多な服を着せられた。

「わぁ。ネイジェ、すっごく似合ってるよ」
「オレは?」
「もちろん、リヤードもかっこいい」



「シェンは行かないんですか?」
「俺は行くと王宮を壊しちゃいそうだからやめておく」
「王宮を壊す?」
「オレがオメガだということをうるさく言う奴がいる」
「あ……」

リヤードの兄にスリを働いていいと言われたことを思い出した。

「王の実子でもオメガ、底辺出身のアルファ。とんでもない組み合わせだな」
「やっぱり護衛に紛れて僕も」
「サナンも壊すでしょ。灰色狼と王国の全面戦争になるからだめ」
「シェン、僕はネイジェを守りたいんだ」


「ネイジェは守られたい?」
「自分でどうにかしたい。サナン、孤児院を頼む」

 長居したくないからと、王都の隣町に転移魔法が使われることになっている。護衛や使用人は先に行っており、領主と俺の二人があとから合流する形だ。
 転移魔法はシェンとサナンの二人がかりでやっと動かせるほどの大魔法だから、一般的には存在自体が知られていない。

 俺は魔法を使えないままだけど、見る・・ことができるようになった。シェンの魔法は整然としていて無駄がなく美しい。サナンは荒れ狂う嵐のような魔力を無理矢理抑えて回路に無理矢理流し込んでギリギリ暴発させない感じだ。

 魔力の少ないシェンは技術で効率を上げ、有り余る魔力のあるサナンは制御をするために魔法理論を使っている。
 路地裏で追われた時にいかにサナンに手加減されていたかがよくわかったし、もし俺が反撃していたら魔法で死んでいたかもしれない。危なかった。

 はっきりと見えるようになってから、二人の魔法を見るのが楽しい。俺もいずれ魔法を使えるようになりたい。……俺は、未来の夢を具体的に見られるようになった。


「大公閣下、お待ちしておりました」
「ああ。大義である。ーーネイジェ、ここからは馬車だ。すぐに着く」
「わかりました」

 リヤードは待っていた護衛の騎士に声をかけてから、用意されていた豪華な馬車を指差した。馬には足に羽のアイテムがついている。おそらく速度を上げる魔道具だ。馬車は少し浮くようになっている。
 話には聞いていたけれど、乗るのは初めてだ。どれもシェンの発明品だ。

「高速馬車は魔法使いの確保と街道の整備が課題だ。シェンが充填した魔力でいけるのはここから王都程度まで。街道は人払いが必要だ。止まれないからな」
「人がいたらどうなるんですか」
「跳ねられても文句は言えない。王族と準王族専用だから」

 準王族とは、リヤードのような直系王族の籍から抜けた元王族のことだ。リヤードとその子どもまでが準王族を名乗れる。つまり、俺は孤児から一気に準王族になっている。実感はない。

「ネイジェ、おまえの生まれがどうだろうと、このオレが認めた子どもだ。誰にも媚びる必要はない。たとえ国王であっても」
「国王陛下は丁寧に対応しなくてはならないでしょう」
「丁寧にするだけでいい。言い分を聞く必要はない。困ったらオレを頼れ。成人まではそれが許される」
「……はい」

 いつだって俺のなけなしの自信を壊すのはコイツだ。アルファなのにオメガに勝てない。そして、まだそんなふうに考えてしまう自分にも嫌気がさす。

 馬車の中で向かい合わせで話をしているけれど、魔法のおかげで揺れないし音も遮断されているから、ただ小部屋で話しているだけのようだ。

 リヤードがいつもの皮肉っぽい笑みを浮かべて、ゆっくりと足を組み替える。体格もアルファと言われても違和感がないから、オメガに生まれたのが間違いだったんだろう。それにしても無駄に長い足だ。

「ちなみに王宮はアルファだらけだ。獣みたいに威嚇し合ってるから、同じレベルに立つなよ」
「そんなに、アルファがいるんですか」
「国中のアルファが集まってるんじゃないかと思うぐらいいる」
「はぁ……想像もつかない」
「アルファの展覧会だと思えばいい」

 美術品の展覧会はいくつか連れて行かれたけれど、よくわからなかった。

「ネイジェに望むことは、誰をも殴らず、罵倒しないことだな」
「肝に銘じます」
「おう」

 俺に対しては乱雑な口をきくリヤードも、公的な場に出ると変わるのを知っている。彼は生まれながらの王族で、本来なら姿を見ることも叶わない人間だった。


 馬車を降りると、道の両側に兵士が並んでいた。槍を持ち、剣を履いた彼らのほとんどが、アルファだ。
 リヤードにも俺にも、品定めをするような視線が降りかかる。
 リヤードは、余裕の笑みを浮かべて前を歩いている。一瞬でも怯んだ自分が許せなくなった。

「謁見の間でお待ちです」
「わかった」

 城に入る扉の前で、偉そうなオッサンがリヤードへ恭しく話しかけた。目が合ったけれど、俺に対する感情は見えない。あれが、貴族。
 散々言われてきた、感情を見せるなという言葉に経験が伴っていく。他人を観察するのは得意だったはずだ、生き抜くコツを思い出せ。

「リヤード! 私の愛しい息子よ。ああ、ますます美貌に磨きがかかって……素晴らしい」
「ありがとうございます、父上」

 謁見の間に入ったら国王の前まで行って挨拶を……と、手順を思い返していたのに、国王は玉座から転がり落ちるように駆け寄ってリヤードに抱きついていた。
 リヤードも、周りの人間も平然としている。いや、数人の騎士が驚いているようだ。彼らはリヤードが城を出てから配属されたということだな。

「それで、これが息子のネイジェです」
「息子……似てないが」
「養子ですから」
「何故だ! リヤードの子なら天使のように愛らしいはずだろう」
「よーく見れば天使みたいですよ。ほら、髪もツヤツヤで天使の輪がある」
「可愛げがない」

 可愛げ……? 俺に?
 冗談きついぜオッサン……と思うけれど、このオッサンに嫌われるわけにはいかない。でも、媚びる必要はないとも言われているし。

「お初にお目にかかります。ネイジェと申します」

 面倒になっていちばん簡素な挨拶にした。顔も、笑顔を作ったりはせず、いつも通りだ。

「そっくりだな、リヤードに」
「オレの子ですからね。血の繋がりはないけど」

 肩を落とした国王がとぼとぼと玉座に戻っていく。
触った途端に、場が引き締まった。

「リゼバール公リヤードの子、ネイジェを王家の一員として認める」
「ありがたき幸せ」

リヤードが目配せしたから、国王に向かって一緒に膝をついた。ずいぶんとあっさり認められた。

「意義あり」
感想 1

あなたにおすすめの小説

結婚初夜に相手が舌打ちして寝室出て行こうとした

BL
十数年間続いた王国と帝国の戦争の終結と和平の形として、元敵国の皇帝と結婚することになったカイル。 実家にはもう帰ってくるなと言われるし、結婚相手は心底嫌そうに舌打ちしてくるし、マジ最悪ってところから始まる話。 オメガバースでオメガの立場が低い世界 こんなあらすじとタイトルですが、主人公が可哀そうって感じは全然ないです 強くたくましくメンタルがオリハルコンな主人公です 主人公は耐える我慢する許す許容するということがあんまり出来ない人間です 倫理観もちょっと薄いです というか、他人の事を自分と同じ人間だと思ってない部分があります ※この主人公は受けです

処刑される悪役令息に転生したらなぜか推しの騎士団長がグイグイ近づいてくる

猫に小判
BL
交通事故で死んだはずの会社員・田中悠人は、気がつくとBL小説『恋と陰謀~はじまりは夜に~』の世界に転生していた。 しかも転生先は、原作で処刑される悪役令息エリオット。 当然そんな未来は回避したい。 原作知識を頼りに慎重に立ち回るつもりだったのに、気づけば王宮を揺るがす事件に巻き込まれていき――。 さらに困ったことに、原作で一番の推しだった騎士団長ガイウスがやたらと距離を詰めてきて……? 平穏に生きたい元悪役令息と、過保護な騎士団長がじれじれ距離を縮める話。 ガイウス(騎士団長)×エリオット(元悪役令息)

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

隣国のΩに婚約破棄をされたので、お望み通り侵略して差し上げよう。

下井理佐
BL
救いなし。序盤で受けが死にます。 文章がおかしな所があったので修正しました。 大国の第一王子・αのジスランは、小国の王子・Ωのルシエルと幼い頃から許嫁の関係だった。 ただの政略結婚の相手であるとルシエルに興味を持たないジスランであったが、婚約発表の社交界前夜、ルシエルから婚約破棄をするから受け入れてほしいと言われる。 理由を聞くジスランであったが、ルシエルはただ、 「必ず僕の国を滅ぼして」 それだけ言い、去っていった。 社交界当日、ルシエルは約束通り婚約破棄を皆の前で宣言する。

戦場の黒猫は騎士団長に拾われる

天気
BL
ストーリー完結させて、サイドストーリーに行きたいです。

売れ残りオメガの従僕なる日々

灰鷹
BL
王弟騎士α(23才)× 地方貴族庶子Ω(18才) ※ 第12回BL大賞では、たくさんの応援をありがとうございました!  ユリウスが暮らすシャマラーン帝国では、平民のオメガは18才になると、宮廷で開かれる選定の儀に参加することが義務付けられている。王族の妾となるオメガを選ぶためのその儀式に参加し、誰にも選ばれずに売れ残ったユリウスは、国王陛下から「第3王弟に謀反の疑いがあるため、身辺を探るように」という密命を受け、オメガ嫌いと噂される第3王弟ラインハルトの従僕になった。  無口で無愛想な彼の優しい一面を知り、任務とは裏腹にラインハルトに惹かれていくユリウスであったが、働き始めて3カ月が過ぎたところで第3王弟殿下が辺境伯令嬢の婿養子になるという噂を聞き、従僕も解雇される。

ただのハイスペックなモブだと思ってた

はぴねこ
BL
 神乃遥翔(じんの はると)は自分のことをモブだと思っていた。  少年漫画ではいつだって、平凡に見えて何か一つに秀でている人物が主人公だったから。  その点、遥翔は眉目秀麗文武両道、家も財閥の超お金持ち。  一通りのことがなんでも簡単にできる自分は夢中になれるものもなくて、きっと漫画のモブみたいに輝く主人公を引き立てるモブのように生きるのだと、そう遥翔は思っていた。  けれど、そんな遥翔に勉強を教わりに来ている葛城星 (かつらぎ ほし)は言った。 「BL漫画の中では、神乃くんみたいな人がいつだって主人公なんだよ?」  そう言って、星が貸してくれた一冊のBL漫画が遥翔の人生を一変させた。  自分にも輝ける人生を歩むことができるのかもしれないと希望を持った遥翔は、そのことを教えてくれた星に恋をする。  だけど、恋をした途端、星には思い人がいることに気づいてしまって……  眉目秀麗文武両道で完璧だけど漫画脳な遥翔が、お人好しで気弱な星の心に少しずつ少しずつ近づこうと頑張るお話です。

家に帰ったら、妻は冷たくなっていた。突然シングルファザーになった勇者パーティーの治癒師は家族を修復したい

八朔バニラ
ファンタジー
勇者パーティーに所属し、魔王討伐した治癒師(ヒーラー)のゼノスは街の人々の歓声に包まれながら、3年ぶりに家に帰った。家族が出迎えてくれると思ったが、誰も出迎えてくれない。ゼノスは不満に思いながら家に入ると、妻の身体は冷たくなっていた。15歳の長男ルミナスはゼノスの代わりに一家の柱として妹を守り抜き、父に深い拒絶のこもった瞳を向けていた。そして、8歳の長女ミリアは父の顔も忘れていた。 ゼノスは決意する。英雄の肩書きを捨て、一人の不器用な父親として、バラバラになった家族の心を繋ぎ合わせることを。 これは世界最強の治癒師が家族を修復する物語である。