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1 適齢期ですが枯れてます
僕はテディ・バーリ。小金持ちな商家に生まれて、かなり自由に生きている。勉強も好きで十五で公務員採用試験にギリギリで受かって三年目のオメガだ。世間一般のイメージするオメガらしい美形ではなく、童顔で癒し系だと言われている。身内の欲目でぎりぎりこの評価だ。
職場には優秀なアルファかベータばかりで、どうしても能力が追いつかないから仕事はいつまでも新人扱いだけど、オメガだからという差別がないだけで上々だ。
僕の住むオリアン国は他の国と違って、平民にも、オメガにも官僚になるチャンスがある。昔から他所よりオメガに優しい気風の国だったけど、今の王様にアルファのお子様が産まれなかったことが決定打となった。
第一子のステファン殿下はなんとオメガでありながら立太子となられた。順調にいけばオリアンの歴史初のオメガの王が生まれることになる。
歴史的瞬間に立ち会えるのは誇らしく、同じ……というには優秀すぎるステファン殿下に恥ずかしいけれど、いち官僚として支えていけたらいいと思っている。
とはいえ、そろそろ僕も適齢期、仕事だけじゃなく将来のことも考えたい。差別されないとはいえ、フリーのオメガとしてアルファの多い職場で気を張り続けるのも疲れる。
ステファン殿下には近衛騎士団長になったディスクゴード公爵家のトール様がいらっしゃるけど、あんなすごいアルファじゃなくていいから、僕にも決まった人ができたらいいのに。
なんて思ってたせいか、近衛騎士のひとに目がいってしまった。ひときわ目を引くのは、エミル様だ。男爵家の三男で若いながらも既に隊長という優秀さ。明るい金髪に澄んだ青い瞳、少し遊んでいる雰囲気なのも、僕みたいな陰キャが憧れやすい。
好きだなと思うけど、さすがに高望みが過ぎるのもわかってる。同僚ですらみんな貴族だったり既につがいがいたりして、余ってるアルファはほとんどいない。エミル様ももしかしたら既につがいがいるのかもしれない。でも、憧れているだけならいいよね。
そう思っていたのに、下町のお酒も出している食堂でエミル様と偶然出会ってしまった。
エミル様は同じぐらいの年頃の方と一緒だった。ご友人だろうか。エミル様より堅そうな雰囲気があって、少し近寄りがたい。
まあきっと二人とも僕にとっては雲の上の方々なんだけど。
僕は二人の後ろ姿の見える一人席に座り、エミル様と会えた幸運に乾杯しようと、普段頼まない酒を一杯食事に加えて注文した。
お二人は何かを話しながら飲んでいたけれど、ご友人のお酒が進んでいるようだった。体格のいい方だけど、ちょっとペースが早い気がする。エミル様は何度も宥めるようにご友人の肩を叩いている。
エミル様のご友人ならアルファかもしれないと、超人のように思っていたけど、お酒を飲まなきゃやってられないという時もあるんだな。
あまり見ているのも失礼だと思い直して、僕は会計をするために立ち上がった。
偶然にもエミル様とご友人の横を通ることになるけど、僕は失礼にならないよう視線を向けないように通ろうとした。
「いい匂いがする。君……名前は?」
突然腕を掴まれて、エミル様のご友人が至近距離にいた。いい匂いって、僕にはお酒の匂いしかわからない。
「クラース、やめろ」
「エミルが言ったばかりだろ、失恋の痛みは新しい恋で紛らわせろって」
「お前は酔ってる」
外見の雰囲気ではエミル様のほうが軽い感じなのに、クラースと呼ばれた方のほうが行動が軽い。勝手なイメージを抱いていてごめんなさい。
「はは、酒に飲まれるような俺じゃない。俺はクラース、君の名を教えていただけるかな?」
取っていた腕を離して、手の甲に口付けられながら聞かれてどきどきする。クラースさん……様のほうがいいだろうか、エミル様のお友達だし。クラース様も美形だから、目が眩みそうだ。
「えっと、あの、テディ、です」
「テディ、可愛い名前だ。この店にはよく来るの?」
腰が砕けそうになる甘い声に、エミル様の前だというのにクラース様に抱きついてしまいそうだ。僕、こんなに尻軽だったの? アルファに口説かれるなんて機会は生まれて初めてだからわからない。
「あの、僕もう帰るところなので」
とりあえず戦線離脱しなければ、今にも白旗を上げて喜んで持ち帰られてしまう。でもこの年で未経験だから、チャンスでもある? いやいやエミル様の目の前でご友人となんてことになったら、絶っ対にエミル様との僅かな可能性もなくなってしまう。
そんな僕にエミル様は優しく助け舟を出してくれた。
「突然すまないね、こいつのことは俺に任せてくれればいいから」
「はい! 失礼します! エミル様!」
「あれ? 名前……」
「す、すいません下っ端ですが、僕も王宮に勤めているから」
「へえ、優秀なんだね。ああ、引き止めないから行きなさい」
クラース様の首に腕を回して動けないようにしたエミル様が、ひらひらと手を振った。かっこいい。
一方で僕は何もないところで躓きながら、あるわたわたとお金を払って店を出た。後ろから憧れていた人たちの会話が聞こえてくる。
「おい、エミル」
「はいはい、お前はもう飲んで潰れておけ」
「俺は潰れない……」
店を出たところで振り返ると、テーブルに突っ伏しているクラース様が見えた。
失恋と言っていた。あんなに素敵な方ならさぞかし色々な恋の話があるのだろう。不意に蘇る甘い声にドキドキしてしまうから、エミル様の穏やかな様子を思い返して心を鎮めた。
なんだか今晩は人生で一番濃い日になったような気がする。
職場には優秀なアルファかベータばかりで、どうしても能力が追いつかないから仕事はいつまでも新人扱いだけど、オメガだからという差別がないだけで上々だ。
僕の住むオリアン国は他の国と違って、平民にも、オメガにも官僚になるチャンスがある。昔から他所よりオメガに優しい気風の国だったけど、今の王様にアルファのお子様が産まれなかったことが決定打となった。
第一子のステファン殿下はなんとオメガでありながら立太子となられた。順調にいけばオリアンの歴史初のオメガの王が生まれることになる。
歴史的瞬間に立ち会えるのは誇らしく、同じ……というには優秀すぎるステファン殿下に恥ずかしいけれど、いち官僚として支えていけたらいいと思っている。
とはいえ、そろそろ僕も適齢期、仕事だけじゃなく将来のことも考えたい。差別されないとはいえ、フリーのオメガとしてアルファの多い職場で気を張り続けるのも疲れる。
ステファン殿下には近衛騎士団長になったディスクゴード公爵家のトール様がいらっしゃるけど、あんなすごいアルファじゃなくていいから、僕にも決まった人ができたらいいのに。
なんて思ってたせいか、近衛騎士のひとに目がいってしまった。ひときわ目を引くのは、エミル様だ。男爵家の三男で若いながらも既に隊長という優秀さ。明るい金髪に澄んだ青い瞳、少し遊んでいる雰囲気なのも、僕みたいな陰キャが憧れやすい。
好きだなと思うけど、さすがに高望みが過ぎるのもわかってる。同僚ですらみんな貴族だったり既につがいがいたりして、余ってるアルファはほとんどいない。エミル様ももしかしたら既につがいがいるのかもしれない。でも、憧れているだけならいいよね。
そう思っていたのに、下町のお酒も出している食堂でエミル様と偶然出会ってしまった。
エミル様は同じぐらいの年頃の方と一緒だった。ご友人だろうか。エミル様より堅そうな雰囲気があって、少し近寄りがたい。
まあきっと二人とも僕にとっては雲の上の方々なんだけど。
僕は二人の後ろ姿の見える一人席に座り、エミル様と会えた幸運に乾杯しようと、普段頼まない酒を一杯食事に加えて注文した。
お二人は何かを話しながら飲んでいたけれど、ご友人のお酒が進んでいるようだった。体格のいい方だけど、ちょっとペースが早い気がする。エミル様は何度も宥めるようにご友人の肩を叩いている。
エミル様のご友人ならアルファかもしれないと、超人のように思っていたけど、お酒を飲まなきゃやってられないという時もあるんだな。
あまり見ているのも失礼だと思い直して、僕は会計をするために立ち上がった。
偶然にもエミル様とご友人の横を通ることになるけど、僕は失礼にならないよう視線を向けないように通ろうとした。
「いい匂いがする。君……名前は?」
突然腕を掴まれて、エミル様のご友人が至近距離にいた。いい匂いって、僕にはお酒の匂いしかわからない。
「クラース、やめろ」
「エミルが言ったばかりだろ、失恋の痛みは新しい恋で紛らわせろって」
「お前は酔ってる」
外見の雰囲気ではエミル様のほうが軽い感じなのに、クラースと呼ばれた方のほうが行動が軽い。勝手なイメージを抱いていてごめんなさい。
「はは、酒に飲まれるような俺じゃない。俺はクラース、君の名を教えていただけるかな?」
取っていた腕を離して、手の甲に口付けられながら聞かれてどきどきする。クラースさん……様のほうがいいだろうか、エミル様のお友達だし。クラース様も美形だから、目が眩みそうだ。
「えっと、あの、テディ、です」
「テディ、可愛い名前だ。この店にはよく来るの?」
腰が砕けそうになる甘い声に、エミル様の前だというのにクラース様に抱きついてしまいそうだ。僕、こんなに尻軽だったの? アルファに口説かれるなんて機会は生まれて初めてだからわからない。
「あの、僕もう帰るところなので」
とりあえず戦線離脱しなければ、今にも白旗を上げて喜んで持ち帰られてしまう。でもこの年で未経験だから、チャンスでもある? いやいやエミル様の目の前でご友人となんてことになったら、絶っ対にエミル様との僅かな可能性もなくなってしまう。
そんな僕にエミル様は優しく助け舟を出してくれた。
「突然すまないね、こいつのことは俺に任せてくれればいいから」
「はい! 失礼します! エミル様!」
「あれ? 名前……」
「す、すいません下っ端ですが、僕も王宮に勤めているから」
「へえ、優秀なんだね。ああ、引き止めないから行きなさい」
クラース様の首に腕を回して動けないようにしたエミル様が、ひらひらと手を振った。かっこいい。
一方で僕は何もないところで躓きながら、あるわたわたとお金を払って店を出た。後ろから憧れていた人たちの会話が聞こえてくる。
「おい、エミル」
「はいはい、お前はもう飲んで潰れておけ」
「俺は潰れない……」
店を出たところで振り返ると、テーブルに突っ伏しているクラース様が見えた。
失恋と言っていた。あんなに素敵な方ならさぞかし色々な恋の話があるのだろう。不意に蘇る甘い声にドキドキしてしまうから、エミル様の穏やかな様子を思い返して心を鎮めた。
なんだか今晩は人生で一番濃い日になったような気がする。
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