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7 生きていくのにお金は大事
落ち着いてから仕事に行くと、上司から呼び出しがあった。「クラース様と結婚します、勅命はなんとかなります、たぶん」と伝えると「良かったな」と言ってもらえた。
今回呼ばれた訳は、事件の犯人の沙汰に関するものだった。公爵家ゆかりの人間ということで、大っぴらにはならないらしい。だけど、個人的な罰は受けるらしい。
「シモン・ヘルナルだが、すでにステファン殿下から王宮への永久立ち入り禁止と君への慰謝料を払うように命令がくだっている」
これだ、と、目玉が飛び出そうな金額が提示されていた。
結婚に関して身分と同じぐらい財産状況が大事だから、あまりに格差があるなら実家に無心しようと思っていたけど、この慰謝料があれば僕が気にしていた貯金不足が解決できる!
びっくりしすぎて、そうですかと目録を持ち帰った僕は、ちょうど訪ねてきたクラース様に目録を見せた。
仕事帰りや行くときに僕の顔を見にきてくれるんだ。
「すごいです、見てください。こんなたくさん、辞典で家が建っちゃう」
僕の部屋は狭いから、ベッドに並んで座っている。僕としては誘惑しているつもりでくっついているけれど、クラース様はもう結婚するまでは手を出さないとか言っている。
一回も二回も同じだと思うのに……そんなんだから寝取られちゃうんですよと心の中で文句を言っている。
絶対に言えないし、僕を寝取ろうなんて物好きはいないから大丈夫なんだけど。
目録よりも僕の言い方に笑ってくれるクラース様が嬉しい。
「ふっ、ふふっ、テディ、そんな感想」
「あっ、クラース様も巻き込んですいません。せっかくだから山分けしましょう!」
「せっかくだからって。ああもう、だめだ、俺も謝ろうと思ってたのに」
「謝る?」
「君の純潔を散らしてしまったことに違いはないから」
出会った時はナンパ男っぽくしてたのに、どうしてそんなにお堅いのか。
オリアンの貴族だって少ないとはいえ、結婚前につがいになってしまうアルファとオメガはいるし、平民ではつがいになってから結婚することが多い。
「純潔……いやいやいやいや、取っておいたってほどのものじゃなくて、機会がなかっただけなので!」
「それでも、だ」
「クラース様……」
よくよく話を聞くと、エミル様との縁談の命令が気になっているらしかった。ステファン殿下に取り下げのお願いするのを忘れていた。
取り下げなら、こちらから会うのが難しいステファン殿下よりも、近衛騎士団長のディクスゴード様のほうが簡単だ。そう、近衛騎士隊長のクラース様なら!
「クラース様! 近衛騎士団長にお話に行きましょう! 僕たちは被害者だし、多少の融通をきかせていただきましょうよ」
「融通?」
「命令の相手をエミル様からクラース様にしてもらえば、命令にも従ったことになるし、何か貰えるかもしれないし……」
「貰える……って、はは、テディはしっかりしてる。商家の出だからか?」
クラース様は近衛騎士に憧れて、平民登用の道ができてからそれだけのために努力し続けてきたらしい。それこそ、恋人を顧みる隙もないほど。
僕も、結婚したいだなんだと考えられるようになったのは最近だから、よくわかる。
アルファだからって色眼鏡で見ていたのは僕だ。生半可な努力で平民から近衛騎士に、それも隊長になれるはずがないのに。
「まあ、そういうところはあると思います。だって生きていくのにお金は大事ですし」
「テディ……そういうところも魅力的だ」
「ひょ~~!」
唐突にナンパな顔を出されて、奇声を発してしまった。
だって僕の人生、最近は怒涛の展開だけど、そもそもクラース様みたいなハイレベルのアルファに出会わずに終わる可能性もあったんだ。
僕の仕事にも理解があって、十分な立場と稼ぎがあって……なにより格好良い。理想すぎる。
ここ最近の出来事は僕にとって大きな冒険の連続だった。一緒に乗り越えてくれた人を好きになるのは当たり前だ。僕の気持ちは軽いように思われるかもしれないけど、騙されていたとしてもこんな経験、人生の糧にしかならない。
「テディ?」
「あの、僕を選んでくれて、ありがとうございます」
「テディも、俺でいいと言ってくれてありがとう」
そうして、クラース様が微笑んで僕に与えてくれたのは、優しいキスだけだった。
結婚したらエッチなこといっぱいしてみたい。せっかく初めて恋人ができたんだから。
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