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11 目的はひとつになること
嫁入りしてから栄養状態が良いために背の伸びたトーカだが、まだリナサナヒメトよりは小さい。
しかし、その日はいつもより自分に力がみなぎっているように感じていた。なぜなら、ずっと知りたかった知識を得たからだ。
トーカは、いつものようにリナサナヒメトに抱きしめられながら、微笑みながら学びの成果を発揮する。
「ね、いつ契りを交わすんだ? おれ、男同士でもできるって知ったよ?」
「なんだと! サラリか。なんたることだ、トーカにそのような知識を」
名を呼ばれたサラリが部屋の端に姿を表した。身体に似合わない落ち着いた仕草と声で、創造主に答えた。
「わたくしめはトーカさまのめしつかいでございます」
トーカが名付けた小さなネズミに似たサラリは、大きさのわりに有能だった。
実はその前身は、まだトーカたちが地上にいた頃、猫だったヒメサマの毛玉や抜け毛を集めていた厩の箱の中に誕生した精霊だった。ヒメサマが中庸の地に上がる時に目に見えない状態でついてきていた。この地においてもブラッシングに余念のないトーカのおかげで、完全に神として成長したヒメサマの抜け毛を吸収したサラリの力は増している。
「おれがお願いしたんだよ。このあいだ、白いのが出ただろ? ヒメサマは猫をベースにしてるらしいから、猫のアレが毒なのかと思って調べたんだ。別に毒でもないみたいだから、やり方かなって男同士でのやり方を調べたんだ。おれの身体がまだ小さいから、尻に入れたら危ないって心配してくれたんだろ?」
「トーカ」
トーカはリナサナヒメトの膝の上で向き合い、腕と足を巻きつけて逃げられないようにした。
「それとも、ヒメサマは育ったおれは嫌い?」
「そんなはずはない。トーカならシワシワのジジイになっても愛している」
「じゃあなんで」
「その、此度は猫をベースにしているんだ」
「うん?」
地上の神リナサナヒメトは八十五年周期で生と死を迎える神である。人間が好きだが、動物を愛する人間が好きなこともあり、常に人間以外の獣として生まれる癖があった。生まれる獣の種類に規則性はない。
「どんな姿にもなれるんだろう?」
「なれるが、理性が飛ぶと受肉した身体に引きずられて変化する危険がある」
「つまり?」
「猫の性器にはトゲがある」
「……ん?」
「トーカを傷つけたくはないんだ」
トーカは思った。ヒメサマは神様だけどけっこう抜けてて、おれはそんなにばかじゃないのかもしれない。
「傷つけたくないだけで、したくないわけじゃないんだな?」
「もちろんだ」
「よし、季馬を早く見つけよう。神格を得たらヒメサマと寿命が同じになって死なないらしいし。死なないってことは、身体も強くなるんだろ」
「それはそうだが、人の身のまま季馬を捕えるのは」
「おれはヒメサマの力を借りちゃだめなだけで、他はいいんだろ? 字を覚えてから、オサヒグンラさまに手紙を出してみたんだ。返事もくれた。文通してるんだよ」
「手紙は俺にくれていたものだけじゃなかったのか」
ショックを受けた様子のリナサナヒメトの頬に、トーカはちゅっと口づけて髪を撫でる。少し逆立った髪が落ち着くのを見て、そのあたりは猫なんだなぁと愛しくなった。
「最初はヒメサマだけだったよ。何か教えてもらえないかなと思って書いてみたら、返事をもらえたんだ」
「あやつはそれなりに人間に好意を抱いているからな」
「やきもち焼いてる?」
「いいや。大蛇ごとき、俺の敵にはならん」
「大蛇なんだ、オサヒグンラさま」
猫じゃなかったのか、あの髪の動きは確かに蛇っぽかったと納得するトーカ。でもそれなら。
「猫の天敵は蛇じゃない?」
「俺は猫だけどただの猫じゃないし、オサヒグンラもそうだ。トーカ、猫の天敵などと、よく知っているな」
「うん。知るのが楽しくて」
トーカはヒメサマを驚かせたいから、と勉強の間は離れていて欲しいと伝えていた。思惑通り褒められて笑顔を浮かべる。
「おれは、ばかじゃなかった」
「そんなこと初めからわかっていた」
「わかってなかったんだ、おれが。ばかだから、村でもいらないから、捨てられたんだと思ってた」
今度はリナサナヒメトが伸ばしはじめたトーカの銀髪を撫でた。
「そんなことはない。選ばれたのは、俺がトーカに惚れたせいだ。村に嫁入りの伝承はなかった。あれは、神が都合よく嫁を自分のものにするために作る偽りの歴史だ」
「それもサラリのおかげで知った。怒ってないよ。ヒメサマと結婚できたことは、ただ幸運だっただけだ」
「理解が早すぎないか」
短期間でトーカが驚くほど成長していることに、リナサナヒメトは驚きと嬉しさを隠せない。
「神様が偶然の生死にまで関わらないってことも知ってる。おれの両親が死んだのは偶然で、おれが助かったのも偶然、村で育てられたのも偶然で、ヒメサマが村に来たことだけが必然だった」
トーカの自信に満ちた表情は、村では見られないものだった。うっとりと目を細め、喉を鳴らすようにリナサナヒメトが甘く囁き返す。
「そうだ。俺がトーカの魂に惹かれて村に生まれた」
「おれが猫好きじゃなかったらどうするつもりだったんだ?」
「その時には馬にでも変化すればいい。原形が猫だというだけだから」
「ヒメサマが馬……きっと格好いいな。今も猫の姿は好きだけど、人間の姿も好きだ。だから馬になっても好きだよ」
「俺もトーカを愛している」
「うん。おれたちが想いあっていることは十分理解してる。でも人間だから? 男だから? 年頃かな? すごくヒメサマと身体も繋がりたいって思うんだ」
興奮しはじめた身体を、リナサナヒメトに擦り付ける。お前に発情しているんだという強い意思を込めて見つめた。
「トーカ」
「だから、そのために必要というなら神格がほしい」
「いつのまに大人になって」
「そう言って、ヒメサマのほうがおれより年下だって知ってるからな」
「ばれたか」
トーカの魂に惹かれて生まれたのだから、リナサナヒメトのほうが少し年下ということになる。現時点で外見は五、六歳上に見えるけれど、格好をつけたいリナサナヒメトがその年代を選んだだけだった。
「ヒメサマ、リナサナヒメト、おれは名実ともにあんたの夫になる」
「今のトーカならできる」
「おれが季馬を捕らえるところを傍で見てろ」
「ああ」
こうして、二人は準備を整え、季馬を捕らえるために地上に向かった。トーカが中庸の地に来てから五年目だった。
しかし、その日はいつもより自分に力がみなぎっているように感じていた。なぜなら、ずっと知りたかった知識を得たからだ。
トーカは、いつものようにリナサナヒメトに抱きしめられながら、微笑みながら学びの成果を発揮する。
「ね、いつ契りを交わすんだ? おれ、男同士でもできるって知ったよ?」
「なんだと! サラリか。なんたることだ、トーカにそのような知識を」
名を呼ばれたサラリが部屋の端に姿を表した。身体に似合わない落ち着いた仕草と声で、創造主に答えた。
「わたくしめはトーカさまのめしつかいでございます」
トーカが名付けた小さなネズミに似たサラリは、大きさのわりに有能だった。
実はその前身は、まだトーカたちが地上にいた頃、猫だったヒメサマの毛玉や抜け毛を集めていた厩の箱の中に誕生した精霊だった。ヒメサマが中庸の地に上がる時に目に見えない状態でついてきていた。この地においてもブラッシングに余念のないトーカのおかげで、完全に神として成長したヒメサマの抜け毛を吸収したサラリの力は増している。
「おれがお願いしたんだよ。このあいだ、白いのが出ただろ? ヒメサマは猫をベースにしてるらしいから、猫のアレが毒なのかと思って調べたんだ。別に毒でもないみたいだから、やり方かなって男同士でのやり方を調べたんだ。おれの身体がまだ小さいから、尻に入れたら危ないって心配してくれたんだろ?」
「トーカ」
トーカはリナサナヒメトの膝の上で向き合い、腕と足を巻きつけて逃げられないようにした。
「それとも、ヒメサマは育ったおれは嫌い?」
「そんなはずはない。トーカならシワシワのジジイになっても愛している」
「じゃあなんで」
「その、此度は猫をベースにしているんだ」
「うん?」
地上の神リナサナヒメトは八十五年周期で生と死を迎える神である。人間が好きだが、動物を愛する人間が好きなこともあり、常に人間以外の獣として生まれる癖があった。生まれる獣の種類に規則性はない。
「どんな姿にもなれるんだろう?」
「なれるが、理性が飛ぶと受肉した身体に引きずられて変化する危険がある」
「つまり?」
「猫の性器にはトゲがある」
「……ん?」
「トーカを傷つけたくはないんだ」
トーカは思った。ヒメサマは神様だけどけっこう抜けてて、おれはそんなにばかじゃないのかもしれない。
「傷つけたくないだけで、したくないわけじゃないんだな?」
「もちろんだ」
「よし、季馬を早く見つけよう。神格を得たらヒメサマと寿命が同じになって死なないらしいし。死なないってことは、身体も強くなるんだろ」
「それはそうだが、人の身のまま季馬を捕えるのは」
「おれはヒメサマの力を借りちゃだめなだけで、他はいいんだろ? 字を覚えてから、オサヒグンラさまに手紙を出してみたんだ。返事もくれた。文通してるんだよ」
「手紙は俺にくれていたものだけじゃなかったのか」
ショックを受けた様子のリナサナヒメトの頬に、トーカはちゅっと口づけて髪を撫でる。少し逆立った髪が落ち着くのを見て、そのあたりは猫なんだなぁと愛しくなった。
「最初はヒメサマだけだったよ。何か教えてもらえないかなと思って書いてみたら、返事をもらえたんだ」
「あやつはそれなりに人間に好意を抱いているからな」
「やきもち焼いてる?」
「いいや。大蛇ごとき、俺の敵にはならん」
「大蛇なんだ、オサヒグンラさま」
猫じゃなかったのか、あの髪の動きは確かに蛇っぽかったと納得するトーカ。でもそれなら。
「猫の天敵は蛇じゃない?」
「俺は猫だけどただの猫じゃないし、オサヒグンラもそうだ。トーカ、猫の天敵などと、よく知っているな」
「うん。知るのが楽しくて」
トーカはヒメサマを驚かせたいから、と勉強の間は離れていて欲しいと伝えていた。思惑通り褒められて笑顔を浮かべる。
「おれは、ばかじゃなかった」
「そんなこと初めからわかっていた」
「わかってなかったんだ、おれが。ばかだから、村でもいらないから、捨てられたんだと思ってた」
今度はリナサナヒメトが伸ばしはじめたトーカの銀髪を撫でた。
「そんなことはない。選ばれたのは、俺がトーカに惚れたせいだ。村に嫁入りの伝承はなかった。あれは、神が都合よく嫁を自分のものにするために作る偽りの歴史だ」
「それもサラリのおかげで知った。怒ってないよ。ヒメサマと結婚できたことは、ただ幸運だっただけだ」
「理解が早すぎないか」
短期間でトーカが驚くほど成長していることに、リナサナヒメトは驚きと嬉しさを隠せない。
「神様が偶然の生死にまで関わらないってことも知ってる。おれの両親が死んだのは偶然で、おれが助かったのも偶然、村で育てられたのも偶然で、ヒメサマが村に来たことだけが必然だった」
トーカの自信に満ちた表情は、村では見られないものだった。うっとりと目を細め、喉を鳴らすようにリナサナヒメトが甘く囁き返す。
「そうだ。俺がトーカの魂に惹かれて村に生まれた」
「おれが猫好きじゃなかったらどうするつもりだったんだ?」
「その時には馬にでも変化すればいい。原形が猫だというだけだから」
「ヒメサマが馬……きっと格好いいな。今も猫の姿は好きだけど、人間の姿も好きだ。だから馬になっても好きだよ」
「俺もトーカを愛している」
「うん。おれたちが想いあっていることは十分理解してる。でも人間だから? 男だから? 年頃かな? すごくヒメサマと身体も繋がりたいって思うんだ」
興奮しはじめた身体を、リナサナヒメトに擦り付ける。お前に発情しているんだという強い意思を込めて見つめた。
「トーカ」
「だから、そのために必要というなら神格がほしい」
「いつのまに大人になって」
「そう言って、ヒメサマのほうがおれより年下だって知ってるからな」
「ばれたか」
トーカの魂に惹かれて生まれたのだから、リナサナヒメトのほうが少し年下ということになる。現時点で外見は五、六歳上に見えるけれど、格好をつけたいリナサナヒメトがその年代を選んだだけだった。
「ヒメサマ、リナサナヒメト、おれは名実ともにあんたの夫になる」
「今のトーカならできる」
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