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三章

3-7 知って 健吾

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 あれから三日。
 侑のところには明日行く。

 夜中に飛び起きる祐志は、俺の背中に縋るように眠る。
 俺の名前を呼んで、ごめんなさいと呟いて、それは何への謝罪なんだろう。
 祐志の寝息を感じながら、暗闇に目を凝らして彼の夢を思った。

 平静でなんていられる訳がない。
 祐志が弱ってなければ、すぐに気付かれただろう。
 食欲がわかなくて、祐志がいない間は食べないから作らない。食費が安くて助かる……なんて。

 子供達がいなくて良かった。
 祐志が仕事に行ってくれて良かった。


 あの時と一緒だ。
 カーテンを引いて、薄暗い部屋の中、ただ自分と語り続ける。違うのはお腹に何もいないことだ。
 今更だけど、せめて子宮が残っていたら、自信が持てただろうか。
 祐志の子供をたくさん産んで、必要とされて、祐志の番は俺だけだと、運命の番の前で言えるだろうか。

 でもそうしたら、祐志の運命の子はどうなる?
 既に悲劇は起きている。
 運命に出会えた喜びは、俺にはわからない。
 浩も、諒さんも幸せそうだ。
 俺は運命じゃない。


 カレンダーを見て、あれから二十年経っているのを確認する。 
 記憶をなくすことが多かったから、またなくしてしまったんじゃないかと不安で確認する癖がついた。
 二十年も経って、俺は相変わらず引きこもって……。

 祐志に守るって言った。
 言ったからには、守らなきゃ。
 祐志が守ろうとしているのは俺だ。
 運命の相手の悲劇さえ、どうにもしてあげられないと落ち込んでいる優しい祐志。

 祐志を譲る?
 死んだ方がましだ。
 俺が死んでしまったら祐志が悲しむ。
 でも祐志には運命の人が、いる……。



 電話が鳴った。
 はっと電話に顔を向けて、頭がやけに下がっていたことを知る。首が痛い。



「健吾、ちょっと頼みがあるんだけど、うち来れる?」



 ◇



「あれ? 痩せた?」
「ちょっと食あたりで」
「へー、食べれないのきついよね……っていうか、きついんだ」

 言われて、諒さんも痩せたのに気付いた。
 初めて会った時から、外見があまり変わらない不思議な人だ。
 最近は在宅で仕事をする事も増えたと聞いていたから、平日の昼間に呼び出されても不思議に思わなかった。

「もう年だし、ちょっと油断してたらさ、できちゃって……子供」
「えっと、悪阻?」
「そう。もーすごい高齢出産だよ。恥ずかしい。親も年取ってきて、産んでも頼る相手がいないんだ。健吾助けて。給料は出すから」

 恥ずかそうに頬を染めて、でも子を産むことに躊躇いはなさそうで。

「もちろん。おめでとうございます」

 言って、涙が零れた。
 駄目だった。諒さんの明るい声が、嬉しくて、悲しくてどうにもならない。
 慌てている諒さん。迷惑はかけられない……。
 しばらく俯いてハンカチで顔を隠して、謝って顔を上げようとした。

 そこに強い声で言われた。

「健吾、言え」

 ぎゅっと抱き寄せられる。子供じゃないのに、いいおじさんなのに、安心する。

「……ぅ、祐志に、運命の番が現れて」

 諒さんの腕に縋って、メソメソと泣きながら言ってしまった。

「乗り換えられたのか?」
「や、祐志は逃げるって……」
「じゃあいいだろ」

 そこで、祐志の運命の子が、祐志に出会ったことで被害者になったことを伝えた。

「それは関係ない……って無理か」

 諒さんが俺の頭を撫でている。
 ふぅ、とため息。悪阻が辛いって言っていたのに。

「あっ、ごめん、なさい。悪阻なのに」
「あー大丈夫。健吾、泣いとけ。祐志には言わないでいてやる。あいつも今いっぱいいっぱいだろうしな」

「運命の、番ってどんな感じですか……」
「恐ろしい吸引力だよ。タイソンの掃除機並み」

「ふふっ、でも、諒さんは兄さんとなかなか番にもならず結婚もしなかったって聞いてます」
「仕事したかったし、抑制剤漬けで粘ったからなぁ。おかげで抑制剤使えなくなって、あっさり番だ」

「本当は別の人、とか」
「それはなかった。これは内緒だけど、俺もあいつのことそれなりに想ってたから。それが運命のせいかどうかはわからない」

 兄が諒さん一筋なのは間違いない。
 諒さんは自分が優位だから、兄が譲っていると信じてるみたいだけど、ただ諒さんの思うようにさせたいだけだろう。

「祐志の運命の相手に対しては、お気の毒としか言いようがない。近づかないしかないだろうな」

 諒さんの話を聞いて、聞かれるままに分かっている僅かな情報を全部吐き出した。

「侑のとこに行くのは良いことだ。そうだな、肇も連れてけよ。あいつ今度医学部行って運命の番とか調べたいらしいから。ベータの若者の意見も聞いとけ」
「肇? そっか、みんな大きくなったもんね……」

「おお。孫がいてもいいぐらいなのに……自分で言ってダメージが」
「まあまあ」


 問題は何も片付いてないけれど、心が軽くなった。


「俺、お兄ちゃんだからな!」


 ふふん、と胸を張って笑う姿はとても四十代には見えないけれど、確かに俺にとって誰よりも頼りになる兄だ。
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