30 / 142
第2章 呪縛少女編
第9話・・・プロフェッサー・エビル_最悪なプロジェクト_「気を引き締めてくれ」・・・
しおりを挟む
友梨が学園内で意識を失う可能性は考えられた。おそらく外部から連絡を取ったのだろう。『妖具』に呪われた者ならそれ相応のトラウマを持っていても不思議ではない。そこに触れられて友梨は倒れたのだろう。
その場合、湊は機会を見て勇士や紫音に敵の本当のターゲットは友梨であることを知ってもらうつもりだった。
『聖』は動かせない。愛衣のバックが分からない以上、全部任せることはできない。
勇士と紫音なら信用もできるしバックも頼りになる。後は任せて湊は事の成り行きを見守ろう、と考えていたのだが…。
(確か稲葉は協調系。稲葉の体内に協調の気を増幅、拡大する士器を仕込んで遠隔操作で転移法を発動したのか……レベルの高い技術だな)
そこまでは予想できなかったことが悔しい。『妖具』がばれること覚悟でカキツバタに稲葉をエックス線などでの診察もさせておくべきだった。
(過ぎたことを悔やんでも仕方がない。この状況の打開策を見当しよう)
広い部屋に湊、勇士、琉花、紫音、愛衣、そして友梨が閉じ込められている。
強化ガラスを通して向かい合っているのは3人。男性、女性、老人。それ以外には誰もいない。広い空間が二つに区切られている。いるのは6人と3人だけ。3人がいる方の空間には様々な機械が設置されている。
勇士が呟く。
「神宮寺……功?」
3人の内の1人が反応する。
「初めまして。紅井勇士くんだよね」
神宮寺功が笑顔で挨拶をしてくる。目の前にいるが声が聞こえるのはスピーカーからだ。
勇士もバカではない。戸惑いこそしたが、すぐに察し、視線に敵意が漲る。
「お前が……黒幕か!」
対する神宮寺功は笑顔を絶やさずに。
「そう怖い顔しないでくれ。確かに僕は犯罪に手を染めている。しかし、僕が今手掛けているプロジェクトは将来、きっと人々の役に立つことなんだ」
「ふざけるな! 稲葉をこんな風にして何の役に立つんだ!」
「紅井くん。発展の為に犠牲は付き物なんだよ」
「………話にならない」
怒りを通り越した勇士が、刀に炎を灯し、上段の構えから振り下ろした。
メラメラと強化された炎の斬撃が飛び、強化ガラスに激音を立てて直撃した。が、大きく振動するだけでその強化ガラスには傷一つ付かなかった。
一番驚いたのは琉花だ。
(うそ…本気じゃなかったとはいえ、勇士の斬撃で傷一つ付かないなんて……!)
「無駄じゃよ」
神宮寺功の隣にいた白衣の老人が邪悪な笑みを浮かべる。
「その部屋は元々『妖具』が暴走しても破壊されないように耐久性は最高レベルじゃよ」
「お前は…」
「初めまして。多摩木要次、と言えば伝わるかのう?」
勇士達の表情が一変する。湊と愛衣も、一般人ですら知っていてもおかしくない人物なので、驚きを隠さない。
「お前が……あの『厄害博士』か!」
多摩木要次。
今の日本を騒がす『最恐六博士』の一人。
若い頃、士としても活躍していたが、同時に研究家としても才能に恵まれ、幾多の論文や発明での受賞歴を持つ。将来を期待されていた。
しかし、その飽くなき探求心はやがて歪んでしまった。環境破壊から人体実験まで、研究の為なら倫理や道徳を無視し、己の好奇心を満たす一種の化け物となってしまった。
周囲に害しか及ぼさないことから『厄害博士』と呼ばれ、恐怖されるようになった。
(あのミイラもあいつに人体改造されたってわけか)
それぐらいなら余裕だろうな、と湊は納得する。
殺気を隠さない勇士に神宮寺功はやんわりと。
「紅井勇士くん。できればその言い方はよしてくれないか? 確かに多摩木博士は今まで周囲に迷惑を掛けてきた。…しかし、僕のプロジェクトは無闇に人を巻き込んだりしない。人々に夢と希望を与えるプロジェクトに、博士も快諾して協力してもらっている。博士だって人を傷付けたいわけじゃないんだ。できれば僕のパートナーにそのような言い方はよして欲しい」
「儂は構わないがのう」
「そういうわけにも行きません」
神宮寺功の言い分などどうでもいい勇士は、発言の中で気になった単語を拾った。
「さっきから言ってるそのプロジェクトってなんだ?」
「お、興味を持ってくれたのかなっ?」
「全く違う…が、聞かせろ」
勇士は未だ苦しそうに横たわる友梨を一瞥する。
「稲葉を『妖具』で苦しめるプロジェクトってのはなんだ?」
「分かった。どんな形であれ興味を持ってくれたんだ。教えてあげるよ」
一拍置いて、神宮寺功は述べた。
「このプロジェクトのコンセプトは『弱き者に力を』」
「……、」
「気づいてると思うが、僕は士ではない。士になりたくてもなれない一般人さ。僕のような弱者からするとね、君達士は決して手の届かない憧れなんだ。…僕の夢は僅か齢一桁で砕け散った」
士は世界の約三割。
神宮寺功のような一般人でも気は流れているが、気量は最低レベルのF級の数十分の一という有って無いようなもの。
「けど僕は諦めていない。ライトガーデン社を立てる傍ら、裏組織『煉庭《れんてい》』を設立し、僕は夢を追い続けたんだ」
(一般人は士に尊敬や羨望、そして嫉妬の眼差しを向ける。……この男、そういった感情が入り混じってネジが一本外れてね? つーか『煉庭』って…また面倒な…)
湊が心中で呟く。
「……つまり、何が言いたい?」
業を煮やした勇士の言葉が冷たく響く。
神宮寺功は落ち着きを取り戻し。
「すまない。少し脱線してしまったようだ。…つまり、僕達が目指しているのは『一般人が士になること』なんだ」
「っっ!?」
場が驚愕に包まれる。その中で、神宮寺功の話の途中から目的を察していた湊は、その先の結論に至っていた。
勇士は神宮寺功に怪訝な視線を向ける。
「…それがどれだけ危険なことか、わかってるのか?」
一般人を士に。
大昔から研究されている課題だ。士はもれなく先天的な者達であり、後天的なものはありえない。
多くの研究家がその課題に挑戦したが、数百年に渡る研究を経ても著しい発展を遂げた者はいない。
それどころか、人体に流れる気量を増やそうとして被検者の命を落としたり、士の臓器の移植を繰り返して人体そのものを士のものにしようとして命を落としたり。
一般人の体を士に少しでも近づけようとすると、人は簡単に死んでいったのだ。
神宮寺功は笑みを絶やさず。
「危険は百も承知。しかし、それを成し遂げた時、人類は進化する。素晴らしいと思わないか?」
「その努力に稲葉を巻き込むんじゃ……………………ッ」
勇士の言葉が止まる。それから友梨を数秒見詰め、神宮寺功に視線を戻す。
「……おい」
「なんだい?」
「まさかとは思うが、」
勇士のと神宮寺功の視線が交差する
「…稲葉が元々は一般人なんてことはないよな?」
「よく分かったね。そうさ、彼女は元は士でも何でもない。一般人さ」
ガキン!と両者を挟む強化ガラスに衝撃が走った。
「貴様アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」
咆哮が轟く。
「ただの一般人に『妖具』を取り付けたのかッ! 稲葉は!人は!貴様らの道具じゃねえんだぞ!」
勇士の刀が直接強化ガラスに斬り付けられているのだ。
友梨は一般人だった。
その事実を湊は早い段階で気付いていた。
(一般人の身で『妖具』の呪縛によく耐えられたな…。それだけ心の闇が深いってことか)
隣では女子達が重い顔をしている。愛衣は元々知っていたのだろうが、それでも悲しみは免れないようだ。
勇士の刀が弾かれる。
「無駄じゃよ。お主の力量は認めるが、それでも不可能じゃ」
「………舐めるなよ」
勇士はなりふり構わず力をぶつけた所為で力を発散し、逆に冷静さを取り戻したのか、刀を一旦鞘に納めた。居合抜きの構えを取る。
(あれは…!)
琉花の表情が変わったのを湊と愛衣は見逃さず、何かすると注意を高める。
(紅華鬼燐流・秘伝十一ノ式『一閃連華』)
瞬間、光が幾つも走り、強化ガラスを粉々に斬り裂いた。
秘伝十一ノ式『一閃連華』。
簡単に説明すると、居合抜きを数瞬の内に何度も繰り出す神速の剣技。火による熱で切れ味を強化した刃がその剣技に磨きを掛けている。
湊は素直に感心した。
(へー、十五の『鬼空飛斬』に続いて十一の『一閃連華』まで。才覚だけならフリージアにも届くかもね。まあ『一閃連華』を二刀でできるかは定かではないけど)
バリンという音を何度も立てて両者を遮る壁がなくなり、相手側も驚いている。
「……ほう、中々やるのう…」
「…これは驚きましたね」
今までずっと黙っていた無表情な女性は、変わらず無表情のまま片手を突き出して炎の壁を作り、飛び散るガラスの破片を防いでいる。
(あの女…属性は俺と同じ火か。神宮寺功の秘書か?)
勇士の視線が鋭くなる。
対する神宮寺功側は。
「博士、この状況は少しまずいですね。『妖具』を恐れて最大戦力の弥生だけを連れて来たのが逆効果になりました。弥生一人で紅井くんは何とかなるかもしれませんが、これだけ気が混雑する中だと『妖具』の暴走がいつ起きるか分かりません」
「私なら大丈夫ですが?」
『妖具』相手でも物怖じしない弥生が進言するが、神宮寺は首を振った。
「弥生、甘く見過ぎだ。S級に数歩届かない君では厳しいよ」
「じゃな。ここは一旦退いた方がよい。どうせこの施設から逃れることはできん」
「というわけだ、弥生。頼む」
「かしこまりました」
「逃がすか!」
炎の壁をそれ以上の炎で焼き払い、勇士が怒りの形相で向かってくる。しかし。
「結界法」
ガキン、と音を立てて勇士の刀が弾かれた。
(前以て結界の準備はしてたか……!)
ぐわん、とスモークガラスのような壁が立ちはだかる。結界は内と外で完全に別物となる。1メートルも離れただけで何もないように見えるが、至近距離からだと歪んだ壁が一面に広がる。
勇士が乱流法で結界を破った時にはもう誰もいなかった。
「ちっ…」
「勇士……」
「大丈夫だ、琉花。落ち着いてる」
勇士は振り向き、全員を見回した。
「みんな、ここは敵地だ。気を引き締めてくれ」
その場合、湊は機会を見て勇士や紫音に敵の本当のターゲットは友梨であることを知ってもらうつもりだった。
『聖』は動かせない。愛衣のバックが分からない以上、全部任せることはできない。
勇士と紫音なら信用もできるしバックも頼りになる。後は任せて湊は事の成り行きを見守ろう、と考えていたのだが…。
(確か稲葉は協調系。稲葉の体内に協調の気を増幅、拡大する士器を仕込んで遠隔操作で転移法を発動したのか……レベルの高い技術だな)
そこまでは予想できなかったことが悔しい。『妖具』がばれること覚悟でカキツバタに稲葉をエックス線などでの診察もさせておくべきだった。
(過ぎたことを悔やんでも仕方がない。この状況の打開策を見当しよう)
広い部屋に湊、勇士、琉花、紫音、愛衣、そして友梨が閉じ込められている。
強化ガラスを通して向かい合っているのは3人。男性、女性、老人。それ以外には誰もいない。広い空間が二つに区切られている。いるのは6人と3人だけ。3人がいる方の空間には様々な機械が設置されている。
勇士が呟く。
「神宮寺……功?」
3人の内の1人が反応する。
「初めまして。紅井勇士くんだよね」
神宮寺功が笑顔で挨拶をしてくる。目の前にいるが声が聞こえるのはスピーカーからだ。
勇士もバカではない。戸惑いこそしたが、すぐに察し、視線に敵意が漲る。
「お前が……黒幕か!」
対する神宮寺功は笑顔を絶やさずに。
「そう怖い顔しないでくれ。確かに僕は犯罪に手を染めている。しかし、僕が今手掛けているプロジェクトは将来、きっと人々の役に立つことなんだ」
「ふざけるな! 稲葉をこんな風にして何の役に立つんだ!」
「紅井くん。発展の為に犠牲は付き物なんだよ」
「………話にならない」
怒りを通り越した勇士が、刀に炎を灯し、上段の構えから振り下ろした。
メラメラと強化された炎の斬撃が飛び、強化ガラスに激音を立てて直撃した。が、大きく振動するだけでその強化ガラスには傷一つ付かなかった。
一番驚いたのは琉花だ。
(うそ…本気じゃなかったとはいえ、勇士の斬撃で傷一つ付かないなんて……!)
「無駄じゃよ」
神宮寺功の隣にいた白衣の老人が邪悪な笑みを浮かべる。
「その部屋は元々『妖具』が暴走しても破壊されないように耐久性は最高レベルじゃよ」
「お前は…」
「初めまして。多摩木要次、と言えば伝わるかのう?」
勇士達の表情が一変する。湊と愛衣も、一般人ですら知っていてもおかしくない人物なので、驚きを隠さない。
「お前が……あの『厄害博士』か!」
多摩木要次。
今の日本を騒がす『最恐六博士』の一人。
若い頃、士としても活躍していたが、同時に研究家としても才能に恵まれ、幾多の論文や発明での受賞歴を持つ。将来を期待されていた。
しかし、その飽くなき探求心はやがて歪んでしまった。環境破壊から人体実験まで、研究の為なら倫理や道徳を無視し、己の好奇心を満たす一種の化け物となってしまった。
周囲に害しか及ぼさないことから『厄害博士』と呼ばれ、恐怖されるようになった。
(あのミイラもあいつに人体改造されたってわけか)
それぐらいなら余裕だろうな、と湊は納得する。
殺気を隠さない勇士に神宮寺功はやんわりと。
「紅井勇士くん。できればその言い方はよしてくれないか? 確かに多摩木博士は今まで周囲に迷惑を掛けてきた。…しかし、僕のプロジェクトは無闇に人を巻き込んだりしない。人々に夢と希望を与えるプロジェクトに、博士も快諾して協力してもらっている。博士だって人を傷付けたいわけじゃないんだ。できれば僕のパートナーにそのような言い方はよして欲しい」
「儂は構わないがのう」
「そういうわけにも行きません」
神宮寺功の言い分などどうでもいい勇士は、発言の中で気になった単語を拾った。
「さっきから言ってるそのプロジェクトってなんだ?」
「お、興味を持ってくれたのかなっ?」
「全く違う…が、聞かせろ」
勇士は未だ苦しそうに横たわる友梨を一瞥する。
「稲葉を『妖具』で苦しめるプロジェクトってのはなんだ?」
「分かった。どんな形であれ興味を持ってくれたんだ。教えてあげるよ」
一拍置いて、神宮寺功は述べた。
「このプロジェクトのコンセプトは『弱き者に力を』」
「……、」
「気づいてると思うが、僕は士ではない。士になりたくてもなれない一般人さ。僕のような弱者からするとね、君達士は決して手の届かない憧れなんだ。…僕の夢は僅か齢一桁で砕け散った」
士は世界の約三割。
神宮寺功のような一般人でも気は流れているが、気量は最低レベルのF級の数十分の一という有って無いようなもの。
「けど僕は諦めていない。ライトガーデン社を立てる傍ら、裏組織『煉庭《れんてい》』を設立し、僕は夢を追い続けたんだ」
(一般人は士に尊敬や羨望、そして嫉妬の眼差しを向ける。……この男、そういった感情が入り混じってネジが一本外れてね? つーか『煉庭』って…また面倒な…)
湊が心中で呟く。
「……つまり、何が言いたい?」
業を煮やした勇士の言葉が冷たく響く。
神宮寺功は落ち着きを取り戻し。
「すまない。少し脱線してしまったようだ。…つまり、僕達が目指しているのは『一般人が士になること』なんだ」
「っっ!?」
場が驚愕に包まれる。その中で、神宮寺功の話の途中から目的を察していた湊は、その先の結論に至っていた。
勇士は神宮寺功に怪訝な視線を向ける。
「…それがどれだけ危険なことか、わかってるのか?」
一般人を士に。
大昔から研究されている課題だ。士はもれなく先天的な者達であり、後天的なものはありえない。
多くの研究家がその課題に挑戦したが、数百年に渡る研究を経ても著しい発展を遂げた者はいない。
それどころか、人体に流れる気量を増やそうとして被検者の命を落としたり、士の臓器の移植を繰り返して人体そのものを士のものにしようとして命を落としたり。
一般人の体を士に少しでも近づけようとすると、人は簡単に死んでいったのだ。
神宮寺功は笑みを絶やさず。
「危険は百も承知。しかし、それを成し遂げた時、人類は進化する。素晴らしいと思わないか?」
「その努力に稲葉を巻き込むんじゃ……………………ッ」
勇士の言葉が止まる。それから友梨を数秒見詰め、神宮寺功に視線を戻す。
「……おい」
「なんだい?」
「まさかとは思うが、」
勇士のと神宮寺功の視線が交差する
「…稲葉が元々は一般人なんてことはないよな?」
「よく分かったね。そうさ、彼女は元は士でも何でもない。一般人さ」
ガキン!と両者を挟む強化ガラスに衝撃が走った。
「貴様アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」
咆哮が轟く。
「ただの一般人に『妖具』を取り付けたのかッ! 稲葉は!人は!貴様らの道具じゃねえんだぞ!」
勇士の刀が直接強化ガラスに斬り付けられているのだ。
友梨は一般人だった。
その事実を湊は早い段階で気付いていた。
(一般人の身で『妖具』の呪縛によく耐えられたな…。それだけ心の闇が深いってことか)
隣では女子達が重い顔をしている。愛衣は元々知っていたのだろうが、それでも悲しみは免れないようだ。
勇士の刀が弾かれる。
「無駄じゃよ。お主の力量は認めるが、それでも不可能じゃ」
「………舐めるなよ」
勇士はなりふり構わず力をぶつけた所為で力を発散し、逆に冷静さを取り戻したのか、刀を一旦鞘に納めた。居合抜きの構えを取る。
(あれは…!)
琉花の表情が変わったのを湊と愛衣は見逃さず、何かすると注意を高める。
(紅華鬼燐流・秘伝十一ノ式『一閃連華』)
瞬間、光が幾つも走り、強化ガラスを粉々に斬り裂いた。
秘伝十一ノ式『一閃連華』。
簡単に説明すると、居合抜きを数瞬の内に何度も繰り出す神速の剣技。火による熱で切れ味を強化した刃がその剣技に磨きを掛けている。
湊は素直に感心した。
(へー、十五の『鬼空飛斬』に続いて十一の『一閃連華』まで。才覚だけならフリージアにも届くかもね。まあ『一閃連華』を二刀でできるかは定かではないけど)
バリンという音を何度も立てて両者を遮る壁がなくなり、相手側も驚いている。
「……ほう、中々やるのう…」
「…これは驚きましたね」
今までずっと黙っていた無表情な女性は、変わらず無表情のまま片手を突き出して炎の壁を作り、飛び散るガラスの破片を防いでいる。
(あの女…属性は俺と同じ火か。神宮寺功の秘書か?)
勇士の視線が鋭くなる。
対する神宮寺功側は。
「博士、この状況は少しまずいですね。『妖具』を恐れて最大戦力の弥生だけを連れて来たのが逆効果になりました。弥生一人で紅井くんは何とかなるかもしれませんが、これだけ気が混雑する中だと『妖具』の暴走がいつ起きるか分かりません」
「私なら大丈夫ですが?」
『妖具』相手でも物怖じしない弥生が進言するが、神宮寺は首を振った。
「弥生、甘く見過ぎだ。S級に数歩届かない君では厳しいよ」
「じゃな。ここは一旦退いた方がよい。どうせこの施設から逃れることはできん」
「というわけだ、弥生。頼む」
「かしこまりました」
「逃がすか!」
炎の壁をそれ以上の炎で焼き払い、勇士が怒りの形相で向かってくる。しかし。
「結界法」
ガキン、と音を立てて勇士の刀が弾かれた。
(前以て結界の準備はしてたか……!)
ぐわん、とスモークガラスのような壁が立ちはだかる。結界は内と外で完全に別物となる。1メートルも離れただけで何もないように見えるが、至近距離からだと歪んだ壁が一面に広がる。
勇士が乱流法で結界を破った時にはもう誰もいなかった。
「ちっ…」
「勇士……」
「大丈夫だ、琉花。落ち着いてる」
勇士は振り向き、全員を見回した。
「みんな、ここは敵地だ。気を引き締めてくれ」
10
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる