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第3章 学試闘争編
第2話・・・ペア決定_顔合わせ_友好と敵意と不安・・・
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朝のホームルーム。
C組担任、ウェーブがかったロングヘアの女性、蔵坂鳩菜が教卓に立って説明を始める。
「今日は、3日後の休み明けから約1週間掛けて行う中間テストのペア決めをします」
クラス中からやる気に満ちた声と呻き声が上がる。
「前に説明した通り、皆さんが学園に登録したアドレスに、ランダムで決められたペアのクラスと名前がこの後一斉送信で送られます。本日の一時間目はペアの方との顔合わせに時間を割くので、各々しっかり確認するように。尚、稲葉《いなば》さんが学校を停学しているので三人一組のペアが出来上がることもありますからね」
湊が調べたこれまでの中間テストと変わったところはない。
ちなみに、今言った通り稲葉友梨は停学扱いとなっている。いきなり退学では生徒達に余計な不安を広げるだけだからだ。
「中間テストは夏休みに『士協会』が実施するライセンス取得試験への出場権の参考にもされるので、全力で取り組んで下さいね」
ライセンス取得試験。
まだ中学生ではF級とすら認められていない。卒業して高校へ上がれば自動的にライセンスを取得してF級となる。
しかし中学の早い段階で優秀な成績を収めていれば夏休みに行われるライセンス取得試験に出れるのだ。
それに懸ける生徒達の思いは強い。
説明を終え、蔵坂が最後に添える。
「メールが来るまで少し待っててね」
スマホを机の上に出した湊は頬杖を付きながら隣の席を見やる。クリーム色の髪をサイドポニーにした少女、風宮琉花がどこか緊張した様子だ。
「緊張してんの?」
「…してないわよ」
「勇士とペアになりたい?」
「うるさいっ」
琉花がふくれっ面でそっぽを向く。
湊は苦笑しながら。
「可能性はかなり低いけど、希望を持つぐらいなら良いと思うよ」
「……そういう漣はどうなの? 愛衣とペアになりたい?」
琉花が仕返しとばかりに聞いてくるが、本人もあまり効果は期待していないようで、半分投げやりだ。
「まあ愛衣だったら楽でいいけど、さすがにそれは運良すぎでしょ。獅童学園ってAからNまで14クラスもあるからね」
獅童学園は一年制で1学年しかない為、限定的な狭い範囲内への力の入れようは凄まじい。
「……ねえ、漣。あんたから見てこのペア決めに規則性とかあると思う?」
『妖具』の一件で琉花は湊の知能の高さを認めている。最近の琉花は湊や愛衣にこのような知能が高いからこそ何か分かる?的な質問が多い。
純粋に興味があるようだ。
「そうだね…。規則性って程ではないけど、最低限の配慮ならされてるよ?」
「最低限の配慮?」
「うん。以前の中間テストを少し調べてみたんだけど、どの年もペア間の争いが少ないんだ。…例えば、気弱な美少女と不良男子のような相性最悪のペアが全くない。そういう配慮だよ」
琉花の目が丸くなる。
「仮にも名門よ? そもそもそういういい加減な生徒は少ないんじゃないの?」
「ペア制度を取り入れてから30年以上、一度たりとも無いんだよ」
琉花が押し黙る。無理矢理納得させられた形だ。
「多分ゴールデンウィーク明けに行ったアンケートが心理テスト代わりにもなってたんだと思う」
「…へー。じゃあうランダムでペアの選出をするシステムにそういうデータを入力してるってわけ?」
「そうそう。だから風宮も、凄く嫌な人とペアになるかもしれないけど、最悪な人とはならないと思うから安心して」
「……全く安心できないわね」
あははと湊が笑う。
その時、教室中のスマホが一斉に音を鳴らす。
「各自確認したら相手の所まで行って下さいね!」
蔵坂が再度通告をする。
周囲で確認作業が始まり、その後「お前どうだった」「私F組の友達とだった!」「なんだあいつかよ」と報告会的なものが始まっている。
湊もスマホで相手を確認して。
「………うげ」
肩を落とした。
「なに? 誰だったの?」
湊の嫌そうな顔が珍しいのか、興味津々で湊のスマホを除き込んでくる琉花。
「………うわ、これは同情するわ」
琉花に同情された。
『漣湊様。貴方のペアとなるのは以下の方です。
「G組・青狩総駕」』
青狩総駕。勇士のグループを蛇蝎の如く嫌っている男子生徒だ。
「あれ~、おかしいな~。最低限の配慮はされているはずなのにな~」
「漣なら無難にやり熟すって思われたんじゃない?」
「くそっ。……そういう風宮は?」
聞き返すと、琉花が歯切れ悪く応える。
「ん、ああ……別に嫌ってわけじゃないんだけど、どう接したら分からないというか…」
「だから誰?」
琉花がスマホの画面を向けてくる。
『風宮琉花様。貴方のペアとなるのは以下の方です。
「D組・四門英刻」』
「……おお、あいつか」
琉花が「んんんー」と唸る。
「悪い人じゃないのは分かってるんだけど……どうもねぇ」
湊も琉花もどう反応したらいいか分からず、微妙な空気が流れる。
そこに助け船としてか愛衣が現れた。
「何々? どうしたのー? 2人とも。そんなに嫌な人とペアになったのー?」
湊と琉花は何も言わず画面を見せた。
愛衣はそれを確認して「お、おお」と珍しく反応に困っている。
「琉花はともかく…湊どんまい。まあ悪いようにはされないわよ」
「だといいけどね。…愛衣はどうだった?」
「ほい」
と愛衣も画面を見せてくる。
『速水愛衣様。貴方のペアとなるのは以下の方です。
「I組・淡里深恋」』
淡里深恋。カリスマ性抜群の人格者として有名な女性徒だ。
「いいなぁ。俺と変わってー」
「いやよー。なに? 湊は私が青狩とペアを組んでもいいの?」
「いいけど」
「ッ」
ムッとした愛衣が後ろから湊の両頬を引っ張る。
すると、勇士と紫音が教室の隅で話し合っていることに琉花が気付いたらしく、そっちへ小走りで向かう。湊も愛衣の手を剥がして歩いて向かう。愛衣も続く。
先に着いた琉花と勇士達の会話が聞こえてくる。
「ねえ、まさか…二人…」
琉花の尻すぼみな言葉に勇士が頷き、茶色い短髪をかきながら。
「うん。紫音とペアになったんだ」
紫音が隣で申し訳なさそうに頷く。
琉花は瞬きを繰り返し、がっくりと頭を落とす。
「あっそう。あっそうですか。良かったね」
「る、琉花? なんだ? そんなに嫌な奴とペアになったのか…?」
それもあるが、それ以上に紫音が羨ましいのだ。
しかしそんな面白光景よりも、湊と愛衣は紫音の表情に目を引かれた。
(今日は朝からどこか様子がおかしいと思ったが、ここでその表情…)
(武者小路源得が動いたってことかな?)
そんな心の内を知らず、勇士が湊と愛衣を捉える。並んで歩く二人を見て、勇士の口角がほんの少しだけ下がった。
「あれ、もしかして2人が…」
「いや、違うよ」
「残念ながらね」
愛衣の言葉を聞いて勇士は口角が不自然吊り上がり、苦笑した。
「そ、そうか。じゃあ誰とペアになったか聞いても?」
愛衣と湊がスマホの画面見せながら。
「私は淡里さん。くじ運良かったわ」
「青狩総駕くんだって。…どうよ、俺のくじ運」
勇士の表情がいつものイケメンな感じに戻る。
「あ、ああ。あ、青狩くんも悪い人じゃないんだから、そんな顔しなくても…」
「そうだよな。俺達に対してだけ悪い感じの人になるんだもんな」
勇士が論破され気味に首を落とし、振り絞ったように親指を立てた。
「………どんまい!」
「愛衣と同じこと言ってんじゃねえ」
勇士の表情がほんの、ほんの少しだけ赤くなる。普通では気付かないほどに。好意を寄せる相手と一括りにされて嬉しいのだろう。
湊は視線を動かさず、愛衣を見る。
(………愛衣、お前なら当然気付いてるよな。とっくの昔に)
その後、教室内でのクラスメート同士のペア報告の時間のようなものが終わって行き、勇士、紫音を除く三人がそれぞれ教室を出た。
◆ ◆ ◆
愛衣がI組に向かう途中。
「あ!」
前方から一人の生徒が手を振って近付いてきた。
ショートヘアの赤みがかった黒髪の右側を耳にかけた女性徒。全身から気品溢れ、中学生とは思えないルックスも合わせてそのカリスマ性の高さを強調している。
「速水愛衣さんよね!? ペアになった淡里深恋です! テストよろしくね!」
愛衣の観察眼を以てすれば分かる。
この女性の性格も実力も傑物だと。
「よ、よろしく…」
ここまで心が綺麗な人と触れ合ったことがないので、さすがの愛衣も言い淀む。
「ねえ、愛衣って呼んでいい? 私も深恋でいいからっ」
人はこうまで清らかな笑みを浮かべられるのか。
愛衣は自分がどれだけ捻くれているかを思い知らされる。
「いいけど…」
「ありがとう、愛衣! 愛衣とか紅井くんのいるグループとは一度話してみたかったんだっ」
「…そうなんだ。なんなら紹介しようか? よく…その、深恋の話題が上がるし」
深恋となんとか呼べた。元々の性格が良く働いてくれたようだ。
愛衣の言葉を聞いて深恋が嬉しそうに反応した。
「ほんと!? どんな話!?」
勢いが凄い。愛衣は気圧されつつ。
「ほら、深恋って武器って刀でしょ? 紅井が一度お手合わせしたいって言ってたわよ」
深恋が微笑みながら手を横に振った。
「いやいやいや、私なんて紅井くんに比べたら大したことないよっ。B級レベルの敵に勝ったんでしょ? 強過ぎるよ。……愛衣も敵アジトに連れて活躍したんでしょ? 凄いなぁ。同級生に追いてかれちゃうなぁ」
謙虚があまり鼻に突かない。
これがカリスマというものか。
「深恋だって十分凄いと思うけどね。…はっきり言って私戦力になるかどうか分からないけど、不安とかない?」
「ないよ! 助け合ってこそのペアでしょ? お互い頑張ろう!」
ぎゅっと手を両手で握ってくる深恋。
愛衣は微笑みながら首を縦に振った。
◆ ◆ ◆
一方、湊は。
G組の教室まで来ていた。生徒は三分の一くらいで、見通しがよくすぐに目当ての人物を見付けた。
悠々と中に入る湊。湊も十分有名人なのでクラス中から注目を集める。二人組が多いから、クラス内でペアになった人達だろう。そんな人達がヒソヒソと小声で話す。
湊はそれでも飄々と歩き進み、一つの席に座る読書する人物の前に立つ。
髪は坊主に近いほど短い。目は猛獣並みに鋭く、体格はアメリカ人のロケット以上に筋肉質だ。狂暴な印象を受けるが、本を読むその姿も似合っている。
湊の存在に気付いているはずだが微動だにしない。
(嫌われてるねー)
会話をやめ、こちらに集中するGクラスの生徒達の視線を感じながら、湊はフレンドリーに話し掛けた。
「青狩総駕くんだよね? ちょっといい?」
間を置いて、目を合わさず総駕が反応する。この場で無視を決め込むほど子供ではないようだ。
「……用件なら分かっている。ペアのことだろ。顔合わせは済んだ。もう帰れ」
手短に片付けられ、追い返されそうになる。
「おいおい、冷たいな。もう少し愛想よくできないの?」
「黙れ。もう話すことはない。帰れ」
「いや、あるでしょ。この時間の意味分かってる? ペアとの親睦を深め、お互いの戦闘スタイルを確認するのが目的なんだよ? 前以てペアの戦い方を知り、自分との連携を暇な時にシュミレーションする。ちゃんと時間は有意義に使おうよ」
総駕の雰囲気に鋭さが増す。
「そんなの必要ない。俺だけで十分だ」
「え、君バカなの?」
総駕が手に持つ本をクシャっと握る。
クラス中が恐怖で絶叫しそうになるのを堪えるのが分かった。
「……俺がバカだと?」
「だってそうでしょ。1人で十分? これテストだよ? 成績に反映されるんだよ? 俺何もしなかったら評価付けられないじゃん。そういう配慮を心掛けようよ。……それにもし俺のことが嫌いだからって、青狩くん1人でテストやり遂げたとしても碌な成績付かないよ? これペアワークだよ? ペアの意向を無視して勝手に1人でやるとか自意識過剰で協調性ゼロ。劣等生の極みじゃん」
「貴様!」
総駕が立ち上がり、湊の襟元を掴み上げる。
殺意を宿した視線と飄々とした視線が交差する。
大声を張り上げんと総駕が口を開くが、湊が先に声を発した。
「やっと目を合わせてくれたね」
総駕は意表を突かれ、押し黙る。
湊は軽い手付きで襟元から総駕の手を放す。あまりに自然な動作過ぎて、総駕はなすがまま放してしまった。
湊は総駕と目を合わせ。
「ごめんね、挑発的なこと言って。でも間違ったことは言ってないからさ、その辺よく考えてみてよ」
総駕の返事を待たずして、湊は踵を返す。
「今は帰るからさ、放課後、また来るね。教室にいてよー」
ばいばーい、と後ろ手を振りながら湊は教室を出ていく。
総駕が何かに敗北したような顔付きで唇を噛んでいる。
Gクラスの面々の漣湊に対する評価が爆上がりした。
◆ ◆ ◆
琉花はペアに会うべく廊下を歩いていると、人込みの中に目当ての人物を発見する。
何やら壁に手を付いてぶつぶつと呟いている。傍から見るとかなり変だ。
時間を無駄にできないので、琉花はそっと近寄り話し掛けた。
「四門英刻くんよね?」
「え!? はい!? え!? は、はい!」
体を変に揺らして狼狽えまくる英刻は、最後に何とか直立不動の姿勢で返事をする。もう色々と手遅れだが。
英刻は相手が琉花だと認識すると、更に畏まり。
「えとえっとっっ、わ、私! 四門英刻と言います! 歳は15! 血液型はB! 職業は学生! 趣味は音楽鑑賞! 特技は三味線! 恐れながら『御十家』の一角、久多良木家傘下四門家の三男であります! 風宮琉花様! こ、今回の中間テスト! よろしくお願いします!」
がばっと頭を下げる緊張しまくりな英刻。
琉花は思った。もしかしたら青狩総駕以上の貧乏くじかもしれないと。
C組担任、ウェーブがかったロングヘアの女性、蔵坂鳩菜が教卓に立って説明を始める。
「今日は、3日後の休み明けから約1週間掛けて行う中間テストのペア決めをします」
クラス中からやる気に満ちた声と呻き声が上がる。
「前に説明した通り、皆さんが学園に登録したアドレスに、ランダムで決められたペアのクラスと名前がこの後一斉送信で送られます。本日の一時間目はペアの方との顔合わせに時間を割くので、各々しっかり確認するように。尚、稲葉《いなば》さんが学校を停学しているので三人一組のペアが出来上がることもありますからね」
湊が調べたこれまでの中間テストと変わったところはない。
ちなみに、今言った通り稲葉友梨は停学扱いとなっている。いきなり退学では生徒達に余計な不安を広げるだけだからだ。
「中間テストは夏休みに『士協会』が実施するライセンス取得試験への出場権の参考にもされるので、全力で取り組んで下さいね」
ライセンス取得試験。
まだ中学生ではF級とすら認められていない。卒業して高校へ上がれば自動的にライセンスを取得してF級となる。
しかし中学の早い段階で優秀な成績を収めていれば夏休みに行われるライセンス取得試験に出れるのだ。
それに懸ける生徒達の思いは強い。
説明を終え、蔵坂が最後に添える。
「メールが来るまで少し待っててね」
スマホを机の上に出した湊は頬杖を付きながら隣の席を見やる。クリーム色の髪をサイドポニーにした少女、風宮琉花がどこか緊張した様子だ。
「緊張してんの?」
「…してないわよ」
「勇士とペアになりたい?」
「うるさいっ」
琉花がふくれっ面でそっぽを向く。
湊は苦笑しながら。
「可能性はかなり低いけど、希望を持つぐらいなら良いと思うよ」
「……そういう漣はどうなの? 愛衣とペアになりたい?」
琉花が仕返しとばかりに聞いてくるが、本人もあまり効果は期待していないようで、半分投げやりだ。
「まあ愛衣だったら楽でいいけど、さすがにそれは運良すぎでしょ。獅童学園ってAからNまで14クラスもあるからね」
獅童学園は一年制で1学年しかない為、限定的な狭い範囲内への力の入れようは凄まじい。
「……ねえ、漣。あんたから見てこのペア決めに規則性とかあると思う?」
『妖具』の一件で琉花は湊の知能の高さを認めている。最近の琉花は湊や愛衣にこのような知能が高いからこそ何か分かる?的な質問が多い。
純粋に興味があるようだ。
「そうだね…。規則性って程ではないけど、最低限の配慮ならされてるよ?」
「最低限の配慮?」
「うん。以前の中間テストを少し調べてみたんだけど、どの年もペア間の争いが少ないんだ。…例えば、気弱な美少女と不良男子のような相性最悪のペアが全くない。そういう配慮だよ」
琉花の目が丸くなる。
「仮にも名門よ? そもそもそういういい加減な生徒は少ないんじゃないの?」
「ペア制度を取り入れてから30年以上、一度たりとも無いんだよ」
琉花が押し黙る。無理矢理納得させられた形だ。
「多分ゴールデンウィーク明けに行ったアンケートが心理テスト代わりにもなってたんだと思う」
「…へー。じゃあうランダムでペアの選出をするシステムにそういうデータを入力してるってわけ?」
「そうそう。だから風宮も、凄く嫌な人とペアになるかもしれないけど、最悪な人とはならないと思うから安心して」
「……全く安心できないわね」
あははと湊が笑う。
その時、教室中のスマホが一斉に音を鳴らす。
「各自確認したら相手の所まで行って下さいね!」
蔵坂が再度通告をする。
周囲で確認作業が始まり、その後「お前どうだった」「私F組の友達とだった!」「なんだあいつかよ」と報告会的なものが始まっている。
湊もスマホで相手を確認して。
「………うげ」
肩を落とした。
「なに? 誰だったの?」
湊の嫌そうな顔が珍しいのか、興味津々で湊のスマホを除き込んでくる琉花。
「………うわ、これは同情するわ」
琉花に同情された。
『漣湊様。貴方のペアとなるのは以下の方です。
「G組・青狩総駕」』
青狩総駕。勇士のグループを蛇蝎の如く嫌っている男子生徒だ。
「あれ~、おかしいな~。最低限の配慮はされているはずなのにな~」
「漣なら無難にやり熟すって思われたんじゃない?」
「くそっ。……そういう風宮は?」
聞き返すと、琉花が歯切れ悪く応える。
「ん、ああ……別に嫌ってわけじゃないんだけど、どう接したら分からないというか…」
「だから誰?」
琉花がスマホの画面を向けてくる。
『風宮琉花様。貴方のペアとなるのは以下の方です。
「D組・四門英刻」』
「……おお、あいつか」
琉花が「んんんー」と唸る。
「悪い人じゃないのは分かってるんだけど……どうもねぇ」
湊も琉花もどう反応したらいいか分からず、微妙な空気が流れる。
そこに助け船としてか愛衣が現れた。
「何々? どうしたのー? 2人とも。そんなに嫌な人とペアになったのー?」
湊と琉花は何も言わず画面を見せた。
愛衣はそれを確認して「お、おお」と珍しく反応に困っている。
「琉花はともかく…湊どんまい。まあ悪いようにはされないわよ」
「だといいけどね。…愛衣はどうだった?」
「ほい」
と愛衣も画面を見せてくる。
『速水愛衣様。貴方のペアとなるのは以下の方です。
「I組・淡里深恋」』
淡里深恋。カリスマ性抜群の人格者として有名な女性徒だ。
「いいなぁ。俺と変わってー」
「いやよー。なに? 湊は私が青狩とペアを組んでもいいの?」
「いいけど」
「ッ」
ムッとした愛衣が後ろから湊の両頬を引っ張る。
すると、勇士と紫音が教室の隅で話し合っていることに琉花が気付いたらしく、そっちへ小走りで向かう。湊も愛衣の手を剥がして歩いて向かう。愛衣も続く。
先に着いた琉花と勇士達の会話が聞こえてくる。
「ねえ、まさか…二人…」
琉花の尻すぼみな言葉に勇士が頷き、茶色い短髪をかきながら。
「うん。紫音とペアになったんだ」
紫音が隣で申し訳なさそうに頷く。
琉花は瞬きを繰り返し、がっくりと頭を落とす。
「あっそう。あっそうですか。良かったね」
「る、琉花? なんだ? そんなに嫌な奴とペアになったのか…?」
それもあるが、それ以上に紫音が羨ましいのだ。
しかしそんな面白光景よりも、湊と愛衣は紫音の表情に目を引かれた。
(今日は朝からどこか様子がおかしいと思ったが、ここでその表情…)
(武者小路源得が動いたってことかな?)
そんな心の内を知らず、勇士が湊と愛衣を捉える。並んで歩く二人を見て、勇士の口角がほんの少しだけ下がった。
「あれ、もしかして2人が…」
「いや、違うよ」
「残念ながらね」
愛衣の言葉を聞いて勇士は口角が不自然吊り上がり、苦笑した。
「そ、そうか。じゃあ誰とペアになったか聞いても?」
愛衣と湊がスマホの画面見せながら。
「私は淡里さん。くじ運良かったわ」
「青狩総駕くんだって。…どうよ、俺のくじ運」
勇士の表情がいつものイケメンな感じに戻る。
「あ、ああ。あ、青狩くんも悪い人じゃないんだから、そんな顔しなくても…」
「そうだよな。俺達に対してだけ悪い感じの人になるんだもんな」
勇士が論破され気味に首を落とし、振り絞ったように親指を立てた。
「………どんまい!」
「愛衣と同じこと言ってんじゃねえ」
勇士の表情がほんの、ほんの少しだけ赤くなる。普通では気付かないほどに。好意を寄せる相手と一括りにされて嬉しいのだろう。
湊は視線を動かさず、愛衣を見る。
(………愛衣、お前なら当然気付いてるよな。とっくの昔に)
その後、教室内でのクラスメート同士のペア報告の時間のようなものが終わって行き、勇士、紫音を除く三人がそれぞれ教室を出た。
◆ ◆ ◆
愛衣がI組に向かう途中。
「あ!」
前方から一人の生徒が手を振って近付いてきた。
ショートヘアの赤みがかった黒髪の右側を耳にかけた女性徒。全身から気品溢れ、中学生とは思えないルックスも合わせてそのカリスマ性の高さを強調している。
「速水愛衣さんよね!? ペアになった淡里深恋です! テストよろしくね!」
愛衣の観察眼を以てすれば分かる。
この女性の性格も実力も傑物だと。
「よ、よろしく…」
ここまで心が綺麗な人と触れ合ったことがないので、さすがの愛衣も言い淀む。
「ねえ、愛衣って呼んでいい? 私も深恋でいいからっ」
人はこうまで清らかな笑みを浮かべられるのか。
愛衣は自分がどれだけ捻くれているかを思い知らされる。
「いいけど…」
「ありがとう、愛衣! 愛衣とか紅井くんのいるグループとは一度話してみたかったんだっ」
「…そうなんだ。なんなら紹介しようか? よく…その、深恋の話題が上がるし」
深恋となんとか呼べた。元々の性格が良く働いてくれたようだ。
愛衣の言葉を聞いて深恋が嬉しそうに反応した。
「ほんと!? どんな話!?」
勢いが凄い。愛衣は気圧されつつ。
「ほら、深恋って武器って刀でしょ? 紅井が一度お手合わせしたいって言ってたわよ」
深恋が微笑みながら手を横に振った。
「いやいやいや、私なんて紅井くんに比べたら大したことないよっ。B級レベルの敵に勝ったんでしょ? 強過ぎるよ。……愛衣も敵アジトに連れて活躍したんでしょ? 凄いなぁ。同級生に追いてかれちゃうなぁ」
謙虚があまり鼻に突かない。
これがカリスマというものか。
「深恋だって十分凄いと思うけどね。…はっきり言って私戦力になるかどうか分からないけど、不安とかない?」
「ないよ! 助け合ってこそのペアでしょ? お互い頑張ろう!」
ぎゅっと手を両手で握ってくる深恋。
愛衣は微笑みながら首を縦に振った。
◆ ◆ ◆
一方、湊は。
G組の教室まで来ていた。生徒は三分の一くらいで、見通しがよくすぐに目当ての人物を見付けた。
悠々と中に入る湊。湊も十分有名人なのでクラス中から注目を集める。二人組が多いから、クラス内でペアになった人達だろう。そんな人達がヒソヒソと小声で話す。
湊はそれでも飄々と歩き進み、一つの席に座る読書する人物の前に立つ。
髪は坊主に近いほど短い。目は猛獣並みに鋭く、体格はアメリカ人のロケット以上に筋肉質だ。狂暴な印象を受けるが、本を読むその姿も似合っている。
湊の存在に気付いているはずだが微動だにしない。
(嫌われてるねー)
会話をやめ、こちらに集中するGクラスの生徒達の視線を感じながら、湊はフレンドリーに話し掛けた。
「青狩総駕くんだよね? ちょっといい?」
間を置いて、目を合わさず総駕が反応する。この場で無視を決め込むほど子供ではないようだ。
「……用件なら分かっている。ペアのことだろ。顔合わせは済んだ。もう帰れ」
手短に片付けられ、追い返されそうになる。
「おいおい、冷たいな。もう少し愛想よくできないの?」
「黙れ。もう話すことはない。帰れ」
「いや、あるでしょ。この時間の意味分かってる? ペアとの親睦を深め、お互いの戦闘スタイルを確認するのが目的なんだよ? 前以てペアの戦い方を知り、自分との連携を暇な時にシュミレーションする。ちゃんと時間は有意義に使おうよ」
総駕の雰囲気に鋭さが増す。
「そんなの必要ない。俺だけで十分だ」
「え、君バカなの?」
総駕が手に持つ本をクシャっと握る。
クラス中が恐怖で絶叫しそうになるのを堪えるのが分かった。
「……俺がバカだと?」
「だってそうでしょ。1人で十分? これテストだよ? 成績に反映されるんだよ? 俺何もしなかったら評価付けられないじゃん。そういう配慮を心掛けようよ。……それにもし俺のことが嫌いだからって、青狩くん1人でテストやり遂げたとしても碌な成績付かないよ? これペアワークだよ? ペアの意向を無視して勝手に1人でやるとか自意識過剰で協調性ゼロ。劣等生の極みじゃん」
「貴様!」
総駕が立ち上がり、湊の襟元を掴み上げる。
殺意を宿した視線と飄々とした視線が交差する。
大声を張り上げんと総駕が口を開くが、湊が先に声を発した。
「やっと目を合わせてくれたね」
総駕は意表を突かれ、押し黙る。
湊は軽い手付きで襟元から総駕の手を放す。あまりに自然な動作過ぎて、総駕はなすがまま放してしまった。
湊は総駕と目を合わせ。
「ごめんね、挑発的なこと言って。でも間違ったことは言ってないからさ、その辺よく考えてみてよ」
総駕の返事を待たずして、湊は踵を返す。
「今は帰るからさ、放課後、また来るね。教室にいてよー」
ばいばーい、と後ろ手を振りながら湊は教室を出ていく。
総駕が何かに敗北したような顔付きで唇を噛んでいる。
Gクラスの面々の漣湊に対する評価が爆上がりした。
◆ ◆ ◆
琉花はペアに会うべく廊下を歩いていると、人込みの中に目当ての人物を発見する。
何やら壁に手を付いてぶつぶつと呟いている。傍から見るとかなり変だ。
時間を無駄にできないので、琉花はそっと近寄り話し掛けた。
「四門英刻くんよね?」
「え!? はい!? え!? は、はい!」
体を変に揺らして狼狽えまくる英刻は、最後に何とか直立不動の姿勢で返事をする。もう色々と手遅れだが。
英刻は相手が琉花だと認識すると、更に畏まり。
「えとえっとっっ、わ、私! 四門英刻と言います! 歳は15! 血液型はB! 職業は学生! 趣味は音楽鑑賞! 特技は三味線! 恐れながら『御十家』の一角、久多良木家傘下四門家の三男であります! 風宮琉花様! こ、今回の中間テスト! よろしくお願いします!」
がばっと頭を下げる緊張しまくりな英刻。
琉花は思った。もしかしたら青狩総駕以上の貧乏くじかもしれないと。
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Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
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戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
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「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
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――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
セクスカリバーをヌキました!
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