鎮静のクロッカス

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第6章【番外】スイートピーサイド編

第10話・・・「お前、うざい」_ネメシアVS針生_決着・・・

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 独立策動部隊『聖』は、その機密性故に、組織内には幾つもの家系が存在し、『御十家』さながらにあらゆる司力フォースを受け継いでいる。

 ネメシアの家系は代々支援型サポート・タイプの探知阻害を得意としているが、それには鎮静系であることが必須だった。
 しかしネメシアは具象系。
 系統は両親のどちらか一方のものを遺伝する。
 家系である父は鎮静系だったが、母が具象系だった。
 これは別に悪いことでも珍しいことでもない。
〝外の血を入れるな!!〟などと『御十家』のような時代錯誤なことを『聖』が言うはずもなく〝みんなで一緒にネメシアの司力フォースを考えよう!〟という雰囲気になるのが相場だ。
 
 ネメシアは今でこそツンツンしながらも責任感を発揮しているが、幼い頃は悪戯が大好きで、具象系という七系統の中で最も汎用性が広いエナジーを利用して様々なものを具象しては仲間を驚かせていた。
『聖』の英才教育の甲斐あって5歳前後でB級相当の実力を有し、人に変化へんげして驚かすことが好きだったこともあって、自然と司力フォースとして昇華するようになった。


 ………ネメシアは『聖』で生まれ、至って順調に高級ハイレベルフォーサーとしての教育を受けた、温室育ちながら野生を遥かに超えた鋭い棘を持った薔薇なのだ。
 
 
 ……だからこそ、こんなことを考えることが相手に失礼だと重々承知しているが………『聖』に後から加入した隊員に対して、申し訳なく思うことがある。

 過酷な環境で生きてきた新しい家族に対して、『聖』という最高の環境で生まれたことが、どうしようもなく居たたまれない気持ちになるのだ。
 感情移入しやすい性質たちらしく、相手のことを自分のことのように受け止めてしまうのだ。


 今でこそ自制できているが、8歳の頃にクロッカスとスイートピーが入ってきた時はそれはもうネメシアは涙が止まらなかった。
指定破凶区域ハザード・エリア』という想像を絶する環境で約二年間、まだ乳幼児だったスイートピーを守りながら生を繋いだクロッカスの心は誰にも計り知れない。

 だからネメシアは二人の心の支えになろうと懸命にお世話に参加した。といっても8歳のネメシアには話し相手になることしかできないので、元気になってもらう為にネメシアはたくさん話しかけた。
 その日あったこと、どんな訓練をしたか、『聖』にはどんな場所があるのか、食堂のごはんは何が美味しいか。

〝これから私達は家族になる〟

〝もう君達は『ここ』の子なんだよ〟

 二人の心を救いたい一心で、言葉を送った。

 
 
 ………そんなある日、クロッカスがまだ元気が戻っていない虚ろな目で、ネメシアにこう言葉を返した。


「お前、うざい」

 ………頭が真っ白になったネメシアに、湊は更に言葉を放った。

「与える側は気持ちいい?」   「お前の吐く言葉全てが〝君って不幸だよね〟としか聞こえないんだけど」   「励ますつもりならその哀れな人を見る目をなんとかしたら?」       「幸せオーラ全開で近寄ってくんな」     「人を助けて救った気になりたいなら外の世界に出て不幸なおじさんにでも話しかけてあげなよ」       「押しつけがましくて反吐が出る」    「お前みたいな家族、俺にはいらない」      「もう話しかけてこないで、お願いだから」


 ……この時、ネメシアは自分の考えが自己中心的な我儘だったことを思い知らされた。

 自分の行動の愚かさ、浅はかさ、無神経さに泣いて、泣いて、泣いて………心の底から自分自身を憎んだ。

 
 
 ■ ■ ■
 

 結界が張られた路地裏。薄暗い空間は陰湿な雰囲気を作り出し、似つかわしくない恰好のキャバ嬢が一人だけ倒れている。
 針生が持ち帰りした二人の女性の一方に化けていたネメシアは、前に出て戦うタイプではないものの巧みな戦法で終始主導権を握り、危なげなく針生を無力化する。
 
 ……そのはずだった。

 しかし現実はその真逆。
 地を膝をつくネメシアを、「けはっ」と嗜虐的な笑みを浮かべて見下している。
「何をしたかって? ……何度も言ったように歪ませたんだよ。……君の脳をね」
「……脳…?」
「覚えてる? 俺が最初に放った技」
 針生に言われ、ネメシアはすぐに思い出した。


 針生は開戦早々、空間にぐりっと『錯流刀』を突き刺してある領域テリトリー系の技を放った。
『けははッッ! 「歪空領域ツイスト・ロール・テリトリー!!」』


「……っ」
 ネメシアの反応を見つつ、針生が続ける。
「思い出した? …『歪空領域ツイスト・ロール・テリトリー』。空間に〝歪み〟を浸透させて相手の三半規管に作用し、バランス力や命中率を極端に下げる技。……君は『』なんて言って歯牙にもかけなかったけど、この領域テリトリーの真価はそっちじゃない」
「……っ」
 息が荒くなるネメシアに針生が告げた。

「『歪空領域ツイスト・ロール・テリトリー』の新の効力は、時間をかけて相手の脳を歪ませる侵食性なんだよ!」

「……侵食…性…ッ」
「そう! さっきお前が言った通り、この『錯流刀』は洸血気オーブ・エナジーを元に滑空原龍電が鍛えた刀! 龍電は『歪曲』だけじゃなく、相手の体を蝕んでいく洸血気オーブ・エナジーの特性もしっかり落とし込んだんだ!
『錯流刀』の近くにいる者は徐々に脳を〝歪み〟が侵食し、神経系がデタラメな情報しか受け取らなくなって動けなくなる! 本来なら使用者も例外じゃないが、俺の脳は何度も言ってるように元から歪んだ情報しか受け取ってないから効果はない!」
 けはははははッッッ、と針生が高笑いを轟かせる。
(……なるほど。『錯流刀』、想像以上に恐ろしい士器アイテムだったわね…)
 ネメシアはこんな状況でも冷静に分析する。
 しかしではもうどうすることもできそうにない。
「さぁて」
 しかしそんなネメシアに無慈悲に針生が歩き寄る。
「しっかり俺本来の戦闘力で勝ってひん剥きたいって欲はあったが……仕方ない。……その分嬲ってやるッ」
 一歩、また一歩と『錯流刀』を舐めながら針生がネメシアとの距離を詰める。
「なぁ、気分はどうだい? ……舐めてた相手にメチャクチャにされる気分は?」
「……」
「お前らの組織のことよく知らないけどさ、それだけ秘匿性高いってことはどうせ『聖』内で子供こさえて子々孫々繁栄させた身内組織なんだろ?」
 はあぁ、と呆れた溜息を針生が吐く。
「……まあ、それだけ強いってことは結構厳しい訓練を受けてるんだろうけどさ……俺からすれば〝その程度でどん底を味わった気分になるな〟って感じ」
 針生の瞳孔がカッと開く。
 その瞳には、どん底の人生を歩んできた者のどす黒い感情が炎のようにメラメラと燃えていた。
「温室育ちが野生育ちに勝てると思うなッッ! お前の女としての尊厳全部粉々にしてやるよッッ!」
「……ひっ」
 そこでネメシアが言葉を捻り出す。
 ひぃ!と恐怖を口にしたと一瞬針生の表情が醜く歪んだが続く言葉でそれが違うことがわかった。
「一つだけ…聞かせて…!」
「んー? なんだい? 言ってごらんよ」
 上から目線で針生が促す。
「さっきの電話は………誰なの…!?」
「…っ」
 ぴくりと針生が頬を引き攣らせた。
 
 そもそもネメシアの正体がバレた原因は、針生にかかってきた謎の電話だ。
 それをへこへこした態度で受けた針生の態度が突然豹変した。

「……あぁ、漏電さんだよ。俺達『爬蜘蛛はぐも』のボス」

(……はい。嘘。……喋る気は無しね)
 ネメシアは針生の嘘を容易く看破した。


「そんなことより自分の心配したらどう!? わかってる!? ……君は今から僕に……     」


 ……………その時。



「…………ガハッ……ッッ!?」



 突然、………………針生が吐血した。




「……………………………………………………………………………………………は?」

 口を押えた左手にべっとりと鮮血が付着している。


「な……ん……!?」

 ………………針生の全身から力が抜け、どさっと地に倒れ込んだ。

(なんだ……ッ、これは………ッッッ!? 何が………………ッッ!?)



「もう一度、同じこと言うわね」


 脳内を無数の疑問符が埋め尽くす針生に、馴染みある機械補正のかかった女の声が届いた。


「うちのジェネリック、忘れてない?」
 
 針生は己の血の海の上で身を捩り、今まで戦っていたネメシア……針生が負かしてこれから嬲るつもりだったネメシアに目を向ける。

 姿

(そんな…ッ!? まさか……ッッ!)

 完全に消え失せたネメシアを目の当たりにして、視線をに向ける。

(これも……分身…ッッ!?)

 だが、こうして種明かしされた今でも針生は信じられずにいた。

(そんなはず…ない…ッ! 分身法フロック・アーツは例え本人そっくりに具象しても士《フォーサー》としてのレベルは格段に下がる! それにそもそも俺の『歪空領域ツイスト・ロール・テリトリー』はエナジーの構築も崩す! エナジーでできた分身がこれだけの時間、耐えられるはずが………………ッッ!?)

 必死に頭を捏ね繰り回していた針生が、一つの結論をふと浮かべた。

(まさか……ッ)


「そう。〝別己法アナザー・アーツ〟よ」

 針生の考えを見透かしたかのように、本物オリジナルのネメシアが告げた。

「ッッッ…!?」

 別己法アナザー・アーツ
 具象系特有、且つ理界踏破オーバー・ロジック一歩手前の超上級法技スキル
 分身法フロック・アーツの完全上位互換で、もう一人の自分を創造する具象系の奥義の一つ。


 ネメシアが取り出したナイフに水を纏って容赦なく針生の右肩に突き刺した。
 これは相手の体内に水を流して動きを封じる技『水縛刺アクア・シーリング』だ。
「ぐぁ…ッ」と苦しむ針生にネメシアが淡々と告げる。

「あんたの言う通りよ。うちの戦闘力は著しく低い。……そのことを一番わかってるうちが、どうして念入りに備えをしてないと思ったの?」

「……ッ」

「駆け引きや足運びで補ってるってのも大正解。……ただ、あともう一声、別己法アナザー・アーツの分身であることを誤魔化す為でもあったというのに気付けたら、満点だったわね」

「…………ッッッ!? ……ぐ………ッ!!」
 針生が身を焦がすような後悔の念に苛まれ、怨念の籠った声を漏らす。
別己法アナザー・アーツだったなら本物オリジナルより多少は戦闘力が下がってるはず…ッッ!! 元々の実力は知らないにしても、少しは違和感を感じれたはずなのに…ッッ!! クソッッ!! クソッッッ!!!)
「………あ! …でッ、でも!!」
 針生が全身に異物感を覚えるような苦痛に縛られながら、力を振り絞って口を開く。
「……………お、お前本体は…今まで、ど、どこにいたんだ……ッッッ!?」

 針生が後悔と共に拭えない疑問を投げ放った。
 苦し紛れの最後の抵抗に見えるが、それは的を射た謎だ。

 周囲を覆う結界はネメシアが張ったが、戦闘中に破られれば針生でも気付ける。そして結界は張った本人も内外で分断してしまい、自由な行き来は不可能だ。
 
「ああ……それまだ気付いてなかったんだ」

「…?」

 ネメシアは変わらず淡々と続け、
「ほら」
 と仮面の上に別の顔を具象した。
 綺麗な女性の顔だ。

「……ぁ…ッッッ!!」
 今度こそ、針生は絶望的な後悔に心を刺された。


 ……その顔は、針生がお持ち帰りしたもう一人の女性だったのだ。


 針生は今日、二人のキャバ嬢を持ち帰りした。
 その内の一人が、針生が最も気に入った孔美くみ。彼女はネメシアの別己法アナザー・アーツの分身が変化へんげした偽物だった。
 そしてもう一人も……偽物だったということだ。

 針生が体を迸る痛みを無視して、そのもう一人のキャバ嬢が寝かせられていた場所に目を向けるが、微かにエナジーの残滓が感じられるだけで何もなかった。

(最初から最後まで……全部こいつのてのひらの……上…!?)

 針生の心が、ぽっきりと折れた。


 ■ ■ ■


 ……今回、ネメシアは針生の女癖の悪さを利用するに当たって、出入りしているクラブのキャバ嬢の中で針生が気に入りそうな女性をピックアップし、その女性に成りすまして針生に取り入り、別荘の中に入り込む予定だった。ちなみに本物の女性達には人目のないところで眠ってもらっている。
 そしてここでネメシアの精彩を放った点が、ところだ。
 ただ表面上のっぺり化けるのではなく、別己法アナザー・アーツによってもう一人の自分を創造し、『完似創人ビー・キャラクト』で完全に別人に化ける(ちなみにネメシアはまだ別己法アナザー・アーツは一体しか具象できない)。
 そして別己法アナザー・アーツの方を目立たせ、何か起きても一旦そちらへ注意が向くようにする。
 今回はそれが上手く作用した形だ。

 角度によって三重にも四重にもなるトラップ
 ……ネメシアの本質はここにある。
〝変化〟に特化したネメシアの司力フォースは確かに最高級だが、それを唯一無二の至宝の一級品として昇華しているのがネメシアのこの〝用心深さ〟なのだ。
 
 
 
『お前、うざい』


 クロッカスに言われ、己の薄っぺらさを思い知ったネメシアはまず相手のことを知ることから始めた。
 当時、まだまだ発展途上だった司力フォース完似創人ビー・キャラクト』は人に化けるという性質上、〝相手のことをよく知る〟必要がある。
 それなのにネメシアは湊のことを深く知ろうとせず自分の話ばかりしていたと自覚し、二度と湊に不快な思いをされないよう徹底的に、なんなら引かれるぐらいに湊のことを知り、もう一度湊に話しかけて今度こそ心の支えの一つになれたらと考えた。

 ……だが、まだ5歳の湊が辿った過去、秘める才能を知っていく内に格の違いを思い知り、ネメシアは『聖』で過ごしている内は絶対湊のことを理解はできないと確信させられた。
 湊と同い年の世代で最も優秀なプロテアが勝負を挑んでぼろ負けしたという話を聞いたが、それも頷ける話だ。

 それでも、少しでも湊の理解者になれればという思いから、ネメシアの血涙が出るような努力は続いた。湊が孤児院時代に半月ほどで読んだという百冊以上の本を一冊ずつ、湊の百倍以上のペースで読み始めたり、湊の『指定破狂区域ハザード・エリア屍闇しぐら怪洞窟かいどうくつ』での生活を『聖』の施設で再現して過ごしてみたら一日でギブアップしたり、……ネメシアにできることはなんでもした。

 はっきり言って辛かった。ネメシアも当時は8歳だったが、これほど辛い日はこの先もそうそうないだろうと子供ながらに思った。それでも、両親や仲間たちの心配と応援の入り混じった複雑な思いを感じていたが、それでもクロッカスに心を開いてもらう為に日々頑張った。



 そして、『聖』の図書ルームで日課である読書(湊が過去に読んだ本)をしていた頃のこと。
 日々の勉強漬けで疲労が溜まり、眠ってしまったことがあった。
 閉室時間を知らせるチャイムが鳴って目を覚ました時、

 ……クロッカスが、ネメシアの前の席に座っていた。

『なんか空回りしてない?』

 湊が呆れた顔で本をぺらぺら捲りながら、ネメシアに言う。

『…!…ぁ……っ』
 突然のことに驚いてネメシアが何も言えないでいる。

『ネメシアさんの「司力フォース」、聞いたけど、この感じで相手の勉強プロファイリング続けてるといつかパンクするよ? 無駄多すぎ。……よければ、効率のいい方法教えるけど?』

『……ぅ…ぁ…っ』
 ネメシアは呼吸を荒げながら、湊を見詰めた。

 何よりネメシアが驚いたのは……湊から、以前のような棘を感じないことだ。

 一体どういうこと? と瞬きを繰り返していると……、

『一体どういうこと? って顔してるね』
 表情を読まれた。

『……っ』
 と声を詰まらせるネメシアに、湊は溜息を吐いて告げた。

『そんだけ頑張ってる姿を見せられたらこっちもいつまでもツンケンできないって』
 
『…………っっっっっっ!』
 湊のその言葉に、ネメシアは一気に目頭が熱くなった。

『……前はキツイこと言ってごめ…って、え、なに泣いてんのっ? ちょ、あーほらティッシュ…』
 
 ネメシアは目と鼻を赤く腫らして号泣しながら、誓った。
『聖』がこの子に取って最高の居場所になるようにネメシアも心掛けようと。
 一日も早く家族としての温かさを感じてもらえるように尽くそうと。
 
 ……そして当然、クロッカスが命を賭して守り抜いたスイートピーいのちを、ネメシアも共に守っていこうと。


 ■ ■ ■


(……それなのに二年前、うちはスイートピーを危険に晒してしまった。…クロッカスから妹を奪ってしまうところだった…ッ! 全ては力に欠けるうちの警戒心の怠り、準備不足が招いた事態…。
 クローは〝相手が悪かった〟〝気にするな〟って言ってくれたけど……、うちは自分が許せなかったッ)

「……ねえ」
 ネメシアはナイフを刺したまま、『水縛刺アクア・シーリング』でもう声も出せない状態に陥っている針生に告げた。
「さっきあんた言ってたわよ。舐めてた相手にメチャクチャにされる気分はどうだって。……勘違いしないで頂戴。うちはあんたの人間性を軽蔑こそすれ、フォーサーとしての実力を舐めたことなんて一瞬たりともないわ」
 ネメシアは「まあ『士器アイテム』に頼り切りの戦い方はどうかと思うけど」と付け加えつつ、続けて述べた。

「どんな相手でも万全の備えを以て挑む。それがうちの信条だから」

(……それが、二年前に学んだこと。……一人前になる為に学ぶことが多過ぎて困るわ)


 ………ネメシアの言葉を受けながら途切れかけている意識中、針生はもがき苦しむように魂の叫びを放っていた。
(ふざ…けるなッッ! こんな……ッ! こんなところで……ッッ! こんなところでこの俺がぁああぁあッッ!!!)

「最期に一つだけ、」
 ネメシアが針生に対して最期の言葉を綴る。
「あんた散々自分が不幸な人生を歩んだことをアピールしてたわよね」
「……ッ」
「それを否定するつもりはないわ。あんたより辛い人生を歩んできた人をうちは知ってるけど、比較するものじゃない。あんたはあんたで何度も死にたくなるような人生だったんだと思う。……でもね、」

 ネメシアは『水縛刺アクア・シーリング』の威力を高め、意識を失う直前の針生に告げる。

「どんな辛い目に遭ったとしても、それが無関係な人間を嬲っていい理由にはならないのよ。……うちにはコンプレックスの裏返しで自分より弱い女相手に粋がってる器のちっちゃい男にしか見えなかったわ」

 
「……ッッッ……ぁ……ッ       」


 針生は悲痛と絶望の表情を浮かべて…………動かなくなった。


 結果的には本物オリジナルのネメシアは無傷。完全勝利で幕を閉じた。

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