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現代編 追加バージョン
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日曜日。昼前に出勤し、今日も人が溢れるフロアに出る。今日も怒涛の勢いのお客様だった。テレビ取材で男性用アクセサリーの紹介があったせいか、日曜日はどちらも男性の来店は多かった。
萩原部長に、真っ先に写真の事を相談した。どんなに注意をしても完全に止めさせるのは難しいだろうと言う事で、彼らと相談してくれる事になった。
「おはようございます」
チラッと見ただけで、豆乳ソフトパフェの行列が大変な事になっていたので、列整理のフォローに回る。ナッツやオーガニックフルーツ、ソースなどのトッピングで、オンリーワンに出来るスイーツショップの出店だ。使うチョコレートはフェアトレードの物と徹底している。
ビジュアルも可愛くて、SNS用に撮影する人が多い。しかも九州オンリー店で、関東初出店をゲットした。そういう訳でお客様が殺到しているのだ!出店許可もぎ取った俺は頑張った!
最後尾を階段に誘導して、並ばないお客様の通路も確保だ。列もこっちが最後尾だと札をあげる。そんな風に人を捌き続ける日曜日は、カップルや男性客も多く盛況だった。
「湊君、ここにいたの」
「荻原部長。列、なかなか減りませんね。先頭はどうなってますか?」
「機械トラブルがあったんだけど、もう順調に動いているわ。午後休憩からは、ジュエリー展の方に来てね。」
「分かりました」
人が多いとたまに体調を崩す人もいるので、しっかりと目を配る。休憩スペースはあるけど、こうして並んでる間に疲れてしまう人だって多い。
「6番行って来まーす!」
これは、トイレに行く時の合図。ちなみに、昼休憩はクローク行って来ます、だ。雨の日は袋に工夫するので、雨が降った合図の音楽が鳴る。
急いで従業員トイレに向かうとエルビスさんに会った。トイレとか気まずい。来た所だったらしくご子息が見えない位置で俺も用を足した。手を洗い乾燥機で乾かしていると、声をかけられた。
【今日はこちらには来ないんですか?】
【3時の休憩後に行きますよ】
俺が答えると、すごく嬉しそうに微笑んだ。
【良かった。社長もダリウスも寂しそうでしたから。もちろん、私も】
ニコッと微笑まれて……綺麗な笑顔にドキリとする。何これ、乙女かよ!
【そうですか。で、では後で!】
俺は何だか焦ってしまい、慌ててトイレを出て元の位置に戻った。なんだよ~!ドキドキするじゃないかっ!海外の人はあんな甘い声で言うの慣れっこなんだろうけど、こっちは違うんだ~!
出来ればこのままビューティFesにいたい。そう思ったけれど、決まった時間はやってくる。
今日もお高そうなアクセサリーを付けられた。このリングは鷹がデザインされている。エリアスさんのデザインは優雅な雰囲気だが、デザイナーはもう一人いて、動物をメインモチーフにしている。
癒し系なデザインもクールなデザインもあって、なかなか面白い。とにかく生き物が好きなのが伝わるんだ。その時、人混みの中でもよく通る声が響いた。
「うわぁ~素敵なアクセサリーいっぱいだねぇ~!」
「そうだな。歩夢は可愛い系が似合いそうだなぁ」
「歩夢様がつければ何でも素敵になりますけどね!」
一際目立つ可愛い男の子を、数人のカッコいいオシャレな男の子達が囲んでいる。
「へへっ、ありがとう。僕テレビで見たリングが欲しいんだけど、人気みたいだから、もうないかなぁ?」
おっと、探し物?でも学生みたいだな。
いや、財布の心配は要らないか。バッグも服もハイブランドだ。親御さんの家族カード持ちって所かな?
「お客様、何かお探しですか?」
「あ、はいっ!BLテレビで見たんですけど、鳥のモチーフのリングが欲しいんですが……」
あぁ。あれか。確か土曜日に殺到したなぁ。残ってたかな?
「在庫があるか見てみますね?」
俺は部長の所に行き確認したが、既に完売だった。そこへエルビスさんが聞いてきた。
【ミナトさん、何をお探しですか?】
【あ、テレビの取材を受けた鳥のモチーフのリングが欲しかったそうなんです。ですが、売り場は完売なので在庫を確認に来ました】
【一緒に来て貰えますか?】
エルビスさんが社長の所に連れていった。そして早口で話しだし、他の社員さんが引っ込みボックスを持って来た。
【念の為持って来て良かったです。これでしょうか?】
【そうです!これ、まだ売れると思うので出しましょう】
俺はさっきの少年に声をかけて見せると、目を輝かせた。
「わぁ!これこれー!店員さんありがとう!」
「いいえ、見つかって良かったです」
「良かったな、歩夢。これプレゼントするよ」
「えっ?良いの?」
「もちろんさ。見つかって良かったな」
マジか。多分高校生位なのに、2万超えを軽くプレゼント……。セレブだな。
「へへっ、ありがとう~。ねぇ、店員さんが付けてるリングも素敵だね。それも商品?デザインがそうかなって。」
「はい、そうですよ」
「お値段はーー結構するかなぁ?」
「こちらは23万円程ですね」
「さすがにまだ無理かなぁ。見せてくれてありがとう。これすごく似合ってるね!」
「ありがとうございます」
営業スマイルでお礼を言いつつ会計に案内して、チラッと見るとプレゼントの彼のカードはブラックだった。やはりどこかの坊ちゃんなんだな。
それにしても可愛い男の子だった。もしや、そういう……ゴホッ。詮索はいけない。俺はプロ!
そんなこんなで何とか地獄の土日を乗り切った俺達。エリアスさんはホテルへ戻っていて、無事閉店。エルビスさんはまだ残っていた。
【エルビスさんは大丈夫なんですか?】
【ええ、社長には別に補佐もいますし、こちらの状況を確認するように言われていますから】
【エルビスさん!!】
俺達が片付けながら話していると、溝口さんと新原さんだった。どうやらダリウスさんと二人を食事に誘いに来たらしい。俺は邪魔にならない様にそっと離れ、ビューティFesで片付け中の人達の補佐をしていた。
「湊くん、私達食事に行くんだけど、一緒にどう?」
「あー、まだ終わってないし、今日の反省も聞きたいのですみません」
「あら、そうなの?」
「イケメンとゆっくりして来てください」
「やだぁ~あくまでも接待よ~」
ちょっと顔赤らめて言っても意味ないですよ、と心の中で突っ込みながら去っていく四人を見送る。それから少し出店者さんと話しつつ、今日の仕事を終えたのだった。
そして月曜日。大抵は地獄が終わり、人はいるけどギュウギュウ詰めにはならない、それ位の集客の筈。筈です……が。
SNS効果でしょうか。結局盗撮紛い(いや、本当に盗撮だけど。)の画像があちこちに出回り、更に拡散してしまった様だ。とはいえ平日なので、土日には及ばないが、かなりの集客だった。
嬉しい誤算は、月曜日でリーズナブルなラインが売り切れてしまった事か。手頃な価格の物が無いというのはキツイ。
でも、カールタニュとしては、ブランドのコンセプトや手が届くラインもあると知って貰う事で、新規の客層を掴めたし、売れ線が分かったので充分出店した意味があった様だ。
【ミナト、私は君ともっと色々話したい】
【は、はぁ】
社長さん、俺担当じゃないんですよ。そこは新原さん達と話した方が…。俺が答えに窮していると、上から影が落ちて来た。
【なぁ、俺は昼なんだが一緒に良いか? シャショクとやらに行ってみたい】
【それは良いですね、私もまた行きたいです。】
【私もエルビスに聞いて行きたかった。よし、ランチは頼むよ、ミナト。】
「えっ!? えっ!? ちょっと、待って下さい! 新原さんに聞いて来ますから!」
思わず日本語になってしまった。三人纏めて居なくなって良いのか?ひとまず新原さんを捕まえ、事情を話す。
「三人同時にいないのは少しダメージかもしれないけど、まぁ大丈夫だよ。皆さんの休憩はゆっくり出来るようにしてるんだ。溝口は通訳で付けるけど、湊くんは悪いけど先に戻って来てくれな?」
「はい、分かってます」
社食再び。おそらく、今一番注目を浴びています!一人では言語的に厳しいので、溝口さんが通訳として一緒に休憩になったのは助かる。
その溝口さんはすっかり乙女で、社食未経験の二人の世話をせっせとしている。
【エリアスさん、ダリウスさん、このサンプルを見てお好きな物を選んで下さいね。飲物はフリーなので、教えて下さい】
「溝口さん、俺が運びますよ」
「あ、よろしく。ありがとう」
元々、接客業の人間は世話をするのが好きだ。だから相手が何を望んでいるか分かるし、心の機微に敏感なんだと思う。俺は溝口さんの接客テクニックを盗める様に、日々努力だ。
それに、些細な事でもお礼を言う。これって大事。自分も相手もまた手を貸してあげたいって思う。助け合いの心は信頼にも繋がる。
エルビスさんは一度来ているので、今回は親子丼にチャレンジだった。ふわふわの卵に興味津々だ。ドンブリ~と言いながらワクワクしているのを感じて、ちょっと可愛いと思ってしまう。
俺は自分のカレーを頼んだ後、全員の飲み物を用意して席に戻る。
【ありがとう】
エリアスさんの眩しい笑顔! キラキラ度アップです! 溝口さん、口閉じて~!
選んだメニューは、エリアスさんはトンカツ定食、ダリウスさんはカツカレー、エルビスさんはさっき言ったけど親子丼。エルビスさんには、ちょっとだけ七味を入れてみる事を提案した。
エリアスさんは、とんかつは美味しい様だけど、箸に大苦戦だ。溝口さんが予測してナイフとフォークを持って来ている。先輩さすがです!
箸をギブアップしたエリアスさんだが、絶対マスターしてみせると言っていた。ダリウスさんは…同じくカツをお気に入りで、もうワンセット用意してあったフォークとナイフでカット後は、カレーは飲み物と言わんばかりの勢いだった。
しかも足りないらしく、次は何を食おうかとエルビスさんの親子丼を眺めてから、のしのしともう一度カウンターへと向かった。
その姿を多くの目がさり気なく追う。歩き方もカッコいいよ。羨ましい……。スーツを着ていてもマッチョなんだろうな、と分かる体つきだ。黒を着ているので、後ろで一つに結んだ赤い髪が更に引き立っている。
こんな人に立ち向かおうなんて思わないよなぁ……
戻って来る姿を横目で見ながら、溝口さんが色々話しているのも聞いている。目も耳も別に動くのが、この仕事をしている人間の性だと思う。
英語なので早すぎると分からない部分も多いが、多分今回の出店が大成功に終わりそうだという話だ。
ジュエリーもだけど、原石の展示とその原石が、どうやってルースになるのかのパネル展示もあって、購入できないとしても来客した人はそう言った楽しみもあったんだ。
それを考えたのは、動物モチーフのデザイナーさんらしい。今回は来日していないのが残念だ。
俺は自分のカレーを食べ終わりコーヒーを飲んでいたが、目の前でダリウスさんが親子丼をウマウマと食べているのを眺めている。なんという食べっぷり。これは作る人も作り甲斐があるなぁ。そして、ふと気がついた。シャツにカレーらしきシミがある事を!大変だっ!
「溝口さん、俺英語で言えないんですけど、ダリウスさんのシャツの胸元にシミが出来てるんです。すぐシミ抜きすれば取れると思うんです」
「え?あら、ホントだわ」
溝口さんが通訳してくれて、シャツの替えがないからシミ抜きする事になった。このサイズ売ってないしな。俺達は身だしなみの事もあり、着替えとシミ抜きは常備している。
食べ終わったのを待ち、透明バッグにシミ抜きグッズがあるのを確認する。でも、ここじゃなぁ。
「湊くん、ロッカーで一度脱いで貰った方が良いわね。先に戻るのは私にするわ。終わったら入れ替わりましょう?事情を話しておくから」
「分かりました、お願いします」
溝口さんが説明してくれて、ロッカーへと向かう。着いたらすぐにダリウスさんは脱ぎ始めたんだが...。なにこの筋肉!!マッチョマッチョですよ!堂々と裸になれる筈だなぁ。椅子に座って待って貰う事にしたが、ついチラ見してしまう。
渡されたシャツにシミ抜きキットで油汚れ用の液を使いシミ抜きを始める。順番を間違うと取りにくくなるから注意だ!
問題は、敵がカレーな事だ。敵はスパイスによって色が抜けにくい。しかし!外から内側に向かってシミ抜き液をトントンすれば、汚れは中心に集まる。それを下のティッシュやタオルに移すのだ。油汚れ用の後は、水溶性の液で更にシミ抜き。
集中してシミ抜きして、ほぼ分からない所まで出来た。時間が経つと取れにくいけど、すぐにやればこの通りだ。
スポイトの水で液を洗う様にしてからタオルでポンポンと叩いて水分を取って乾かす。あとはちゃんとした所にクリーニングに出したら大丈夫。
満足して顔を上げると、俺をじっと見つめるダリウスさんがいた。男臭い笑みを浮かべた半裸の彼の、ブルーグレーの瞳と目がってしまいなぜかドキンッと心臓が跳ねる。
相手は男だっての!!
【出来ました…よ。少し冷たいけど、すみません】
【すぐ乾くさ。】
ドキドキしながら、座っている後ろに回りシャツを着る手伝いをする。こういうのは職業病なのかもしれないな。
【ありがとう。——良い嫁になるな。】
【え?なんて言いました?】
【なんでもない】
そう言いながら着る姿は妙に色気ムンムンだ。エロが服を着て歩いている...!!早く服を着て下さい!!
【じゃあ行くか】
俺はまたフロアに戻って行った。ああ、お仕事で平常心を取り戻そう!その後リングだけつけられて、また閉店まで働き続けた。
エリアスさんとエルビスさんは早めに帰ったが、ダリウスさんは部下と交代しながら警備を最後まで続けていた。
タフだなと思ったけど、それくらいじゃないと警備なんて出来ないんだろうな。
そんな怒涛の催事も火曜の16時。無事終了!!平日も好評だったので俺達はヘトヘトだった。でも、心地よい疲労だ。
「ダブル開催の目標値、軽く突破でーす!」
部長の報告にわっと拍手と歓声が上がる。
「「「お疲れ様でした~! さ、搬出頑張りましょう!!」」」
そう、16時で終わっても、片付けという作業があるのだ!俺はササっとアクセサリーを外しお返しして、ビューティFesの片付けの方に戻ろうとした。
「湊君! ちょっと待って」
「部長、何ですか?」
「今夜はみなさんを接待するんだけど、湊君も来て欲しいの」
「えっ? 俺もですか?」
「頑張ってくれたから来て欲しいって。私もそう思うわ~かなり貢献してくれたから。場所はまた後で。よろしくね」
えー?と思いつつ仕方ない。元々接待要員ではあるし。間仕切りを張って、お客様から片付けの様子が見えない様にしてから、さぁ撤収開始!
ビューティFesの出店者の皆さんに、あまり入れずにすいませんと謝りつつ片付けていたのだが、休憩時間に眺めに来た人達は、俺はそっちで正解だったから気にするなと言ってくれた。本当にすいません、気を使わせちゃって。
カールタニュ側の人達は貴金属を梱包後はホテルで休憩して貰い、あとで合流するのだという。
終業時間まで俺達は働き、ぶっちゃけ帰りたい…。高級品を身に付けて緊張したせいでメンタル的にも疲労困憊なんだ。
その上高級レストランかな?ああ、すり減る…。そう思ってやって来たのは、ガッツリ和風の掘り炬燵形式の居酒屋だった。
ここに、あの人達が?俺の頭の中はクエスチョンマークでいっぱいだった。
萩原部長に、真っ先に写真の事を相談した。どんなに注意をしても完全に止めさせるのは難しいだろうと言う事で、彼らと相談してくれる事になった。
「おはようございます」
チラッと見ただけで、豆乳ソフトパフェの行列が大変な事になっていたので、列整理のフォローに回る。ナッツやオーガニックフルーツ、ソースなどのトッピングで、オンリーワンに出来るスイーツショップの出店だ。使うチョコレートはフェアトレードの物と徹底している。
ビジュアルも可愛くて、SNS用に撮影する人が多い。しかも九州オンリー店で、関東初出店をゲットした。そういう訳でお客様が殺到しているのだ!出店許可もぎ取った俺は頑張った!
最後尾を階段に誘導して、並ばないお客様の通路も確保だ。列もこっちが最後尾だと札をあげる。そんな風に人を捌き続ける日曜日は、カップルや男性客も多く盛況だった。
「湊君、ここにいたの」
「荻原部長。列、なかなか減りませんね。先頭はどうなってますか?」
「機械トラブルがあったんだけど、もう順調に動いているわ。午後休憩からは、ジュエリー展の方に来てね。」
「分かりました」
人が多いとたまに体調を崩す人もいるので、しっかりと目を配る。休憩スペースはあるけど、こうして並んでる間に疲れてしまう人だって多い。
「6番行って来まーす!」
これは、トイレに行く時の合図。ちなみに、昼休憩はクローク行って来ます、だ。雨の日は袋に工夫するので、雨が降った合図の音楽が鳴る。
急いで従業員トイレに向かうとエルビスさんに会った。トイレとか気まずい。来た所だったらしくご子息が見えない位置で俺も用を足した。手を洗い乾燥機で乾かしていると、声をかけられた。
【今日はこちらには来ないんですか?】
【3時の休憩後に行きますよ】
俺が答えると、すごく嬉しそうに微笑んだ。
【良かった。社長もダリウスも寂しそうでしたから。もちろん、私も】
ニコッと微笑まれて……綺麗な笑顔にドキリとする。何これ、乙女かよ!
【そうですか。で、では後で!】
俺は何だか焦ってしまい、慌ててトイレを出て元の位置に戻った。なんだよ~!ドキドキするじゃないかっ!海外の人はあんな甘い声で言うの慣れっこなんだろうけど、こっちは違うんだ~!
出来ればこのままビューティFesにいたい。そう思ったけれど、決まった時間はやってくる。
今日もお高そうなアクセサリーを付けられた。このリングは鷹がデザインされている。エリアスさんのデザインは優雅な雰囲気だが、デザイナーはもう一人いて、動物をメインモチーフにしている。
癒し系なデザインもクールなデザインもあって、なかなか面白い。とにかく生き物が好きなのが伝わるんだ。その時、人混みの中でもよく通る声が響いた。
「うわぁ~素敵なアクセサリーいっぱいだねぇ~!」
「そうだな。歩夢は可愛い系が似合いそうだなぁ」
「歩夢様がつければ何でも素敵になりますけどね!」
一際目立つ可愛い男の子を、数人のカッコいいオシャレな男の子達が囲んでいる。
「へへっ、ありがとう。僕テレビで見たリングが欲しいんだけど、人気みたいだから、もうないかなぁ?」
おっと、探し物?でも学生みたいだな。
いや、財布の心配は要らないか。バッグも服もハイブランドだ。親御さんの家族カード持ちって所かな?
「お客様、何かお探しですか?」
「あ、はいっ!BLテレビで見たんですけど、鳥のモチーフのリングが欲しいんですが……」
あぁ。あれか。確か土曜日に殺到したなぁ。残ってたかな?
「在庫があるか見てみますね?」
俺は部長の所に行き確認したが、既に完売だった。そこへエルビスさんが聞いてきた。
【ミナトさん、何をお探しですか?】
【あ、テレビの取材を受けた鳥のモチーフのリングが欲しかったそうなんです。ですが、売り場は完売なので在庫を確認に来ました】
【一緒に来て貰えますか?】
エルビスさんが社長の所に連れていった。そして早口で話しだし、他の社員さんが引っ込みボックスを持って来た。
【念の為持って来て良かったです。これでしょうか?】
【そうです!これ、まだ売れると思うので出しましょう】
俺はさっきの少年に声をかけて見せると、目を輝かせた。
「わぁ!これこれー!店員さんありがとう!」
「いいえ、見つかって良かったです」
「良かったな、歩夢。これプレゼントするよ」
「えっ?良いの?」
「もちろんさ。見つかって良かったな」
マジか。多分高校生位なのに、2万超えを軽くプレゼント……。セレブだな。
「へへっ、ありがとう~。ねぇ、店員さんが付けてるリングも素敵だね。それも商品?デザインがそうかなって。」
「はい、そうですよ」
「お値段はーー結構するかなぁ?」
「こちらは23万円程ですね」
「さすがにまだ無理かなぁ。見せてくれてありがとう。これすごく似合ってるね!」
「ありがとうございます」
営業スマイルでお礼を言いつつ会計に案内して、チラッと見るとプレゼントの彼のカードはブラックだった。やはりどこかの坊ちゃんなんだな。
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そんなこんなで何とか地獄の土日を乗り切った俺達。エリアスさんはホテルへ戻っていて、無事閉店。エルビスさんはまだ残っていた。
【エルビスさんは大丈夫なんですか?】
【ええ、社長には別に補佐もいますし、こちらの状況を確認するように言われていますから】
【エルビスさん!!】
俺達が片付けながら話していると、溝口さんと新原さんだった。どうやらダリウスさんと二人を食事に誘いに来たらしい。俺は邪魔にならない様にそっと離れ、ビューティFesで片付け中の人達の補佐をしていた。
「湊くん、私達食事に行くんだけど、一緒にどう?」
「あー、まだ終わってないし、今日の反省も聞きたいのですみません」
「あら、そうなの?」
「イケメンとゆっくりして来てください」
「やだぁ~あくまでも接待よ~」
ちょっと顔赤らめて言っても意味ないですよ、と心の中で突っ込みながら去っていく四人を見送る。それから少し出店者さんと話しつつ、今日の仕事を終えたのだった。
そして月曜日。大抵は地獄が終わり、人はいるけどギュウギュウ詰めにはならない、それ位の集客の筈。筈です……が。
SNS効果でしょうか。結局盗撮紛い(いや、本当に盗撮だけど。)の画像があちこちに出回り、更に拡散してしまった様だ。とはいえ平日なので、土日には及ばないが、かなりの集客だった。
嬉しい誤算は、月曜日でリーズナブルなラインが売り切れてしまった事か。手頃な価格の物が無いというのはキツイ。
でも、カールタニュとしては、ブランドのコンセプトや手が届くラインもあると知って貰う事で、新規の客層を掴めたし、売れ線が分かったので充分出店した意味があった様だ。
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【は、はぁ】
社長さん、俺担当じゃないんですよ。そこは新原さん達と話した方が…。俺が答えに窮していると、上から影が落ちて来た。
【なぁ、俺は昼なんだが一緒に良いか? シャショクとやらに行ってみたい】
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【私もエルビスに聞いて行きたかった。よし、ランチは頼むよ、ミナト。】
「えっ!? えっ!? ちょっと、待って下さい! 新原さんに聞いて来ますから!」
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「はい、分かってます」
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【エリアスさん、ダリウスさん、このサンプルを見てお好きな物を選んで下さいね。飲物はフリーなので、教えて下さい】
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「あ、よろしく。ありがとう」
元々、接客業の人間は世話をするのが好きだ。だから相手が何を望んでいるか分かるし、心の機微に敏感なんだと思う。俺は溝口さんの接客テクニックを盗める様に、日々努力だ。
それに、些細な事でもお礼を言う。これって大事。自分も相手もまた手を貸してあげたいって思う。助け合いの心は信頼にも繋がる。
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俺は自分のカレーを頼んだ後、全員の飲み物を用意して席に戻る。
【ありがとう】
エリアスさんの眩しい笑顔! キラキラ度アップです! 溝口さん、口閉じて~!
選んだメニューは、エリアスさんはトンカツ定食、ダリウスさんはカツカレー、エルビスさんはさっき言ったけど親子丼。エルビスさんには、ちょっとだけ七味を入れてみる事を提案した。
エリアスさんは、とんかつは美味しい様だけど、箸に大苦戦だ。溝口さんが予測してナイフとフォークを持って来ている。先輩さすがです!
箸をギブアップしたエリアスさんだが、絶対マスターしてみせると言っていた。ダリウスさんは…同じくカツをお気に入りで、もうワンセット用意してあったフォークとナイフでカット後は、カレーは飲み物と言わんばかりの勢いだった。
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それを考えたのは、動物モチーフのデザイナーさんらしい。今回は来日していないのが残念だ。
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「溝口さん、俺英語で言えないんですけど、ダリウスさんのシャツの胸元にシミが出来てるんです。すぐシミ抜きすれば取れると思うんです」
「え?あら、ホントだわ」
溝口さんが通訳してくれて、シャツの替えがないからシミ抜きする事になった。このサイズ売ってないしな。俺達は身だしなみの事もあり、着替えとシミ抜きは常備している。
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【すぐ乾くさ。】
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【え?なんて言いました?】
【なんでもない】
そう言いながら着る姿は妙に色気ムンムンだ。エロが服を着て歩いている...!!早く服を着て下さい!!
【じゃあ行くか】
俺はまたフロアに戻って行った。ああ、お仕事で平常心を取り戻そう!その後リングだけつけられて、また閉店まで働き続けた。
エリアスさんとエルビスさんは早めに帰ったが、ダリウスさんは部下と交代しながら警備を最後まで続けていた。
タフだなと思ったけど、それくらいじゃないと警備なんて出来ないんだろうな。
そんな怒涛の催事も火曜の16時。無事終了!!平日も好評だったので俺達はヘトヘトだった。でも、心地よい疲労だ。
「ダブル開催の目標値、軽く突破でーす!」
部長の報告にわっと拍手と歓声が上がる。
「「「お疲れ様でした~! さ、搬出頑張りましょう!!」」」
そう、16時で終わっても、片付けという作業があるのだ!俺はササっとアクセサリーを外しお返しして、ビューティFesの片付けの方に戻ろうとした。
「湊君! ちょっと待って」
「部長、何ですか?」
「今夜はみなさんを接待するんだけど、湊君も来て欲しいの」
「えっ? 俺もですか?」
「頑張ってくれたから来て欲しいって。私もそう思うわ~かなり貢献してくれたから。場所はまた後で。よろしくね」
えー?と思いつつ仕方ない。元々接待要員ではあるし。間仕切りを張って、お客様から片付けの様子が見えない様にしてから、さぁ撤収開始!
ビューティFesの出店者の皆さんに、あまり入れずにすいませんと謝りつつ片付けていたのだが、休憩時間に眺めに来た人達は、俺はそっちで正解だったから気にするなと言ってくれた。本当にすいません、気を使わせちゃって。
カールタニュ側の人達は貴金属を梱包後はホテルで休憩して貰い、あとで合流するのだという。
終業時間まで俺達は働き、ぶっちゃけ帰りたい…。高級品を身に付けて緊張したせいでメンタル的にも疲労困憊なんだ。
その上高級レストランかな?ああ、すり減る…。そう思ってやって来たのは、ガッツリ和風の掘り炬燵形式の居酒屋だった。
ここに、あの人達が?俺の頭の中はクエスチョンマークでいっぱいだった。
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そんな風な激重DomによってドロドロにされちゃうSubのお話です!
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