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「ちっ、違うんだルアンナ、確かにちょっと君に嘘をついていたが、俺もあいつらに騙されていただけなんだ! あんな誓約書のことだって覚えていなかったし、金だってあとから返せと言われてそれで仕方なく返すことになったんだよ!」

「借りたものを返すのは常識でしょ。そんなことも言われないと分からないの?」

「だがそう言われても俺に返す金がないんだ! ないものはどうやって返せばいい⁉」

「だったらこの屋敷を売ればいいじゃない」

 いや、それだと生活の場所がなくなるだろ!
 なにより生家を失ったら完全にレイドリー家は取り潰し、俺に至っては爵位を剥奪され平民落ちしてしまうではないか!
 しかしもうこの際四の五の言ってもいられない状況に、覚悟を決めることにした。
 
「――分かった、悔しいがこの屋敷は売り払って返済の足しにしよう! だからその代わりすぐに俺と結婚してほしい、もちろん婿入りはする!」

 もはや貴族として生き残る術はこれしかない。
 ただでさえ落ち目の我が家だが、伯爵家の庇護さえあればかろうじて没落の憂き目を避けることはできる。
 当然ルアンナにも頭が上がらなくなるが、平民落ちとくらべれば大したことはない。

「え、普通にお断りだけど」

「そうか助かる、ではさっそく手続きを――って今なんて言った?」

 ははは、耳がおかしくなったかな。
 なんだか婿入りを拒絶された気がするが、うん気のせいだろう。

「だからアナタとの結婚なんて、最初からお断りなの。ある目的があって交際したフリをしていただけなのに、本気にしちゃった? 栄えある名門貴族の長女であるこのわたしが、格下でメリットどころかデメリットしかない絶家寸前の男爵家の馬鹿息子と結婚するわけないじゃない」

 鼻で笑うルアンナの姿を見て、ようやく自分が弄ばれていたことを知った。

「だから今日この貧乏屋敷を訪れたのもアンタが用済みになったから別れを告げに来ただけなの。人に頼るほどお金に困っているようだし、どうせ馬車すら用意できなかったでしょ? だと思ってわざわざこちらから出向いてあげたのだから感謝して頂戴」

 くっ、言わせておけば……!

 目の前にいる女に怒りがこみ上げてくる。
 思い返せばこいつのせいで俺はしなくてもいい婚約破棄をしてしまったのだ。
 メリエッダと婚約を続けていれば、今頃こんな目に合うこともなかったわけだ!
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