余命わずかな私は家族にとって邪魔なので死を選びますが、どうか気にしないでくださいね?

日々埋没。

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「カミラ、ここだけの話なんだけど実は僕には夢があってね」

 どうやら本日の話題は夢についてのようです。

「笑わないでおくれよ? ……僕は将来、文筆家になりたいんだ。ある人の影響で昔から本を読むことが趣味で、よく我が家の書庫に入り浸っていたよ。特に小説が好きなんだけど、自分の知らない世界を見ることは楽しい」

 奇遇ですね、同じく小説を読むのは大好きです。
 だって物語の中でなら、私でも明るく元気な体の主人公になれるのですから。

 魔法を使ったり、冒険をしたり、……あまつさえ結婚生活なんてものまで追体験してみたりと、今でこそもう二度と読むことはできませんが、本は現実での心の寂しさを埋めてくれる大切な存在でした。

「だからいつか自分もあんなものを書いてみたいんだ。まあ僕の立場が許してくれたらの話だけどね」

 そうご自身の夢を語られるローレンス様の表情はとてもキラキラしていて眩しく映ります。

 仮に文筆家になられたとしたら、どういった作品をお書きになられるのでしょう。
 推理物? 寓話? 怪談話? ……それとも恋愛小説? うーん、大変興味深いです。

 それはともかく、根拠はありませんがなんとなく彼ならばその夢をいともたやすく叶えてしまいそうな気がします。
 
 いずれにせよこんな体ではなにもご協力することはできませんが、せめて陰ながら応援しています。
 まあ陰と言ってもこちらは死者なので最終的には草場からになりますが。

 ちなみに私にもありますよ、夢。
 といっても、最近できたのですが。

 ……それはローレンス様とお話すること。

 もちろん言葉を口にできない以上、希望する形で叶わないことは分かっています。

 子供の頃からあこがれだった、読んだ本の感想をお友達と言い合ったりできなくても構いません。
 それでも私は貴方となんらかの形でお話したい。

 でも頑張って声を発してもきっとこちらの意思は伝わらないでしょうし、なによりあんなおぞましく女性らしからぬ嗄れ声ではローレンス様に嫌われてしまうかもしれません。
 
 そのことを思うと、やはり私はこれからも沈黙を続けるより他なく――。

「ただ、それとは別にもう一つだけ夢があるんだ。むしろ夢というよりはお願いかな。それはカミラ、今の君の声が聞いてみたいってことなんだけど」

 はい? 今なんて。
 私の声が聞きたいと……?
 これまでそのようなことは一度も言われなかったのにどうしていきなり。

「カミラに一方的に話し続けることは苦じゃないし楽しいよ。だけどもしかすると君の心には僕の言葉なんて全然届いてないんじゃないかと不意に疑ってしまう時がある。今自分は虚しいことをしているんじゃないかって考えてしまうこともある。おかしいよね、元々僕が望んで始めたことなのにさ」

 こちらを見つめるローレンス様の瞳には、一抹いちまつの不安の色が滲んでおりました。
 いつも私に優しく話しかけてくださっていたその裏で、どうやらそういった複雑な気持ちをお抱えになられていたのですね。

「だからちゃんと届いてるって、そう思えるように声を聞かせてほしい。……いや少し違うな。きっと僕は君と会話がしたいんだ。言葉にならなくたっていい、カミラ・ハーミットという存在は、魂は! ……確かにここにあるってそう証明してくれるだけでいいんだよ」

 情感がたっぷりと込められた切実なメッセージにハッとさせられます。

 ――私は馬鹿です、大馬鹿です。

 返事はできるのにどうせそのようには受け止めてもらえないからと勝手に諦め、たとえ声に出さなくたって彼とはどこかお互いにコミュニケーションを取れているものだと思い込んでおりました。

 でも違ったのですね。
 やはりきちんと声に出さないと伝わらないこともあるのだと、恥ずかしながらこの歳になって初めて知りました。

 なにより、彼が自分と同じ気持ちであると心情を吐露されたことでこちらも腹が決まりました。
 有り体に言えば、玉砕覚悟です。

「でもごめん、これじゃあ約束が違うよね。僕は君から反応がなくても気にしないって言ってたのに。うん、だから今のは忘れ……」

 ですから私はええいままよと勢いに任せ、

「あ゛ー(気持ち声高め)」

 それでも精いっぱい可愛らしく聞こえるように声を出しました。
 イメージはそうですね、金糸雀カナリアでしょうか。

「えっ?」

 そんな私の声を初めて耳にされたローレンス様は驚きからか目をパチパチと丸くします。

「…………」

 うう、流れる沈黙が怖いです。懸念していたように引かれてしまったでしょうか?
 やはりリビングデッドの嗄れ声は小鳥のさえずりにはなれないのかもしれません。
 
「……もしかして今の声はカミラ、君が発したものかい?」

「あ゛ー」

 肯定の意味でもう一度声を出してから、恐る恐るローレンス様の様子を確認します。
 するとおやどうしたことでしょうなにやら彼は体をぶるぶるぷるぷる震わせて、

「――ぷっ、あははははっ!」

 なんと大きく口を開いて笑い声をあげるではないですか。

「あはっ、あはっはははっ、だめだ、ツボに入って笑いが止まらなっ……っ!」

 ああもう涙を流すほど笑うなんて酷い、私だってものすごく勇気を振り絞ったんですからね!

 初めて見た彼が破顔するお姿は大変貴重ですが、これにはさすがの私も傷つきます。

「あ゛ー!」

 なので抗議の意味も込めてもう一度、今度は低く唸るように鳴きます。
 気分は百獣の王者、獅子ライオンです。本物は見たことがありませんが雰囲気はバッチリ出ているはず。

 ひとしきり笑ったローレンス(今だけは呼び捨てにします!)はそこでようやく涙を拭い、

「ああ怒らないで、いきなり笑って悪かったよ。僕が想像していたのと違ってずいぶんと面白……いや意表を突かれた声だったからつい」
  
 そうですしっかりと反省してください。
 これでは話す気も失せてしまいますので!

「――でもそっか、それが君の声なんだね。うん、色々変わってるけど、僕は好きだよ」

 好き、という単語がローレンス様の口から溢れた瞬間にドキリとしてしまいます。

 あくまで私の『声』が好きということは分かっていますが、それでも気になる男性からの褒め言葉であれば嬉しさはひとしおです。

「だけど君も少し意地悪だね、こうやって意思疎通できるのに僕の前ではずっと眠り姫を演じていたんだもの。――だからこれはおしおきだよ」

 ぷに、と私の頬がローレンス様の指先でいたずらされるように押し込まれます。
 もう、くすぐったいですよ。……でも気持ちいいからやめないでください。

「まだまだ、ここからは連打タイムだよ。ほーら、ぷにぷにぷにぷにー」

 と思ったらなんだか調子に乗り始めました。
 やっぱりやめてください、ぷにぷに禁止!
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