10 / 16
10
しおりを挟む
「どうしたのマッディ、なにがあったの⁉」
「ああアンティーラ! ロアンナが足を滑らせて水の中に落ちてしまったんだ!」
マッディが指さした方向を慌てて目で辿ると、確かにバシャバシャと水面で必死にもがく彼女の姿があった。
しかし水を吸った着衣のせいで、抵抗むなしく徐々に沈み始めていく。
どうしてこのような事態に陥っているのか原因までは定かではないものの、二人の間でなんらかのトラブルがあったことだけは明白だ。
でなければ大の大人があんな格好のまま水辺に近づくわけがない。
「黙って見てないで、彼女を助けないの⁉」
私の隣でただ呆然とロアンナが溺れている様を眺めているだけで、一向に救出に動こうとしないマッディを強めの口調で咎める。
そもそも服すら着たままだし、最初から自分の侍従のことは諦めているのかもしれない。
「無理だよ! 僕まで溺れてしまう! それともなにか、君はたかが使用人のために僕の貴重な命を投げ捨てろというのかい⁉ 見返りもないのに冗談じゃない!」
喚くようにして最後にマッディが漏らしたその一言が決定的だった。私が彼に抱いていた恩義がまるで氷のように溶けていく。
見返りがないと他人を助けないということは、つまり私を助けたのはたんに見返りを期待してのことでしかなかった。
「……そう、かつて自分の命をかけてまで助けに来てくれた貴方はもうどこにもいないのね。なら代わりに私が彼女を助けるわ!」
「はぁ、なにをする気だい……?」
「いけませんアンティーラ様、それでしたらこのわたくしが――!」
いぶかしむマッディとは裏腹にコルダータは私が次に取る行動を予想できたらしく、慌てて声を張り上げた。
しかし着脱に時間のかかる給仕服に身を包んでいる彼女とは対象的に、自分は外歩き用の簡素な一張羅を着ているだけだ。
ゆえに一息でそれを脱ぎ捨てると、コルダータの静止を振り切ってそのまま水面へと飛び込む。
(無茶だけはしないって貴方との約束をさっそく破ってごめんなさいコルダータ、けれどあそこでもたついていたらそこにある救える命も救えなくなってしまうもの)
既にロアンナは大量の水を飲んでしまって危険な状態であり、もはや一刻の猶予もない。
ただし真正面から救助しようとするとパニックになった彼女に抱きつかれて、二人仲良く溺れてしまう。
そうならないためにも少し遠回りして、彼女の後ろに回り込んでからすぐに抱きかかえた。
あの日の事故を教訓として、将来こういう事態に備えてひそかに泳ぎ方やこういった人名救助の仕方を覚えていたのだ。
「もう大丈夫よ落ち着いて」
ロアンナに語りかけながら、そのまま背泳ぎで慎重に接岸していく。
「今、陸地につくわ」
ようやく岸に辿り着くと、すぐ横で控えていたコルダータにすぐさま手伝ってもらいロアンナを引き上げることに成功した。
彼女はゴホゴホとむせながら水を吐いてはいるもののそれ以外に怪我はなく、意識もはっきりとしている様子だった。
よかった、助けることができて。複雑な感情がないわけではないが、それとこれとは別だ。
なにより色々と問題があったとはいえ、愛する男から見捨てられて、あまりにも可哀想だ。
この段階に至ってもいまだ彼女が恋慕していた男――マッディは、相変わらず遠巻きにこちらを眺めているだけで駆け寄ってくる気配がない。
本当に自分の侍従の安否はどうでもいいのね、顔を青くして心配しているようだけど、果たしてそれはなにに対してかしら?
________
これで共通ルートは終了となります。
ここからの展開は一部パラレル要素を含む断罪ルートと救済ルートに分岐します。
断罪ルートは慈悲のない完全なる断罪劇が繰り広げられます。
元婚約者やそのお付きのメイドが悲運な末路を辿りますので、(作者のように)後味悪いタイプのお話がお好きな読者様にオススメです。
救済ルートはざまぁはあるものの、〇〇を筆頭に一部キャラに温情と見せ場が与えられますので読後感が爽やかなモノを求められる読者様に最適です。
またその性質上こちらのルートが正史であり、救済ルートでしか明かされない物語の設定などがありますので、最終的にはどちらか一方と言わず両方のルートをお楽しみいただければ幸いです。
「ああアンティーラ! ロアンナが足を滑らせて水の中に落ちてしまったんだ!」
マッディが指さした方向を慌てて目で辿ると、確かにバシャバシャと水面で必死にもがく彼女の姿があった。
しかし水を吸った着衣のせいで、抵抗むなしく徐々に沈み始めていく。
どうしてこのような事態に陥っているのか原因までは定かではないものの、二人の間でなんらかのトラブルがあったことだけは明白だ。
でなければ大の大人があんな格好のまま水辺に近づくわけがない。
「黙って見てないで、彼女を助けないの⁉」
私の隣でただ呆然とロアンナが溺れている様を眺めているだけで、一向に救出に動こうとしないマッディを強めの口調で咎める。
そもそも服すら着たままだし、最初から自分の侍従のことは諦めているのかもしれない。
「無理だよ! 僕まで溺れてしまう! それともなにか、君はたかが使用人のために僕の貴重な命を投げ捨てろというのかい⁉ 見返りもないのに冗談じゃない!」
喚くようにして最後にマッディが漏らしたその一言が決定的だった。私が彼に抱いていた恩義がまるで氷のように溶けていく。
見返りがないと他人を助けないということは、つまり私を助けたのはたんに見返りを期待してのことでしかなかった。
「……そう、かつて自分の命をかけてまで助けに来てくれた貴方はもうどこにもいないのね。なら代わりに私が彼女を助けるわ!」
「はぁ、なにをする気だい……?」
「いけませんアンティーラ様、それでしたらこのわたくしが――!」
いぶかしむマッディとは裏腹にコルダータは私が次に取る行動を予想できたらしく、慌てて声を張り上げた。
しかし着脱に時間のかかる給仕服に身を包んでいる彼女とは対象的に、自分は外歩き用の簡素な一張羅を着ているだけだ。
ゆえに一息でそれを脱ぎ捨てると、コルダータの静止を振り切ってそのまま水面へと飛び込む。
(無茶だけはしないって貴方との約束をさっそく破ってごめんなさいコルダータ、けれどあそこでもたついていたらそこにある救える命も救えなくなってしまうもの)
既にロアンナは大量の水を飲んでしまって危険な状態であり、もはや一刻の猶予もない。
ただし真正面から救助しようとするとパニックになった彼女に抱きつかれて、二人仲良く溺れてしまう。
そうならないためにも少し遠回りして、彼女の後ろに回り込んでからすぐに抱きかかえた。
あの日の事故を教訓として、将来こういう事態に備えてひそかに泳ぎ方やこういった人名救助の仕方を覚えていたのだ。
「もう大丈夫よ落ち着いて」
ロアンナに語りかけながら、そのまま背泳ぎで慎重に接岸していく。
「今、陸地につくわ」
ようやく岸に辿り着くと、すぐ横で控えていたコルダータにすぐさま手伝ってもらいロアンナを引き上げることに成功した。
彼女はゴホゴホとむせながら水を吐いてはいるもののそれ以外に怪我はなく、意識もはっきりとしている様子だった。
よかった、助けることができて。複雑な感情がないわけではないが、それとこれとは別だ。
なにより色々と問題があったとはいえ、愛する男から見捨てられて、あまりにも可哀想だ。
この段階に至ってもいまだ彼女が恋慕していた男――マッディは、相変わらず遠巻きにこちらを眺めているだけで駆け寄ってくる気配がない。
本当に自分の侍従の安否はどうでもいいのね、顔を青くして心配しているようだけど、果たしてそれはなにに対してかしら?
________
これで共通ルートは終了となります。
ここからの展開は一部パラレル要素を含む断罪ルートと救済ルートに分岐します。
断罪ルートは慈悲のない完全なる断罪劇が繰り広げられます。
元婚約者やそのお付きのメイドが悲運な末路を辿りますので、(作者のように)後味悪いタイプのお話がお好きな読者様にオススメです。
救済ルートはざまぁはあるものの、〇〇を筆頭に一部キャラに温情と見せ場が与えられますので読後感が爽やかなモノを求められる読者様に最適です。
またその性質上こちらのルートが正史であり、救済ルートでしか明かされない物語の設定などがありますので、最終的にはどちらか一方と言わず両方のルートをお楽しみいただければ幸いです。
174
あなたにおすすめの小説
幼馴染みの婚約者が「学生時代は愛する恋人と過ごさせてくれ」と言ってきたので、秒で婚約解消を宣言した令嬢の前世が、社畜のおっさんだった件。
灯乃
ファンタジー
子爵家の総領娘である令嬢の前に、巨乳美少女と腕を組んだ婚約者がやってきた。
曰く、「学生時代くらいは、心から愛する恋人と自由に過ごしたい。それくらい、黙って許容しろ」と。
婚約者を甘やかし過ぎていたことに気付いた彼女は、その場で婚約解消を宣言する。
前半はたぶん普通の令嬢もの、後半はおっさんコメディーです。
婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。
黒猫かの
恋愛
「エリー・オルブライト! 貴様との婚約を破棄する!」
豪華絢爛な夜会で、ウィルフレッド王子から突きつけられた非情な宣告。
しかし、公爵令嬢エリーの心境は……「よっしゃあ! やっと喋れるわ!!」だった。
そんなに妹が好きなら死んであげます。
克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。
『思い詰めて毒を飲んだら周りが動き出しました』
フィアル公爵家の長女オードリーは、父や母、弟や妹に苛め抜かれていた。
それどころか婚約者であるはずのジェイムズ第一王子や国王王妃にも邪魔者扱いにされていた。
そもそもオードリーはフィアル公爵家の娘ではない。
イルフランド王国を救った大恩人、大賢者ルーパスの娘だ。
異世界に逃げた大魔王を追って勇者と共にこの世界を去った大賢者ルーパス。
何の音沙汰もない勇者達が死んだと思った王達は……
私はあなたの正妻にはなりません。どうぞ愛する人とお幸せに。
火野村志紀
恋愛
王家の血を引くラクール公爵家。両家の取り決めにより、男爵令嬢のアリシアは、ラクール公爵子息のダミアンと婚約した。
しかし、この国では一夫多妻制が認められている。ある伯爵令嬢に一目惚れしたダミアンは、彼女とも結婚すると言い出した。公爵の忠告に聞く耳を持たず、ダミアンは伯爵令嬢を正妻として迎える。そしてアリシアは、側室という扱いを受けることになった。
数年後、公爵が病で亡くなり、生前書き残していた遺言書が開封された。そこに書かれていたのは、ダミアンにとって信じられない内容だった。
愛想を尽かした女と尽かされた男
火野村志紀
恋愛
※全16話となります。
「そうですか。今まであなたに尽くしていた私は側妃扱いで、急に湧いて出てきた彼女が正妃だと? どうぞ、お好きになさって。その代わり私も好きにしますので」
壊れていく音を聞きながら
夢窓(ゆめまど)
恋愛
結婚してまだ一か月。
妻の留守中、夫婦の家に突然やってきた母と姉と姪
何気ない日常のひと幕が、
思いもよらない“ひび”を生んでいく。
母と嫁、そしてその狭間で揺れる息子。
誰も気づきがないまま、
家族のかたちが静かに崩れていく――。
壊れていく音を聞きながら、
それでも誰かを思うことはできるのか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる