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訪れた不快感はそのまま刺すような鋭い痛みに変わり、同時に喉が焼ける感覚にも見舞われる。
「がっ……あがっ」
ルブランテの両手からカップとソーサーが滑り落ち、床に敷かれたカーペットの上に落ちる。
まだ半分ほど残っていた紅茶がシミを作ったのを見て、彼はある一つの推測に至った。
「ま、まざがロゼ……ッ、紅茶に、毒を……?」
たまらず床に両手をつき、まるで赤ん坊が如く四つん這いになる。
全身に異常なほど悪寒が走り、とてもじゃないがまともに立っていられない。
「あはは、許しを乞うみたいでいい眺めじゃないか。――ああそうさ、そのまさかだよ」
悪びれた様子もなく、紅茶に毒を盛ったことを認めたロゼッタ。
その顔からはこれまで見せていた自分に対する柔らかさが消え失せ、代わりに冷徹な表情が貼り付けられていた。
言葉遣いも丁寧な口調から一転、平民のように砕けて険の混じった物言いになっている。
「なじぇっ、んがっ、なぜ……っだぁっ⁉」
「なぜってそりゃアンタ、あたしの正体がテメェの命を狙う暗殺者だからに決まってるだろうさ」
「なっ……!」
予想もしていなかった返答にルブランテは目を剥く。
彼女が暗殺者?
そんな与太話は信じられない、信じたくない。
しかし、ならばこの状況はなんだ?
どうして自分は無様にも頭を垂れて地に伏し、苦しみに喘いでいるのだ?
分からない、分からない――。
混乱する頭で必死に理解しようとするものの、思考がぐるぐると乱れてまとまらない。
更に吐き気を堪えるにも限界がきてしまい恥を忍んで嘔吐すると、出てきたのは吐瀉物ではなく黒みがかった血塊だった。
毒が巡り、呂律も回らない。もはや一刻の猶予もないことだけはかろうじて理解した。
助けを、助けを呼ばなくては。
「だ、だれきゃっ……、だれきゃあ! あああ、どぼじでだりぇもごないっ!」
血の痰が喉に絡みつくのも構わずルブランテはなんとか声を絞り出すが、なんの反応もない。
これだけの騒ぎがあったら普通すぐさま臣下が飛んでくるべきだというのに、部屋の外は静寂に包まれ足音一つすら聞こえてこないとはどういうことか。
「おいおい、召使いを追い出したのはアンタ自身じゃないのさ。いやぁ、出された命令をきちんと遵守してて小物にはもったいないくらい忠誠心が高いようだ。もっとも、仕えるべき主を間違えたみたいだけど」
そう吐き捨てるロゼッタからの冷たい言葉に、ようやくルブランテは自分が騙されていたことに遅まきながら気がついた。
「がっ……あがっ」
ルブランテの両手からカップとソーサーが滑り落ち、床に敷かれたカーペットの上に落ちる。
まだ半分ほど残っていた紅茶がシミを作ったのを見て、彼はある一つの推測に至った。
「ま、まざがロゼ……ッ、紅茶に、毒を……?」
たまらず床に両手をつき、まるで赤ん坊が如く四つん這いになる。
全身に異常なほど悪寒が走り、とてもじゃないがまともに立っていられない。
「あはは、許しを乞うみたいでいい眺めじゃないか。――ああそうさ、そのまさかだよ」
悪びれた様子もなく、紅茶に毒を盛ったことを認めたロゼッタ。
その顔からはこれまで見せていた自分に対する柔らかさが消え失せ、代わりに冷徹な表情が貼り付けられていた。
言葉遣いも丁寧な口調から一転、平民のように砕けて険の混じった物言いになっている。
「なじぇっ、んがっ、なぜ……っだぁっ⁉」
「なぜってそりゃアンタ、あたしの正体がテメェの命を狙う暗殺者だからに決まってるだろうさ」
「なっ……!」
予想もしていなかった返答にルブランテは目を剥く。
彼女が暗殺者?
そんな与太話は信じられない、信じたくない。
しかし、ならばこの状況はなんだ?
どうして自分は無様にも頭を垂れて地に伏し、苦しみに喘いでいるのだ?
分からない、分からない――。
混乱する頭で必死に理解しようとするものの、思考がぐるぐると乱れてまとまらない。
更に吐き気を堪えるにも限界がきてしまい恥を忍んで嘔吐すると、出てきたのは吐瀉物ではなく黒みがかった血塊だった。
毒が巡り、呂律も回らない。もはや一刻の猶予もないことだけはかろうじて理解した。
助けを、助けを呼ばなくては。
「だ、だれきゃっ……、だれきゃあ! あああ、どぼじでだりぇもごないっ!」
血の痰が喉に絡みつくのも構わずルブランテはなんとか声を絞り出すが、なんの反応もない。
これだけの騒ぎがあったら普通すぐさま臣下が飛んでくるべきだというのに、部屋の外は静寂に包まれ足音一つすら聞こえてこないとはどういうことか。
「おいおい、召使いを追い出したのはアンタ自身じゃないのさ。いやぁ、出された命令をきちんと遵守してて小物にはもったいないくらい忠誠心が高いようだ。もっとも、仕えるべき主を間違えたみたいだけど」
そう吐き捨てるロゼッタからの冷たい言葉に、ようやくルブランテは自分が騙されていたことに遅まきながら気がついた。
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