愛していた『はず』の妻の顔が思い出せない~後悔して今更戻ってきてほしいと懇願しても遅かった~

日々埋没。

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第7話 触らないで

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 娼館通いがなくなってからというもの、ここ最近自分でも自宅への帰りが早くなったと実感するフランク。
 今日も今日とて最低限の仕事を終え、さして疲れているわけでもない体の凝りをほぐすフリをしながら屋敷の敷居を跨ぐ。

「――おおい、帰ったぞ! イザベラはどこだ!?」

 珍しく出迎えの姿のない妻に対し、苛立ちと一抹の不安をよぎらせたフランクは声を荒らげた。
 けれど果たして顔を見せたのは、例の彼女本人ではなくその仕える侍女だった。

「申し訳ございません旦那様、奥様は少し体調を崩されておりましてお部屋でお休みになられております」
「なんだと?」

 妻のくせに出迎えもなしかと怒鳴ってやろうかとも思っていたが、流石に体調不良ともなればそうもいくまいと言葉を飲み込む。

「なら見舞うからお前は準備を整えろ」

 とだけ短く命令を下し、イザベラの寝室に足を運ぼうとするが。

「ですが旦那様、奥様は特定の人間以外は部屋に通すなとお申し付けでして……!」
「その特定の人間にあいつの旦那である僕が入らないわけないだろう」

 押しとどめようとする侍女を手で払いのけ、再びイザベラの元に向かうのだった。


 ◆

「おい、邪魔するぞイザベラ」

 ずけずけと遠慮なく、まるで最初からそうするのが正解だとばかりにフランクは床に伏したままの妻に話しかける。

「フランク……?」
「体調崩したってどうせ軽い風邪とかだろ?」
「……そうね、そうかもしれないわ」
「ったく、いちいち大げさなんだよお前は。つーかまだその仮面かぶってるのかよ。こんな時くらい維持はってないで外せって」

 言って、なにげなくイザベラの鉄面皮を剥がそうとしたが、

「やめて!」

 大声を上げられ、途中で手が止まる。

「な、なんだよ……」
「やめてフランク、私なら少し休んでいれば平気だから」
「そ、そうか、なら苦しかったらすぐに言えよ」

 少しばかり気まずい沈黙が流れる。
 確かにあと一ヶ月足らずで離婚するとはいえ、これでもまだ夫婦なのだ。
 だから気が向けば旦那として妻の不調を心配してもおかしくはない、はずなのに。

「…………」
「…………」

 学生時代に交際する際よりもずっとずっと妻が、相手の距離が遠いとフランクは感じるのだった。

 
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