俺を殺す君に!

馬酔木ビシア

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「あ、そういえば先輩は何してるとこなんですか?」







 今日って平日では?彗先輩の出身は神奈川(公式ファンブック情報)なのになんで京都を制服姿で、しかもこんな昼間に出歩いてるんだ?と思い尋ねると、彗先輩は涼しい顔で一言。







「親戚の葬式帰り」






「えっ、あっ……そ、そうっすか」









 反応に困って曖昧な顔をしてしまった。え、えーと、うん、俺やっぱ地雷踏む天才なのかな。





「別にいい、ガキの頃に1、2回会ったくらいで顔も碌に覚えてないくらいだ」




「う、うっす」





 そ、そうなのか…でもだからって別に良くはないしやっぱ普通に気まずいっすわ。本当に俺、地雷に気をつけよう。いつ踏むか分からんし爆発したらと思ったら気が気じゃない。


 しかし彗先輩は俺のしょぼい相槌なんか耳に入ってないようで、鬱陶しそうに制服の襟元を開けた。







「あっちぃな……」









「おっふ、いや待って何それかっこ良すぎか?…ちょっ、お金払うんでいくらですか?」







 色白の肌と男らしい太めの鎖骨が襟の間から見えて、色々視界の暴力。そこにあの完璧な顔面とかこれはもう俺得でしかない。


 俺がつい反射で財布を取り出すと、彗先輩は目を眇め、嫌そうな顔で言った。











「………変態」







 
「先輩……知ってますか、世の中には変態って呼ばれて喜ぶドMって奴が実は結構いるんすよ……」




「知りたくもねぇ」




「ちなみに俺はただの彗先輩強火ファンなので安心してくださいね!!」





「何も安心できねぇよ」






 俺は彗先輩の一挙手一投足に喜んでるだけからな!!推しの健康はオタクの幸せ。推しが息吸って話してるだけで奇跡。というか、人間は生きてるだけで奇跡。話せる日常が宝なんだよな、うんうん。






 いやー、呆れた顔でツッコむ彗先輩もやっぱ良いなぁ。そんな顔でもかっこいい。かっこいいと尊いが限界突破してるぜ……。








「……お前こそ何してるんだ」








 ニマニマしていると、会話の流れを読んだのか、渋々、みたいな感じで彗先輩が俺に聞いてきた。そんな顔すらも尊いぜ、なんて俺はホクホクしながら口を開く。








「ああ、俺は────」








「カッキー!!!!」









 ちょうど答えようとすると、聞き覚えのある声に名前を叫ばれる。後ろを振り返ると、焦ったような顔をしたタッキーが目の前にいた。片手にアイスを持っている。







 あ、やっべ、タッキーのこと忘れてた……。







 青ざめる俺に、タッキーは怖い顔でこちらにやって来て、俺の腕を掴む。ひえっ。







「お前さ、何してんの。俺あそこで待ってろって言ったよな?」





「ご、ごめん!!どうしても落とし物が気になっちゃって……」






 慌てて謝るけど、タッキーの機嫌は直らないままだ。険しく、鋭い光が茶色の瞳の中に瞬いている。ナイフのような鋭利な光だった。





「ほんのちょっと目を離したらこれだ。そんなに俺は難しいこと言った?」






「っい……!」







ぎりり、と掴まれた腕に強い力が加わり、俺は思わず頬を歪めた。タッキーの目のハイライトが消えてる。




 まただ。これは、昨日も見た。




 

 また、俺の知らないタッキーだ。
 
 




 その時、すくみ上がる俺の後ろから、声が聞こえた。






「……おい、その手離せ。痛がってんだろ」








 タッキーが放つ威圧のような、あるいはある種の気迫のようなものに飲まれそうになっていると、突然彗先輩がタッキーの手首を掴んだ。先輩の、普段でも低い声がさらに低くなり、凍えるような冷たい怒気を孕んでいた。






 タッキーはそこで動きを止めて、初めて俺ではなく彗先輩を見た。こちらも怯むことなく彗先輩を睨む。








「……あんたこそ、誰ですか。俺とこいつは友達なんです。人の事情に首突っ込むのは礼儀知らずじゃないですか?」







が、別にそれで機嫌が直るとかではなく、むしろ悪化してめちゃめちゃ怖い顔で彗先輩を睨んでいる。ちょっ、タッキー、この人先輩だから!!!






「友達だから、って理由で乱暴が許されると思うなよクソガキ。それはただの強要で横暴、DVとやってることは変わんねぇ。それに……俺にとってこいつはただの他人じゃねぇんだよ」








 えっ……(トゥンク)。





 結構ピリピリしたやばい場面なのに俺の心は彗先輩の言葉にときめいた。他人以上に思ってくれてたなんて……。




 でも一個いい?





 なんでこれヒロイン取り合う男達みたいな構図になってんの?





 俺がヒロインみたいで嫌なのだが。





「はっ、虚勢張ってるの見え見えですね」




「なんとでも言え。少なくとも俺は、お前よりこいつを大事にする自信がある」






 今にも手が出て喧嘩になりそうな険悪な雰囲気に流石にやばいと思って、俺は二人の間に割り込んだ。




「ちょっ、二人とも落ち着いて!!」





 往来で視線集めてるし、その内殴り合いになりそうな感じがしてる。タッキーも彗先輩もどちらかといえば冷静で理性的なタイプなのに相性が悪いのか、さっきから握った拳が震えてて怖い。いつの間にこんな沸点低くなったのこの人達!!





「まずタッキーはマジごめん、ほんと反省してるから許して!!でもこの人先輩だから失礼な態度取るのはやめてくれ……悪いのは俺だから、彗先輩は関係ないだろ?」




「……ごめん、ちょっと姿見えなくて焦った。はぐれたと思って」







 しょぼん、とタッキーが落ち込む。ああもうクソ調子狂うからそういうイケメン面を存分に利用するなよもうっ!!





「別に怒ってないよ、悪いの俺だし……んで、彗先輩。心配してくれたんですよね?ありがとうございます!俺は全然大丈夫なんで!!こいつもちょっと焦ってただけなんで、大目に見てやってください」




「………別に」






 俺が体の向きを変えて彗先輩にも伝えると、先輩はプイッとそっぽを向いてしまった。うーんツンデレ頂きましたァ!!





「なぁ、カッキー。早くしないとアイス溶けそう」







 その主張でタッキーの手元に目をやると、抹茶のアイスが日差しで少し溶けて、コーンからタッキーの指に伝っていた。うわわっ、マジか!!





 流石に長話しすぎたっ、と思い俺は急いで彗先輩に別れを告げた。






「すいませんっ、俺今修学旅行でっ!もう行かなきゃなんで!!」

 



「お前、修学旅行生かよ……」





「あはは…でも先輩に会えて良かったです、すごい楽しかったんで!!また会えたら会いましょうね!!」









 早口で俺は言って、手を振って彗先輩と別れた。










「は………」











 彗先輩は俺の言葉に硬直してたけど、大方俺に呆れたとかだと思う。クールだし。
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