俺を殺す君に!

馬酔木ビシア

文字の大きさ
38 / 120

2

しおりを挟む





 強い眩暈がした。走馬灯みたいに記憶が流れ込んできて、クラクラする。








「成瀬君大丈夫?すっごい汗出てるけど……」








 先輩の心配する声が水の中みたいにくぐもって聞こえた。冷や汗と震えが止まらない。







「だ、いじょうぶ……です」







 なんとか切れ切れに返すけど、頭痛がひどくて仕方ない。チカチカと明滅する景色に、思わず顔を顰める。





 型を、拾わなきゃ。しゃがんで手を伸ばそうとしたら、床が歪んだ。
























 
 ──────あ。




















その、直後。
 


 

「成瀬君っ!?」







 ぐらり、と視界が暗転して、俺の意識は途切れた。




















────────







「う、ん……?」






 起きたら保健室のベッドだった。どうやらあまりに一気に色々思い出したせいで俺の脳みそが処理できなくなって倒れたらしい。ベタだなぁと思いながら体を起こす。誰が俺を運んでくれたんだろ。

 周りを見回すが、保健室の先生はいなかった。



 思わず両手で顔を覆う。







「はああああああ……マジか」









 どうして忘れていたのか分からない。その事件がどれほど大きなものか、読んだ当初俺には分からなかったにも関わらず、ずっとあのシーンの描写だけは脳裏に焼き付いて離れなかったのに。夢に出そうだなって思って、一時はそのページを開かないように距離さえとっていたというのに、俺は忘れていた。





 原作でも、近所で猫が連続的に惨殺される事件が起きる。





 最初はすごく簡単に、1行、『この辺りでは最近、猫が惨殺される事件が起きているらしい。』と一言あって、そこではそれ以上この事件について語られることはない。読者もふーんで流すくらいの、そんな記述。すぐに颯斗の日常とかそういう描写で埋もれて記憶にも残らなかった。







 しかし、冬になるとそれは、唐突に起こった。







 真冬。生徒会で遅くまで残っていた颯斗は、学校帰りに通った公園の中で猫が死んでるのを見つけてしまうのだ。





 その頃にはもう猫の惨殺が落ち着いてきていて、颯斗の周りでも話題になることはなかった。けど、そんな時に腹を割かれた猫を見て、颯斗は。







 自分が異常であることを、自覚してしまう。




 



 サディストとサイコパス、その両方の欲が自分の中にあることに気がついて、気分が昂る。この日以来、颯斗は自分のことを化け物だと思って生活するようになり、誰かを殺す、何かに苦痛を与える、その二つが自分の退屈を満たすことになると考えるようになった。そう、この時から颯斗の脳内描写は大体イマジナリー颯斗による殺人が垣間見えるようになる!



 告白してくる女の子に対しても殺したらどういう顔をするかとか、ウザ絡みしてきたクラスメイトに対して今このシャーペンで聴覚や視覚を奪ったらとかそんなことばっかり考えるようになってしまうわけだ。




 非常にまずい。俺は今までそうならないように動いてきたのに、これで颯斗が最強サディストサイコパスになってしまったら今までの俺の努力は泡だし、それどころか殺される未来に繋がってしまう!!!




 くっそ、俺の馬鹿野郎っ!!!なんでこんな大事なこと忘れてたんだよ!!







「いや、でも待て待て。今はまだ秋、事件が起きるのは冬だから、まだ何とかなるはず……」







 俺の記憶が正しければ、あの時原作軸では冬だったはず。颯斗がマフラーを巻く描写があったような気がする。多分、公園に雪が積もっていた、みたいな記述もあった。










 それなら、俺がすることはただ一つ、その日が来たら颯斗を絶対に公園には行かせないことだ。












 あれは確か、今年の冬に初の雪が降った日、とか書いてた気がするから、冬に初めて雪が降った日を俺は警戒するべきだ。その日は絶対に、颯斗と一緒に行動しなきゃならない。








 よし、よし。今後の方針が決まったぞ……。













 俺は絶対に、颯斗をサディストサイコパスにはさせない!!!!!

 












































































































♦︎♦︎♦︎





 

 それは、すでにモノだった。




 柔らかな毛の付いている、モノ。三角の耳、丸くて短い尻尾、小さな頭。その全てが、それが確かにこの世で生きていた生物だと訴えているのに、公園の外灯の明かりに浮かび上がる、バケツからぶちまけたような赤が、何より一番、それがかつて生き物だったことを証明していた。
颯斗は立ち尽くし、死体を見下ろした。今目の前で絶命しているそれが、おそらく渦中の猫惨殺事件の被害に遭った内の一体だとすぐに分かった。
 
 以前猫だったそれは、元はどんな毛色をしていたのかも分からないくらい、血に塗れていた。迷いなく横一直線に裂かれた腹から、鮮血と臓器の紅色が地面に飛び出ている。飛び散った血が、抵抗した跡であろう跳ねた毛を根元まで染めて、両目を開けたままの猫の顔までもを赤く染めていた。かろうじて血に染まっていない後ろ足は薄めのキャラメル色をしていて、それだけがまるでオモチャのように際立って見えて可笑しかった。
しゃがんで、手を伸ばす。腹部の裂傷に指を付けると、丸見えになった内臓のぬめりが伝わる。獣の臭いと、濃い血の臭い、そして何かが腐る臭い。吐き気を催すような不快な匂いが颯斗の鼻を刺激した。
 
 けれど、指は止まらない。臓器を掴んで、爪を立ててみたり、握ってみたり。溜まっていた血が吹き出して、公園の地面を黒くしていく。その上に薄い雪がはらり、はらり、と落ちていく。
 
 耳をつんざくような猫の悲鳴が聞こえてきそうだ、と颯斗はぼんやり思った。この猫はどのような状態で殺されたのか定かではないが、生きたままならきっと、凄まじい苦悶と痛みに、猫はけたたましく叫び声を上げたことだろう。


けれど、颯斗にはそれを可哀想だと思う感情はなかった。代わりに、どこからか泉のように黒く、止めどなく湧くものがあった。



















─────聞きたい。











 目の前のこの猫のように。大きな苦しみと痛みが混じって、どうにもならないものを嘆くその汚い鳴き声が聞きたい。自分が与えた苦痛にのたうち回って苦しむ様が見たい。それでも生きようとして頑張るのに、最後には殺されて絶望する様が見たい。









 ─────否、鳴き声ではなくて、生きた人間の、苦痛を感じている様と泣き声、嘆願、絶望、恐怖、全てに染まった顔が見たい。許して、助けてと絶叫する様が見たい。その声が聞きたい。







 びちゃびちゃっ、と音を立てて、手の中で破裂した臓器が血を撒き散らして地面に溶けた。強烈な血の匂いが鼻腔を突き抜ける。



 颯斗は、自分がこれまでにないほど興奮していることに気がついた。またあの何かを渇望するような欲が腹の中で龍のように暴れている。血のついた手で口元を押さえた。しかし堪えきれず口角が自然に吊り上がっていく。


 ずっとそうだろうと俯瞰していたが、今日それは決定的な事実だと気がついて、全て吹っ切れたような清々しさを感じた。




 暗闇に静かな笑いが落ちた。









「ああ、気分が良いな」       』










┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

⭐︎要は原作展開の回避が出来るのか────

しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

牛獣人の僕のお乳で育った子達が僕のお乳が忘れられないと迫ってきます!!

ほじにほじほじ
BL
牛獣人のモノアの一族は代々牛乳売りの仕事を生業としてきた。 牛乳には2種類ある、家畜の牛から出る牛乳と牛獣人から出る牛乳だ。 牛獣人の女性は一定の年齢になると自らの意思てお乳を出すことが出来る。 そして、僕たち家族普段は家畜の牛の牛乳を売っているが母と姉達の牛乳は濃厚で喉越しや舌触りが良いお貴族様に高値で売っていた。 ある日僕たち一家を呼んだお貴族様のご子息様がお乳を呑まないと相談を受けたのが全ての始まりー 母や姉達の牛乳を詰めた哺乳瓶を与えてみても、母や姉達のお乳を直接与えてみても飲んでくれない赤子。 そんな時ふと赤子と目が合うと僕を見て何かを訴えてくるー 「え?僕のお乳が飲みたいの?」 「僕はまだ子供でしかも男だからでないよ。」 「え?何言ってるの姉さん達!僕のお乳に牛乳を垂らして飲ませてみろだなんて!そんなの上手くいくわけ…え、飲んでるよ?え?」 そんなこんなで、お乳を呑まない赤子が飲んだ噂は広がり他のお貴族様達にもうちの子がお乳を飲んでくれないの!と言う相談を受けて、他のほとんどの子は母や姉達のお乳で飲んでくれる子だったけど何故か数人には僕のお乳がお気に召したようでー 昔お乳をあたえた子達が僕のお乳が忘れられないと迫ってきます!! 「僕はお乳を貸しただけで牛乳は母さんと姉さん達のなのに!どうしてこうなった!?」 * 総受けで、固定カプを決めるかはまだまだ不明です。 いいね♡やお気に入り登録☆をしてくださいますと励みになります(><) 誤字脱字、言葉使いが変な所がありましたら脳内変換して頂けますと幸いです。

全寮制男子校でモテモテ。親衛隊がいる俺の話

みき
BL
全寮制男子校でモテモテな男の子の話。 BL 総受け 高校生 親衛隊 王道 学園 ヤンデレ 溺愛 完全自己満小説です。 数年前に書いた作品で、めちゃくちゃ中途半端なところ(第4話)で終わります。実験的公開作品

穏やかに生きたい(隠れ)夢魔の俺が、癖強イケメンたちに執着されてます。〜平穏な学園生活はどこにありますか?〜

春凪アラシ
BL
「平穏に生きたい」だけなのに、 癖強イケメンたちが俺を狙ってくるのは、なぜ!? トラブルを避ける為、夢魔の血を隠して学園生活を送るフレン(2年)。 彼は見た目は天使、でも本人はごく平凡に過ごしたい穏健派。
なのに、登校初日から出会ったのは最凶の邪竜後輩(1年)!? 
他にも幼馴染で完璧すぎる優等生騎士(3年)に、不良だけど面倒見のいい悪友ワーウルフ(同級生)まで……なぜか異種族イケメンたちが次々と接近してきて―― 運命の2人を繋ぐ「刻印制度」なんて知らない! 恋愛感情もまだわからない! 
それでも、騒がしい日々の中で、少しずつ何かが変わっていく。 個性バラバラな異種族イケメンたちに囲まれて、フレンの学園生活は今日も波乱の予感!? 
甘くて可笑しい、そして時々執着も見え隠れする 愛され体質な主人公の青春ファンタジー学園BLラブコメディ! 月、水、金、日曜日更新予定!(番外編は更新とは別枠で不定期更新) 基本的にフレン視点、他キャラ視点の話はside〇〇って表記にしてます!

実は俺、悪役なんだけど周りの人達から溺愛されている件について…

彩ノ華
BL
あのぅ、、おれ一応悪役なんですけど〜?? ひょんな事からこの世界に転生したオレは、自分が悪役だと思い出した。そんな俺は…!!ヒロイン(男)と攻略対象者達の恋愛を全力で応援します!断罪されない程度に悪役としての責務を全うします_。 みんなから嫌われるはずの悪役。  そ・れ・な・の・に… どうしてみんなから構われるの?!溺愛されるの?! もしもーし・・・ヒロインあっちだよ?!どうぞヒロインとイチャついちゃってくださいよぉ…(泣) そんなオレの物語が今始まる___。 ちょっとアレなやつには✾←このマークを付けておきます。読む際にお気を付けください☺️

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?

名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。 そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________ ※ ・非王道気味 ・固定カプ予定は未定 ・悲しい過去🐜のたまにシリアス ・話の流れが遅い ・本格的に嫌われ始めるのは2章から

「これからも応援してます」と言おう思ったら誘拐された

あまさき
BL
国民的アイドル×リアコファン社会人 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ 学生時代からずっと大好きな国民的アイドルのシャロンくん。デビューから一度たりともファンと直接交流してこなかった彼が、初めて握手会を開くことになったらしい。一名様限定の激レアチケットを手に入れてしまった僕は、感動の対面に胸を躍らせていると… 「あぁ、ずっと会いたかった俺の天使」 気付けば、僕の世界は180°変わってしまっていた。 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ 初めましてです。お手柔らかにお願いします。

うちの家族が過保護すぎるので不良になろうと思います。

春雨
BL
前世を思い出した俺。 外の世界を知りたい俺は過保護な親兄弟から自由を求めるために逃げまくるけど失敗しまくる話。 愛が重すぎて俺どうすればいい?? もう不良になっちゃおうか! 少しおばかな主人公とそれを溺愛する家族にお付き合い頂けたらと思います。 初投稿ですので矛盾や誤字脱字見逃している所があると思いますが暖かい目で見守って頂けたら幸いです。 ※(ある日)が付いている話はサイドストーリーのようなもので作者がただ書いてみたかった話を書いていますので飛ばして頂いても大丈夫です。 ※度々言い回しや誤字の修正などが入りますが内容に影響はないです。 もし内容に影響を及ぼす場合はその都度報告致します。 なるべく全ての感想に返信させていただいてます。 感想とてもとても嬉しいです、いつもありがとうございます!

処理中です...