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「ンッ!?」
がぶり。
喰らいつくように唇が合わさって、全然理解が追いつかないままズル、と薫さんの舌が口の中に入ってくる。さっき、沢渡にされたディープキスと同じ。
「んぅッ…ぁ、はっ…ッ!!」
なのに、全然感じるものが違う。
さっきは口の中を舌がなめくじみたいに這ってるっていう感じだったけど、薫さんのはそんなゆっくりした動きじゃなくて、口の中全部を暴くような激しいもの。薫さんの舌がずい、と歯列をなぞり、唾液まで全部舐め尽くすんじゃないかってくらい執拗に口内を荒らされると、知らず背筋をぞくぞくしたものが駆け抜けて体の力が抜けそうになる。舌が上も下も通ると、今度は俺の舌に絡みついてきて根本から先まで溶けるような感覚が走った。
「ん、ッく、!、…ッんぅ、ッ、」
自分の口からクチュクチュといやらしい水音が聞こえて、信じられない気持ちでいっぱいになった。こんな同人誌みたいな展開、俺は知らない。
じゅ、と絡んだ舌が音を立てて吸われる。その瞬間、ビクンッと体が跳ねて確かに快感が全身に広がった。さっきまでずっと気持ち悪いものだったそれが急にうっとりするほど気持ちよくて、脳みそが追いついてないのに体だけが先走ってしまう。鼻にかかったような変な声が間から漏れるのが止められない。
間違いなく、薫さんは上級者だ、とキスに翻弄されながら思う。角度を変えるところや、舌の先っぽで上顎をすりすりしたりしてくるところに凄まじいテクニックを感じる。上手いのは完全に解釈一致なんだけど、まさか自分の身を持ってその上手さを体感するなんて思ってなくてもう訳がわからない。さっきからわけわかめなことしか起こってないけど。
かたや俺は、この手のえっちなキスに関しては完全なるビギナーなのですぐに息が上がって体の力が抜けてしまう。呼吸のタイミングが分からなくて、酸素不足になっていると薄目を開けた薫さんがとんとん、と俺の鼻を指でつついた。鼻で呼吸しろってことね、と俺はなんとか理解して鼻から酸素を摂取する。まだ慣れないけど、ちょっとだけ楽になった。
「んんっ、んっ、んっ……ん、うう、」
や、ばい。
なんかさっきからすごいぞくぞくして気持ち良い、気がする。
薫さんが相当経験豊富で、俺が慣れてなくて、直前にあんな目にあったからかもしれないけど。
でも、さっきまでこの状況に混乱していたのに今はもう脳みそがどうでもいいや、と考えることを放棄してしまって、俺はうっとりと目を細めてしまう。
馬鹿になる、ってこういうことを言うのかな。
必死で舌の動きについていこうとする俺に、薫さんがちょっと笑って後頭部に回していた手でわしゃわしゃと犬にするみたいに撫でる。それすらなんだか気持ちよくて、俺は薫さんの胸板に置いた手をぎゅ、と握り締めた。
鼻で呼吸することはまだ慣れてなくて、夢中で舌を追いかけている内に息苦しくなってくる。はくはくと呼吸ができなくなっている内にうっすら涙目になってきて、もう無理だ、と思った途端分かっていたかのように薫さんが口を離した。
「っは……」
「っんはぁ……はっ、はっ、ぁ、」
つぅっとねっとりした唾液の橋ができ、それが光の反射で銀に見えるのをぼうっと眺める。脳内に靄がかかったみたいに何も考えられない。酸素がないから、なのかもしれない。
でも、でも、…ちょっとだけ、残念、なような、気もする。寂しい、というか。
「これで口の中は消毒できたな……あとは、ここも消毒しねぇとなァ」
「んぇ、?……ッんあ!?」
ポヤポヤして薫さんの顔を見つめていたら、急に再び胸を摘まれて体が弓形に沿った。と、同時に急に理性が変換されて俺は慌てて薫さんを止める。
「かっ、薫さッ、それ大丈夫ってさっき言っ、ッあァ!?」
「チッ、身の程を弁えねぇクソ雑魚共……あいつらは全員消す」
「っ、あッ…!ん、ァ、それ、それダメですってばぁ!」
顰めっ面で薫さんが俺の乳首をクニクニと指で擦る。なんかやばい。うまく説明できないけど、さっき沢渡にされた時の何倍も気持ちよく感じて制止の声を上げる。だけど薫さんは全く止める気配はなく、爪の先で先っぽをカリカリしてくるから俺は堪らず体を震わせた。
「あッ、ぅ、ぁ…は、ぅッ」
だんだん訳がわからなくなっていて、戻ってきていた理性は一瞬でまた出掛けて行ってしまった。はっ、はっ、と喘ぐみたいな呼吸を繰り返す。なんだこれ、なんだこれ、さっきと全然違う。
しきりにハテナを飛ばしながら身を捩る。その瞬間、逃さないとばかりに薫さんが俺の腰を引っ掴んで、じゅるる、と音を立てて右乳首を吸い上げてきた。
「あああ゛ッ!?」
ビクビクビクッ!と体が大きく痙攣して、口からやばい声が漏れる。ぬるついた舌がたっぷりと唾液を纏って絡みついてくるともうおかしくなりそうで、腰が震えてしまうのが抑えられない。
「か、薫さッ、も、ほんとにやばッ、ぁんぁ!?」
「まだ右しかしてねぇだろ?汚れちまってんだからちゃんと消毒しねぇと、病気になるだろうが」
「びょーきとかっ、なりません、ッからぁ!?ひ、ぁ、あァッ!!」
パクリ、と今度は左に吸い付かれて、熱い感覚にまた翻弄されてしまう。なんでこんなことになってるのか分からないし、どうしてこんなに反応するのか自分でも理解できない。成瀬要って受け設定だったのか!?いや、そうだとしてもこんな裏設定いらないって!!!
下から持ち上げるように舐め上げられて、かと思うと音を立てて吸われて、また舐められてを繰り返されて俺はほぼ前後不覚の状態になっていた。さっきからぞくんぞくんするのが止まらなくて、思わず薫さんのシャツをぎゅっと固く握る。
どうしよう、このままだと本当にやばい。なんかもう、これを気持ちいいと感じてる時点でやばいのに、もっともっとと思いそうになっていることが怖い。その内やばいことを口走ってしまいそうな気がする。
そう思っているのに、自分が恍惚とした表情を浮かべていることにも気がついて、眉根を寄せる。
やばい、ダメなのに………
ああ、でも、もうなんか、別にいいかも───
「ッ、要!!!!!」
突然の鋭い怒声に、流されそうになっていた思考が一瞬で消える。
あれ、この声、もしかして、と帰宅した理性的思考がすぐに考え、その直後にガッ!!と固いものがぶつかる音がして衝撃が走る。何かが乳首に当たって、思わず大きな声が上がりそうになるのを手で押さえる。いまの、やばッ……
「いっ、てぇな……」
すっかり上がった呼吸を重ねながら、何が起こったのかを把握しようと視線を向けると、まず目に入るのは唇を切った薫さん。端に血が滲んでいて、頬も少し赤い。つまり、薫さんは今誰かに殴られたわけだ。俺とお揃いですね、なんてことを言う度胸は俺にはない。
それで、その殴った誰かっていうのは。
「要ッ、…!クソ、もっと早く来てれば……!」
深い青の瞳が強い後悔と怒りを湛えて蒼炎のようにゆらゆらと揺れている。いつも綺麗にセンター分けなのに、すっかり乱れていて、ここまでかなり急いだのが分かった。
「す、彗せんぱい…?」
なんでここに?と目を瞬いて呆然と俺が名前を呼ぶと、先輩は泣きそうな顔で俺の姿を見て、ぐ、と何かを堪えるように顔を顰めた。徐に来ていた制服のブレザーを脱ぐ。
「……着てろ」
ばさ、とブレザーが俺の体を隠すように掛けられて、先輩の温もりを感じる。
わ、めっちゃいい匂いする、先輩の匂いだぁ、んへへ。
……じゃない!!
「オイオイ……急に来て彼氏気取りたァいい度胸だな?」
唇を乱暴に親指で拭った薫さんは完全にスイッチが入ったようで、ビキビキと青筋を浮かべて激怒している。対する先輩も思いっきり目を吊り上げて親の敵でも見るかのように強く薫さんを睨む。
「鬼頭薫……この外道が。汚い手でこいつに触んな」
守るように彗先輩が俺と薫さんの間に立って、唸るような声を上げる。両者それぞれ大激怒。
あれ、と俺は冷や汗を垂らした。
これは、もしかしなくても多大なる勘違いが生じているのでは……?と。
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