147 / 152
26
「こ、れは………」
その先は言葉にならずに、ただ俺の掠れた声だけが宙に浮いた。
5枚の写真の下には、紛れもない母の字でそれぞれ言葉が書かれていた。おそらく日記に書いてあるコメントとはこのことだろう。
1枚目の、風紀委員として話している俺の写真の下には、『風紀委員だなんて誇らしいわ。立派に大きくなったのね』。
2枚目のリレーには、『スポーツも得意なのね!私は運動音痴だから少し眩しいわ』。
3枚目のクラスメイトとの写真には、『会議中?あなたの作戦ならうまく勝利できそうな気がする』。
4枚目、響とのツーショットには、『お友達かしら?イケメンさんね。びっくりしてて可愛い』。
5枚目の集合写真には、『さすが私の息子、センターまで務めるなんて!最高にかっこいいわ!』。
「私ね、それを見て、すごく後悔したの。瑚登里ちゃんを疑って、怒っちゃったこと。もっと、もっと考えてもっと信じて話をして。それで、せめて最期の瞬間まで側にいてあげれてたらって」
悲しそうに笑う紗代子さんの言葉に、俺は呆然として。その瞬間、自分が母に愛されていないと勝手に決めつけていたことが、かつてないほどの恥で、大罪のように思えた。母が俺を信じていなかったのではなくて、俺が母を信じていなかったのだと、気がついて。
どうしたら良いのか分からないほどの膨大な感情が、頭の中でぐるぐると混ざった。
けれど、その感情の波から紗代子さんが俺を引っ張る。
「違うの、違うのよ。これは私の後悔であって、瑚珀君を糾弾するつもりじゃなかったの。それを混ぜたらだめ。間違っても、全て自分のせいだなんて思っちゃだめよ。その考えは人間に何も生まないの」
「……………………はい」
項垂れながら頷く俺に、紗代子さんは微笑を浮かべた。
「瑚珀君と瑚登里ちゃんって、本当にそっくりだと思うの。見た目もだけど、それ以上に性格。二人ともやってることが同じなんだもの」
お、なじ……?
「相手を大事にって思いが強すぎて、自分のことはなりふり構わないから、お互いに遠ざけあって傷ついてる。瑚登里ちゃんもあなたも、責めるのは自分のことだし、あの子も最期まで瑚珀君のことを思っていたのよ」
最期、という言葉に俺がビクッとすると、紗代子さんは優しい目つきになって身を乗り出し、日記のページをそっと捲った。
「瑚登里ちゃんはね、遺書を書いてたの。この日記に」
「っ!?」
「でも、私達宛てじゃないの………全て、瑚珀君。あなたへのメッセージよ。あの子があなたに伝えたかった全てが、きっとここに書かれているのだと思う」
読んでみて、と促され、俺はその開かれたページを見て。
母の思いを、その真実を。
全てを、知った。
少しして、ぱた、ぱたという音と、文字が滲むのを見てハッとする。
俺は、無意識のうちに泣いていた。
いけない、大事な日記なのに。これ以上濡れたら……。
そう思ってなんとか涙を止めようとするも、どうしても引っ込まず、それどころか余計に溢れて止まらない。俺は必死になって流れてくる涙を両手で拭った。こんな風に、人前で泣くことなんて無かったから早く止めたいのに、拭っても拭っても溢れてくる。
こんなの、見られたくない。示しがつかない。格好悪い。情けない。
けれど、紗代子さんも宗一郎さんも西連寺も、誰も俺を馬鹿にすることも責めることも無く、ただただ優しく見守ってくれた。
結局、全てが完結したのは夕方だった。
紗代子さんと宗一郎さんは、「またいつでも好きな時に来て良いからね」と笑って俺たちを玄関まで見送ってくれ、俺はお礼を何度か言いながら西連寺と一緒に望月家を後にした。
「………西連寺」
外に出た俺は、夕日が満ちる路上で西連寺に声を掛けた。なんだ、と西連寺が振り返る。
「……ありがとう」
何が、とは全部言えないほど感謝したいことがあって、俺はそれ以上言葉を紡ぐことができなかったが、西連寺にはそれだけで十分伝わったらしく。ちょっと笑って、「気にすんな」と一言。俺もそれに笑い返すと、西連寺がしばらくしてそういえば、と口を開いた。
「帰りはどうするつもりだ?俺の家の車は帰らせちまったから、今から呼ばねぇと来れねぇだろうし…」
公共交通手段だと時間かかるんじゃねぇか、という言葉に俺は我に帰る。現在午後5時前。今から公共交通手段で帰るとあちらに戻る頃には夜中になっているだろう。西連寺は車を呼ぼうとしているが、さすがにそれは申し訳ないしどちらにせよ今からこちらに向かうとなれば時間がかかってしまう。だがここはやはり公共交通機関で──
「その必要はない」
俺の思考を遮るように発せられたその声に、俺は勢いよく顔を上げた。既視感。もしかして、と視線を向けた先には、塀に寄りかかるようにして立っている司さんがいた。俺は目を見開きながら司さんの元に向かう。
「司さん!なぜここに……」
「完治さんといすずさんから頼まれてね。そこの彼から瑚珀が一人でここに向かったって聞いて、すごく心配していたよ。俺はちょうど今日出張で早めに帰宅していたこともあって、完治さんの話を聞いてこっちまで飛ばしてきた」
そこの彼、という部分で司さんは傍の西連寺にチラリと目を向ける。西連寺は珍しく少し畏まって名乗ると、司さんも軽く頷いて自己紹介をした。それが終わると再び俺に視線をやる。
「俺は車で来たから、高速使って最短で帰ろう。本来なら途中で完治さん達に会うべきだが…まぁ、時間ないし仕方ない。そのまま西連寺君と一緒に学園まで送るよ」
「す、みません……」
「瑚珀」
今更ながら勝手なことをしていたのだと気がつき、項垂れて謝ると司さんはそっと俺の名前を呼んだ。
「『答え』は、見つかったか?」
叱責を受けると思っていた俺にとって、その言葉は予想しなかったものだった。
けれど、俺は、俺が一番知りたかったことも、それ以外のことも、全部、全部手に入れることができたから、しっかりと頷いた。その様子に司さんは笑って、くしゃっと俺の頭を撫でる。
「上出来。良かったな」
「……はい」
それがくすぐったくて、目を細める。3人で車が停めてあるという駐車場に向かいながら、俺は司さんに話し掛けた。
「あの、司さん」
「ん?」
────俺、話したいことがたくさんあるんです。
きっと俺は、幸せと愛してるという意味を、今誰よりも知っている。
あなたにおすすめの小説
あの夏の日を忘れない ~風紀委員長×過去あり総長~
猫村やなぎ
BL
椎名由は、似てるという言葉が嫌いだった。
髪を金にして、ピアスを付けて。精一杯の虚勢を張る。
そんな彼は双子の兄の通う桜楠学園に編入する。
「なぁ由、お前の怖いものはなんなんだ?」
全寮制の学園で頑張り屋の主人公が救われるまでの話。
百合豚、男子校に入る。
揺
BL
百合をこよなく愛する男子高校生・眞辺恵。
母の歪んだ価値観により共学への進学を断たれ、彼が入学させられたのは――
男同士の恋愛が“文化”として成立している、全寮制男子校《私立瑞嶺学園》だった。
この学園では、生徒会長は「抱かれたいランキング」で選ばれ、美貌こそが正義とされる世界。
それでも眞辺は決意する。
生徒会長になり、この学校を“共学”に変え、間近で百合を拝むことを。
立ちはだかるのは、顔面至上主義の学園制度、性に奔放すぎるイケメンな幼馴染、そして彼らに憧れ恋をする生徒たち。
さらに何故か、学園の人気者たちに次々と目をつけられてしまい――。
百合を拝むため男子校を変えようとする異端者が、歪んだ王道学園を改革する物語。
とある金持ち学園に通う脇役の日常~フラグより飯をくれ~
無月陸兎
BL
山奥にある全寮制男子校、桜白峰学園。食べ物目当てで入学した主人公は、学園の権力者『REGAL4』の一人、一条貴春の不興を買い、学園中からハブられることに。美味しい食事さえ楽しめれば問題ないと気にせず過ごしてたが、転入生の扇谷時雨がやってきたことで、彼の日常は波乱に満ちたものとなる──。
自分の親友となった時雨が学園の人気者たちに迫られるのを横目で見つつ、主人公は巻き込まれて恋人のフリをしたり、ゆるく立ちそうな恋愛フラグを避けようと奮闘する物語です。
主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。
小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。
そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。
先輩×後輩
攻略キャラ×当て馬キャラ
総受けではありません。
嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。
ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。
だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。
え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。
でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!!
……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。
本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。
こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。
聞いてた話と何か違う!
きのこのこのこ
BL
春、新しい出会いに胸が高鳴る中、千紘はすべてを思い出した。俺様生徒会長、腹黒副会長、チャラ男会計にワンコな書記、庶務は双子の愉快な生徒会メンバーと送るドキドキな日常――前世で大人気だったBLゲームを。そしてそのゲームの舞台こそ、千紘が今日入学した名門鷹耀学院であった。
生徒会メンバーは変態ばかり!?ゲームには登場しない人気グループ!?
聞いてた話と何か違うんですけど!
※主人公総受けで過激な描写もありますが、固定カプで着地します。
他のサイトにも投稿しています。
目立たないでと言われても
みつば
BL
「お願いだから、目立たないで。」
******
山奥にある私立琴森学園。この学園に季節外れの転入生がやってきた。担任に頼まれて転入生の世話をすることになってしまった俺、藤崎湊人。引き受けたはいいけど、この転入生はこの学園の人気者に気に入られてしまって……
25話で本編完結+番外編4話
世話焼き風紀委員長は自分に無頓着
二藤ぽっきぃ
BL
非王道学園BL/美形受け/攻めは1人
都心から離れた山中にある御曹司や権力者の子息が通う全寮制の中高一貫校『都塚学園』
高等部から入学した仲神蛍(なかがみ けい)は高校最後の年に風紀委員長を務める。
生徒会長の京本誠一郎(きょうもと せいいちろう)とは、業務連絡の合間に嫌味を言う仲。
5月の連休明けに怪しい転入生が現れた。
問題ばかりの転入生に関わりたくないと思っていたが、慕ってくれる後輩、風紀書記の蜂須賀流星(はちすか りゅうせい)が巻き込まれる______
「学園で終わる恋愛なんて、してたまるか。どうせ政略結婚が待っているのに……」
______________
「俺は1年の頃にお前に一目惚れした、長期戦のつもりが邪魔が入ったからな。結婚を前提に恋人になれ。」
「俺がするんで、蛍様は身を任せてくれたらいいんすよ。これからもずっと一緒っすよ♡」
♢♦︎ ♢♦︎ ♢♦︎ ♢♦︎ ♢♦︎ ♢♦︎ ♢
初投稿作品です。
誤字脱字の報告や、アドバイス、感想などお待ちしております。
毎日20時と23時に投稿予定です。
BLゲームの世界でモブになったが、主人公とキャラのイベントがおきないバグに見舞われている
青緑三月
BL
主人公は、BLが好きな腐男子
ただ自分は、関わらずに見ているのが好きなだけ
そんな主人公が、BLゲームの世界で
モブになり主人公とキャラのイベントが起こるのを
楽しみにしていた。
だが攻略キャラはいるのに、かんじんの主人公があらわれない……
そんな中、主人公があらわれるのを、まちながら日々を送っているはなし
BL要素は、軽めです。