笑わない風紀委員長

馬酔木ビシア

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「こ、れは………」








その先は言葉にならずに、ただ俺の掠れた声だけが宙に浮いた。








5枚の写真の下には、紛れもない母の字でそれぞれ言葉が書かれていた。おそらく日記に書いてあるコメントとはこのことだろう。









1枚目の、風紀委員として話している俺の写真の下には、『風紀委員だなんて誇らしいわ。立派に大きくなったのね』。







2枚目のリレーには、『スポーツも得意なのね!私は運動音痴だから少し眩しいわ』。






3枚目のクラスメイトとの写真には、『会議中?あなたの作戦ならうまく勝利できそうな気がする』。






4枚目、響とのツーショットには、『お友達かしら?イケメンさんね。びっくりしてて可愛い』。






5枚目の集合写真には、『さすが私の息子、センターまで務めるなんて!最高にかっこいいわ!』。














「私ね、それを見て、すごく後悔したの。瑚登里ちゃんを疑って、怒っちゃったこと。もっと、もっと考えてもっと信じて話をして。それで、せめて最期の瞬間まで側にいてあげれてたらって」










悲しそうに笑う紗代子さんの言葉に、俺は呆然として。その瞬間、自分が母に愛されていないと勝手に決めつけていたことが、かつてないほどの恥で、大罪のように思えた。母が俺を信じていなかったのではなくて、俺が母を信じていなかったのだと、気がついて。









どうしたら良いのか分からないほどの膨大な感情が、頭の中でぐるぐると混ざった。








けれど、その感情の波から紗代子さんが俺を引っ張る。










「違うの、違うのよ。これは私の後悔であって、瑚珀君を糾弾するつもりじゃなかったの。それを混ぜたらだめ。間違っても、全て自分のせいだなんて思っちゃだめよ。その考えは人間に何も生まないの」






「……………………はい」








項垂れながら頷く俺に、紗代子さんは微笑を浮かべた。









「瑚珀君と瑚登里ちゃんって、本当にそっくりだと思うの。見た目もだけど、それ以上に性格。二人ともやってることが同じなんだもの」









お、なじ……?








「相手を大事にって思いが強すぎて、自分のことはなりふり構わないから、お互いに遠ざけあって傷ついてる。瑚登里ちゃんもあなたも、責めるのは自分のことだし、あの子も最期まで瑚珀君のことを思っていたのよ」








最期、という言葉に俺がビクッとすると、紗代子さんは優しい目つきになって身を乗り出し、日記のページをそっと捲った。







「瑚登里ちゃんはね、遺書を書いてたの。この日記に」








「っ!?」






「でも、私達宛てじゃないの………全て、瑚珀君。あなたへのメッセージよ。あの子があなたに伝えたかった全てが、きっとここに書かれているのだと思う」












読んでみて、と促され、俺はその開かれたページを見て。







































母の思いを、その真実を。
























全てを、知った。

















少しして、ぱた、ぱたという音と、文字が滲むのを見てハッとする。







俺は、無意識のうちに泣いていた。









いけない、大事な日記なのに。これ以上濡れたら……。



そう思ってなんとか涙を止めようとするも、どうしても引っ込まず、それどころか余計に溢れて止まらない。俺は必死になって流れてくる涙を両手で拭った。こんな風に、人前で泣くことなんて無かったから早く止めたいのに、拭っても拭っても溢れてくる。


こんなの、見られたくない。示しがつかない。格好悪い。情けない。


けれど、紗代子さんも宗一郎さんも西連寺も、誰も俺を馬鹿にすることも責めることも無く、ただただ優しく見守ってくれた。







































結局、全てが完結したのは夕方だった。


紗代子さんと宗一郎さんは、「またいつでも好きな時に来て良いからね」と笑って俺たちを玄関まで見送ってくれ、俺はお礼を何度か言いながら西連寺と一緒に望月家を後にした。






「………西連寺」







外に出た俺は、夕日が満ちる路上で西連寺に声を掛けた。なんだ、と西連寺が振り返る。






「……ありがとう」






何が、とは全部言えないほど感謝したいことがあって、俺はそれ以上言葉を紡ぐことができなかったが、西連寺にはそれだけで十分伝わったらしく。ちょっと笑って、「気にすんな」と一言。俺もそれに笑い返すと、西連寺がしばらくしてそういえば、と口を開いた。





「帰りはどうするつもりだ?俺の家の車は帰らせちまったから、今から呼ばねぇと来れねぇだろうし…」




公共交通手段だと時間かかるんじゃねぇか、という言葉に俺は我に帰る。現在午後5時前。今から公共交通手段で帰るとあちらに戻る頃には夜中になっているだろう。西連寺は車を呼ぼうとしているが、さすがにそれは申し訳ないしどちらにせよ今からこちらに向かうとなれば時間がかかってしまう。だがここはやはり公共交通機関で──










「その必要はない」








俺の思考を遮るように発せられたその声に、俺は勢いよく顔を上げた。既視感。もしかして、と視線を向けた先には、塀に寄りかかるようにして立っている司さんがいた。俺は目を見開きながら司さんの元に向かう。



「司さん!なぜここに……」


「完治さんといすずさんから頼まれてね。そこの彼から瑚珀が一人でここに向かったって聞いて、すごく心配していたよ。俺はちょうど今日出張で早めに帰宅していたこともあって、完治さんの話を聞いてこっちまで飛ばしてきた」


そこの彼、という部分で司さんは傍の西連寺にチラリと目を向ける。西連寺は珍しく少し畏まって名乗ると、司さんも軽く頷いて自己紹介をした。それが終わると再び俺に視線をやる。


「俺は車で来たから、高速使って最短で帰ろう。本来なら途中で完治さん達に会うべきだが…まぁ、時間ないし仕方ない。そのまま西連寺君と一緒に学園まで送るよ」



「す、みません……」




「瑚珀」



今更ながら勝手なことをしていたのだと気がつき、項垂れて謝ると司さんはそっと俺の名前を呼んだ。










「『答え』は、見つかったか?」










叱責を受けると思っていた俺にとって、その言葉は予想しなかったものだった。




けれど、俺は、俺が一番知りたかったことも、それ以外のことも、全部、全部手に入れることができたから、しっかりと頷いた。その様子に司さんは笑って、くしゃっと俺の頭を撫でる。






「上出来。良かったな」






「……はい」







それがくすぐったくて、目を細める。3人で車が停めてあるという駐車場に向かいながら、俺は司さんに話し掛けた。








「あの、司さん」






「ん?」



















────俺、話したいことがたくさんあるんです。




















きっと俺は、幸せと愛してるという意味を、今誰よりも知っている。



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