求めていた俺 sequel

メズタッキン

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第5部 「東西学園闘争編」

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35話        アンチグラビティ




『さぁーって!皆さんお待たせしましたァ!
“浪速のドッチボール大会” !これより開催でーすッ!』

スタート地点であるPSJ一般来場者用入口前で川東学園選手団12人と火天焔学園選手団12人全員が一斉にパーク内に流れこむ。
このゲームのルールは至って簡単で、パークのどこかに隠されている『ドッチボール』という水色の玉を、パークの中心に聳え立つ岩山の頂上の台座に据え置く。それだけだ。



「・・そのために、まずこの広大な敷地内からたった一個の小さなボールを見つけ出すという超難関なプロセスを誰よりも早くクリアしなければならない」

PSJパーク内を駆けながら聖川東学園選手団の1人である栗山マナトが独り言を口にした。

「それにしても広すぎる!こんなかから玉っころ1つ探し出せって?正気の沙汰じゃねぇな。警察犬とか麻薬探知犬の訓練場として使うのにうってつけじゃね?」


スクールカースト中の上に君臨する男、菅原聡彦が発言する。

他の仲間たちも、彼に並ぶようにバラバラに走っていた。現在、聖川東学園選手団がいるのは入り口入ってすぐにある『ヤヨイエリア』の一画だ。PSJの玄関口でもある『ヤヨイエリア』にはコーヒーカップやメリーゴーラウンド、観覧車といった、メジャーなアトラクションが一点に集合している。小さな子供や、初めて遊びに来た来場客にとっても一番とっかかりやすいエリアに違いない。いわゆる小規模な普通の遊園地と言ったところだろう。

「この道を直進すれば、目的地の『エドエリア』まであっという間だ。俺たちの内の何人かをあらかじめ岩山周辺に送って哨戒にあたってもらい、敵軍が来たら迎撃・・ってな作戦はどう?」

「素晴らしい意見だと思うよルビア。でもその作戦、相手チームもとっくに実行してる可能性があるよ」

『四刹団』時代は内部でいがみ合っていた仲ではあったものの、今では聖川東学園を守るために真剣に意見交換をかわしてるサファイ&ルビア。


「ごめん、みんな一回足を止めてもらっていい?」


そこに1人の少年が口を挟んできた。その指示通り、選手団が一斉に走るのをストップさせる。

「・・どうしたのかな桐生?時は一刻を争っている。敵軍に目的の玉を先に見つけ出されては元も子もない。のんびりしている暇は無いと思うが」

聖川東学園生徒会長兼選手団長の砦外みくたという男が桐生にたずねた。

「確かにそうだけど・・。急いでたら肝心な『ドッチボール』を見落としてしまうかもしれないぞ。 あと何より、俺たちが今 “ 敵軍の居場所が分からない ” という状況下にいる方が心配だな」

「そういえば・・」

同じ場所からスタートを切った両校だが、火天焔学園の選手団は試合が始まった瞬間に何のためらいもなくバラバラに散って全員が別行動に出て行った。対して聖川東学園選手団は真逆。 12人全員が離れないようにひとまとまりで行動しているのだ。

「あのずる賢い朝霧雄馬の采配だ。油断はできない。『おつり旬』、何かいい案はあるか?」

桐生の問いに対して、ナルシストで銀色の髪が特徴の少年・おつり旬は自分の髪をかき分ける仕草をしながら口を開いた。


「フッ・・」


「 ”フッ・・“ じゃあ分からないかな。何か意見があったら教えて欲しい!」

桐生に指摘されたおつり旬は、両目をつむって服装を正し、香水を全身に吹きかけて、スゥーッ・・・と。一度大きな深呼吸をしてから再び目を開く。  そして口を開いた。


「フッ・・・」


だめだこりゃ。


「まぁコイツは放って置くとし、」


ズッッッシィイイイイン!!


地を揺らす轟音が桐生の一言を遮った。縦揺れの振動によって桐生達の足元がぐらつき、バランスを崩しかける。

「な、なんだ!?」

“頭上” から。桐生達が立っている場所から、わずか1m足らずの地点に大きな物体が突然落下したのだ。 

物体の落下地点のアスファルトが少しへこんでいるのが分かる。 

「こ、これは!?」

空から降って来た物体。 それは、コーヒーカップだった。 みんなも遊園地に行った時、一度は乗った事あるよなぁ?そう、アレだ。アレが丸ごと一個ふっとんできたのだ。 

桐生達の目には、1人の人間の影が映っていた。 安全第一と書かれた黄色いヘルメットを被り、工事現場でよく見るような作業服を着た少年だ。”安全第一“ とは言うものの、当の本人は危険そのものである。

スタッスタッ・・

ゆったりとした挙措で、それでいてどこか野生的な気迫を纏いながら作業服の少年はこちらに近づいてくる。

「何者かな?」

砦外みくたが少年にたずねる。そして少年はすぐに応答した。

「ワイの名は “池田ジョウ” 。『豪腕』の能力者や。朝霧の指示でおまえらを足止めに来た」

「火天焔学園選手団の1人、か。案外早く現れたものだな。挨拶が遅れてすまない。僕は聖川東学園の生徒会長、砦外みくた。他の奴らは今どこで何をしているのかな」

「さぁな、死ね」

池田ジョウにはハナから話すつもりはないらしく、結局は武力行使という手段を選んだ。そして、コーヒーカップのアトラクションコーナーから片手に1つずつカップを掴み取り、腕力だけで持ち上げた。


「みんな避けろ!!」

聖川東学園選手団12人が飛来するコーヒーカップの直撃をまぬがれるために散り散りになる。

ズゴッ、と大きな音を立てて地面に着弾するカップ。

「まだまだ行くで!!」

ブォンッ、ゴゥンッ。

コーヒーカップを次々と素手で持ち上げては投げる池田ジョウ。

ゴッ!ガッ!ドゴンッ!

大量に降り注いでくるコーヒーカップの雨の隙間を上手く縫って器用に躱(かわ)す聖川東学園選手団。

「やばっ・・」

その時、走っていた香月が石につまずき転倒してしまう。そして不運にも彼女の頭上にはジョウが投げ飛ばしたコーヒーカップの1つが。だが当然その間も空を舞うコーヒーカップは、非情にも香月が立ち上がるのを待ってはくれない。

「香月ィイイッッ!!」

叫ぶ一同。

「ひぃッ・・!」

両腕で顔を覆うようにガードをする香月。しかし、直撃の危機は免れた。

ゴキャンッ!!

1人の男が咄嗟に割り込み、飛来するコーヒーカップをなんと頭突きで弾き飛ばして香月を庇ったからだ。

「あぶないっすねぇ!」

声の主は”全身汚物“の異名を持つ魔獣先輩。

「あ、ありがとう・・」

香月は身体を震わせて戦慄していた。自らに迫っていた危機以上に、純粋に魔獣先輩の驚愕に値する石頭に対して、だ。

「大したことはないっすねぇ!!」

魔獣先輩は額から、たら~りと僅かに血を垂らしながらも怯んだ様子を見せない。

「チッ、この程度じゃ揺さぶりにならへんか」


そう言うと、池田ジョウは一旦コーヒーカップを投げるのを中止する。そして予想外の行動に出た。

「オイオイマジか・・」

それを見て桐生があっけらかんとしている。

「ワイの『豪腕』の能力の前じゃ、どんな物体も質量・重量を失う」

言いながら池田ジョウは直径約110メートルもある超巨大な構造物を両手で直接 “持ち上げた” 。

ズズ、ズズズ、ズズズズズ・・

巨大な構造物を支える鉄筋の支柱ごと、めりめりとコンクリートから剥がれていく。

腕力だけで持ち上げられたその構造物とは遊園地の定番 ”観覧車“ である。普段からこのテーマパークに訪れる幸せカップル達も、よもや『人間を下敷きにするために』 観覧車が使われているだなんて想像しないだろう。


「お前たちを 『ナラエリア』に向かわせるわけにはいかん。ここで全員まとめてぶっ潰してやるわ!」

このままジョウのお得意な腕力によって観覧車の本体が振るい落とされれば全員お陀仏確定。 

“ もう終わりだ” 

聖川東学園選手団の全員が思っていた。その中には恐怖におののき腰を抜かしてしまった者も数人いた。
しかし、このどうしようもない絶望的状況の中で1人のヒーローが立ち上がった。

そう。あの銀髪ナルシスト少年、


「「「お、おつり旬ーーーッ!!?」」」


立ちはだかった敵があまりに予想外だったので、巨大な観覧車を頭上に持ち上げたまま呆然とするジョウ。

そして、そんなジョウに構わず口を開くおつり旬。

「フッ。ようやくミーの能力をみんなに披露する時がきたようだな・・」


「「(あのおつり旬が  “フッ・・・“ 以外に言葉をしゃべったぁあああ!!!??)」」


「な、何が始まるんや!?・・ええいクソ!!と、とりあえずくたばれ!!」

ジョウが両腕に力を込めて観覧車を振り上げたその刹那、


                     「アンチグラビティ」


おつり旬の口から初めて耳にする単語が出た。すると、


ググ・・
グググ・・

「ん?」

池田ジョウが異変を感じ取った。

ググググ・・
ググググ・・・

トン単位の重量を誇る観覧車が次第に軽くなっていく。そう、例えるならまるで風船のように。

「( 急に観覧車が軽くなった!?まさか、)」

それだけではない。池田ジョウは自分の身体が発泡スチロールのように軽くなっていく感覚を覚えていた。


フワ~ッ


気付いた時には、トン単位の巨大構造物は 池田ジョウの身体もろとも『上空に打ち上げられていた』。

そう、おつり旬が使用した能力とは文字通り
“ アンチ(反する) グラビティ(重力) ” 。 
地上において物体が地球に引き寄せられる力とは真逆の作用、つまり『斥力』を働かせる能力だったのである。

よって、池田ジョウと観覧車の2つの物体は地面と反発して結果的に浮上してしまったのだ。


ブォッッ!!


「うわわわわッ!!!」

ジョウはジタバタと足掻くが所詮水の泡。一度上空に飛び上がったら最後、ジョウの体はどんどん加速しながら垂直に上昇する一方だ。 あと10分足らずで大気圏に突入している頃合いだろう。

かくして、池田ジョウは観覧車と共に空の彼方へと消えていった。ひとまずは一件落着なのだが、


「うっ・・」

おつり旬の体がぐらりと大きく揺らいだのを全員が見逃さなかった。

「おつり旬、大丈夫か?」

砦外みくたが地面に手をついて倒れそうになった旬の体をなんとか起こす。

「フッ・・。ミーとしたことが、能力は1日に1回しか使えないという事をすっかり忘れていたよ・・。それに一度の使用によって体にかかる負荷はかなり大きいんだ」

「あまり無理はするなよ」


「大丈夫。あと20分くらい経てば回復するよ」


「そうか、なら良かった」

「団長、この後はどうするの?」

副団長の香月あずさがおつり旬にペットボロルの水を飲ませながら砦外みくたにたずねた。

「そうだな・・確か池田ジョウくんはさっき、『ナラエリア』に向かわせるわけにはいかないって言ってたよね。そこに勝利のカギがあるかもしれない」

「そうね、でもこれからは私達も別行動をとった方が得策じゃないかしら?」

そう、『ナラエリア』は現在地の『ヤヨイエリア』から最も遠い最北端に位置する。そこに辿り着くためには、右回りからなら北東から南東の『ヘイアンエリア』、左回りからなら南西の『カマクラエリア』、『ムロマチエリア』を経由する必要がある。

「団長、鶴の一声を頼む」

炎剣を担いだルビアがみくたに指示を促す。

「よし、おつり旬が復活するまでに一旦作戦を練ろう。ここから先はゆっくり慎重に判断するべきだからね」






















































































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