ボケ老人無双

斑目 ごたく

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冒険の始まり

オーガトロルの襲撃

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「ウオオオォォォォォンンン!!!」

 その引っこ抜いた巨木をそのまま叩いて削っただけという棍棒を掲げ、そいつは雄叫びを上げる。
 見上げるようなそのシルエットは、すっかり日の落ちてしまった森の中では、まるでどこまでも届いてしまいそうな大きさに見える。
 そしてその生き物は高さだけでなく、太さもそれ相応に太く、腕などはカレンの一番太い部分よりも太いだろう。
 そんな巨大な魔物が、はっきりとした敵意を滲ませてその場に佇んでいた。

「オーガトロルだ!!」
「・・・その、オーガトロルって?」
「オーガとトロルの交配種だ!奴らは近縁種で子供を作れるが、その子供は子孫を残す能力がないから一代で終わる・・・だから、ほとんど見かける事はない魔物だ」

 現れた魔物の姿に、タックスが声を上げる。
 彼が叫んだ魔物の名前は、オーガトロル。
 オーガとトロルの交配種であり、子孫を残すことのない一代雑種。
 それ故にその存在はほとんど知られておらず、ましてや遭遇することなどほとんどない。
 そんな魔物が、今目の前に現れていた。

「ほとんど見かけないって事は・・・弱いの、あいつ?」
「そんな訳ないだろ!?見ろよ、あの身体の大きさ!雑種は身体が大きくなる傾向があるって聞いたことがあったが、これほどとは・・・それに遭遇情報が少なくて確かな事は言えないが、オーガトロルはトロルの再生能力とオーガのパワーを併せ持つと言われている。それにあの姿・・・聞いていた情報と違うような?まさかっ、変種なのか!?」

 現れた魔物の解説をしてくれるタックスに、恐る恐るカレンは尋ねている。
 そんな彼女にタックスは自らの知識を引っ張り出しては、饒舌に語ってくれていた。
 それはそうする事で、彼が自らを落ち着かせようとしている部分もあったのだろう。

「その、変種って?やばいの?」
「やばいっていうか、危険だな。何せ情報がないって事になるからな。変種ってのは、環境の負荷や何かで特殊な能力を持って生まれた個体の事だ。それが子供を作って、その性質を受け継がれて固定化されると亜種と呼ばれるようになるんだが・・・まぁ今は、特殊な能力を持ったやばい魔物って思っときゃいい。なるほどね、そりゃ七位の旦那も出張ってくるってもんだ。ただでさえ危険な魔物がさらに変種とくれば、な・・・」

 タックスが口にした新たな単語に、カレンは食いつくとそれについても訪ねている。
 それをカレンに向けてペラペラと解説したタックスは、その最後に何かを納得したかのように頷くと、オーガトロルに視線を向けていた。

「・・・どうした、何故動かない?何かを警戒しているのか?」

 こうしてタックスの解説を聞いている間も、何故か現れたオーガトロルはその場を動くことはなかった。
 それに疑問を憶え、タックスはオーガトロルを観察するように目を細める。
 その視線の先には、威嚇するように唸り声を上げるオーガトロルと、その前でボーっと突っ立っているトージローの姿があった。

「痛ててて・・・やってくれるじゃねぇか、デカブツさんよぉ」

 そんなトージローの姿を遮るように、大きなシルエットがゆっくりと起き上がる。
 それは弾き飛ばされた勢いで木へとぶつかり、その衝撃で降り積もった落ち葉に埋もれていたグルドであった。
 彼は痛む首を擦るように動かしながら、その調子を確かめるように骨を鳴らしている。
 そのまま前へと歩いていくグルドは、トージローの前にまで進み出ると、凶悪な表情を浮かべては目の前のさらに巨大なシルエットを睨みつけていた。

「グルド、無事だったのか!!・・・何をしてるんだ?まさかそいつと戦うつもりじゃないだろうな!?無理だ、俺達が敵う相手じゃない!!いいから、さっさとずらかろうぜ!!」

 この場に現れたオーガトロルに真っ先にやられてしまった仲間が、まだ生きていた。
 その事実に喜びの声を上げたタックスはしかし、その後の彼の振る舞いに戸惑い表情を凍りつかせている。
 今、目の前に現れた魔物は、彼らよりもずっと上の階級の冒険者が対応するような存在なのだ。
 それを前にした彼らが出来るのは、ただひたすらに逃げ延びる事しかない。
 そのセオリーともいえる行動とは真逆な振る舞いを見せるグルドに、タックスは理解出来ないと頭を抱えて叫んでいた。

「んなのはぁ、分かってんだよ!!だが忘れんじゃねぇ!俺はエクスプローラー級の冒険者で、俺達はナイト級パーティだって事を!!だったら、逃げるより前にやる事があんだろうが!!!」

 タックスの悲痛な訴えに、グルドはそんなの百も承知だと叫び返す。
 彼はどうやら、個人的な意地やプライドなどではなく、もっと別な理由でそこに立ち塞がっているらしい。

「そうか、そうだったな俺達は・・・嬢ちゃん、爺さんを連れて先に逃げな。ここは俺達が引き受けっからよ」

 グルドが口にした決意の言葉に、タックスも何かを思い出したのか、その場に立ち尽くし何事かを呟いている。
 そしてカレンへと振り返り、その肩へと手をやった彼は何かを決意した顔でグルドの隣へと向かっていた。
 彼らの仲間達もお互いに頷き合うと、彼と同じようにグルドの下へと向かっていく。

「え!?いや、別に私達は逃げなくても大丈夫なんだけど。ていうか、トージローに任せた方が・・・」

 完全に俺達に任せて先に行けという空気を醸し出しているグルド達に、カレンは一人取り残されポカンとした表情を見せている。

「私も残って一緒に戦うってかい?泣かせるねぇ・・・だがな嬢ちゃん、悪いがあんたらは足手纏いなんだ。少しでも俺達を助けようっていう気があんなら、ギルドに戻って応援でも呼んでくるか、七位の旦那を見つけて連れてきてくんな。ほら、爺さん。あんたもいったいった!」

 流れについていけていないカレンが口にした言葉に、目元を覆っては涙ぐむ仕草を見せたグルドは、それを終えると彼女に対して冷たく言い放つ。
 お前達は足手纏いなのだと。
 そして彼は近くで今だボーっと立ち尽くしていたトージローの背中を叩くと、彼をカレンの下にまで押し出していた。

「おいおい、グルド。一人で格好つけてんなよ?俺達も残って戦うんだぞ?」
「あぁん?お前らは俺が残らなきゃ、さっさと逃げようとしてただろうが!!へっ、自業自得なんだよ、ダサい奴らめ」
「はははっ、そう言われちまったら反論出来ねぇな・・・で、どうする?どうやって時間を稼ぐんだ?」

 まるで自分一人で戦うかのように後輩に対して格好つけているグルドに対し、タックスはその身体を肘で突いては、俺達もいるぞとアピールしている。
 そんな彼らに対してグルドは、お前らは逃げようとしていただろう鼻を鳴らしていた。
 その言葉にはタックスも、痛い所を突かれたと頭を掻くしかない。
 そうして苦笑いを浮かべた彼は表情を引き締めると、目の前に佇むオーガトロルに視線向け窺うように尋ねる。
 この怪物相手に、どうやって時間を稼ぐのかと。

「へっ、志の低い奴らめ!目の前にヒーロー級の冒険者が出張ってくるような魔物がいるんだぜ?そいつを倒して名を上げようって心意気の奴はいねぇのか!?」
「ははっ、そう来たか!七位の旦那が出張ってくるような魔物相手に、俺達が?全く正気じゃねぇな・・・お互い」
「ふんっ、お前に言われたかねぇな」

 その問いに対し、グルドは時間を稼ぐつもりはないと答えている。
 その意外な答えに対し思わず笑い声を漏らしてしまったタックスは頭を抱えると、やがてその口元に凶悪な笑みを浮かべていた。

「で、どこまで許容する?一人か?」
「いや、今回は救援があるかもしれねぇんだ。二人までいくぞ」
「へっ、何だよ案外冷静じゃねぇか・・・じゃ、そういう事で」

 もはやすっかり時間稼ぎではなく、命を懸けた戦いへと切り替わってしまった二人は、どこまでの犠牲を許容するかと話し合っている。
 それを最初に切り出したタックスは、その答えによってグルドがどれくらい冷静であるかを見極めようとしたのか。
 それに対して無謀な答えを返すことなく、冷静に状況を分析して見せたグルドにタックスは軽く驚くと、最後に軽くこぶしを合わせては左右に分かれていく。
 その周辺では、彼らの仲間達がそれぞれの位置につこうとしていた。

「え、えーっと・・・何か完全にそういう空気になってるけど、私たち別に逃げる必要とかないんだけど・・・絶対、トージローの方が強いし」

 これから命を懸けた戦いに向かう男達の背中は、切なくとも逞しい。
 そんな背中を見せつけられているカレンは、何か突っ込んではいけないという空気を感じながら頬を掻いていた。
 そんな彼女の隣では、相変わらず何も分かっていない様子のトージローがぼんやりと佇んでいる。

「ま、いっか。何か格好いいこと言ってるし、きっと大丈夫よね?さっきもチームワークが大事とか言ってたし、熟練冒険者の力ってのを見せてくれるはず!勉強させてもらいましょうか。ね、トージロー?」

 今更、やっぱり私達も戦いますとは言い出せない空気に、カレンは無理やり自分を納得させると、完全に観戦を決め込んでその場に座り込んでいた。
 彼女は隣に佇むトージローへと視線を向けると、こちらで一緒に観戦しようと声を掛ける。

「飯はまだかいのぅ・・・」

 その声にも、トージローはいつものように呆けた様子で、今の状況と全く関係のないことを呟くばかりであった。
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