ボケ老人無双

斑目 ごたく

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栄光時代

弟子

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「んだよ、あの女。俺らはトージロー様と話してたってのに・・・」

 道端に落ちていた小石を蹴りつけながら、赤毛の少年ルイスはグチグチと文句を零している。
 彼が今いるその場所は、先ほどカレン達の前から立ち去った場所からさほど離れてはいない。
 それは彼らがこの街に他に行く当てなどなく、トージローだけが頼みの綱であったことを意味していた。

「・・・ルイス兄、お腹空いた」

 そんなルイスに手を引かれ、黙ってその後ろをついていっていたメイがふと立ち止まり、そう呟く。
 彼女のお腹からは、可愛らしい鳴き声が響いてきていた。

「そっか、お腹空いたか。兄ちゃんもペコペコだ」

 その声に立ち止まり、メイと目線に合わせるように膝を屈めたルイスは、彼女の言葉に頷くと自分もそうなのだと笑って見せる。

「待ってろよ、今兄ちゃんが取って来てやるからな」

 そしてルイスは、メイのその栗色の髪を乱暴にかき混ぜると、どこかへと向かおうとしていた。

「・・・んー!」
「何だ、心配してんのか?安心しなって。兄ちゃんが今まで帰ってこなかったことあったか?すぐに戻ってくるから、それまで一人で待ってられるよな?」
「・・・ん」

 しかしそんな彼の手を、メイは掴んでは必死に止めようとしている。
 そんな彼女のルイスは足を止めると、今度はその頭を優しく撫でていた。
 そして言い聞かせるように優しく語りかけるルイスに、メイも静かに頷いていた。

「よし、偉いぞ・・・すぐ、帰ってくるからな」

 自らの言いつけをちゃんと守ると頷いたメイの姿に、ルイスは最後に彼女の頭を軽く叩いて去っていこうとしている。
 その最後に彼が口にした言葉は小さく、メイの耳には届かないだろう。

「あ、やっと見つけた!!何でさっきの場所にいないのよ、あんた達!?探しちゃったじゃない!!」

 そんなしんみりとした空気を台無しにする、騒がしい声が通りの反対側から響く。
 それは手を引かれるままといった様子の老人を連れた、金色の髪の少女の声であった。

「あの女・・・何だよ、まだ俺らに何かあんのかよ!?言っとくけど、俺らは諦めねぇからな!!」

 それは彼らの目標であるトージローを連れた女、カレンであった。
 先ほど彼らの目の前でトージローを攫っていった彼女の再登場に、ルイスは敵意を剝き出しにしては吠え掛かっている。

「お、言ったわね!諦めないって、トージローに弟子入りするって話でいいのよね?間違いない?」
「な、何だよ急に、気持ち悪いな・・・そうだよ、決まってんだろ!?俺らはトージロー様に弟子入りを認めてもらうまで、ぜってぇ諦めねぇからな!!」

 そんな威嚇の意味を込めた声に対して、素早く近づいてきたカレンは何故か嬉しそうに笑顔を見せてくる。
 その手の平を返したかのような馴れ馴れしい態度に、ルイスは気持ち悪さを感じ僅かに身体を震えさせる。
 しかし彼女が確認してきた事は、彼にとって譲れないものであり、それを断言することに躊躇いはない。
 そうして彼は再び宣言していた、トージローの弟子に絶対になると。

「ふふふ、言質は取ったわよ・・・ふふーん!聞いて驚きなさい!!」

 ルイスの宣言をしっかりと聞いたカレンは、彼から顔を背けると何やら呟いている。
 そして彼女は再び顔を上げると、腰に手を当てては大声を上げていた。

「貴方達を、トージローの弟子と認めます!!これからは彼を師匠と仰ぎ、常に一緒に過ごすよーに!!」

 そして彼女は宣言する、彼らをトージローの弟子と認めると。

「・・・は?」

 その先ほどとは真逆の言葉に、ルイスは理解出来ないと言葉を失い、固まってしまう。

「あ、あれ・・・嬉しくないの?君、トージローの弟子になりたかったんでしょ?はい、おめでとー!ぱちぱちぱち!!君達はトージローの弟子になりましたー!!」

 何故だか反応の悪いルイスに、カレンはどこか焦った様子を見せている。
 そして彼女は囃し立てるようにその事実を繰り返し、自らで拍手までしてそれが既成事実だと彼らに言い聞かせようとしていた。

「いや、なに言ってんだお前?さっきと言ってることが違い過ぎるだろ・・・」
「さっきとは事情が変わったのー!女の子には色々あるんですー!!そういうのは聞かないのが、男のマナーってもんでしょうが!!」

 叶った望みにもそれがあまりに突然すぎ、更に言っていることが先ほどから180度変わっていれば戸惑ってもしまう。
 それを突っ込んでくるルイスに、カレンはもはや理屈も捏ねることなく感情論で押し通ろうとしていた。

「とにかく!君達はトージローの弟子になったの!!なに、それに何か文句あるの!?」
「いや、別にないけど・・・?それ、本当なんだろうな?」
「本当、本当!!間違いないから!!私の意見はトージローの意見と同じなの!だから君達は、もうトージローの弟子です!はい、おめでとー!!」

 弟子にしてやると押し掛けるカレンに、それを疑っては引いてしまっているルイスという、いつの間にか立場が逆転した構図に、今度はカレンが必死に彼を説得しようとしている。

「・・・ルイス兄、メイお腹空いた」

 そんな押し問答のような状態になってしまった二人に、救世主が現れる。
 それは可愛らしくお腹から鳴き声を上げながら、二人の間に割って入っていた。

「なに、お腹空いてるの?だったらはい、これ上げる。これでご飯食べてきなさい」

 ルイスの手を引っ張り空腹を訴えるメイに、カレンは膝を屈めると財布を取り出し、そこから幾つかの硬貨を取り出しては彼女に握らせていた。

「い、いいのか!?」
「ははーん、なるほどなるほど・・・いいのよ、これぐらい。トージローの弟子なんだから。それで二人で・・・じゃない、三人でご飯を食べてきなさい。あ、トージローが変な事をしないように、ちゃんと二人で見ておくのよ!?分かったわね!!」

 食事の話をした途端顔色を変えたルイスの姿に、カレンはニンマリと唇を歪めると急に澄ました表情を取り繕う。
 そうして彼らがトージローの弟子であるという事実を強調した彼女は、彼を連れた三人で食事をしてくるように勧めていた。

「・・・ルイス兄」
「メイ・・・お、おぅ!分かった!任せとけ、俺はトージロー様の弟子だからな!」

 カレンから渡された硬貨を握り締め、メイは戸惑うようにカレンとルイスの間で視線を迷わせている。
 そんなメイの表情に何かを断ち切るように頷いたルイスは、自らの胸を叩いて自分がトージローの弟子だと宣言していた。

「よし!それじゃ、お願いね!私は用事があるから!!あ、トージローにはくれぐれも注意するように!?絶対に目を離しちゃ駄目だからね!!」

 ルイスが弟子入りを認める宣言をしたことを確認したカレンは、彼にトージローの事を押しつけると、自分は用事あるとそのまま立ち去っていく。
 その途中で一度立ち止まった彼女は、念入りにトージローから目を離すなと彼らに言いつけていた。

「意外といい奴なのかもな、あいつ・・・」
「・・・ご飯くれる、いい人」

 物凄い勢いで走り去っていくカレンの後姿を、ルイスとメイの二人はいつまでも見送っていた。
 カレンがどうしてそうした行動をしたのか知らない彼らからすれば、彼女はただのいい人にも思える。
 彼女から渡された硬貨を握り締める二人のお腹からは、可愛らしい鳴き声が響く。
 そしてそれは、もう一人のお腹からも響いていた。
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