ボケ老人無双

斑目 ごたく

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栄光時代

お荷物トージロー

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「さーて、なんかちょっと嫌な事があった気もするけど、美味しいものでも食べて気を取り直しますか!」

 まだ先ほどの出来事を引きずっている様子のカレンは、それをわざとらしく口に出すと自分に言い聞かせるように繰り返している。
 彼女が今立っているのは、先日デリックと訪れたレストランであった。
 その煌びやかな内装と美味しそうな料理の匂いは、彼女のイライラとした気分を収めるには十分なものであった。

「緊急依頼っていうのかな?あの時の報酬も入ったし、今日はパーっと楽しもっかな!そうだ!あの時、結局食べれなかったケーキも頼んで・・・」

 自らの気分を盛り上げるように、楽しいことを口にするカレンは、先日は結局口にすることの出来なかったデザートの事を思い出すと、口の中に涎を溜め始めている。
 それは、すっかり機嫌が直った証だろう。

「・・・お客様」
「え、何?」

 そのまま、何もなければ。

「その、お連れの方が・・・」
「・・・あ」

 カレンの肩越しに控えめに声を掛けてきたのは、先日にも見た執事のような格好した老人であった。
 その老人が言い辛そうに示す方へと目をやれば、そこには他のお客のテーブルへと乗り込んでは、その料理を勝手に摘まんでいるトージローの姿があった。

「す、すみません!!すぐ止めさせますので!!ほら、トージローも謝って!!」

 慌ててトージローの下へと駆け寄ったカレンは、彼をそこから引き剥がすと、何とか頭を下げさせようとする。

「・・・こちらで対応しますので、お客様はお帰りになってください」

 しかしそんな必要はないと、老人は告げる。
 その言葉は優しくも聞こえたが、つまりはさっさとここからいなくなれという事だ。

「あ、はい」 

 その言葉に全てを悟ったカレンは、呆けたような表情で了承を返す。
 彼女は悟ったのだ、もうこのお店には二度とこれないという事を。
 そしてもう二度と、あのチーズケーキは食べられないという事を。



「あー、もう!!楽しみだったのに!!あんたの所為なんだからね、トージロー!ちゃんと分かってるの!?」

 そそくさとレストランを立ち去り、それからしばらく通りを歩いてもカレンの怒りは収まる様子を見せない。
 彼女はその苛立ちを現すように肩を怒らせながら歩き、不満をぶちまけている。
 彼女はやがて振り返り、その不満の原因に対して怒鳴りつけている。

「ほぁ?おぉ、分かっとる分かっとるよ。飯の時間じゃろ?」

 しかしそんな彼女の怒りにも、トージローは呆けた顔を浮かべるばかり。
 彼は先ほど中途半端に摘まみ食いをしてしまったからなのか、余計に空いてしまった腹を押さえながら空腹を訴えているようだった。

「はぁ、これだもんな・・・あ、あの鞄いいな。今使ってるのもへたってきたし、買い替えようかな・・・」

 どれだけ怒鳴りつけても暖簾に腕押しといった様子のトージローに、カレンは頭を抱えて溜め息を吐く。
 彼女がその項垂れた顔を横に向けると、そこには冒険者用の装備を販売している店の姿があった。
 その店先に並べられている商品をガラス越しに目にしたカレンは、その中の一つである小ぶりな鞄に目を奪われていた。

「さっきは台無しになっちゃったし、これぐらいいいよね?」

 溜まった不満にそのストレスを解消するためというお題目があれば、財布の紐も緩くなってしまうというもの。
 カレンは自らに対して言い訳をしながらも、その口元は既に緩み笑顔の形を形作っていた。

「ふんふん、ふふーん・・・あっ、そうだ!トージロー、今度はちゃんと大人しくするのよ!!また何か変な事したら、承知しない・・・トージロー?どこに行ったの?」

 ウキウキとした足取りで鼻歌交じりで店へと向かおうとしていたカレンは、その途中で注意しとかなければならないことを思い出していた。
 その注意しなければならない存在、トージローへと振り返った彼女はしかし、その視線の先に彼の姿を見つけられない。

「きゃー!!?お、お客様!?そんな事をされては困ります、困りますからー!!」

 消えてしまったトージローの姿に首を傾げているカレンの背中に、悲鳴が響く。
 それは彼女が今まさに、入ろうとしていた店内から聞こえてきたようだった。

「そんな、嘘でしょ?まさかまた何て、ないよね?あははっ、まさかー!!」

 背中を叩く悲鳴とそこから響いてくる喧騒は、つい先ほど聞いたそれによく似ている。
 それが何なのか、カレンには振り返らずとも分かっていた。
 しかしカレンはそれを受け入れたくはないと現実逃避すると、決して後ろを振り向こうとはせずに、頭に手を当てては乾いた笑いを響かせている。

「うん、そうだ!きっと誰が別の冒険者とかが暴れてるんだよね!嫌だなー、冒険者は乱暴で!これは私が懲らしめないといけないなー!!」

 目を逸らしたまま妄想の世界へと浸っていたカレンは、その場の状況を説明する体のいい言い訳を思いつくと、それを口にしながら振り向いている。

「何じゃ?これは食えんのか?」
「ですから、お客様!!それは食べ物ではございません!!誰か、誰か来てー!!」

 しかし振り向いた先には、彼女が望んだ世界は広がってはいなかった。
 そこには携帯用の保存食にも見えなくもない四角い革製品に噛りついているトージローと、それを必死に止めようとする店員という、地獄のような光景が広がっていた。

「・・・うん、だよねー。分かってた、分かってたけど。はぁ・・・」

 望んだ景色とは似ても似つかない光景が広がっていても、カレンはそれに驚かない。
 それはそれが、予想通りの光景であったからだろう。
 その受け入れたくなかった光景をまざまざと見せつけられ、カレンは改めて深々と溜め息を漏らす。

「トーーージローーー!!!」

 そして彼女はその名を叫びながら、店の中へと駆けこんでいった。
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