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栄光時代
指名依頼
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「はぁ、はぁ、はぁ・・・はー、酷い目に遭った。全く、人気者も辛いわねー!今週だけで、何度サイン攻めにあったか・・・な、何よ?皆してじっと見て・・・」
冒険者ギルドの扉を押し入るようにして飛び込んできた金色の髪の少女カレンは、その揉みくちゃにされ乱れてしまった髪を整えながら、乱れた息を整えている。
彼女は先ほどまで自分がいた場所を振り返りながら、そこで何があったのかを聞いてもいないのに勝手に喋りだしている。
その内容はここ最近、彼女の身に降りかかっている苦労について語るものであったが、その口調はどこか自慢げだ。
そんな彼女の事を、ギルド内にいた冒険者達は一斉に見詰めている。
その奇妙な光景に、カレンは胸へと添えようとしていた手を止めると、ぎょっとした表情で固まってしまっていた。
「あ!分かった、皆私が嘘ついてると思ってるんでしょ?ちっちっちっ・・・違うんだなー、これが。嘘だと思うんなら、表に出て見てみればいいわ!本当に大変だったんだから!全く、ギルドが仕事を邪魔したら出禁っていう決まりを作ってくれなかったらどうなってたか・・・」
しかしそんな奇妙な光景も、今の彼女に掛かれば自らに対する嫉妬だと変換されてしまう。
彼らが嫉妬から自らの言動を疑っていると考えたカレンは、舌を鳴らしながら指を振ると嘘ではないと断言する。
そして疑うならば実際に自分の目で確かめればいいと啖呵を切った彼女に、腰を上げる冒険者は現れる事はなかった。
「カレンちゃん、カレンちゃん!そういうの今いいから、早く早く!貴方に仕事の話が来てるの!」
「エステル?私の仕事の話って、一体何の・・・あ、今は出ない方がいいわよ?私だと勘違いしたファンに揉みくちゃにされちゃうから」
苦労話という体で延々と自慢話を続けるカレンに、エステルが慌てた様子で声を掛けてくる。
カウンターをバンバンと叩いては必死に手招きをしてくる彼女の様子は、どうやらただ事ではないようだ。
カレンはそんな彼女の様子で自慢話を中断しそちらへと歩いていくが、その途中ですれ違った冒険者に対しても、抜かりなくアドバイスと称した自慢を繰り返していた。
「はいはい、分かった分かった。そういうのは、また今度。今は急いでるからよ・・・うおぉぉぉ!!?」
カレンの注意を受けた冒険者は、彼女の言葉を真に受けることなく聞き流し、そのままギルドの外へと出ていってしまう。
そしてその先から聞こえてきたのは、彼をカレンと勘違いしたファンの怒号のような歓声と、彼の悲鳴だけであった。
「あーぁ、だから今は出ない方がいいって言ったのに・・・それで仕事の話って?あれ、でも冒険者の仕事って張り出された依頼から、自分達が好きなのを選んで決めるんじゃなかったっけ?そっちから仕事の話をされることなんて・・・あっ、分かった!前のみたいな、緊急依頼って奴?あの時は事後に依頼を受けたって形になったけど・・・ん?でも別に今、特に騒ぎとか起こってなくない?」
聞こえてきた悲鳴にカレンは軽く頭を抱えると、溜め息を漏らしている。
それでそのことについては終わりと受付のカウンターに体重を乗せたカレンは、エステルに先ほどの話はどういう事かと尋ねていた。
しかし彼女はその途中でそれが、いつもの事ではないと気づいていた。
確かにこれまで依頼を受ける時の窓口はエステルが担当しており、いつの間にかそれが既成事実のようになっていたが、それはあくまでこちらから依頼を受ける時に限った話であった。
今回のように、エステルの方から仕事を振ってきたことなど、今まで一度だってなかった筈なのだ。
「そうじゃありません!!カレンちゃん、そのね・・・落ち着いて聞いて欲しいんだけど。カレンちゃんに依頼が来ています・・・カレンちゃん御指名で、しかも貴族から」
そんな特殊な事態に、カレンは同じく特殊な状態であった前回の騒ぎについて思い出していた。
あの時はギルドで依頼を受けるまでもなく飛び出して、後になってから緊急依頼という形で仕事を請け負ったことになったのだ。
今回もあの時と同じなのではと尋ねるカレンに、エステルは大声で否定すると、ごくりと生唾を飲み込んでいた。
そして彼女は告げる、貴族からカレンに指名の依頼が届いたのだと。
「ふーん、指名なんて出来るんだ。それで、それがどうかしたの?」
そんな緊張感たっぷりエステルが告げた言葉に、カレンは単に初耳だと感想を漏らしている。
彼女はそれがどういった意味を持つのかさっぱり分からないと、不思議そうに首を傾げている。
「それがどうしたのって・・・指名だぞ、指名!?」
「指名依頼なんて、一流冒険者の証みたいなもんだろうが!?」
「俺らだってまだ、一度だって指名されたこと何てねぇのに・・・それも貴族からだって!?ふざけんなよ、こんちくしょー!!」
そんなカレンの態度に、怒りの言葉を上げたのは彼女の動向を注視していた他の冒険者達であった。
彼らは口々に指名依頼というものが冒険者にとっていかに名誉であるかを語り、それに対してそんな気のない態度を見せているカレンを信じられないと叫んでいた。
「へー・・・そういうもんなんだ。一流冒険者の証、ね・・・ふへへへ」
身体を仰け反らせ天井を見上げては叫ぶ若い冒険者や、まだ食べきれていない食事の乗ったテーブルに思いっきりこぶしを叩きつけてはそれを台無しにしている壮年の冒険者の姿に、カレンもそれが大変な事態なのだと今更ながら実感したようだ。
彼女はそんな光景を目の当たりにしながら呟くと、何やら不気味な笑みをその口元に浮かべていた。
「そ、それでその依頼って?一体誰が私を指名してくれたの!?」
「それがですね、聞いて驚かないでくださいよ・・・このグリザリドの領主、グリザリド辺境伯の一人娘、レティシア・グリザリド様からの依頼なんです!何でも彼女、カレンちゃんの熱心なファンなんですって!!」
ようやく事態を飲み込めてきたカレンは、ふにゃふにゃと緩んでしまう口元で何とかその依頼の詳細についてエステルに尋ねている。
それにエステルは彼女の耳に口を寄せると、周りの注目がちゃんと集まっているかしっかり確認した上で、その名前を大声で告げていた。
「はー!!?いきなり領主様からの依頼だと!?んだよ、それ!!」
「馬鹿、ちゃんと聞いてたのか?領主じゃなくて、その娘からだよ!」
「それに何の違いがあるってんだよ!?辺境伯がその一人娘を溺愛してるってのは有名な話だろ!?どっちみち言いなりなんだから、変わりゃしねぇっての!!」
「何でそんな相手からの依頼が、冒険者になって一か月も経ってないド素人に・・・何だ、顔か!?結局、顔が全てってか!!?」
指名依頼、しかも貴族からのというだけでも騒いでいた冒険者達は、それがこのグリザリドの領主の一人娘からのものだと知ると、更に激しさを増して騒ぎ始めている。
彼らはカレンのような冒険者になって間もない素人同然の人間が、そんな僥倖に預かるのが納得がいかないと叫び、彼女と自分達の違いは何なのだと怒鳴り散らしていた。
「はいはい、うだつの上がらない三流冒険者の皆さんはちょっと黙っといてくださいねー?これから、うちのホープのカレンちゃんに仕事の説明をしないといけないのでー」
そんな彼らの事を、エステルは火に油を注ぐような発言で煽っている。
当然彼らはその発言に激しく反発していたが、エステルはもはやそんな言葉は聞こえませんと、耳を塞ぐパフォーマンスをして見せていた。
「あ、でも!依頼の話なら、トージローも呼んでこないと!ちょっと待ってて、すぐに呼んでくるから!」
最近の成功で自らの実力に自信が出てきたカレンも、流石に貴族からの指名依頼という大舞台に一人で挑むほどの勇気はまだない。
彼女は早速依頼の詳細について話そうとしているエステルに、相棒であるトージローを呼んでくるからと声を掛けると、そのままその場を後にしようしていた。
「その必要はないですよ?カレンちゃん指名の依頼ですから、一人で大丈夫です。あっ、逆に一人じゃないと駄目ですよ?指名依頼ですからねー」
そんなカレンに、エステルの無慈悲な声が後ろから掛かる。
それはカレンを指名した依頼なのだから、それ以外の人間はそれについていっては駄目だというものであった。
「えっ、でも先輩。依頼主と交渉すれば、問題ないんじゃ?」
「領主様の一人娘と交渉なんて出来る訳ないでしょ!?御不興を買ったら、どうなるか・・・ぶるるっ!!大体、あんなお爺ちゃんをわざわざ連れていく必要なんてないでしょ?はい、分かったらいったいった!これは私の担当案件ですからね!口を挟まないでくれる!?」
「はぁ・・・先輩がそう言うなら、別にいいんですけど」
エステルの言葉に、彼女の後輩であるピーターが他にやりようがあるのではと指摘している。
しかしそれにエステルは反論すると、トージローのような老人をわざわざ連れていくメリットなどないと、至極当然の事実を告げていた。
「・・・えっ?」
しかしそんな二人のやり取りなど、カレンの耳には届いていない。
彼女は貴族からの指名依頼という重要な依頼を、トージローの力を借りずに一人でこなさなければならないという事実に、呆然自失といった様子で固まってしまっていたのだった。
冒険者ギルドの扉を押し入るようにして飛び込んできた金色の髪の少女カレンは、その揉みくちゃにされ乱れてしまった髪を整えながら、乱れた息を整えている。
彼女は先ほどまで自分がいた場所を振り返りながら、そこで何があったのかを聞いてもいないのに勝手に喋りだしている。
その内容はここ最近、彼女の身に降りかかっている苦労について語るものであったが、その口調はどこか自慢げだ。
そんな彼女の事を、ギルド内にいた冒険者達は一斉に見詰めている。
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苦労話という体で延々と自慢話を続けるカレンに、エステルが慌てた様子で声を掛けてくる。
カウンターをバンバンと叩いては必死に手招きをしてくる彼女の様子は、どうやらただ事ではないようだ。
カレンはそんな彼女の様子で自慢話を中断しそちらへと歩いていくが、その途中ですれ違った冒険者に対しても、抜かりなくアドバイスと称した自慢を繰り返していた。
「はいはい、分かった分かった。そういうのは、また今度。今は急いでるからよ・・・うおぉぉぉ!!?」
カレンの注意を受けた冒険者は、彼女の言葉を真に受けることなく聞き流し、そのままギルドの外へと出ていってしまう。
そしてその先から聞こえてきたのは、彼をカレンと勘違いしたファンの怒号のような歓声と、彼の悲鳴だけであった。
「あーぁ、だから今は出ない方がいいって言ったのに・・・それで仕事の話って?あれ、でも冒険者の仕事って張り出された依頼から、自分達が好きなのを選んで決めるんじゃなかったっけ?そっちから仕事の話をされることなんて・・・あっ、分かった!前のみたいな、緊急依頼って奴?あの時は事後に依頼を受けたって形になったけど・・・ん?でも別に今、特に騒ぎとか起こってなくない?」
聞こえてきた悲鳴にカレンは軽く頭を抱えると、溜め息を漏らしている。
それでそのことについては終わりと受付のカウンターに体重を乗せたカレンは、エステルに先ほどの話はどういう事かと尋ねていた。
しかし彼女はその途中でそれが、いつもの事ではないと気づいていた。
確かにこれまで依頼を受ける時の窓口はエステルが担当しており、いつの間にかそれが既成事実のようになっていたが、それはあくまでこちらから依頼を受ける時に限った話であった。
今回のように、エステルの方から仕事を振ってきたことなど、今まで一度だってなかった筈なのだ。
「そうじゃありません!!カレンちゃん、そのね・・・落ち着いて聞いて欲しいんだけど。カレンちゃんに依頼が来ています・・・カレンちゃん御指名で、しかも貴族から」
そんな特殊な事態に、カレンは同じく特殊な状態であった前回の騒ぎについて思い出していた。
あの時はギルドで依頼を受けるまでもなく飛び出して、後になってから緊急依頼という形で仕事を請け負ったことになったのだ。
今回もあの時と同じなのではと尋ねるカレンに、エステルは大声で否定すると、ごくりと生唾を飲み込んでいた。
そして彼女は告げる、貴族からカレンに指名の依頼が届いたのだと。
「ふーん、指名なんて出来るんだ。それで、それがどうかしたの?」
そんな緊張感たっぷりエステルが告げた言葉に、カレンは単に初耳だと感想を漏らしている。
彼女はそれがどういった意味を持つのかさっぱり分からないと、不思議そうに首を傾げている。
「それがどうしたのって・・・指名だぞ、指名!?」
「指名依頼なんて、一流冒険者の証みたいなもんだろうが!?」
「俺らだってまだ、一度だって指名されたこと何てねぇのに・・・それも貴族からだって!?ふざけんなよ、こんちくしょー!!」
そんなカレンの態度に、怒りの言葉を上げたのは彼女の動向を注視していた他の冒険者達であった。
彼らは口々に指名依頼というものが冒険者にとっていかに名誉であるかを語り、それに対してそんな気のない態度を見せているカレンを信じられないと叫んでいた。
「へー・・・そういうもんなんだ。一流冒険者の証、ね・・・ふへへへ」
身体を仰け反らせ天井を見上げては叫ぶ若い冒険者や、まだ食べきれていない食事の乗ったテーブルに思いっきりこぶしを叩きつけてはそれを台無しにしている壮年の冒険者の姿に、カレンもそれが大変な事態なのだと今更ながら実感したようだ。
彼女はそんな光景を目の当たりにしながら呟くと、何やら不気味な笑みをその口元に浮かべていた。
「そ、それでその依頼って?一体誰が私を指名してくれたの!?」
「それがですね、聞いて驚かないでくださいよ・・・このグリザリドの領主、グリザリド辺境伯の一人娘、レティシア・グリザリド様からの依頼なんです!何でも彼女、カレンちゃんの熱心なファンなんですって!!」
ようやく事態を飲み込めてきたカレンは、ふにゃふにゃと緩んでしまう口元で何とかその依頼の詳細についてエステルに尋ねている。
それにエステルは彼女の耳に口を寄せると、周りの注目がちゃんと集まっているかしっかり確認した上で、その名前を大声で告げていた。
「はー!!?いきなり領主様からの依頼だと!?んだよ、それ!!」
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「何でそんな相手からの依頼が、冒険者になって一か月も経ってないド素人に・・・何だ、顔か!?結局、顔が全てってか!!?」
指名依頼、しかも貴族からのというだけでも騒いでいた冒険者達は、それがこのグリザリドの領主の一人娘からのものだと知ると、更に激しさを増して騒ぎ始めている。
彼らはカレンのような冒険者になって間もない素人同然の人間が、そんな僥倖に預かるのが納得がいかないと叫び、彼女と自分達の違いは何なのだと怒鳴り散らしていた。
「はいはい、うだつの上がらない三流冒険者の皆さんはちょっと黙っといてくださいねー?これから、うちのホープのカレンちゃんに仕事の説明をしないといけないのでー」
そんな彼らの事を、エステルは火に油を注ぐような発言で煽っている。
当然彼らはその発言に激しく反発していたが、エステルはもはやそんな言葉は聞こえませんと、耳を塞ぐパフォーマンスをして見せていた。
「あ、でも!依頼の話なら、トージローも呼んでこないと!ちょっと待ってて、すぐに呼んでくるから!」
最近の成功で自らの実力に自信が出てきたカレンも、流石に貴族からの指名依頼という大舞台に一人で挑むほどの勇気はまだない。
彼女は早速依頼の詳細について話そうとしているエステルに、相棒であるトージローを呼んでくるからと声を掛けると、そのままその場を後にしようしていた。
「その必要はないですよ?カレンちゃん指名の依頼ですから、一人で大丈夫です。あっ、逆に一人じゃないと駄目ですよ?指名依頼ですからねー」
そんなカレンに、エステルの無慈悲な声が後ろから掛かる。
それはカレンを指名した依頼なのだから、それ以外の人間はそれについていっては駄目だというものであった。
「えっ、でも先輩。依頼主と交渉すれば、問題ないんじゃ?」
「領主様の一人娘と交渉なんて出来る訳ないでしょ!?御不興を買ったら、どうなるか・・・ぶるるっ!!大体、あんなお爺ちゃんをわざわざ連れていく必要なんてないでしょ?はい、分かったらいったいった!これは私の担当案件ですからね!口を挟まないでくれる!?」
「はぁ・・・先輩がそう言うなら、別にいいんですけど」
エステルの言葉に、彼女の後輩であるピーターが他にやりようがあるのではと指摘している。
しかしそれにエステルは反論すると、トージローのような老人をわざわざ連れていくメリットなどないと、至極当然の事実を告げていた。
「・・・えっ?」
しかしそんな二人のやり取りなど、カレンの耳には届いていない。
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