ボケ老人無双

斑目 ごたく

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トージロー

安堵

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「へへ、クロケットか久しぶりだな・・・タルカ姉ちゃんの料理は美味いから・・・何だ、カレンか。どうしたんだ、そんなに急いで―――」

 タルカから今日の晩御飯の献立を聞き、それを分けてもらえる言質を取ったルイスは、両手を頭の後ろに回しては嬉しそうにしている。
 そのすぐ後ろには、同じく嬉しそうに僅かに跳ねているメイの姿があった。

「トージローはどこ!?答えなさい!!?」

 そしてそこに、トージローの姿はない。
 それを確認したカレンは、ルイスの胸ぐらをつかむとそのまま彼を壁へと押しつけ、激しく詰問する。

「っ!?何だよ、急に!!?」
「いいから答えなさい!!トージローは今どこにいるの!!?」

 いきなりやってきては壁に押しつけてくるカレンに、ルイスは当然のように戸惑い驚きの声を上げている。
 しかしカレンはそんな彼の事などお構いなしに、とにかく早くトージローの居場所を教えろと怒鳴っていた。

「ひ、秘密だ!!」
「秘密!!?秘密ですって!?・・・そう、やっぱり貴方達もそうなのね」

 カレンの激しい詰問に、ルイスは顔を上げると秘密だと叫んでいる。
 その言葉に一瞬、更に苛立ちを強めたカレンはしかし、すぐに何かを悟ったような表情になると彼の身体から手を離していた。

「はぁ?何なんだよ、お前!?何がしたいんだよ!?」
「そ、そうですよカレンさん!?おかしいですよ!!」

 カレンに解放されたルイスは、締めつけられ痛んだ首筋を擦ると、彼女に対して一体何なのだと叫んでいる。
 その横からは、タルカも同じように訳が分からないという表情でカレンの行動を責めてきていた。

「・・・今はそんなのに付き合ってる暇ないから。メイ、貴方はどうなの?トージローがどこにいるか知らない?」

 そんな二人の非難にも、カレンは今はそれどころではないと相手にしない。
 そして彼女は膝を屈めると、少し離れて所で怯えているメイと視線を合わせていた。

「・・・し、知らない。あの公園にいるなんて、メイ知らないもん!」
「馬鹿!!それは秘密だって、言ってんだろ!!」

 カレンはメイに視線の高さを合わせては優し気な口調で彼女に語り掛けていたが、先ほどの光景を目にしたばかりの彼女からすれば、それは逆に恐怖を誘う仕草にもなるだろう。
 そのためかメイは必死に何かを否定するように首を横に振ると、思わずカレンが欲しがっている情報を叫んでしまっていた。

「・・・そう、ありがとう。貴方はいい子ね、メイ」

 それを耳にしたカレンは、メイの頭を優しく撫でるとそのまま宿を飛び出していく。
 あの公園とは、かつて彼らが奇妙な修行をしていたあの公園しかないだろう。
 そしてそれは、この宿のすぐ近所であった。



「はっ、はっ、はっ・・・っ!?いた!」

 宿を飛び出し、目的地である公園へと続く路地を走るカレンは、その視線の先にトージローの姿を見つける。
 それはまさに、その公園のベンチに佇んでいる彼の姿であった。

「嘘でしょ、まさか本当に・・・」

 そしてそのベンチの隣へと座っている黒髪の女性へと牙を剥き、今まさにそれに噛みつこうとしている彼の姿であった。

「止めなさい、トージロー!!止めろぉぉぉ!!!」

 今からそこに駆け込んでも、どう考えてもトージローの牙が女性の首筋に届く方が早い。
 それでもカレンは、それを何とか止めようと駆ける。
 しかしその願いも空しく、トージローはその目標へと牙を立ててしまっていた。

「ほがほが・・・」
「あら、カレン様?どうしてこちらに?」

 全速力で駆け抜け、公園へと飛び込んだカレンの視界には、突き抜けた生垣に飛び散った小枝が舞っている。
 そんな視界の向こうには、女性が手にしたお菓子を頬張るトージローの姿と、それを持ったまま不思議そうな顔でこちら見詰めているレティシアの姿があった。

「へ?ど、どういう事・・・?」

 最悪の事態を想像して飛び込んだ先に待っていたのは、驚くほどのほのぼのとした光景だった。

「もしかして、私が一人で勘違いしてたの?そんなぁ・・・」

 そのギャップに力を失い、カレンはその場にへなへなと腰を落としていく。

「あ、シア姉!ごめん、秘密だって約束したのに話しちまった!」
「・・・ごめんなさい」
「あら、いいのよ。他の人に言われたら困ってしまうけど、カレン様なら問題ないわ。あぁ、それとこれ食べてね。固く焼かせたから、数日なら持つんですって」

 力を失いその場に蹲ってしまうカレンの背後から、声が掛かる。
 それは彼女を追いかけて宿から出てきていた、ルイス達のものだ。
 彼らはレティシアに約束を破ってしまったと、頭を下げて謝っている。
 そんな彼らにレティシアは気にすることはないと告げると、色々な食糧の詰まったバスケットを差し出していた。

「あぁ、そういう・・・えっと、レティシアは何でここに?」
「えっ!?そ、それは・・・その・・・ぽっ」

 そのやり取りは、彼らが何故頑なに口を開かなかったのかという理由と、その食糧事情が何故カレンよりも恵まれていたのかという事を、明確に説明していた。
 それに納得を示しているカレンは、そもそも何故レティシアがここにいるのかと尋ねる。
 その問いに対して、レティシアは急にもじもじと口籠ると、トージローの方を見詰めてはぽっと頬を赤く染めてしまっていた。

「はいはい、そういう事ね・・・はぁ、心配して損しちゃった」

 その視線と表情だけで全てが説明出来ると、カレンは肩を竦めている。
 よく見てみれば今のレティシアの格好は、カレンがかつて目にした彼女の格好と比べると格段に地味であり、まさに貴族の御令嬢のお忍びといった格好であった。

「ふがふが・・・」

 激しく焦った反動で、一気に力が抜けてしまっているカレンの目の前で、トージローだけが必死に差し出されたお菓子を頬張り続けていた。
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