ボケ老人無双

斑目 ごたく

文字の大きさ
63 / 78
トージロー

吸血鬼の弱点 2

しおりを挟む
「今だっ!!」

 勝利を確信し、因縁の相手の血をようやく口にする甘美な喜びに浸っているドラクロワは隙だらけだ。
 それを待っていたかのように閉ざしていた目を見開いたカレンは、鞄へと突っ込んでいた手をそのままドラクロワの胸へと突き出していた。

「ぐっ!?な、何をした娘ぇぇぇ!!?」
「ふふーん!純銀製の杭よ!!これこそ、あんた達吸血鬼の弱点って奴でしょ!?どうだ、参ったか!!」

 カレンが鞄から取り出し、突き出したのは純銀で出来た杭であった。
 それを心臓に突き刺され狼狽えるドラクロワに、カレンは勝ち誇ったように胸を張っていた。
 吸血鬼の弱点と言えば銀であり、さらにその心臓を杭で貫かれることだ。
 それを合わせ技でドラクロワを突き刺したカレンは、完全に勝利を確信していた。

「・・・なるほど。これが人間が考える、我々の弱点という訳か。くだらんな」
「・・・は?」

 しかしドラクロワは苦しげな表情で押さえていた胸元から手を放すと、そこに突き刺さっていた筈の銀の杭を摘まみ上げて見せていた。
 そんなドラクロワの姿に、カレンは信じられないという表情で固まってしまっていた。

「ちょ、ちょっと待ってよ!?あんた、何で平気そうな顔してんのよ!?」
「何でだと?逆に聞きたいのだが、こんなもので私が倒せると本気で考えていたのか?」

 吸血鬼の弱点である銀を、その急所である筈の心臓に突き刺したのだ。
 その完璧な作戦を成し遂げた筈のカレンは、それでもなお平気そうにしているドラクロワに意味が分からないと頭を抱えてしまっている。
 そんな彼女にドラクロワは、摘まみ上げた銀の杭を示して見せていた。
 その先端には血の一滴もついてはおらず、彼はそれを指先で潰して見せると、ただのゴミのように放り捨ててしまっていた。

「こんな玩具で私を傷つけられる訳がなかろう?」
「じゃ、じゃあ何で、銀が有効なんて話が広まってるのよ!?」
「ふむ、そうだな・・・それは大変遺憾ではあるが、まだ未熟な同族が身を守るために広めたのだろう。たとえ未熟な同族でも、この程度の攻撃ならば容易くしのげるからな」

 柔らかい銀は、武器として使うには不適格だ。
 そんなものが吸血鬼の弱点だとどうして広まったのだと尋ねるカレンに、ドラクロワはそうした方が同族にとって有利だからだと答えている。
 彼が今考えたその説は、それにまんまと乗せられてしまったカレンの今の状況を見るに、確かに有効な手段であるようだった。

「あぁ、ついでに言うと心臓が弱点なのは本当だ。だから、まだ奥の手があるのならちゃんとここを狙うのだぞ?どうした、何かないのか娘よ?」

 奥の手が潰えた絶望に膝をついているカレンに、ドラクロワは心臓へと手をやりながら、まだ手があるのならばちゃんとここを狙えと示している。
 彼はそのポーズのままカレンの顔を覗き込んでは、もっと手はないのかと尋ねていたが、カレンはそれにただただ震えるばかりで何も返すことは出来ない。

「・・・そうか、これで終わりか。興が削がれた、あの男の血族を眷属にするのも一興かと思ったが・・・この因縁も、もはや終わりにすべきであろうな」

 もはや抵抗する意思すら見せないカレンの姿に、詰まらなそうに鼻から息を漏らしたドラクロワは、その手を横に伸ばすとそれを鎌へと姿を変えていた。
 そのおどろおどろしい姿はまさしく、死神の鎌だ。
 それを振り上げたドラクロワの姿に、彼女にとっては文字通りそうなってしまう事が確定しようとしていた。

「カレン様!!杖を、霊杖ユグドラシルを使うのです!!貴方のお爺様のように!!」

 その時、広場から伸びる通りの一つから、鋭い声が響いていた。

「レティシア!?何故ここに戻ってきたのだ!?お前達も、何をボーっと突っ立っている!?早く娘を安全な場所に連れていかないか!!」
「わ、わかってまさぁ領主の旦那!!さ、お嬢さん。ここは危ねぇ!向こうに行きましょうぜ!」
「駄目です!!このままでは、カレン様が!!カレン様、カレン様お立ちくださいませ!!まだ諦めてはなりません!!」

 それは先ほどまでドラクロワに捕らえられていた領主の娘、レティシアであった。
 レティシアは彼女を救出したグルド達を羽交い絞めにされながらも、何とかカレンに声を届けようと、その声を張り上げている。
 その声に、カレンの指先がピクリと動いた。

「何だあれは?全く、人間という生き物は度し難い。今更騒いだところで・・・」

 突然巻き起こった騒動に、ドラクロワはその手を止めてそちらへと視線を向けている。
 そしてそこで起きている騒動のくだらなさに、彼は呆れるように首を横へと振っていた。

「・・・お爺様、力をお貸しください」

 それでもそのくだらなさが作ってくれた時間は、確かに存在した。
 それはカレンが絶望の余り手放してしまった霊杖ユグドラシルを、再び握りしめるには十分な時間だった。

「こんのおぉぉぉぉぉぉ!!!」

 祖父が残したという、この霊杖ユグドラシルがどのような力を秘めているのか、それはカレンには分からない。
 分かっているのは、祖父が目の前の吸血鬼を封印したときにこれを使ったという事と、もはやその力に頼るしかないという今の状況だけだ。
 だから、彼女はそれを全力で振り抜く。
 その先端からは、眩い光が溢れていた。

「・・・こんなものか?」
「あ、あぁ・・・そんな・・・」

 交差した刃に、弾けた火花は一瞬の光か。
 振り抜いた杖はドラクロワの掲げた鎌に止められ、そこから一歩たりとも動かない。
 それはそれ以上、特別な力や効果を及ぼすことはなく、ただの杖としてそこにあるだけであった。

「ふん、その杖の力も碌に使いこなせんか。これでは、あの男の名が泣くな。もういい、娘。お前は私の前から消えろ」

 祖父の形見から何の特別な力も引き出せないカレンの姿に、ドラクロワは失望したかのように鼻を鳴らすと、雑な手つきで手を変化させた鎌を振るう。
 それは余りに自然な仕草で、攻撃だとは認識出来ない。
 事実、彼にとってそれはもはや攻撃ではないのだろう。
 目の前のゴミを、どこかへと払おうとするそんな仕草であった。

「がっ!!?」

 それを咄嗟に手にした杖で受けたのは、彼女の機転であったのか、それともただの偶然だったのか。
 祖父の形見、霊杖ユグドラシルはその名に違わぬ丈夫さで、ドラクロワの刃にも耐えて見せている。
 しかしそれは、霊杖ユグドラシルだけの話だ。
 最後の切り札も破れ、もはや心が折れてしまっているカレンは、その衝撃に為す術もなく吹き飛ばされている。
 霊杖ユグドラシルのお陰で真っ二つになる事は防いだその身体も、このまま何の受け身も取らないまま何かに衝突すれば、それはそのまま致命傷を意味するだろう。
 しかしカレンはもはや全てを諦めてしまったかのように、ぐったりと空を見上げるばかりだった。

「っ!?何・・・何が・・・?」

 そんな彼女を誰かが受け止める。
 しかし吸血鬼の異常な膂力によって吹き飛ばされた彼女の身体は、相当な勢いだった筈だ。
 そんな彼女を、一体誰が受け止めたのか。

「何よ、遅かったじゃない・・・」

 答えは、一つしかない。
 その顔を見上げたカレンの頬には、安堵の涙が流れていた。

「ほっほっほ・・・お嬢ちゃんもう大丈夫じゃよ。後はわしに任せておくのじゃ」

 物凄い勢いで吹き飛ばされてきたカレンを軽々と受け止めた男、トージローはニコニコと朗らかに笑いながら彼女を脇へと下ろしている。
 そして彼はドラクロワへと真っ直ぐに歩みを進めると、後はわしに任せておけと背中で語っていた。
 彼の背後には、それを見送るように手を振っているルイスとメイの姿があった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

「魔法を使わない魔術師を切り捨てた国は、取り返しのつかない後悔をする

藤原遊
ファンタジー
魔法を使わない魔術師は、役に立たない。 そう判断した王国は、彼女を「不要」と切り捨てた。 派手な魔法も、奇跡も起こさない。 彼女がしていたのは、魔力の流れを整え、結界を維持し、 魔法事故が起きないよう“何も起こらない状態”を保つことだけだった。 代わりはいくらでもいる。 そう思われていた仕事は、彼女がいなくなった途端に破綻する。 魔法は暴走し、結界は歪み、 国は自分たちが何に守られていたのかを知る。 これは、 魔法を使わなかった魔術師が、 最後まで何もせずに証明した話。 ※主人公は一切振り返りません。

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

辺境貴族ののんびり三男は魔道具作って自由に暮らします

雪月夜狐
ファンタジー
書籍化決定しました! (書籍化にあわせて、タイトルが変更になりました。旧題は『辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~』です) 壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。

攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】

水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】 【一次選考通過作品】 ---  とある剣と魔法の世界で、  ある男女の間に赤ん坊が生まれた。  名をアスフィ・シーネット。  才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。  だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。  攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。 彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。  --------- もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります! #ヒラ俺 この度ついに完結しました。 1年以上書き続けた作品です。 途中迷走してました……。 今までありがとうございました! --- 追記:2025/09/20 再編、あるいは続編を書くか迷ってます。 もし気になる方は、 コメント頂けるとするかもしれないです。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

無能烙印押された貧乏準男爵家三男は、『握手スキル』で成り上がる!~外れスキル?握手スキルこそ、最強のスキルなんです!

飼猫タマ
ファンタジー
貧乏準男爵家の三男トト・カスタネット(妾の子)は、13歳の誕生日に貴族では有り得ない『握手』スキルという、握手すると人の名前が解るだけの、全く使えないスキルを女神様から授かる。 貴族は、攻撃的なスキルを授かるものという頭が固い厳格な父親からは、それ以来、実の息子とは扱われず、自分の本当の母親ではない本妻からは、嫌がらせの井戸掘りばかりさせられる毎日。 だが、しかし、『握手』スキルには、有り得ない秘密があったのだ。 なんと、ただ、人と握手するだけで、付随スキルが無限にゲットできちゃう。 その付随スキルにより、今までトト・カスタネットの事を、無能と見下してた奴らを無意識下にザマーしまくる痛快物語。

お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~

志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」 この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。 父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。 ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。 今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。 その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。

処理中です...