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トージロー
カレンファイヤー
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「おい、カレン。お前あれはどうしたんだ?あの、カレンファイヤーだとかいうのは?」
「はぁ、はぁ、はぁ・・・はぁ?あんた何言ってんのよ?あんなの、新聞が勝手に言ってるに決まってるでしょ?」
「へ、そうかよ。ま、そんな事じゃねぇかと思ってたけどよ・・・」
荒い呼吸に肩を上下させているグルドは、潜めた声で隣のカレンへと話しかけている。
肩を合わせるような距離で彼が話しかけてきたのは、目の前のヴァーデにその話を聞かれないようにするためだろう。
そんな態度で彼が訪ねてきたのは、新聞にでっち上げられたカレンのありもしない必殺技についてだった。
そんなのある訳がないと返すカレンに、グルドは驚きを見せない。
それは彼が始めからそんなものある訳ないと思っていた事と、そんなものに頼らなければならないほど、今の状況が悪いことを示していた。
「作戦会議は済んだのかい?それで作戦は?このヴァーデを打倒する、秘策とやらは考えついたのかかな?」
肩を寄せ、ひそひそと話し合う二人の姿は隙だらけだ。
そんな二人を攻撃せず見逃したのは、それだけで彼らの敵であるヴァーデに余裕があったからに他ならない。
彼は二人が話し終わるのを見越して自らの影で作った椅子から立ち上がると、肩を竦めては自らを打倒するための作戦は思いついたのかと尋ねていた。
「はっ、当たり前よ!!聞いて驚くなよ、そいつはなぁ・・・」
「へぇ、どんな作戦なんだい?楽しみだなぁ」
余裕の態度を崩さずにこちらへと耳を傾けてくるヴァーデに、グルドは凶悪な笑みを作るとはったりをかまそうとしている。
それはただの強がりであったかもしれなかったが、彼の口ぶりに興味津々といった様子のヴァーデに、少なくとも注意を引くだけの効果はあったようだ。
「正面突破だよ!!」
引きつけた注意にグルドは突撃すると、身体の影に隠していた斧を振り下ろす。
「・・・やれやれ、やはり人間というのは度し難いね。あれだけ時間を上げたのに、考えついたのがこの程度とは」
会話に興味を引き付けてからの奇襲も、正面からではさほど効果はない。
グルドが振り下ろした斧も、ヴァーデによって軽々と受け止められ、その腕には傷一つついてはいなかった。
「はっ、言ってろ・・・カレン!!」
「分かってる・・・っての!!」
軽々と受け止められてしまった奇襲にも、グルドはその凶悪な笑みを浮かべたままだ。
そうしてヴァーデの言葉を鼻で笑ったグルドは、合図の声を叫ぶ。
その声に反応し声を上げたカレンは、ヴァーデの後ろへと回り込んでいた。
彼女はグルドの大きな身体に隠れ密かに近づき、その後ろへと回り込むチャンスを窺っていたのだ。
「何だとっ!?・・・とでも、言って欲しかったのですか?」
ヴァーデの背後から、カレンはその隙だらけな背中を狙って杖を振り下ろす。
それを為す術なく受けたヴァーデはしかし、驚いた振りだけを見せてそれを軽々と受け止めてしまっていた。
「な、何で・・・?完璧に入ったのに・・・」
「これが、我が主を封印した霊杖ユグドラシルですか・・・たしかにとんでもない力を感じますが、使い手がこれでは無用の長物ですね」
カレンの攻撃に対して、ヴァーデは防御の姿勢を取ってすらいない。
彼は僅かに頭を傾けただけで、その首元に彼女の一撃をもろに食らっていた。
それなのにも拘わらず、こゆるぎもしない彼の身体は、その圧倒的な力の差を示していた。
「へっ、そう簡単に行きゃしねぇか・・・嬢ちゃん、頼んだ!!」
「・・・任せる」
完璧に嵌まった作戦にも、ヴァーデがダメージを負った様子はない。
そんな絶望的な光景にも、グルドの笑みは崩れない。
彼はそれも分かっていた事だと鼻で笑うと、再び合図の声を上げる。
その声に応えたのは、今度は彼から随分と離れた場所に立っていた少女、メイであった。
「おっと、それは流石に少し不味いので・・・貴方達は邪魔ですね、退いてくださいますか?」
「ぐぁ!?」
「うわぁ!?」
メイの魔法攻撃に合わせて、グルドとカレンはヴァーデをその場に留めようと、彼の身体へと押しつけた得物へと力を込めている。
しかしヴァーデはそんな事などお構いなして、彼らを軽々と振り払ってしまっていた。
「・・・メイファイヤー!」
そしてメイの気の抜けた声ではなく、気合の入った声が響いた時には、ヴァーデの身体はそこには存在しなかった。
「ちっ、こんだけお膳立てしても駄目なのかよ・・・だが、分かったぞ!!やっぱりあいつの弱点は炎だ!間違いねぇ!!」
散々注意を逸らし、狙いを隠してようやく辿り着いた必殺のタイミングにも、ヴァーデには通用しなかった。
それに舌打ちを漏らすグルドはしかし、メイの魔法だけは確実に避けているヴァーデの姿に、彼の弱点がそれに間違いないと確信していた。
「えぇ、その通りです。ですので・・・そろそろお遊びは、この辺りと致しましょうか」
そんなグルドの推測に、ヴァーデもあっさりとその事実を認めていた。
それに勝ち誇った表情を浮かべたグルドも、一瞬でその表情を凍りつかせてしまう。
それは、ヴァーデがメイを狙って動いたからであった。
「嬢ちゃん、危ねぇ!!ぐぁぁ!!?」
「グルド!?」
「オジちゃん!?」
その狙いに気づき、動き出したグルドの動きは速い。
しかしそれ以上のスピードでメイへと迫るヴァーデに、彼はその身を投げ出して彼女を庇うことしか出来なかった。
「ほぅ、庇いますか。それは彼女が作戦の要だからですか?それとも貴方が、彼女の親か何かだからでしょうか?」
「へっ、そんなん決まってんだろ?弱いもんを守るのが、俺達冒険者の役割だからよ!」
自らの前に割り込み、その無防備な身体を晒してはメイの事を庇ったグルドに、ヴァーデは感心した様子を見せている。
そんなヴァーデが訪ねた内容に、グルドはニヤリと笑っては自分が冒険者だからだと答えていた。
「なるほど、それはそれは・・・立派な志だ、素晴らしい」
彼の答えに、ヴァーデはその両手を合わせては乾いた拍手を響かせている。
「・・・ですが、それもそれ相応の力がなければ、ただの世迷言に過ぎませんね。この手を退ける程度の力がなければ、ね」
「ぐああああぁぁぁぁ!!?」
そして彼はその手を止めると、その指先から鋭い爪を伸ばし、それをグルドの身体へと突き刺していた。
これまでの比ではないほどの、激しい悲鳴がグルドの口から漏れる。
「さて、これでもまだ弱いもの庇いますか?出来ませんよね?はははっ、やはり世迷言だ!!さて・・・では、危険な相手を処理すると致しますか。それを庇う、勇敢な冒険者もいなくなったことですし」
「ひっ!?」
グルドの身体から引き抜いた爪についた血を、懐から取り出したハンカチで拭ったヴァーデは、それを適当に放り捨てている。
そうして彼は再びメイへと狙いを定め、障害のなくなった道をゆっくりと歩き始めていた。
「メイ、逃げなさい!!」
「あぁ、まだ貴方が残っていましたね。ですが、そこからどうするというのです?間に合う訳がない!!貴方はそこで、この子供が殺されるのを見ているといい!!自らの無力さを呪いながらね!」
無人の野を歩くヴァーデに、メイは恐怖に震えてその場を動くことが出来ない。
そんな彼の背後からカレンの声が飛ぶが、それはヴァーデを振り返らせ、勝ち誇った顔を浮かばせるだけであった。
「メイさん、今の内に!!」
「シア姉!?あぅ!?」
しかしその隙を、生かそうとする者もここにはいた。
ヴァーデがカレンへと振り返り勝ち誇っている隙に、レティシアはメイへと近づくと、その身体を抱きかかえてこの場から退避しようとしていた。
「そんな事が通用すると思っているのですか!?」
しかしそれも、ヴァーデの圧倒的な身体能力の前では、何のアドバンテージにもならない。
背後で起こったその事態にすぐに気がついたヴァーデは、それに飛び掛かりあっという間に距離を詰める。
その手はもはや、逃げるレティシアの背中へと掛かろうとしていた。
「おっと、女性を手に掛けてはいけませんね。ましてや美しい女性などは・・・やはり美しい女性は簡単に殺すのではなく、その血の一滴も残さず絞り殺さなければ・・・このぐらいで、いかがでしょうか?」
「きゃあ!?」
「あぅ!?」
レティシアの背中へと手を伸ばしたヴァーデはしかし、その手を一旦引っ込めると、今度はゆっくりと優しくその背中へと触れる。
しかしそんな優しい仕草にも彼の力は凄まじく、二人は悲鳴を上げては為す術なく弾き飛ばされてしまっていた。
「これを潰せば、もう魔法は使えないでしょう?いえ、それでもやはり・・・危険な芽は摘んでおくべきですね」
二人を弾き飛ばし、その場に転がっていたメイが使っていた杖を拾い上げたヴァーデは、それをくしゃくしゃに握り潰している。
それでもはや、メイは魔法を使えない筈だ。
しかし彼はそれに満足することなく、メイの息の根を止めようとそちらへと歩みを進めていた。
「ひぃぃ!!?く、来るなぁ!!こ、これ以上やられたら、私の首が危ないんだからぁぁぁ!!!」
そんな彼の前に、へっぴり腰のエステルが立ち塞がる。
彼女はメイではなく、レティシアを守っていただけであったが、そんな事はヴァーデには関係ないだろう。
「退いてくださいますが、お嬢さん。貴方の血も後程、美味しくいただきますので」
「ひぅ!?」
そんな彼女の事を、ヴァーデは優しく脇に避けている。
その手は優しく、しかし恐ろしい。
エステルはその優しい手つきに射すくめられ、完全に腰を抜かしその場にへたり込んでしまっていた。
「さぁ、これでお終いです」
メイの前にまで辿り着いたヴァーデは、そこで芝居がかった仕草で両手を広げている。
そして彼は、戦いの終わりを宣言していた。
「まだよ!!まだ私がいるわ!!」
そんな彼に、背後から鋭い声が響く。
それは彼へとその手にした杖を突きつけている、カレンのものであった。
「・・・貴方がまだいましたね。何です、まだ戦うというのですか?貴方の攻撃など、私には通用しないのに?」
背後からの声に、ヴァーデはうんざりといった様子で振り返っている。
確かにカレンは彼の主人であるドラクロワの因縁の相手であり、その手に持つ霊杖ユグドラシルは彼からしても脅威であった。
しかしそれを扱うカレンの力不足に、その存在はもはや全く脅威とならない。
そんな彼女に対して、ヴァーデはもはや相手をするのも面倒臭いという様子を見せていた。
「そ、そうよ!!わ、私にはまだ切り札があるんだから!!」
そんな彼に対して、カレンは思わせぶりな言葉を叫んでいた。
しかしそれは本当にそんな切り札があるからではなく、別の思惑がある事はそのチラチラと背後を窺っている彼女の視線に明らかだった。
彼女のチラチラと窺う視線の先には、トージローの姿がある。
彼女はそのはったりによって時間を稼ぎ、トージローの助けを待っているだけであったのだ。
「ほぅ・・・切り札ですか。それは一体どのような?是非とも、教えて欲しいものですね」
「へ?そ、それは・・・」
その自らの言葉に食いついてきたヴァーデの態度は、狙い通りのものだろう。
しかしその切り札の具体的な内容を尋ねてくる彼の言葉は、カレンの想定外のものであった。
何故ならば、彼女にそんな切り札はないのだから。
「カレンファイヤーです!」
しかしそんな言葉に詰まってしまう彼女の代わりに、ヴァーデの疑問に答える声があった。
それはボロボロな身体でぐったりとしているメイを抱きかかえている、レティシアの声であった。
「そ、そうよ!あれがあったじゃない!!カレン、ぶちかましちゃいなさい!!」
その声に、地面へとへたり込んでいたエステルも顔を上げ、歓声を上げている。
「ほぅ、カレンファイヤーですか・・・なるほどなるほど。私の弱点である炎を使うのですか。それならば確かに、私を倒せるかもしれませんね。いいでしょう、貴方を敵と認めます」
そんな二人の声は、事情を知らないヴァーデにそれの実在を信じさせるには十分なものであった。
今までは相手にもならない存在だと考えていたカレンが、そんな切り札を持っていると知ったヴァーデは、彼女を敵だと認め向き直る。
そんな彼の視線の先には、冷や汗をダラダラと流しているカレンの姿があった。
「えっ!?いや、その・・・それは・・・マ、マジで?」
ありもしない必殺技を期待され、冷や汗を流すカレンは絶望に呟きを漏らす。
彼女の視線の先では、ヴァーデがこちらへとゆっくりと近づいてきていた。
「はぁ、はぁ、はぁ・・・はぁ?あんた何言ってんのよ?あんなの、新聞が勝手に言ってるに決まってるでしょ?」
「へ、そうかよ。ま、そんな事じゃねぇかと思ってたけどよ・・・」
荒い呼吸に肩を上下させているグルドは、潜めた声で隣のカレンへと話しかけている。
肩を合わせるような距離で彼が話しかけてきたのは、目の前のヴァーデにその話を聞かれないようにするためだろう。
そんな態度で彼が訪ねてきたのは、新聞にでっち上げられたカレンのありもしない必殺技についてだった。
そんなのある訳がないと返すカレンに、グルドは驚きを見せない。
それは彼が始めからそんなものある訳ないと思っていた事と、そんなものに頼らなければならないほど、今の状況が悪いことを示していた。
「作戦会議は済んだのかい?それで作戦は?このヴァーデを打倒する、秘策とやらは考えついたのかかな?」
肩を寄せ、ひそひそと話し合う二人の姿は隙だらけだ。
そんな二人を攻撃せず見逃したのは、それだけで彼らの敵であるヴァーデに余裕があったからに他ならない。
彼は二人が話し終わるのを見越して自らの影で作った椅子から立ち上がると、肩を竦めては自らを打倒するための作戦は思いついたのかと尋ねていた。
「はっ、当たり前よ!!聞いて驚くなよ、そいつはなぁ・・・」
「へぇ、どんな作戦なんだい?楽しみだなぁ」
余裕の態度を崩さずにこちらへと耳を傾けてくるヴァーデに、グルドは凶悪な笑みを作るとはったりをかまそうとしている。
それはただの強がりであったかもしれなかったが、彼の口ぶりに興味津々といった様子のヴァーデに、少なくとも注意を引くだけの効果はあったようだ。
「正面突破だよ!!」
引きつけた注意にグルドは突撃すると、身体の影に隠していた斧を振り下ろす。
「・・・やれやれ、やはり人間というのは度し難いね。あれだけ時間を上げたのに、考えついたのがこの程度とは」
会話に興味を引き付けてからの奇襲も、正面からではさほど効果はない。
グルドが振り下ろした斧も、ヴァーデによって軽々と受け止められ、その腕には傷一つついてはいなかった。
「はっ、言ってろ・・・カレン!!」
「分かってる・・・っての!!」
軽々と受け止められてしまった奇襲にも、グルドはその凶悪な笑みを浮かべたままだ。
そうしてヴァーデの言葉を鼻で笑ったグルドは、合図の声を叫ぶ。
その声に反応し声を上げたカレンは、ヴァーデの後ろへと回り込んでいた。
彼女はグルドの大きな身体に隠れ密かに近づき、その後ろへと回り込むチャンスを窺っていたのだ。
「何だとっ!?・・・とでも、言って欲しかったのですか?」
ヴァーデの背後から、カレンはその隙だらけな背中を狙って杖を振り下ろす。
それを為す術なく受けたヴァーデはしかし、驚いた振りだけを見せてそれを軽々と受け止めてしまっていた。
「な、何で・・・?完璧に入ったのに・・・」
「これが、我が主を封印した霊杖ユグドラシルですか・・・たしかにとんでもない力を感じますが、使い手がこれでは無用の長物ですね」
カレンの攻撃に対して、ヴァーデは防御の姿勢を取ってすらいない。
彼は僅かに頭を傾けただけで、その首元に彼女の一撃をもろに食らっていた。
それなのにも拘わらず、こゆるぎもしない彼の身体は、その圧倒的な力の差を示していた。
「へっ、そう簡単に行きゃしねぇか・・・嬢ちゃん、頼んだ!!」
「・・・任せる」
完璧に嵌まった作戦にも、ヴァーデがダメージを負った様子はない。
そんな絶望的な光景にも、グルドの笑みは崩れない。
彼はそれも分かっていた事だと鼻で笑うと、再び合図の声を上げる。
その声に応えたのは、今度は彼から随分と離れた場所に立っていた少女、メイであった。
「おっと、それは流石に少し不味いので・・・貴方達は邪魔ですね、退いてくださいますか?」
「ぐぁ!?」
「うわぁ!?」
メイの魔法攻撃に合わせて、グルドとカレンはヴァーデをその場に留めようと、彼の身体へと押しつけた得物へと力を込めている。
しかしヴァーデはそんな事などお構いなして、彼らを軽々と振り払ってしまっていた。
「・・・メイファイヤー!」
そしてメイの気の抜けた声ではなく、気合の入った声が響いた時には、ヴァーデの身体はそこには存在しなかった。
「ちっ、こんだけお膳立てしても駄目なのかよ・・・だが、分かったぞ!!やっぱりあいつの弱点は炎だ!間違いねぇ!!」
散々注意を逸らし、狙いを隠してようやく辿り着いた必殺のタイミングにも、ヴァーデには通用しなかった。
それに舌打ちを漏らすグルドはしかし、メイの魔法だけは確実に避けているヴァーデの姿に、彼の弱点がそれに間違いないと確信していた。
「えぇ、その通りです。ですので・・・そろそろお遊びは、この辺りと致しましょうか」
そんなグルドの推測に、ヴァーデもあっさりとその事実を認めていた。
それに勝ち誇った表情を浮かべたグルドも、一瞬でその表情を凍りつかせてしまう。
それは、ヴァーデがメイを狙って動いたからであった。
「嬢ちゃん、危ねぇ!!ぐぁぁ!!?」
「グルド!?」
「オジちゃん!?」
その狙いに気づき、動き出したグルドの動きは速い。
しかしそれ以上のスピードでメイへと迫るヴァーデに、彼はその身を投げ出して彼女を庇うことしか出来なかった。
「ほぅ、庇いますか。それは彼女が作戦の要だからですか?それとも貴方が、彼女の親か何かだからでしょうか?」
「へっ、そんなん決まってんだろ?弱いもんを守るのが、俺達冒険者の役割だからよ!」
自らの前に割り込み、その無防備な身体を晒してはメイの事を庇ったグルドに、ヴァーデは感心した様子を見せている。
そんなヴァーデが訪ねた内容に、グルドはニヤリと笑っては自分が冒険者だからだと答えていた。
「なるほど、それはそれは・・・立派な志だ、素晴らしい」
彼の答えに、ヴァーデはその両手を合わせては乾いた拍手を響かせている。
「・・・ですが、それもそれ相応の力がなければ、ただの世迷言に過ぎませんね。この手を退ける程度の力がなければ、ね」
「ぐああああぁぁぁぁ!!?」
そして彼はその手を止めると、その指先から鋭い爪を伸ばし、それをグルドの身体へと突き刺していた。
これまでの比ではないほどの、激しい悲鳴がグルドの口から漏れる。
「さて、これでもまだ弱いもの庇いますか?出来ませんよね?はははっ、やはり世迷言だ!!さて・・・では、危険な相手を処理すると致しますか。それを庇う、勇敢な冒険者もいなくなったことですし」
「ひっ!?」
グルドの身体から引き抜いた爪についた血を、懐から取り出したハンカチで拭ったヴァーデは、それを適当に放り捨てている。
そうして彼は再びメイへと狙いを定め、障害のなくなった道をゆっくりと歩き始めていた。
「メイ、逃げなさい!!」
「あぁ、まだ貴方が残っていましたね。ですが、そこからどうするというのです?間に合う訳がない!!貴方はそこで、この子供が殺されるのを見ているといい!!自らの無力さを呪いながらね!」
無人の野を歩くヴァーデに、メイは恐怖に震えてその場を動くことが出来ない。
そんな彼の背後からカレンの声が飛ぶが、それはヴァーデを振り返らせ、勝ち誇った顔を浮かばせるだけであった。
「メイさん、今の内に!!」
「シア姉!?あぅ!?」
しかしその隙を、生かそうとする者もここにはいた。
ヴァーデがカレンへと振り返り勝ち誇っている隙に、レティシアはメイへと近づくと、その身体を抱きかかえてこの場から退避しようとしていた。
「そんな事が通用すると思っているのですか!?」
しかしそれも、ヴァーデの圧倒的な身体能力の前では、何のアドバンテージにもならない。
背後で起こったその事態にすぐに気がついたヴァーデは、それに飛び掛かりあっという間に距離を詰める。
その手はもはや、逃げるレティシアの背中へと掛かろうとしていた。
「おっと、女性を手に掛けてはいけませんね。ましてや美しい女性などは・・・やはり美しい女性は簡単に殺すのではなく、その血の一滴も残さず絞り殺さなければ・・・このぐらいで、いかがでしょうか?」
「きゃあ!?」
「あぅ!?」
レティシアの背中へと手を伸ばしたヴァーデはしかし、その手を一旦引っ込めると、今度はゆっくりと優しくその背中へと触れる。
しかしそんな優しい仕草にも彼の力は凄まじく、二人は悲鳴を上げては為す術なく弾き飛ばされてしまっていた。
「これを潰せば、もう魔法は使えないでしょう?いえ、それでもやはり・・・危険な芽は摘んでおくべきですね」
二人を弾き飛ばし、その場に転がっていたメイが使っていた杖を拾い上げたヴァーデは、それをくしゃくしゃに握り潰している。
それでもはや、メイは魔法を使えない筈だ。
しかし彼はそれに満足することなく、メイの息の根を止めようとそちらへと歩みを進めていた。
「ひぃぃ!!?く、来るなぁ!!こ、これ以上やられたら、私の首が危ないんだからぁぁぁ!!!」
そんな彼の前に、へっぴり腰のエステルが立ち塞がる。
彼女はメイではなく、レティシアを守っていただけであったが、そんな事はヴァーデには関係ないだろう。
「退いてくださいますが、お嬢さん。貴方の血も後程、美味しくいただきますので」
「ひぅ!?」
そんな彼女の事を、ヴァーデは優しく脇に避けている。
その手は優しく、しかし恐ろしい。
エステルはその優しい手つきに射すくめられ、完全に腰を抜かしその場にへたり込んでしまっていた。
「さぁ、これでお終いです」
メイの前にまで辿り着いたヴァーデは、そこで芝居がかった仕草で両手を広げている。
そして彼は、戦いの終わりを宣言していた。
「まだよ!!まだ私がいるわ!!」
そんな彼に、背後から鋭い声が響く。
それは彼へとその手にした杖を突きつけている、カレンのものであった。
「・・・貴方がまだいましたね。何です、まだ戦うというのですか?貴方の攻撃など、私には通用しないのに?」
背後からの声に、ヴァーデはうんざりといった様子で振り返っている。
確かにカレンは彼の主人であるドラクロワの因縁の相手であり、その手に持つ霊杖ユグドラシルは彼からしても脅威であった。
しかしそれを扱うカレンの力不足に、その存在はもはや全く脅威とならない。
そんな彼女に対して、ヴァーデはもはや相手をするのも面倒臭いという様子を見せていた。
「そ、そうよ!!わ、私にはまだ切り札があるんだから!!」
そんな彼に対して、カレンは思わせぶりな言葉を叫んでいた。
しかしそれは本当にそんな切り札があるからではなく、別の思惑がある事はそのチラチラと背後を窺っている彼女の視線に明らかだった。
彼女のチラチラと窺う視線の先には、トージローの姿がある。
彼女はそのはったりによって時間を稼ぎ、トージローの助けを待っているだけであったのだ。
「ほぅ・・・切り札ですか。それは一体どのような?是非とも、教えて欲しいものですね」
「へ?そ、それは・・・」
その自らの言葉に食いついてきたヴァーデの態度は、狙い通りのものだろう。
しかしその切り札の具体的な内容を尋ねてくる彼の言葉は、カレンの想定外のものであった。
何故ならば、彼女にそんな切り札はないのだから。
「カレンファイヤーです!」
しかしそんな言葉に詰まってしまう彼女の代わりに、ヴァーデの疑問に答える声があった。
それはボロボロな身体でぐったりとしているメイを抱きかかえている、レティシアの声であった。
「そ、そうよ!あれがあったじゃない!!カレン、ぶちかましちゃいなさい!!」
その声に、地面へとへたり込んでいたエステルも顔を上げ、歓声を上げている。
「ほぅ、カレンファイヤーですか・・・なるほどなるほど。私の弱点である炎を使うのですか。それならば確かに、私を倒せるかもしれませんね。いいでしょう、貴方を敵と認めます」
そんな二人の声は、事情を知らないヴァーデにそれの実在を信じさせるには十分なものであった。
今までは相手にもならない存在だと考えていたカレンが、そんな切り札を持っていると知ったヴァーデは、彼女を敵だと認め向き直る。
そんな彼の視線の先には、冷や汗をダラダラと流しているカレンの姿があった。
「えっ!?いや、その・・・それは・・・マ、マジで?」
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「お前には才能がない」
この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。
父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。
ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。
今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。
その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。
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