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トージロー
理想と現実
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「さてさて、貴方がそんな切り札を隠していたとは・・・油断なりませんね。これはこちらも本気で掛からないと」
主であるドラクロワをかつて封印した男の孫にして、その杖を受け継ぐ娘。
カレンは、ヴァーデにとって一番警戒していた相手の筈だ。
そんなカレンが、切り札を隠し持っていたという。
その事実を耳にして、彼が平静でいられる訳はない。
今はまだ紳士然とした態度を崩してはいないヴァーデはしかし、どこか焦った様子でカレンとの距離を詰めようとしていた。
「いやー、そんな必要はないと言いますか・・・その、もうちょっとこう・・・話し合ったりしません?」
「何を今更・・・そのような段階は、とうに過ぎ去った!!今はもう、実力を決着をつける時でしょう!」
完全に戦闘モードに入ってしまっているヴァーデに対して、カレンは何とか時間を稼ごうと試みている。
しかしそんな彼女の試みも、ヴァーデの歩みを加速させるだけ。
彼はもはや聞く耳を持たないと、腕を振るっては彼女へと真っ直ぐに向かって来ていた。
「ひぃぃ!?そ、そうだ!!わ、私もほら、自分でいっちゃなんですけど美人の類いだと思いません!?それに乱暴するっているのは、貴方としても不本意なのでは!?ほら血を吸ったりとか、色々やる事あるでしょ!?」
「むっ・・・それは確かに、貴方の言う通りだ。貴方のような美人を殺すのは忍びない・・・それに貴方はあのエセルバードの孫、その血には私も興味がある」
もはや一刻も猶予はないという勢いで迫ってくるヴァーデの姿に思わず悲鳴を上げたカレンは、そこで彼がかつて口にした言葉を思い出していた。
それは彼が、美人は殺さない主義だというものであった。
それに一縷の望みをかけて自らの容姿を主張するカレンは、その美しい金髪を手で払ってはアピールしていた。
「よし!これで少しは時間が稼げる・・・早く、早く来なさい、トージロー。あんたならあんな吸血鬼なんて余裕・・・嘘、でしょ?」
カレンの言葉に、ヴァーデは顎に手を考えこみ始めている。
その姿に軽くこぶしを握ったカレンは、稼げた時間にチラリとトージローの方へと視線を向けていた。
今の彼女にとって、彼が一刻も早く助けに来てくれることだけが希望であった。
しかしその希望であるトージローは、彼女の視線の先でドラクロワの猛烈な攻撃を一方的に浴びせかけられている所であった。
「いやいやいや、大丈夫大丈夫。こっちから手を出してないだけで、トージローならあれぐらい平気な筈!でも待って、あの様子じゃ当分助けは―――」
そのトージローの姿に一瞬言葉を失ったカレンも、すぐにそんな訳はないと思い直していた。
トージローは気まぐれだ、そして異常な強さを誇る彼からすれば、あんな攻撃など攻撃とも認識していないだろう。
あの光景はそうした彼の気質の問題なのだと納得したカレンはしかし、だとすると一体いつ彼がこちらへと救援に来るのかと考えていた。
気まぐれな彼は、いつまでもドラクロワに手を出すことはないかもしれない。
そうなれば当然、彼はこちらに助けにも来ないだろう。
「ふむ、美人を傷つけるのは本意ではありませんが・・・仕方ないですね。なに、命までは奪おうというのではないですから。少しばかり、すっきりと・・・そうダイエットするのです。好きでしょう女性の方は、ダイエット」
そして目の前の吸血鬼は、それを待ってはくれない。
「えっ?いや、その・・・私は必要ないかなーって。ほら私そんなダイエットするような、余計な肉とかついてないし!こっからどこの肉を取るのかって!!」
「ですから、四肢をもぐのです。かなり軽くなりますよ?お喜びください、劇的なダイエットじゃないですか!!」
何やら理屈をつけながらカレンへと近づいてくるヴァーデに、彼女は何とかそれを躱そうと必死に言い訳を考えている。
しかし彼女は忘れていたのだ、目の前の男がそんな理屈など通用しない吸血鬼という化け物だという事を。
「さぁ、まずはどこからもぎましょうか?右手、左手?それとも足からの方が好みですか?」
「ひっ!?」
胸がぶつかるほどの近さで、ヴァーデはカレンの耳元へと唇を寄せて囁いてくる。
それに思わず引き攣った悲鳴を上げたカレンに、彼は彼女の縮こめた両手へと手を伸ばそうとしていた。
「・・・いつまでも、好き勝手出来ると思ってんじゃねーぞ!!!」
その背後に、包帯塗れの少年の姿が現れる。
彼はそのボロボロの身体を引きずりながら、全力でその手にした剣を振り下ろしていた。
「また貴方ですか・・・いい加減諦めたらどうですか?」
寸での処でヴァーデに切りかかったのは、その全身を包帯塗れにした少年、ルイスであった。
そんなルイスの姿に、彼の攻撃を易々と受け止めたヴァーデはうんざりとした表情を見せている。
「はっ!生憎と諦めは悪くてね・・・おっさん!!」
「おうよ!!」
全く通用していない攻撃にも、それは始めから分かっていたと笑うルイスは合図の声を上げる。
そして彼の背後で地面に這いずるように隠れていた巨漢の男が、ヴァーデに向かって突撃してきた。
「ピーター、お前も来い!!皆でこいつを押さえるんだ!!」
「危険手当も出ないのに・・・危なくなったら、僕はすぐに逃げますからね!!」
ヴァーデへと突撃したグルドは、彼を羽交い絞めにするとこれだけでは足りないと声を上げる。
それに反応したのは眼鏡のギルド職員、ピーターであった。
彼はぶつぶつと文句を言いながらもヴァーデの足元に飛びつくと、それを必死に押さえていた。
「時間稼ぎはもういい、カレン!早く例の必殺技を!!」
仲間がヴァーデに飛びついたのを目にしたルイスは、自らも最後の仕上げだとそれに飛びついている。
そして彼は、カレンに向かって全てはお前のための、お前の必殺技のための準備なのだと叫んでいた。
「は?何なのよ、それ・・・だから私はそんなの、出来ないって・・・」
ルイス達の命がけの試みは全て、自分のためのお膳立てなのだと彼らは言う。
その身体からは血が流れ、今も拘束から逃れようとするヴァーデの力に、彼らの身体はミシミシと悲鳴を上げている。
それらが全て、虚構でしかない自らの必殺技に頼っているのだという事実に、カレンは信じたくないと静かに首を横に振っていた。
「カレン様、早く!!早く、カレンファイヤーを!!」
「そうよ、やっちゃいなさい!!」
「・・・頑張れ、カレン」
カレンがいくらそれを否定しようとしても、周りからは次々にそれを期待する声が上がっていく。
それらは全て信じているのだ、彼女ならばそれが出来ると。
「そうだやってくれ、カレン!!」
「そうだそうだ!あんたなら出来るんだろ!?」
「俺達を救ってくれ!!」
それはいつしか、この戦いの推移を見守っていた街の住民達にまで広がっていた。
いつか彼女をニューヒロインだと持ち上げ、ついさっきまで散々に扱き下ろしていた彼らが、今度はまた手の平を返して自分を応援している。
そんな状況に、彼女は嗤った。
「はーーー!!!分かったわよ、やればいいんでしょ!!やれば!やーーーってやろうじゃない!!!」
自嘲の笑みは、いつか決意の笑顔に変わって、諦めを吐き出した彼女は吹っ切れた表情で大見得を切っている。
その杖をヴァーデへと突きつける挑戦的なポーズに、周りの群衆達からは一斉に歓声が上がっていた。
「あんた達、しっかり押さえておきなさいよ!!私が必殺技を完成させる前に放したら、ただじゃおかないんだから!!」
もはやそうするしか道がないと決意したカレンは、ルイス達にそれが完成するまで絶対にそいつを放すなと指を突きつけている。
そうして彼女は杖を両手に握りしめ、それを高く掲げていた。
「へっ、ようやくやる気になりやがったか・・・おい、絶対放すんじゃねぇぞ!!」
「分かってるっての!おっさんこそ大丈夫かよ!?」
「あの・・・僕、もう逃げてもいいですかね?」
「馬鹿野郎、お前もギリギリまで粘んだよ!!」
「あ、そうですよね。はい」
ようやく決意を固めたカレンに、ヴァーデを何とか押さえているグルド達も意気が上がる。
そんな中でピーターだけが一人、その場から逃げたそうにしていたが、それはグルドに怒鳴りつけられるだけに終わっていた。
「おぉ!?これが、カレンファイヤー・・・何だよ、やっぱり本当だったんじゃねぇか」
必死な表情でヴァーデを押さえているグルド達の頬に、火の粉が舞う。
それに顔を上げた彼らが見たのは、カレンの杖の先に燃え盛る巨大な火の玉の姿だった。
「は、ははははっ!!必殺技だ何だと、構えてみればこの程度ですか!?あんなものはただの見掛け倒しに過ぎない!!あのような見掛けだけ立派なスカスカの炎で、この私が燃やし尽くせるとでも!?」
しかし歓声を上げるグルド達と反対に、カレンの炎を目にしたヴァーデは、それを馬鹿にしたように笑い声を漏らしていた。
彼のような強大な魔物には本能的に分かるのだろう、あれが自分を傷つけられるものかどうか。
その彼の見立てでは、カレンの炎は見た目が立派なだけで、決して自分を傷つけられるものではないらしい。
「・・・違う。これは、違う。私はトージローじゃないんだ、あんな圧倒的な力を持ってなんかいない・・・だからそれを真似しても、意味はない。だったら・・・だったら参考にするのはもっと別の・・・」
そしてそれは、カレンにも分かっていた。
カレンが自らの魔法に、その必殺技にイメージしていたのは、自分が知る限り最強の存在であるトージローの姿だ。
しかしそれは、カレンにとって決して手の届かない、余りに巨大すぎるイメージであった。
それが見掛けだけは立派な、この炎を生み出してしまっていたのだ。
であれば、彼女が参考にすべきものは何だろうか。
「そう、メイの・・・あの子の魔法だ」
手の届かない憧れを捨て、自らが下に見ていたものの技を参考にする。
天空へと手を伸ばしていた足が、今地面を踏みしめた。
火の粉が舞う。
「な、何だ・・・その炎は?そんな炎、見たことが・・・放せ、放せぇぇぇ!!!?」
舞った火の粉は、奇妙な青い色をしている。
そして彼女がその杖の先に燃え盛らせているそれは、先ほどよりもずっと小さく矮小なものであった。
しかしそれを目にしたヴァーデは怯えだし、激しく抵抗をし始める。
まるで、自らを死期を悟った罪人のように。
「っ!!坊主、ピーター!!お前達は離れろ!!」
「おっさん・・・それじゃあんたが」
「へっ、気にすんなっての。冒険者は弱いもんを守るのが使命だからな」
激しく暴れだしたヴァーデに、燃え盛る青色の奇妙な炎。
その姿に決着を悟ったグルドは、ルイスとピーターをその場から避難させる。
それに躊躇いを見せるルイスに、グルドは精一杯格好つけた笑みを見せると、それが自らの使命だと口にしていた。
「俺の事はいい!ぶちかませ、カレン!!」
「放せ、放せぇぇぇ!!!!」
さっさとその場を離れたピーターに続き、ルイスも一度頷くとその場を離れていく。
それを確認したグルドは、もう一度しっかりとヴァーデを羽交い絞めにすると、カレンに声を掛ける。
自分ごと、こいつを焼き尽くせと。
「カレン、ファイヤーーーー!!!!」
理外の力を絞りつくし、トリップ状態にあるカレンにその言葉が届いたかは分からない。
それでも彼女はグルドの合図に応えるように、その杖を振り下ろす。
そして彼女は叫んでいた、その必殺技の名前を。
主であるドラクロワをかつて封印した男の孫にして、その杖を受け継ぐ娘。
カレンは、ヴァーデにとって一番警戒していた相手の筈だ。
そんなカレンが、切り札を隠し持っていたという。
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今はまだ紳士然とした態度を崩してはいないヴァーデはしかし、どこか焦った様子でカレンとの距離を詰めようとしていた。
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完全に戦闘モードに入ってしまっているヴァーデに対して、カレンは何とか時間を稼ごうと試みている。
しかしそんな彼女の試みも、ヴァーデの歩みを加速させるだけ。
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もはや一刻も猶予はないという勢いで迫ってくるヴァーデの姿に思わず悲鳴を上げたカレンは、そこで彼がかつて口にした言葉を思い出していた。
それは彼が、美人は殺さない主義だというものであった。
それに一縷の望みをかけて自らの容姿を主張するカレンは、その美しい金髪を手で払ってはアピールしていた。
「よし!これで少しは時間が稼げる・・・早く、早く来なさい、トージロー。あんたならあんな吸血鬼なんて余裕・・・嘘、でしょ?」
カレンの言葉に、ヴァーデは顎に手を考えこみ始めている。
その姿に軽くこぶしを握ったカレンは、稼げた時間にチラリとトージローの方へと視線を向けていた。
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しかしその希望であるトージローは、彼女の視線の先でドラクロワの猛烈な攻撃を一方的に浴びせかけられている所であった。
「いやいやいや、大丈夫大丈夫。こっちから手を出してないだけで、トージローならあれぐらい平気な筈!でも待って、あの様子じゃ当分助けは―――」
そのトージローの姿に一瞬言葉を失ったカレンも、すぐにそんな訳はないと思い直していた。
トージローは気まぐれだ、そして異常な強さを誇る彼からすれば、あんな攻撃など攻撃とも認識していないだろう。
あの光景はそうした彼の気質の問題なのだと納得したカレンはしかし、だとすると一体いつ彼がこちらへと救援に来るのかと考えていた。
気まぐれな彼は、いつまでもドラクロワに手を出すことはないかもしれない。
そうなれば当然、彼はこちらに助けにも来ないだろう。
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全く通用していない攻撃にも、それは始めから分かっていたと笑うルイスは合図の声を上げる。
そして彼の背後で地面に這いずるように隠れていた巨漢の男が、ヴァーデに向かって突撃してきた。
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「危険手当も出ないのに・・・危なくなったら、僕はすぐに逃げますからね!!」
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それに反応したのは眼鏡のギルド職員、ピーターであった。
彼はぶつぶつと文句を言いながらもヴァーデの足元に飛びつくと、それを必死に押さえていた。
「時間稼ぎはもういい、カレン!早く例の必殺技を!!」
仲間がヴァーデに飛びついたのを目にしたルイスは、自らも最後の仕上げだとそれに飛びついている。
そして彼は、カレンに向かって全てはお前のための、お前の必殺技のための準備なのだと叫んでいた。
「は?何なのよ、それ・・・だから私はそんなの、出来ないって・・・」
ルイス達の命がけの試みは全て、自分のためのお膳立てなのだと彼らは言う。
その身体からは血が流れ、今も拘束から逃れようとするヴァーデの力に、彼らの身体はミシミシと悲鳴を上げている。
それらが全て、虚構でしかない自らの必殺技に頼っているのだという事実に、カレンは信じたくないと静かに首を横に振っていた。
「カレン様、早く!!早く、カレンファイヤーを!!」
「そうよ、やっちゃいなさい!!」
「・・・頑張れ、カレン」
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それらは全て信じているのだ、彼女ならばそれが出来ると。
「そうだやってくれ、カレン!!」
「そうだそうだ!あんたなら出来るんだろ!?」
「俺達を救ってくれ!!」
それはいつしか、この戦いの推移を見守っていた街の住民達にまで広がっていた。
いつか彼女をニューヒロインだと持ち上げ、ついさっきまで散々に扱き下ろしていた彼らが、今度はまた手の平を返して自分を応援している。
そんな状況に、彼女は嗤った。
「はーーー!!!分かったわよ、やればいいんでしょ!!やれば!やーーーってやろうじゃない!!!」
自嘲の笑みは、いつか決意の笑顔に変わって、諦めを吐き出した彼女は吹っ切れた表情で大見得を切っている。
その杖をヴァーデへと突きつける挑戦的なポーズに、周りの群衆達からは一斉に歓声が上がっていた。
「あんた達、しっかり押さえておきなさいよ!!私が必殺技を完成させる前に放したら、ただじゃおかないんだから!!」
もはやそうするしか道がないと決意したカレンは、ルイス達にそれが完成するまで絶対にそいつを放すなと指を突きつけている。
そうして彼女は杖を両手に握りしめ、それを高く掲げていた。
「へっ、ようやくやる気になりやがったか・・・おい、絶対放すんじゃねぇぞ!!」
「分かってるっての!おっさんこそ大丈夫かよ!?」
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「あ、そうですよね。はい」
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「・・・違う。これは、違う。私はトージローじゃないんだ、あんな圧倒的な力を持ってなんかいない・・・だからそれを真似しても、意味はない。だったら・・・だったら参考にするのはもっと別の・・・」
そしてそれは、カレンにも分かっていた。
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それが見掛けだけは立派な、この炎を生み出してしまっていたのだ。
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そして彼女がその杖の先に燃え盛らせているそれは、先ほどよりもずっと小さく矮小なものであった。
しかしそれを目にしたヴァーデは怯えだし、激しく抵抗をし始める。
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「っ!!坊主、ピーター!!お前達は離れろ!!」
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それに躊躇いを見せるルイスに、グルドは精一杯格好つけた笑みを見せると、それが自らの使命だと口にしていた。
「俺の事はいい!ぶちかませ、カレン!!」
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さっさとその場を離れたピーターに続き、ルイスも一度頷くとその場を離れていく。
それを確認したグルドは、もう一度しっかりとヴァーデを羽交い絞めにすると、カレンに声を掛ける。
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