ボケ老人無双

斑目 ごたく

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トージロー

後は任せて

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「はぁ、はぁ、はぁ・・・ど、どうなったの?」

 絞りつくした力に、それを出し切ったカレンは荒い呼吸にようやく意識を取り戻したのか、周りの状況を尋ねていた。
 そんな彼女に、灰色に濁った何かが降ってくる。

「灰?あぁ、そっか・・・終わったんだ」

 舞い降りた灰に手を伸ばし、指についたそれを擦って墨へと変えた彼女は、それに戦いの終わりを悟っていた。
 彼女の視線の先には、人型の灰の塊の姿が。
 それは丁度、先ほどまでヴァーデと、そしてグルドがいた場所であった。

「グルド・・・いい奴じゃなかったけど、嫌いじゃ―――」

 皆を助けるために犠牲となったグルドの事を振り返り、カレンは静かに涙を流そうとしていた。
 思えば彼との出会いは余りいいものは言えず、その関係も決して良好なものとは言い難かった。
 それでもこうして彼が皆を、そしてカレンを救ってくれたことは間違いないのだ。

「っぷはぁ!?はぁー、はぁー、はぁー・・・死ぬかと思ったぜ!!」

 そんな感傷に浸ろうとしていたカレンの目の前で、灰塗れの巨漢の男が上半身を起こす。
 そして彼はその胸を激しく上下させては、生きているという事実をはっきりと示していた。

「グ、グルド・・・あんた死んだんじゃ?」
「は?んな訳・・・あ?そういや何で俺、生きてんだ?」

 その場に置き上がった灰塗れの男は、グルドであった。
 その姿を信じられないと見詰めるカレンに、グルド自身も何で自分が生きているのか分からないと首を捻っていた。

「グルド!!てめぇ、心配させやがって!!」
「へっ、またくたばり損ねやがって!!一体いつになったらくたばんだ、てめぇはよぉ!!」
「何だと、てめぇら!?黙ってりゃ、好き勝手いいやがって・・・いい加減に、うおぉ!?」

 グルドの無事に、彼の仲間達がそれに飛び掛かっていく。
 彼らの言動に文句を言っていたグルドも、その突撃には耐えられなかったようで、為す術なく組み敷かれてしまっていた。

「何だよ、やれば出来んじゃねぇか」
「・・・凄かった」

 そんな男達の横を通り過ぎながら、ルイスとメイの二人がカレンへと近づいてくる。
 彼らは口々にカレンの事を褒め称えるがその様子は対照的で、真っ直ぐに尊敬の瞳を向けてくるメイと反対に、ルイスは視線を逸らしながらどこか悔しそうに彼女の事を称賛していた。

「ほーら、だから言ったでしょ!!カレンはやれる子だって!私、始めた会った時から分かってたんだから!あ、この子はやるって!!」
「はいはい、分かりましたから。僕らは自分達の仕事に戻りましょう、先輩」

 カレンの手柄をまるで自分の事かのように誇るエステルに、ピーターは彼女の事を宥めすかしながらまだ仕事は終わっていないと口にしていた。

「へ?仕事って?もうよくない、こんなに頑張ったんだから」
「はぁ・・・忘れたんですか、先輩?僕たちの仕事はあんな化け物を倒す事じゃなくて、レティシア様を連れ戻す事だって」
「・・・あ」

 今は勝利の余韻に浸っていたいと主張するエステルに、ピーターは自分達の仕事はそれとは全く関係ないと口にする。
 それは間違いではなく、彼らの仕事は元々この場の戦いに勝手に首を突っ込んでしまった領主の娘、レティシアを連れ戻す事であったのだ。

「そ、そうだった!レティシア様は!?レティシア様は今どこに!?」
「えーーーっと・・・あぁ、向こうに・・・あ」

 忘れていた仕事を思い出したエステルは、口をあんぐりと空けては自らの失態を証明している。
 それを再び閉ざしてはようやく慌てだした彼女は、ピーターの襟元を激しく揺さぶっては、レティシアの居場所を尋ねていた。
 そんな事を彼女にやられるまでもなく、ピーターはレティシアの姿を探している。
 そして彼は見つけていた、今だ戦いが続いている現場へと向かっていく彼女の姿を。



「あぁ、そんな・・・トージロー様!トージロー様ぁ!!」

 レティシアは見つめる先のトージローの姿に口元を覆い、顔を真っ青に染めている。
 それはその先に、彼女が望まない光景を目にしたからだ。
 カレンの活躍ですっかり戦いが終わった雰囲気が流れている広場、しかしその戦いは今回の騒動の本命であっただろうか。
 それは違う。
 今回の騒動の本命は吸血鬼ドラクロワであり、それは今もこの広場の中央で元気に戦い続けていたのだった。

「レティシア、駄目!!」
「カレン様!?でも、でも・・・あのままでは、トージロー様が・・・やっぱり私、行きます!!」
「だから駄目だってば!!」

 レティシアの視線の先では、ドラクロワに一方的に攻撃され続けているトージローの姿があった。
 その姿に顔を真っ青に染め、彼を助けに向かおうとしていたレティシアを、カレンが慌てて止めている。

「あんなのに巻き込まれたら、レティシアなんて一瞬で死んじゃうって!!それに、向こうに行ったって貴方に何が出来るの!?出来ないでしょ!?だったら大人しく、ここで見守ってなさい!!」
「そ、それは・・・」

 カレンの制止に一度は足を止めたものの、すぐに再び駆け出そうとしているレティシアを彼女は今度は両肩を掴んで、無理やりこちらへと向き直らせていた。
 そうしてレティシアの目を覗き込んだカレンは、貴方が助けに向かっても何も出来る事はないと言い聞かせていた。

「大体、トージローがあんな奴に負ける訳ないでしょ?」

 カレンは自らの言葉に黙りこくり、俯いてしまったレティシアの肩を叩くとウインクをして見せる。
 そうして彼女が口にしたのは、絶対的な確信に満ちた余裕の言葉だった。

「そうだぜ、シア姉!師匠が負ける訳ないだろ!」
「・・・当然」

 そんなカレンの言葉に賛同したのは、彼女の背後に腕組みをして現れたルイスとメイの二人であった。
 彼らは師匠であるトージローが苦戦しているにも拘らず、一切それを助けに向かおうとはせず余裕の態度を見せている。
 それは彼らが、その得物すら手放していることからも明らかであった。

「二人の言う通りだぜ嬢ちゃん、あの爺さんが負ける筈ねぇだろ?それより俺の手当てしてくんねぇか?さっき刺された腹が痛くて・・・痛ててて」
「グルド!?だから、まだ動いたら駄目っていってるだろ!?ほら、ここで横になってろ」

 そしてその二人の間へと割り込み、その肩に手を置きながら巨漢の男が現れる。
 その巨漢の男グルドは、二人同じようにトージローの実力に対する絶対の信頼を口にし、それよりも自分の手当てをしてくれとレティシアに頼んでいた。
 彼のお腹に先ほどの戦いで帯びた痛々しい傷跡が、そこを覆った粗末な包帯からは今も血が滲んでしまっていた。

「・・・そう、ですね。トージロー様が、あのようなものに負けるはずがございません!!私としたことが、それを疑ってしまうなど・・・お恥ずかしい限りでございます!あぁ、グルドさん!すぐに手当ていたしますわ、そこでお待ちになって!」

 周りからの言葉でトージローの実力を思い出したレティシアは、その勝利を疑った自分を恥じて顔を赤く染めている。
 そこへと指を添えてはその赤みを隠していた彼女は、自分がここにいる理由を思い出すと顔を上げ、慌ててグルドへと駆け寄っていた。

「あぁ、よかった!!そうです、あんな化け物なんかは誰かに任せて、私達は安全な場所で怪我人の手当てをしてましょう!!ほら、ここはまだ危険ですからもっと奥の方で・・・あぁ、痛いから動かないでくれって?うっさい!!あんたらなんかちょっと乱暴に扱ったって、死にゃしないわよ!!ピーター君、ほらそっち持って!!」
「はいはい・・・」

 ドラクロワとの戦いの現場に向かおうとしていたレティシアがそれを諦め、負傷者の手当てに回ったことにエステルは両手を合わせては喜びを顕にしていた。
 そして彼女はレティシアをさらに戦場から遠ざけようと、痛みに苦しんで地面に横になっていたグルドを無理やり抱きかかえては運ぼうとしていた。

「・・・何故、誰も向こうに応援に向かわんのだ?確かにあの激しい戦いに消耗しているのは分かる、分かるが・・・あの者達など、完全に観戦ムードで立っているだけではないか!?それならば応援に向かえばいいだろう!?どうしてあんな老人一人に、あの化け物の相手を任せるのだ!!?」

 そんなカレン達のやり取りを目にして、リータスは訳が分からないと頭を抱えている。
 カレン達は、あの強力な魔物であるヴァーデを何とか打倒したのだ。
 それならば、今度はさらに強力な魔物であるドラクロワの打倒に向かうのが当然の流れだろう。
 しかしその様子がまったくなく、完全に観戦ムードでその場を動こうとしない彼らに、リータスは理解が出来ないと頭を掻き毟ってしまっていた。

「何故だ!!?私が、私がおかしいのか!!!?」

 頭を掻き毟り、そこから幾つかの髪の毛を引き抜いたリータスは、血走った目で叫ぶ。
 その視線の先では、ドラクロワに一方的に攻撃され続けているトージローの姿があった。
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