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衝突

完全なる敗北

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「っ!?げほっげほっ、げほっ!!い、息が・・・苦しく、ない?」

 自らの意志ではなく途切れてしまった意識は、その過去と今とを連続させてしまう。
 意識を失う直前の息苦しさに、激しく咳き込みながら目覚めたアレクシアはしかし、その肺を満たす新鮮な空気に戸惑ってしまっていた。

「ここは・・・」

 激しく咳き込んだ反動で起き上がった上半身は、見渡した景色に馴染んだ光景を目にして、再び沈んでいく。
 それを受け止めた感触すらも優しく、そこが身に馴染んだベッドの上であることを知らせていた。
 その部屋は、彼女に用意された部屋だろう。
 この村の生活を一手に担い、支えてきた彼女からすればその部屋は簡素で、生活するのに最低限必要なものしか存在していない。
 それは彼女が村の生活を支えるために仕事ばかりに専念しており、ここには寝るためだけに戻ってきていただけであったことを示していた。

「そっか、終わったんだ・・・ふふっ、ふふふっ、あはは!はぁ~ぁ、何やってんだろ私・・・」

 頭の重みを受け止める枕に広がる金色の髪は、彼女の身体がもうあのゴワゴワとした感触のスーツに包まれていないことを意味している。
 見慣れた天井に、いつも目が合う人の顔に見える染みを見つけたアレクシアは、何か気が抜けたように笑みを漏らしてしまっていた。
 その目に浮かんだ涙は、笑いによるものか。
 頬を伝い、枕へとしみ込んだ今、その冷たさを知る術はもはやなくなってしまっていた。

「お姉様?目が覚めたのですか?」

 ひび割れてしまったかのような笑い声を漏らすアレクシアに、彼女の目覚めを知ったブレンダが水の入った桶とお絞りを持って部屋へと入ってくる。

「ブレンダ・・・私は、私はどうなったの?」
「お姉様、今はとにかく横になって安静にしてないと・・・」

 ブレンダの登場にどこか安堵したような表情を見せたアレクシアも、すぐに自らがあの後どうなってしまったのかが気になり、飛びつくような仕草で彼女へと尋ねていた。
 そんなアレクシアを受け止めたブレンダは、そのままもう一度彼女をベッドへと戻すだけ。
 持ってきたお絞りを水へとつけ、軽く絞った彼女はそれをアレクシアの額へと置くと、その下へと潜ってしまった髪の毛を軽く分けてやっていた。

「それで、何が聞きたいんでしたっけ?あぁ、どうやってここまで戻って来たかですよね」
「うん。ブレンダ、私はあいつに・・・」

 汲んできたばかりなのか、その水につけられたお絞りはひんやりと冷たく、気分を落ち着かせてくれる。
 そうして僅かに落ち着いた様子のアレクシアの汗を優しく拭っていたブレンダは、その手を一旦止めて彼女から問われたことについて考えていた。

「そうですよ?アランがお姉様を抱えて帰って来たんです!私それに驚いちゃって、あいつを怒鳴りつけちゃったんですけど・・・後で助けてくれてたんだって知って、今度は逆に驚いて!あのあと少し気まずくなっちゃったんですよ!」
「そう・・・やっぱり、そうなんだ・・・」

 アレクシアが薄々気が付いていた事実を、ブレンダはあっさりと口にしてしまう。
 その後に彼女が楽しげに語っている内容など、アレクシアの耳には届いていないだろう。
 知りたくはなかった、しかし確かめなければならなかった事実を知ったアレクシアは俯き、何かを諦めたかのような密やかさで一人呟いている。

「お姉様、何か言いましたか?」
「うぅん、何でもないのブレンダ。何でもないのよ・・・」
「・・・?そうだっ!アランが持って帰ってくれたアレがあるんだった!!お姉様、顔色はそれほど悪くありませんけど・・・外の空気を吸って気を失っちゃいましたから、毒気を抜かないと!」

 アレクシアの呟きは小さく、楽しそうに声を大きくしていたブレンダの耳には届かない。
 それでも彼女が何かを呟いていたことには気づいたブレンダの言葉に、アレクシアは首を横に振っている。
 そんな彼女の姿に首を傾げたブレンダはしかし、そんなこと以上に気になることがあればそちらに注意が向いてしまう。
 両手を合わせ何かを思い出した様子の彼女は、慌てて何を取りにこの部屋から出て行ってしまっていた。

「あいつが持って帰って来たもの・・・?あぁ、そうか・・・私はあれにも助けられるのか。ふふっ、ふふふ・・・」

 ブレンダがどこかから持ち出してアレクシアの治療に使おうとしているのは、彼女がアランに目の前で奪われたヒトトセバナだろう。
 それはまるで自分とアランの力の差を見せつけられているようで、彼女は自嘲的な笑みを漏らしてしまっていた。

「そうだ、私の荷物・・・あれは、どうなったの?あれには十分な・・・うぅん、この村にとって必要な物資が・・・放ってなんておけない・・・回収、しないと・・・」

 アランとの勝負について思い出せば、その時に集めていた物資の事を考えてしまう。
 彼女が気を失っても、それを収納するための能力は失われはしないが、それはそれが邪魔にはならないことを意味しない。
 気を失い脱力してしまった彼女を抱えて村へと戻るためには、その荷物は置いていくしかないだろう。
 ならばそれらの物資は、彼女が倒れたあの場所に放置されているはず。
 それを放ってはおけないと、アレクシアはふらふらと歩きだしてしまっていた。

「お姉様ー、知ってますかぁ?あいつ、これの根っこまで丁寧に掘り起こしてきたんですよ!根っこに薬効なんて全然ないのに!ものすっごく頑張って掘り起こしてきたんですって!!それを教えてあげた時のあいつの顔ったらもう、お姉様にも見せて・・・お姉様?お姉様ー!?」

 ブレンダがその花を煎じたものを持って来た時には、既にアレクシアの姿はそこにはない。
 楽しげな仕草で片足を上げては扉を閉めていた彼女が見たのは、もぬけの殻となったベッドの姿だけ。
 後には彼女がそれの乗ったお盆を取り落とす、硬質な音が響き渡るだけであった。
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