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蜜月
天国と地獄 1
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「帰ってきた、帰って来たぞー!!」
その声が響くと同時に歓声が上がり、防壁の上へと村人達が駆け上がっていく。
彼らの目当ては、その先から現れるであろう一人の男の姿であった。
「あー、疲れたぁ・・・ん?おいおい、わざわざ出迎えなんてしなくていいってのに!」
その男、アラン・ブレイクは森からその姿を見せると、その場に背負っていた荷物を置いて背筋を伸ばしている。
そうして凝り固まった身体を解したアランは、帰るべき村の防壁の上に村人達が集まっているのを発見していた。
「おぉ、今回も大量の物資を持ち帰って来たぞ!!」
「流石っす、兄貴!!」
「きゃー!素敵ー、アラン様ー!!」
彼らを発見しアランが零した言葉は、まだ遠い距離にそこまで届きはしないだろう。
しかしアランの帰還と、その獲得した物資の量については、彼が背中から降ろしたパンパンに膨らんだ鞄に示されている。
それを目にした彼らは口々に歓声を上げ、アランを讃える声を唱えていた。
それは彼らが今まで、物資を持ち帰るアレクシアの姿を見慣れていたからの反応だろう。
彼女の持ち帰る物資は、その能力によって鞄の容量以上に持ち帰ることが出来てしまう。
そのため実際に帰ってきて荷物を取り出すまで、その持ち帰った量が分からない彼女と違って一目で大量と分かるアランの姿は、新鮮で分かりやすいものであったのだ。
「ったく、仕方ねぇな・・・はいはい、帰ってきましたよっと」
湧き上がる歓声は、まだ遠いアランにまでも届いている。
しかしそれが聞こえずとも、防壁の上ではしゃいでいる村人達の様子はそこからでも見えていただろう。
そんな彼らに応えるために、アランは面倒くさそうに頭を掻くと、手を振って見せている。
しかしそのぞんざいな手つきな割に、その口元はどこか嬉しげに吊り上がっていた。
「おぉ、今日も大量ですね兄貴!!」
「ゴブタケにモドキ・・・それにヒトトセバナ!こんな貴重なものを、こんな簡単に・・・流石です、アラン様!!」
村へと立ち入る前に、身体についた汚れや胞子なんかを軽く払ったアランは、彼を出迎える村人達に囲まれていた。
彼らはアランが持ち帰った荷物を解いては、その内容に歓声を上げている。
それにはアランも悪い気はしないようで、鼻の下を擦っては得意げにしていた。
「まぁ?それほどでもある・・・かな?はーっはっはっは!!!」
どんな毒気の濃い場所でも、彼の能力「毒無効」であれば気にせず足を踏み入れることが出来る。
また動きを阻害する耐毒スーツを身に纏う必要のない彼ならば、危険な魔物が生息する領域にも立ち入ることが出来た。
それは結果的に、今までアレクシアが持ち帰れなかったような貴重な物資を手に入れる事を可能としていた。
その事実を褒め称える村人達に、アランは一瞬謙遜する気配を見せていたが、それは僅かな間の出来事でしかなかった。
「・・・これぐらい、私にだって」
しかし全ての村人が、彼の成果を歓迎している訳ではない。
アランを囲い、それを褒め称える輪から少し離れた所で金髪の女性が一人、唇を噛みしめながら小さく呟いている。
その女性、アレクシアはどこか悔しげにその光景を睨み付けていた。
「おや?おやおやおや~?これはこれは、アレクシア・ハートフィールド様じゃあありませんか?」
集団の輪から外れたアレクシアの姿に、彼らは気付かない。
それは彼らがアランへと視線を向けるのに夢中で、それ以外を目に入れることがないからだ。
しかしたった一人、そうではない者がいる。
それは、アラン・ブレイクその人だ。
「そんなところで何を?こっちに来て、皆に成果を見せてやってくださいよ!おや、持ち帰った荷物が見られないようですが・・・どちらに?」
彼はわざとらしくその存在を強調しては、周りにも彼女へと注目するように促している。
そうしておいて彼は、彼女が何の荷物もその背に背負っていないことをあげつらっていた。
「・・・わよ」
「んん~?聞こえないな~?何て言ったんですかぁ?」
アレクシアがその背に荷物を背負っていないことは、一目見れば分かる。
しかしアランはそれを強調し、馬鹿にするように言葉を重ねている。
そんな彼の振る舞いにアレクシアは顔を俯かせると、何事かを小さく呟く。
その密やかなボリュームは、アランからすればさらに彼女を煽るために理由となっていた。
「ないって言ったのよ!!そんなの見れば分かるでしょう!?」
アレクシアが呟いた小さな声に、わざとらしく耳を傾けてはそちらへと顔を向けるアランの振る舞いは、はっきりと彼女をおちょくっている。
しかし彼女に出来る抵抗は、それに必要以上の大声を上げて嫌がらせをすることだけであった。
「うおっ!?っとと・・・ひでぇことしやがる、こっちは当たり前のことを聞いただけなのによぉ」
耳元で叫ばれたアランは慌てて耳を押さえると、ふらふらと一歩二歩と後退している。
「それで、どうしてそんな事に?俺の記憶が確かなら、アレクシア・ハートフィールド様はこの村の生活を一手に担っていた筈だと思ったんですけどねぇ?」
この村の生活を支える物資を持ち帰るのは本来、アレクシアの仕事であった筈だ。
その彼女が手ぶらでここにいるという事態を、アランは不思議で溜まらないと首を捻って見せていた。
「くっ、それは・・・仕方ないじゃない!スーツの補修がまだ終わってないんだから!」
アランの言葉に声を詰まらせたアレクシアは、悔しそうにその理由を白状する。
彼女がアランとの勝負の際に破損させてしまった耐毒スーツは、応急処置をしただけで今だに完全には直ってはいない。
それ故に彼女は外に出て物資の回収を行うことが出来ないのだと、叫んでいた。
「あぁ!これは失念していたなぁ!普通の奴は、外に出るのにそんなものが必要だったのか!俺みたいに『毒無効』を持っていない奴は!!」
それを彼女の口から聞き出したアランは、ニヤリと口元を吊り上がらせると、待ってましたとばかりに自らの能力の特別性を謳い始める。
そんなアランの言葉に賛同するように、周りからは彼を称賛する声が沸き上がっていた。
「んん~?しかし、そうだとすると変だなぁ?」
「な、何よ?何が言いたいのよ!?」
自らを称賛する周りの声に軽く手を振って応えたアランは、それが終わると不思議そうに首を捻り始めていた。
そんな彼の姿に、アレクシアは何故か動揺した様子を見せていたのだった。
「いやね?その耐毒スーツ?だったっけ?それがなければ外に出られないんだろう?だったら何で、こんな所にいるのかと思ってな。まさか俺の出迎えに来た訳じゃないんだろう?」
「そ、それは・・・」
耐毒スーツの補修が終わっていないアレクシアは、外に出て物資に回収に向かうことが出来ない。
それが事実であるならば、なぜ彼女はこんな所に出歩いているのか。
その当然の疑問をアランから告げられたアレクシアは、思わず口籠り彼の疑問に答えることが出来ずにいた。
「あぁ、そうか!なるほどなるほど、そういう事だったのか!配給を貰いに来た訳ね!!今までは自分で採ってきてたから必要なかったが、今は違うもんな!いやぁ、悪い悪い!中々気づけなくて、待たせちまったな!」
村の生活を支える物資を一人で調達していたアレクシアが、そこから自らの生活に必要なものを取っていっても文句を言う者など誰もいなかった。
しかし自らで物資を取りに行けなくなった彼女は、他の村人達と同じように配給に頼るしかなくなっていた。
それをアランから指摘されたアレクシアは、黙って唇を噛みしめて耐えているが、周りはそれだけでは収まらない。
その声が響くと同時に歓声が上がり、防壁の上へと村人達が駆け上がっていく。
彼らの目当ては、その先から現れるであろう一人の男の姿であった。
「あー、疲れたぁ・・・ん?おいおい、わざわざ出迎えなんてしなくていいってのに!」
その男、アラン・ブレイクは森からその姿を見せると、その場に背負っていた荷物を置いて背筋を伸ばしている。
そうして凝り固まった身体を解したアランは、帰るべき村の防壁の上に村人達が集まっているのを発見していた。
「おぉ、今回も大量の物資を持ち帰って来たぞ!!」
「流石っす、兄貴!!」
「きゃー!素敵ー、アラン様ー!!」
彼らを発見しアランが零した言葉は、まだ遠い距離にそこまで届きはしないだろう。
しかしアランの帰還と、その獲得した物資の量については、彼が背中から降ろしたパンパンに膨らんだ鞄に示されている。
それを目にした彼らは口々に歓声を上げ、アランを讃える声を唱えていた。
それは彼らが今まで、物資を持ち帰るアレクシアの姿を見慣れていたからの反応だろう。
彼女の持ち帰る物資は、その能力によって鞄の容量以上に持ち帰ることが出来てしまう。
そのため実際に帰ってきて荷物を取り出すまで、その持ち帰った量が分からない彼女と違って一目で大量と分かるアランの姿は、新鮮で分かりやすいものであったのだ。
「ったく、仕方ねぇな・・・はいはい、帰ってきましたよっと」
湧き上がる歓声は、まだ遠いアランにまでも届いている。
しかしそれが聞こえずとも、防壁の上ではしゃいでいる村人達の様子はそこからでも見えていただろう。
そんな彼らに応えるために、アランは面倒くさそうに頭を掻くと、手を振って見せている。
しかしそのぞんざいな手つきな割に、その口元はどこか嬉しげに吊り上がっていた。
「おぉ、今日も大量ですね兄貴!!」
「ゴブタケにモドキ・・・それにヒトトセバナ!こんな貴重なものを、こんな簡単に・・・流石です、アラン様!!」
村へと立ち入る前に、身体についた汚れや胞子なんかを軽く払ったアランは、彼を出迎える村人達に囲まれていた。
彼らはアランが持ち帰った荷物を解いては、その内容に歓声を上げている。
それにはアランも悪い気はしないようで、鼻の下を擦っては得意げにしていた。
「まぁ?それほどでもある・・・かな?はーっはっはっは!!!」
どんな毒気の濃い場所でも、彼の能力「毒無効」であれば気にせず足を踏み入れることが出来る。
また動きを阻害する耐毒スーツを身に纏う必要のない彼ならば、危険な魔物が生息する領域にも立ち入ることが出来た。
それは結果的に、今までアレクシアが持ち帰れなかったような貴重な物資を手に入れる事を可能としていた。
その事実を褒め称える村人達に、アランは一瞬謙遜する気配を見せていたが、それは僅かな間の出来事でしかなかった。
「・・・これぐらい、私にだって」
しかし全ての村人が、彼の成果を歓迎している訳ではない。
アランを囲い、それを褒め称える輪から少し離れた所で金髪の女性が一人、唇を噛みしめながら小さく呟いている。
その女性、アレクシアはどこか悔しげにその光景を睨み付けていた。
「おや?おやおやおや~?これはこれは、アレクシア・ハートフィールド様じゃあありませんか?」
集団の輪から外れたアレクシアの姿に、彼らは気付かない。
それは彼らがアランへと視線を向けるのに夢中で、それ以外を目に入れることがないからだ。
しかしたった一人、そうではない者がいる。
それは、アラン・ブレイクその人だ。
「そんなところで何を?こっちに来て、皆に成果を見せてやってくださいよ!おや、持ち帰った荷物が見られないようですが・・・どちらに?」
彼はわざとらしくその存在を強調しては、周りにも彼女へと注目するように促している。
そうしておいて彼は、彼女が何の荷物もその背に背負っていないことをあげつらっていた。
「・・・わよ」
「んん~?聞こえないな~?何て言ったんですかぁ?」
アレクシアがその背に荷物を背負っていないことは、一目見れば分かる。
しかしアランはそれを強調し、馬鹿にするように言葉を重ねている。
そんな彼の振る舞いにアレクシアは顔を俯かせると、何事かを小さく呟く。
その密やかなボリュームは、アランからすればさらに彼女を煽るために理由となっていた。
「ないって言ったのよ!!そんなの見れば分かるでしょう!?」
アレクシアが呟いた小さな声に、わざとらしく耳を傾けてはそちらへと顔を向けるアランの振る舞いは、はっきりと彼女をおちょくっている。
しかし彼女に出来る抵抗は、それに必要以上の大声を上げて嫌がらせをすることだけであった。
「うおっ!?っとと・・・ひでぇことしやがる、こっちは当たり前のことを聞いただけなのによぉ」
耳元で叫ばれたアランは慌てて耳を押さえると、ふらふらと一歩二歩と後退している。
「それで、どうしてそんな事に?俺の記憶が確かなら、アレクシア・ハートフィールド様はこの村の生活を一手に担っていた筈だと思ったんですけどねぇ?」
この村の生活を支える物資を持ち帰るのは本来、アレクシアの仕事であった筈だ。
その彼女が手ぶらでここにいるという事態を、アランは不思議で溜まらないと首を捻って見せていた。
「くっ、それは・・・仕方ないじゃない!スーツの補修がまだ終わってないんだから!」
アランの言葉に声を詰まらせたアレクシアは、悔しそうにその理由を白状する。
彼女がアランとの勝負の際に破損させてしまった耐毒スーツは、応急処置をしただけで今だに完全には直ってはいない。
それ故に彼女は外に出て物資の回収を行うことが出来ないのだと、叫んでいた。
「あぁ!これは失念していたなぁ!普通の奴は、外に出るのにそんなものが必要だったのか!俺みたいに『毒無効』を持っていない奴は!!」
それを彼女の口から聞き出したアランは、ニヤリと口元を吊り上がらせると、待ってましたとばかりに自らの能力の特別性を謳い始める。
そんなアランの言葉に賛同するように、周りからは彼を称賛する声が沸き上がっていた。
「んん~?しかし、そうだとすると変だなぁ?」
「な、何よ?何が言いたいのよ!?」
自らを称賛する周りの声に軽く手を振って応えたアランは、それが終わると不思議そうに首を捻り始めていた。
そんな彼の姿に、アレクシアは何故か動揺した様子を見せていたのだった。
「いやね?その耐毒スーツ?だったっけ?それがなければ外に出られないんだろう?だったら何で、こんな所にいるのかと思ってな。まさか俺の出迎えに来た訳じゃないんだろう?」
「そ、それは・・・」
耐毒スーツの補修が終わっていないアレクシアは、外に出て物資に回収に向かうことが出来ない。
それが事実であるならば、なぜ彼女はこんな所に出歩いているのか。
その当然の疑問をアランから告げられたアレクシアは、思わず口籠り彼の疑問に答えることが出来ずにいた。
「あぁ、そうか!なるほどなるほど、そういう事だったのか!配給を貰いに来た訳ね!!今までは自分で採ってきてたから必要なかったが、今は違うもんな!いやぁ、悪い悪い!中々気づけなくて、待たせちまったな!」
村の生活を支える物資を一人で調達していたアレクシアが、そこから自らの生活に必要なものを取っていっても文句を言う者など誰もいなかった。
しかし自らで物資を取りに行けなくなった彼女は、他の村人達と同じように配給に頼るしかなくなっていた。
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