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ダンジョン経営の始まり

怪物の主

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「あれが、カイ・リンデンバウムか・・・」
「なんだ、全然大したことなさそうな奴だったな?確かに、あの変身能力には驚いたけどよ」

 カイが立ち去って後の大広間に、レクスの独り言のような声が響く。
 その声に反応したニックは、直接対面した彼らの主となる魔物が、思っていたほどの存在ではないと肩を竦めて見せていた。

「お前はそう思ったのか?俺は逆だな・・・正直、恐ろしかったよ」
「なんでだ?見た所、大した戦闘能力も持ってないように見えたぞ?それこそ俺とお前の二人なら、簡単に仕留められるだろう、あれぐらい」

 ニックの言葉に、レクスは逆の感想を漏らす。
 彼の二の腕には、薄く鳥肌が立っていた。

「お前の見立ては間違っていないと思う。だが、だからこそ恐ろしいんだ。彼らを見ろ」
「ん?俺達の仲間と、一緒に来た奴らだろ?皆、あの恐ろしい怪物にやり込められた連中だ」
「そう俺達は皆、今日始めてここにやってきた者達だ。彼らに平伏しにね。そこに忠誠心があると思うか?寧ろ反抗してやろうと、今か今かと機を窺っている所だろう」

 ニックの見立てに賛同したレクスは、彼に周りの者達を見るように促していた。
 レクスの指示に一緒にやってきたゴブリンの仲間達と、オークやトロールを目にしたニックは、ここにやってくることになった経緯を思い出して肩を竦めている。
 その仕草を目にしたレクスはそれを鼻で笑うと、そうした感情こそが示したかった事実だと静かに語っていた。

「・・・だろうな。それが、なんだ?」
「そんな集団の中に、彼は丸腰で入ってきたんだ。そこには逆らわれない絶対の自信があったのか、それとも圧倒的な実力を隠し持っているのか・・・それは分からないけど、俺にはそれが恐ろしかったよ」
「た、確かに。しかし、そうだとしても―――」

 レクスは危険もあった筈なのに、何の警戒もなしに彼らへと近づいてきたカイの振る舞いについて振り返る。
 先ほどのカイの振る舞いは、下手をすれば命の危険もあった筈だ。
 それを気軽な様子で過ごしきったカイの姿に、レクスは得体の知れない恐怖を感じていた。
 それはニックにも納得できる部分ではある、しかし彼はそれでもカイの実力に懐疑的であった。

「それに彼は、あの怪物の主なんだよ。それを侮るべきじゃない」

 彼らを従えるために力を振るったセッキの姿は、彼らの目に焼きついている。
 それはきっと、一生消えることはないだろう。
 それほどまでに圧倒的な力を振るうセッキを、あの男は従えている。
 それだけで平伏する理由は十分だと、レクスは語る。

「うっ!それは、確かに。だが、あんな怪物を従える存在なんて、実在するのか?」
「さっき、目の前に居ただろう?」

 同じ恐怖を知るニックは、そんな現実など存在しないと否定する。
 しかしそれすらレクスに短い言葉で言い返されると、もはや黙ることしか出来ない。
 多くの存在がごった返す大広間には、今だざわざわとした声が響く。
 その声の多くは、カイ・リンデンバウムへの恐怖を囁くものであった。
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