ダンジョン経営から始める魔王討伐のすゝめ 追放された転生ダンジョンマスターが影から行う人類救済

初めてのお客様

ハロルドは決意と共に前に踏み出す ２

「きゃぁ！？な、何を・・・ハロルド！？」

　弾き飛ばされたアイリスは、地面へとその背中を叩きつけていた。
　短い悲鳴を漏らした彼女は、ハロルドが何故そんな事をしたのかと動揺した瞳を向ける。
　彼の行動の理由は、その先の光景を見れば一目で分かるだろう。
　アイリスの視線の先では、無傷のスケルトンが悠然と佇んでいた。
　それは手にした木の棒を振り上げ、今にもハロルドに向かって振り下ろそうとしている。
　アイリスを突き飛ばすために態勢を崩してしまった彼には、それを防ぐ術などありはしなかった。

「ぐぅっ・・・！この、程度で！」

　ガツンと響いた鈍い音に、ハロルドの側頭部からはぬめりけを帯びた血が一筋落ちる。
　その衝撃は、彼の意識を一瞬飛ばしていただろうか。
　それでも彼は戦う意思を捨てる事なく、追撃を放とうとしていたスケルトンを突き飛ばして、意識を回復する時間を何とか稼ごうとしていた。

「そんな、何で・・・！？この、このぉ！！」

　まだ意識が朦朧としているのか、足下が定まらない様子でふらふら彷徨っているハロルドに、体勢を立て直したスケルトンが襲い掛かろうとしている。
　そんなスケルトンに、両手で杖を握り締めたアイリスが飛び掛る。
　彼女はそれを思いっきり振り上げると、スケルトン目掛けて何度も叩きつけるが、スケルトンはビクともする事はない。
　彼女の手には確かな手応えが伝わっている、だからこそ何で効かないのだと、彼女はそれを繰り返し続けていた。

「何で、何でっ！？この、このぉ！倒れろよぉ！！」

　何度アイリスが杖を叩きつけても、スケルトンはビクともしない。
　彼女の貧弱の力では、そのスケルトンに僅かな傷を与えることしか出来ないのだ。
　アイリスは泣き声混じりの大声を上げながら、それを幾度も繰り返すが、それは寧ろ有害ですらあった。
　蚊に刺された程度の痛みだとしてもこちらを攻撃し続けている相手がいれば、スケルトンもそれを無視できない。
　スケルトンはゆっくりと得物を振り上げると、その矛先を彼女へと向けようとしていた。

「駄目だ、アイリス！君の力じゃ・・・！お前の相手はこっちだろ、骸骨野郎！！」

　アイリスの行為は、ただただ敵の注意を引くだけでしかない。
　それを制止する言葉を吐いたハロルドは、そのままスケルトンへと突撃していく。
　まだ足元が覚束ない彼の突進は、寄りかかる程度の威力でしかないだろう。
　しかしそんな程度の威力でも、アイリスへの攻撃を逸らす事は出来る。

「がっ！？・・・どうした？そんなもんじゃ、僕を殺せはしないぞ骸骨野郎！！」

　逸れた攻撃は、そのまま流れてハロルドの背中を強かに叩く。
　その衝撃に痛みを吐いた彼は、強がりに息を飲み込むと、掴んだままのスケルトンを押し込んでいく。
　それはアイリスから、少しでも敵を遠ざけようという動きだろうか。
　彼の向こうでは、二対のスケルトンを相手にしているクリスが、徐々に押し込まれようとしていた。