181 / 308
勇者がダンジョンにやってくる!
大きな変貌を遂げたダンジョン 1
しおりを挟む
ダンジョンコアが安置されている、最奥の間は広くはなく4、5人もいれば息苦しさを感じるだろう。
そしてその部屋の一番奥の席に座り、それに思いっきり体重を預けているカイの視界には、三人の人影が映っている。
僅かな息苦しさに小さく咳払いを漏らした彼は、それを部下に聞かれないように手の平の中に隠していた。
「・・・何か仰られましたか、カイ様?」
「い、いや、何でもないぞ。気にしなくていいから、仕事に戻るように」
「はぁ・・・畏まりました」
操作端末の前に立っては忙しそうに手を動かしていたヴェロニカは、そんな状況にもカイが出した小さな物音に反応していた。
そんな彼女こそを邪魔したくなかったカイは、若干焦ったような表情で何でもないと誤魔化している。
自らの主人のそんな振る舞いに不思議そうに首を傾げたヴェロニカは、納得のいかない表情ながらも作業へと戻っていく。
その操作端末の上を滑る手の動きは、以前よりも確実にすべらかなものとなっていた。
「ヴェロニカも随分慣れてきたものだな・・・あれから一ヶ月も経ったのだから、当たり前か」
キーボード状の操作端末を叩くヴェロニカの指の速度は、今やカイのものとも遜色はない。
それも当然の話だろう。
クリス達がこのダンジョンを訪れてから、既に一ヶ月以上もの時間が経っている。
その間、カイの速度に追いつこうと弛まぬ努力を続けたヴェロニカの技術が、カイのそれに肩を並ばせるのは何も不思議な話ではない。
「セッキ達が人間を襲ったって話を聞いた時は、どうなる事かと思ったが・・・蓋を開けてみればこれだものな、世の中というのは分からないものだ」
カイの独り言に聞き耳を立てていたヴェロニカは、自らの褒める内容のそれには密かに身体をくねらせて、喜びを顕にしていた。
しかしそれもダンジョンの話題となれば思う所もあったのか、カイと同じような角度で彼女もモニターへと視線を向ける。
そこには多くの冒険者でごった返す、ダンジョンの姿が映っていた。
「しかし、それはそれで新たな問題が出てくるのだから困ったものだな・・・」
ダンジョンに溢れかえる冒険者の姿は、まさしくカイの望んだ姿であった。
薬草採集に向かわせたゴブリン達が、人間を襲ってしまったという話を聞いた時は計画の頓挫をも覚悟していたが、蓋を開けてみればこの有様だ。
考えてみれば外に出していたゴブリン達と、このダンジョンを繋げる事など、外の人間達に出来よう筈もない。
自らが感じていた杞憂など、全くの的外れであったと苦笑を漏らしたカイはしかし、新たに発生した問題に憂慮の表情を崩す事はなかった。
「ヴェロニカ、今日の死者はどれ位だ?」
「死者の数ですか?少々お待ちください・・・」
モニターに映る冒険者の数は、ざっと見渡しただけでも両手に余る。
その数の冒険者を全てケアしようにも、このダンジョンには圧倒的に人手が足りてはいなかった。
そのためクリス達の時のように、彼らを完全に接待する事など望むべくもなく、結果的に多少の死者が出る事態となってしまっていたのだった。
「そうですね・・・今の所、死者はいないようです。重傷者は出ているようですが、これはポーションを使えば治療可能な程度のようです」
「そうか・・・ならば午後も集中して、今日こそ死者ゼロを―――」
ダンジョンの支配者としての特権で、専用のモニターを手元へと出現させて現在の時刻を確認したカイは、今日こそは死者ゼロを目指すと意気込んでいる。
あの一件以降、ダンジョンに訪れる冒険者がまだ少なかった最初の数日を除き、今だに死者ゼロを達成出来た事はない。
この時間まで死者が出ていない事も中々珍しく、久々のチャンスにカイは部下達により一層の奮闘を求めようとしていた。
そしてその部屋の一番奥の席に座り、それに思いっきり体重を預けているカイの視界には、三人の人影が映っている。
僅かな息苦しさに小さく咳払いを漏らした彼は、それを部下に聞かれないように手の平の中に隠していた。
「・・・何か仰られましたか、カイ様?」
「い、いや、何でもないぞ。気にしなくていいから、仕事に戻るように」
「はぁ・・・畏まりました」
操作端末の前に立っては忙しそうに手を動かしていたヴェロニカは、そんな状況にもカイが出した小さな物音に反応していた。
そんな彼女こそを邪魔したくなかったカイは、若干焦ったような表情で何でもないと誤魔化している。
自らの主人のそんな振る舞いに不思議そうに首を傾げたヴェロニカは、納得のいかない表情ながらも作業へと戻っていく。
その操作端末の上を滑る手の動きは、以前よりも確実にすべらかなものとなっていた。
「ヴェロニカも随分慣れてきたものだな・・・あれから一ヶ月も経ったのだから、当たり前か」
キーボード状の操作端末を叩くヴェロニカの指の速度は、今やカイのものとも遜色はない。
それも当然の話だろう。
クリス達がこのダンジョンを訪れてから、既に一ヶ月以上もの時間が経っている。
その間、カイの速度に追いつこうと弛まぬ努力を続けたヴェロニカの技術が、カイのそれに肩を並ばせるのは何も不思議な話ではない。
「セッキ達が人間を襲ったって話を聞いた時は、どうなる事かと思ったが・・・蓋を開けてみればこれだものな、世の中というのは分からないものだ」
カイの独り言に聞き耳を立てていたヴェロニカは、自らの褒める内容のそれには密かに身体をくねらせて、喜びを顕にしていた。
しかしそれもダンジョンの話題となれば思う所もあったのか、カイと同じような角度で彼女もモニターへと視線を向ける。
そこには多くの冒険者でごった返す、ダンジョンの姿が映っていた。
「しかし、それはそれで新たな問題が出てくるのだから困ったものだな・・・」
ダンジョンに溢れかえる冒険者の姿は、まさしくカイの望んだ姿であった。
薬草採集に向かわせたゴブリン達が、人間を襲ってしまったという話を聞いた時は計画の頓挫をも覚悟していたが、蓋を開けてみればこの有様だ。
考えてみれば外に出していたゴブリン達と、このダンジョンを繋げる事など、外の人間達に出来よう筈もない。
自らが感じていた杞憂など、全くの的外れであったと苦笑を漏らしたカイはしかし、新たに発生した問題に憂慮の表情を崩す事はなかった。
「ヴェロニカ、今日の死者はどれ位だ?」
「死者の数ですか?少々お待ちください・・・」
モニターに映る冒険者の数は、ざっと見渡しただけでも両手に余る。
その数の冒険者を全てケアしようにも、このダンジョンには圧倒的に人手が足りてはいなかった。
そのためクリス達の時のように、彼らを完全に接待する事など望むべくもなく、結果的に多少の死者が出る事態となってしまっていたのだった。
「そうですね・・・今の所、死者はいないようです。重傷者は出ているようですが、これはポーションを使えば治療可能な程度のようです」
「そうか・・・ならば午後も集中して、今日こそ死者ゼロを―――」
ダンジョンの支配者としての特権で、専用のモニターを手元へと出現させて現在の時刻を確認したカイは、今日こそは死者ゼロを目指すと意気込んでいる。
あの一件以降、ダンジョンに訪れる冒険者がまだ少なかった最初の数日を除き、今だに死者ゼロを達成出来た事はない。
この時間まで死者が出ていない事も中々珍しく、久々のチャンスにカイは部下達により一層の奮闘を求めようとしていた。
0
あなたにおすすめの小説
異世界転生、防御特化能力で彼女たちを英雄にしようと思ったが、そんな彼女たちには俺が英雄のようだ。
Mです。
ファンタジー
異世界学園バトル。
現世で惨めなサラリーマンをしていた……
そんな会社からの帰り道、「転生屋」という見慣れない怪しげな店を見つける。
その転生屋で新たな世界で生きる為の能力を受け取る。
それを自由イメージして良いと言われた為、せめて、新しい世界では苦しまないようにと防御に突出した能力をイメージする。
目を覚ますと見知らぬ世界に居て……学生くらいの年齢に若返っていて……
現実か夢かわからなくて……そんな世界で出会うヒロイン達に……
特殊な能力が当然のように存在するその世界で……
自分の存在も、手に入れた能力も……異世界に来たって俺の人生はそんなもん。
俺は俺の出来ること……
彼女たちを守り……そして俺はその能力を駆使して彼女たちを英雄にする。
だけど、そんな彼女たちにとっては俺が英雄のようだ……。
※※多少意識はしていますが、主人公最強で無双はなく、普通に苦戦します……流行ではないのは承知ですが、登場人物の個性を持たせるためそのキャラの物語(エピソード)や回想のような場面が多いです……後一応理由はありますが、主人公の年上に対する態度がなってません……、後、私(さくしゃ)の変な癖で「……」が凄く多いです。その変ご了承の上で楽しんで頂けると……Mです。の本望です(どうでもいいですよね…)※※
※※楽しかった……続きが気になると思って頂けた場合、お気に入り登録……このエピソード好みだなとか思ったらコメントを貰えたりすると軽い絶頂を覚えるくらいには喜びます……メンタル弱めなので、誹謗中傷てきなものには怯えていますが、気軽に頂けると嬉しいです。※※
異世界翻訳者の想定外な日々 ~静かに読書生活を送る筈が何故か家がハーレム化し金持ちになったあげく黒覆面の最強怪傑となってしまった~
於田縫紀
ファンタジー
図書館の奥である本に出合った時、俺は思い出す。『そうだ、俺はかつて日本人だった』と。
その本をつい翻訳してしまった事がきっかけで俺の人生設計は狂い始める。気がつけば美少女3人に囲まれつつ仕事に追われる毎日。そして時々俺は悩む。本当に俺はこんな暮らしをしてていいのだろうかと。ハーレム状態なのだろうか。単に便利に使われているだけなのだろうかと。
異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。
久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。
事故は、予想外に起こる。
そして、異世界転移? 転生も。
気がつけば、見たことのない森。
「おーい」
と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。
その時どう行動するのか。
また、その先は……。
初期は、サバイバル。
その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。
有名になって、王都へ。
日本人の常識で突き進む。
そんな感じで、進みます。
ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。
異世界側では、少し非常識かもしれない。
面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。
転生したら遊び人だったが遊ばず修行をしていたら何故か最強の遊び人になっていた
ぐうのすけ
ファンタジー
カクヨムで先行投稿中。
遊戯遊太(25)は会社帰りにふらっとゲームセンターに入った。昔遊んだユーフォーキャッチャーを見つめながらつぶやく。
「遊んで暮らしたい」その瞬間に頭に声が響き時間が止まる。
「異世界転生に興味はありますか?」
こうして遊太は異世界転生を選択する。
異世界に転生すると最弱と言われるジョブ、遊び人に転生していた。
「最弱なんだから努力は必要だよな!」
こうして雄太は修行を開始するのだが……
墓守の荷物持ち 遺体を回収したら世界が変わりました
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕の名前はアレア・バリスタ
ポーターとしてパーティーメンバーと一緒にダンジョンに潜っていた
いつも通りの階層まで潜るといつもとは違う魔物とあってしまう
その魔物は僕らでは勝てない魔物、逃げるために必死に走った
だけど仲間に裏切られてしまった
生き残るのに必死なのはわかるけど、僕をおとりにするなんてひどい
そんな僕は何とか生き残ってあることに気づくこととなりました
田舎農家の俺、拾ったトカゲが『始祖竜』だった件〜女神がくれたスキル【絶対飼育】で育てたら、魔王がコスメ欲しさに竜王が胃薬借りに通い詰めだした
月神世一
ファンタジー
「くそっ、魔王はまたトカゲの抜け殻を美容液にしようとしてるし、女神は酒のつまみばかり要求してくる! 俺はただ静かに農業がしたいだけなのに!」
ブラック企業で過労死した日本人、カイト。
彼の願いはただ一つ、「誰にも邪魔されない静かな場所で農業をすること」。
女神ルチアナからチートスキル【絶対飼育】を貰い、異世界マンルシア大陸の辺境で念願の農場を開いたカイトだったが、ある日、庭から虹色の卵を発掘してしまう。
孵化したのは、可愛らしいトカゲ……ではなく、神話の時代に世界を滅亡させた『始祖竜』の幼体だった!
しかし、カイトはスキル【絶対飼育】のおかげで、その破壊神を「ポチ」と名付けたペットとして完璧に飼い慣らしてしまう。
ポチのくしゃみ一発で、敵の軍勢は老衰で塵に!?
ポチの抜け殻は、魔王が喉から手が出るほど欲しがる究極の美容成分に!?
世界を滅ぼすほどの力を持つポチと、その魔素を浴びて育った規格外の農作物を求め、理知的で美人の魔王、疲労困憊の竜王、いい加減な女神が次々にカイトの家に押しかけてくる!
「世界の管理者」すら手が出せない最強の農場主、カイト。
これは、世界の運命と、美味しい野菜と、ペットの散歩に追われる、史上最も騒がしいスローライフ物語である!
外れスキルは、レベル1!~異世界転生したのに、外れスキルでした!
武蔵野純平
ファンタジー
異世界転生したユウトは、十三歳になり成人の儀式を受け神様からスキルを授かった。
しかし、授かったスキルは『レベル1』という聞いたこともないスキルだった。
『ハズレスキルだ!』
同世代の仲間からバカにされるが、ユウトが冒険者として活動を始めると『レベル1』はとんでもないチートスキルだった。ユウトは仲間と一緒にダンジョンを探索し成り上がっていく。
そんなユウトたちに一人の少女た頼み事をする。『お父さんを助けて!』
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる