ダンジョン経営から始める魔王討伐のすゝめ 追放された転生ダンジョンマスターが影から行う人類救済

斑目 ごたく

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カイ・リンデンバウムの恐ろしき計画

出会う人々 1

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「ど、どうすればいいのだ・・・ど、どこも空いてないぞ?ア、アビー?い、いや駄目だ!私もレイモンド家の男、自分の力で何とかするのだ!」

 広場にごった返す人込みの中を一人、うろうろと右往左往しているエヴァンは、仲間達と座れるスペースを見つけられずに絶望した表情をその顔に浮かべていた。
 その場に溢れる人込みのほとんどは、屈強な身体を持った冒険者達だ。
 そんな場違いな場所に一人佇むエヴァンは、不安からか思わず後ろを振り返りアビーに頼ろうとしてしまう。
 しかしそれも、一瞬の事だ。
 彼はすぐにその不安を振り払うと、強く拳を握り締め決意を新たに歩き始めている。
 その決意に燃える瞳にはもはや、達成すべき目標しか見えていないだろう。
 そう、その目の前に立ち塞がる、ガラの悪い男の背中すらも。

「っ!?な、なに?」
「あぁ?いってぇなぁ・・・てめぇ、ちゃんと前見て歩きやがれ!!」
「ひ、ひぃぃぃ、すみませぇぇぇん!!」

 突然ぶつかった背中は硬く、逆にエヴァンの方が弾かれてしまう。
 その痛みに彼が戸惑っていると、ぶつかった男がゆっくりと振り向いてきていた。
 その強面の顔面は、冒険者としての経験が如実に現れている。
 しかしエヴァンからすれば、その見た目には恐怖しか感じられず、それに怒鳴りつけられれば小さく縮こまることしか出来ない。

「おい、どうした?」
「いや、こいつが急にぶつかってきてよ」
「ふ~ん・・・お!おい、見ろよこいつ。何か金持ってそうじゃね?」

 急に大声を出した男に、その仲間であろう男達も集まってくる。
 その中の一人が縮こまっているエヴァンの姿を見ては、その金の匂いを鋭く嗅ぎ分けていたのだった。

「本当だ、こりゃあれか?やっちまうか?」
「へへへ・・・任せとけって」

 一人が匂いを嗅ぎつければ、周りにもそれがすぐに伝わっていく。
 それも当然の事であろう、エヴァンがその身に纏っているのは、この辺では到底お目にかかれないほど高級品ばかりなのだから。
 それは学のない彼らからしても、金を持っていると一目で分かるほどのものであった。

「ちっ、俺は先に行くぞ」

 エヴァンを取り囲み、ニヤニヤと下品な笑みを浮かべる男達の姿に、彼にぶつかられた当人である男は、付き合いきれないとばかりにさっさと退場していく。
 それは彼の善良さを現していたのかもしれないが、同時にこの場に彼らを止める者がいなくなったことを示してもいた。

「なぁなぁ、お坊ちゃんよぅ・・・あんたにぶつけられちまったせいで、俺達の仲間が怪我しちまったじゃねぇか?この責任、どう取ってくれるんだぁ?」
「え、え?そ、そんなに強くはぶつかってないと、思うのだが・・・」
「あぁ!?俺が嘘ついてるって言うのかぁ!?」
「ひぃぃぃ!?」

 身体を器用に折り曲げては、縮こまっているエヴァンを下から覗き込むように見上げて語りかけるその男の振る舞いは、気遣いのためではなくプレッシャーを与えるためだろう。
 男の言葉にあれぐらいの衝撃で怪我などする筈がないと、恐る恐る答えたエヴァンの声は、畳み掛ける男の声にすぐに掻き消されてしまう。
 今度は上の方から声を叩きつけてきた男の振る舞いにエヴァンは再び縮こまり、それを目にした男達は彼とは対照的にニヤニヤとした笑みを、その顔に浮かべていた。

「はいはーい、そこまでそこまでー。さっさと散りなさいー、あんた達ー!」

 彼らの野蛮な振る舞いにも、周りの冒険者達は眉を顰めるばかりで助けようとはしない。
 アトハース村の住人達も、彼らの様な屈強な冒険者達を止める術など持たないだろう。
 そんな助ける者などいないと思われた空間に、間延びした声が響く。
 それは確かに、彼らを制止しようとする声であった。

「あぁん?ちっ、受付の女かよ」
「てめぇには、関係ないだろうが!口挟んでくるんじゃねぇよ!」

 拍手を鳴らすように手を叩きながら声を掛けてきたのは、先ほどまでモクモクと麺を啜っていたアシュリー・コープその人であった。
 彼女は彼らの方へと歩み寄ってくると、さっさと解散するように促している。
 その声と姿に、彼女が冒険者ギルドの受付であることに気付いた男達は、一瞬面倒臭そうな表情を見せたものの、すぐに強気な態度に戻ると彼女を追い返そうと凄んで見せていた。

「あぁ?こちとらてめぇらの資格剥奪して、指名手配することも出来るんだぞ!何なら今すぐ討伐依頼出してやろうか、あぁ!!」

 アシュリーに凄んで見せた男達も、彼女がすぐさまそれ以上の迫力で凄んでくるとは思わなかっただろう。
 穏やかな表情で近寄ってきていた彼女は、一瞬でその表情を豹変させると、まるで別人のようにがなりたて始めている。
 彼女がそうして捲くし立てている内容は、幾らなんでも越権行為に過ぎる滅茶苦茶なものであったが、その迫力を持ってすれば本気とも思わせることは出来るだろう。
 少なくとも彼女の言葉に今、生唾を飲み込んだ彼らにはそう聞こえた筈だ。

「い、いやそれは・・・へへへ、冗談だって。な、お前ら?」
「そ、そうそう!そんな悪気なんて、これっぽちもありませんて」

 彼らがもし、彼女の言っている事が無茶苦茶なことだと気づけるほどの知識があったならば、ここで引き下がる事はなかっただろう。
 しかし彼らに、その知識はない。
 そのためアシュリーの勢いだけのはったりにも、あっさりと騙されてしまい引き下がるしか出来なくなってしまっていた。

「はいはい。それじゃさっさと、どっか行きなさい!」
「そりゃ、勿論!それで、さっきの件は・・・?」
「分かった分かった、問題にはしないから。ほら、散った散った!」
「へへへ、そりゃどうも。ほら、お前達も行くぞ!」

 さっさとどっかに行けと促すアシュリーに、男達はしつこいぐらいに問題にはしないだろうなと問い掛けていた。
 それに適当に約束を返したアシュリーは、早く消えろとぞんざいに手を振っている。
 男達も彼女の言葉に満足いったのか、促されるままにさっさと立ち去っていき、後には小さく縮こまっているエヴァンだけが残されていた。
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