ダンジョン経営から始める魔王討伐のすゝめ 追放された転生ダンジョンマスターが影から行う人類救済

斑目 ごたく

文字の大きさ
236 / 308
カイ・リンデンバウムの恐ろしき計画

カイ・リンデンバウムは全てを見通し指示を出す 3

しおりを挟む
『ク、クライネルト様!クライネルト様!!』

 言葉を失い黙りこくるダミアンとヴェロニカに、セッキの笑い声だけが空しく響く最奥の間に、どこから焦ったような声が響いてくる。
 それはこの部屋の至る所に浮かんでいる、モニターの一つから聞こえてくる声であろう。
 声の出所を探ってそちらに目を向けてみれば、それはどうやら先ほどカイの捜索に向かわせたゴブリン達が何か報告しようと声を上げているようだった。

「・・・何?今はそれ所じゃないのだけど・・・」
『お、おられましたか、クライネルト様!じ、実は・・・さきほどリンデンバウム様の御姿をお見かけしたのです!!』
「何ですって!?」

 気だるそうに顔を上げたヴェロニカの目の周辺が赤いのは、彼女が密かに涙を流していたからか。
 落ち込んだテンションを、そのまま引き摺っている彼女の対応はぞんざいそのものだ。
 圧倒的な権力者にそんな対応をされてしまえば、下っ端がビビッてしまうのも仕方のない話だろう。
 しかしそのゴブリンは言葉に詰まりながらも、報告だけはしっかりと上げていた。
 それはその情報がとても、とても重大なものであったからだ。

「そ、それは一体何時の・・・それよりもどこで見かけたの!?カイ様は何をしていらしたの!?早く、早く教えなさい!!」

 待ち望んだ主人の情報に、飛びついたヴェロニカの勢いは激しい。
 その先ほどの気だるい態度とのあまりのギャップに、モニターの向こうのゴブリン達は驚き言葉を失ってしまっている。
 そんな彼らの様子などお構いなしに、ヴェロニカは一刻も早く情報を寄越せと捲くし立てていた。

「えぇい!落ち着かんか、ヴェロニカ!!あの者も怯えておろう!こら、セッキ!お主も手伝わんかい!!」
「あいよっと。ほら、姐さん落ち着いて!そんな剣幕で迫られちゃ、俺だって黙っちまうよ」

 報告を上げてきたゴブリン達が映っているモニターへと齧りついているヴェロニカを、何とか落ち着かせようとダミアンが彼女の身体へと飛び掛っている。
 しかしその小さな身体では、興奮しいきり立っているヴェロニカを止める事など出来ようもない。
 振り落とされそうな身体を、その猫特有の身軽さで何とかしがみつかせたダミアンは、近くに突っ立っていたセッキへと救援を求める。
 ダミアンの言葉に軽く応えたセッキがヴェロニカの肩に手を添えると、流石の彼女もあっさりとその場から引き剥がされていってしまっていた。

「セッキ、そこで押さえておれよ!えーっと、こうじゃったかな?よしよし、いけそうじゃ。それで・・・お主達は、どこでカイ様の姿を見たのじゃ?あの御方はどこで何をしていたのじゃろうか?」
『その声は、ヘ、ヘンゲ様ですか?その・・・カイ様を見かけたのは、このダンジョンのすぐ近くです!カイ様は見知らぬ人間達と、このダンジョンに向かっているようでした!』

 ヴェロニカを押さえる役目をセッキへと任せたダミアンは、モニターの前へと立つと報告を上げてきたゴブリン達へと問い掛けている。
 普段冷静で穏やかながらも、自分達の事を捨て駒としか認識していない事を隠そうともしないヴェロニカに比べれば、まだダミアンは話しやすい相手だろうか。
 いいやそれは、今の正気ではないヴェロニカと比べたらの話でしかない。
 捨て駒程度の価値を認めてくれるヴェロニカと違い、ダミアンは表面上は穏やかでも心の中ではどんな事を考えているのか分からない存在であった。
 そんな存在の機嫌までも、損なう訳にはいかない。
 モニターに映っているゴブリンは背筋を震わせながらも、何とか必要な情報を搾り出す事に成功していた。

「カイ様がこのダンジョンに・・・?随分とお早いお帰りじゃの、一体何をしてらしたのか・・・まぁ、よい。ご苦労だった、もう下がってよいぞ」
『ははっ、失礼致します!』

 カイがこのダンジョンに帰ってきているという報告に、ダミアンは首を傾げては不思議そうに顎を撫でている。
 カイがこのダンジョンから失踪したのは、今朝早くの事だ。
 そして今の時間は、お昼をまわって少し経ったというぐらいで、そんな短い時間の中で果たして我らの主人は何をしていたのかと、ダミアンは疑問を感じているようだった。

「へぇ、旦那帰ってくんのか。良かったじゃないか、姐さん」
「ま、まだ分からないじゃない!最後に一言、別れの挨拶を言いに来たのかもしれないし・・・」
「だからそれは、心配し過ぎだって姐さん!旦那はそんな薄情な奴じゃないってよ!」

 ゴブリンとダミアンの通話を、ヴェロニカを押さえつけながら聞いていたセッキは、その内容にもう安心だと彼女に語りかけている。
 しかしそんなセッキの言葉にもヴェロニカはふらふらと視線を彷徨わせては、無理やりにも不安の種を探しているようだ。
 そんな彼女にセッキはカイはそんな奴じゃない断言しているが、そんな言葉が彼女の耳に届く事はなさそうであった。

「そ、そんな事より!カイ様はどこに!?入口から帰ってくるのかしら?いいえ、やはり隠し通路から・・・!」

 セッキの励ましの言葉を聞き流したヴェロニカは、そんな事よりも一刻も早くカイの姿を見つけようと、モニターの操作を急いでいる。
 彼女は素早く端末を操作すると、カイが帰ってくるであろうルートが映っているモニターを自らの見やすい位置へと移動させていた。

「見知らぬ人間と一緒って話しだから、正面の入り口からじゃないか?」
「ほぅ、お主がそのような事を言うとはの。わしもそこが気になっておったのじゃ。カイ様は一体、どんな人間共とこのダンジョンにやってきたのかと・・・思うに、そこに今回のあの御方の狙いがあると思うのじゃ」

 焦りすぎているためか、視野が狭窄してしまっているヴェロニカに、セッキが先ほど得た情報から推測される当たり前の事実を突っ込んでいた。
 そんな彼の姿に感心したような声を漏らしたダミアンは、彼の目の付け所を褒め称えている。
 確かに先ほど報告してきたゴブリンは、カイが見知らぬ人間達と一緒だと話していた。
 ダミアンにはその者達こそが、カイがこんなにも早くにダンジョンに帰ってきた理由だと考えているようだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界転生、防御特化能力で彼女たちを英雄にしようと思ったが、そんな彼女たちには俺が英雄のようだ。

Mです。
ファンタジー
異世界学園バトル。 現世で惨めなサラリーマンをしていた…… そんな会社からの帰り道、「転生屋」という見慣れない怪しげな店を見つける。 その転生屋で新たな世界で生きる為の能力を受け取る。 それを自由イメージして良いと言われた為、せめて、新しい世界では苦しまないようにと防御に突出した能力をイメージする。 目を覚ますと見知らぬ世界に居て……学生くらいの年齢に若返っていて…… 現実か夢かわからなくて……そんな世界で出会うヒロイン達に…… 特殊な能力が当然のように存在するその世界で…… 自分の存在も、手に入れた能力も……異世界に来たって俺の人生はそんなもん。 俺は俺の出来ること…… 彼女たちを守り……そして俺はその能力を駆使して彼女たちを英雄にする。 だけど、そんな彼女たちにとっては俺が英雄のようだ……。 ※※多少意識はしていますが、主人公最強で無双はなく、普通に苦戦します……流行ではないのは承知ですが、登場人物の個性を持たせるためそのキャラの物語(エピソード)や回想のような場面が多いです……後一応理由はありますが、主人公の年上に対する態度がなってません……、後、私(さくしゃ)の変な癖で「……」が凄く多いです。その変ご了承の上で楽しんで頂けると……Mです。の本望です(どうでもいいですよね…)※※ ※※楽しかった……続きが気になると思って頂けた場合、お気に入り登録……このエピソード好みだなとか思ったらコメントを貰えたりすると軽い絶頂を覚えるくらいには喜びます……メンタル弱めなので、誹謗中傷てきなものには怯えていますが、気軽に頂けると嬉しいです。※※

異世界翻訳者の想定外な日々 ~静かに読書生活を送る筈が何故か家がハーレム化し金持ちになったあげく黒覆面の最強怪傑となってしまった~

於田縫紀
ファンタジー
 図書館の奥である本に出合った時、俺は思い出す。『そうだ、俺はかつて日本人だった』と。  その本をつい翻訳してしまった事がきっかけで俺の人生設計は狂い始める。気がつけば美少女3人に囲まれつつ仕事に追われる毎日。そして時々俺は悩む。本当に俺はこんな暮らしをしてていいのだろうかと。ハーレム状態なのだろうか。単に便利に使われているだけなのだろうかと。

異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。

久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。 事故は、予想外に起こる。 そして、異世界転移? 転生も。 気がつけば、見たことのない森。 「おーい」 と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。 その時どう行動するのか。 また、その先は……。 初期は、サバイバル。 その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。 有名になって、王都へ。 日本人の常識で突き進む。 そんな感じで、進みます。 ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。 異世界側では、少し非常識かもしれない。 面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

転生したら遊び人だったが遊ばず修行をしていたら何故か最強の遊び人になっていた

ぐうのすけ
ファンタジー
カクヨムで先行投稿中。 遊戯遊太(25)は会社帰りにふらっとゲームセンターに入った。昔遊んだユーフォーキャッチャーを見つめながらつぶやく。 「遊んで暮らしたい」その瞬間に頭に声が響き時間が止まる。 「異世界転生に興味はありますか?」 こうして遊太は異世界転生を選択する。 異世界に転生すると最弱と言われるジョブ、遊び人に転生していた。 「最弱なんだから努力は必要だよな!」 こうして雄太は修行を開始するのだが……

墓守の荷物持ち 遺体を回収したら世界が変わりました

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕の名前はアレア・バリスタ ポーターとしてパーティーメンバーと一緒にダンジョンに潜っていた いつも通りの階層まで潜るといつもとは違う魔物とあってしまう その魔物は僕らでは勝てない魔物、逃げるために必死に走った だけど仲間に裏切られてしまった 生き残るのに必死なのはわかるけど、僕をおとりにするなんてひどい そんな僕は何とか生き残ってあることに気づくこととなりました

田舎農家の俺、拾ったトカゲが『始祖竜』だった件〜女神がくれたスキル【絶対飼育】で育てたら、魔王がコスメ欲しさに竜王が胃薬借りに通い詰めだした

月神世一
ファンタジー
​「くそっ、魔王はまたトカゲの抜け殻を美容液にしようとしてるし、女神は酒のつまみばかり要求してくる! 俺はただ静かに農業がしたいだけなのに!」 ​ ​ブラック企業で過労死した日本人、カイト。 彼の願いはただ一つ、「誰にも邪魔されない静かな場所で農業をすること」。 ​女神ルチアナからチートスキル【絶対飼育】を貰い、異世界マンルシア大陸の辺境で念願の農場を開いたカイトだったが、ある日、庭から虹色の卵を発掘してしまう。 ​孵化したのは、可愛らしいトカゲ……ではなく、神話の時代に世界を滅亡させた『始祖竜』の幼体だった! ​しかし、カイトはスキル【絶対飼育】のおかげで、その破壊神を「ポチ」と名付けたペットとして完璧に飼い慣らしてしまう。 ​ポチのくしゃみ一発で、敵の軍勢は老衰で塵に!? ​ポチの抜け殻は、魔王が喉から手が出るほど欲しがる究極の美容成分に!? ​世界を滅ぼすほどの力を持つポチと、その魔素を浴びて育った規格外の農作物を求め、理知的で美人の魔王、疲労困憊の竜王、いい加減な女神が次々にカイトの家に押しかけてくる! ​「世界の管理者」すら手が出せない最強の農場主、カイト。 これは、世界の運命と、美味しい野菜と、ペットの散歩に追われる、史上最も騒がしいスローライフ物語である!

外れスキルは、レベル1!~異世界転生したのに、外れスキルでした!

武蔵野純平
ファンタジー
異世界転生したユウトは、十三歳になり成人の儀式を受け神様からスキルを授かった。 しかし、授かったスキルは『レベル1』という聞いたこともないスキルだった。 『ハズレスキルだ!』 同世代の仲間からバカにされるが、ユウトが冒険者として活動を始めると『レベル1』はとんでもないチートスキルだった。ユウトは仲間と一緒にダンジョンを探索し成り上がっていく。 そんなユウトたちに一人の少女た頼み事をする。『お父さんを助けて!』

処理中です...