ダンジョン経営から始める魔王討伐のすゝめ 追放された転生ダンジョンマスターが影から行う人類救済

斑目 ごたく

文字の大きさ
241 / 308
カイ・リンデンバウムの恐ろしき計画

勇者達の冒険は今始まったばかり 3

しおりを挟む
「うむ!しかし、私が殿を交替してやってもいいのだぞ!そちらの方が面白そうだ!」
「よろしい、ですね」
「う、うむ。分かったのだ・・・」

 アビーがエヴァンへと問題ないかと尋ねたのは、主従としての形式的なものであろう。
 しかしエヴァンはその問い掛けに対して、自らが殿を務めてもいいとのたまっていた。
 それが男らしさの芽生えであれば、アビーも少しは考慮したかもしれないが、ただただ楽しそうだからと話す彼の姿に、彼女もただただもう何も言うなと迫るだけだ。
 そんな彼女の迫力に押しやられれば、エヴァンももはや了承を告げるしかない。
 その自然と僅かに紅潮している頬を青く染めたエヴァンは、消え入るような声で彼女の言葉を受け入れていた。

「もういいかー?」
「はい、問題ありません。お待たせして申し訳ありません、皆様方」

 ただの配置決めにもかかわらず、軽く揉めては時間を消費しているエヴァンとアビーに、エルトンは退屈そうにまだ時間が掛かるのかと問いかけている。
 彼の問い掛けにエヴァンはまだ何かを言いたそうにしていたが、それもアビーに先に返事を返されてしまえば、もはや口を挟む訳にもいかない。

「へっ、こんぐらいどうってことねぇよ。こっからは魔物も出てくるからな、くれぐれも慎重に動いてくれよ」
「わ、分かったのだ!」

 どうって事のないトラブルに対して、丁寧すぎるほどに頭を下げて謝罪するアビーの姿に、どこか気まずさを誤魔化すようにエルトンは鼻を鳴らしている。
 彼がそんな振る舞いの照れ隠しに続けたダンジョンでの注意に、エヴァンは両手を握ると決して忘れはしないと宣言していた。
 彼のその決意は紛れもない本物であろうが、誰も彼にそれを求めてはいないだろう。
 ここに集まった彼以外の面々は全て、彼を守り接待するためにここへとやってきたのだ。
 そんな彼らからすればエヴァンのその決意はありがたくはあったが、そんな事よりもこの冒険を満喫する事に集中して欲しいというのが本音であった。

「いえ、レイモンド様はその・・・そういった事は気にされずに―――」
「はははっ!そんなに力んでちゃ、この先持ちやしないぜ勇者の坊ちゃんよぉ!!リラックスしな、リラックス!!」
「っ!?げほっ、げほっ!!そ、そうだな。アーネットの言う通りだ、先はまだまだ長いのだからな」

 自らも役に立って見せると張り切る少年に、そんなことなど気にせずに冒険を楽しんでくれとは言い難い。
 そんなしがらみにケネスが苦しんでは言葉を濁していると、そんな事を気にしてもいないエルトンがそれを解決してみせていた。
 豪快な笑い声を上げながらエヴァンの背中を叩いたエルトンが、その過剰なまでの緊張を解している。
 彼の強すぎる力に激しく咳き込んだエヴァンも、それが収まる頃には先ほどまでよりもずっと、肩の力が抜けたようだった。

「その通りその通り!ま、安心して俺達に任せてくれよな!そんじゃ、行くぜー」

 先ほどよりはリラックスした様子のエヴァンの姿を見ては、満足げに頷いたエルトンは気楽な様子で先へと進む号令を告げる。
 彼はその言葉と共に軽く腕を振ると、さっさと先に進み始めてしまうが、それについて進もうとするものは一人もいない。
 それもその筈で、この一行の中心はエヴァンなのだ。
 その彼がその場を動いていなければ本来、誰も前に進まないのが当然の事であった。

「うむ!では皆の者、我に・・・ではなかった、アーネットに続くのだ!」 

 エルトンの言葉に力強く頷いたエヴァンは、そのまま高らかに号令を上げようとしていた。
 その言葉が途中で詰まってしまったのは、いつもの習慣で自らについて来るように皆に宣言しようとしていたからか。
 先頭を歩き、後ろの者など気にしていない様子で前へと進むエルトンの姿を捉えたエヴァンは、彼の後へと続くように号令の内容を修正する。
 その言葉に周りの者達は静かに頷き、ゆっくりとその足を進め始めていた。

(よし、よし!ここまでは順調だぞ!しかし油断するなよ、カイ・リンデンバウム!ここから先はヴェロニカ達が考えた、恐ろしい計画が待ち受けている筈だからな!正直それどころじゃなくて、全然聞いてなかったけど・・・あいつらの事だ、きっととんでもない計画の筈に違いない!用心しなければ・・・)

 先へと進み始めた一行の中で一人、カイだけがまったく別の事を考えては気合を滾らせていた。
 勇者に張り付いてダンジョンに潜るという当初の目的の達成に喜んだ彼も、これから待ち受ける試練を考えれば浮かれている訳にもいかない。
 ヴェロニカとダミアンという明晰な頭脳を持つ二人が、本気で勇者を抹殺するためだけに立てた計画がこの先に待ち受けているのだ。
 彼らとの思惑の違いにショックを受け、混乱してしまっていたカイはその計画を聞き逃してしまっていたが、それが恐ろしいものである事だけは確信していた。
 その計画から勇者を守るためには、この身を張る事も覚悟しなければならないだろう。
 その時、勇者を必ず守りきると決意するカイの背中に、どこかで感じた事のある寒気が奔っていた。

「ん?何だこれ、どこかで・・・武者震いか?」

 背中に奔った悪寒は身体を震わせ、カイの心をも振動させる。
 しかしそのタイミングが悪ければ、勘違いもさせるというものだろう。
 丁度、決意を固めた時に訪れた身体の震えに、カイはそれが武者震いなのだと解釈してしまっていた。

「どうしたのだ、キルヒマン?置いていくぞ?」
「ああっ、すみません!少しボーっとしてしまって!」

 思考に没頭している、カイの歩みは遅い。
 一行の丁度真ん中辺りを歩いていた彼は、気付けば後方を歩いていたエヴァン達にも追い抜かれてしまっていた。
 背中に感じた寒気に、もはやその場に立ち尽くすようになってしまっていたカイに、エヴァンは心配そうに声を掛けてくる。
 カイはその声に慌てて取り繕うと、急ぎ足で元のポジションへと駆け戻っていく。

「危ない、危ない・・・折角ここまでうまく取り入ったのに、ここで疑われたら元も子もないからな。まだ始まったばかりだって言うのに、気をつけないと・・・」

 勇者を守るという、彼の任務は今ようやく始まったばかりだ。
 こんな所で変に疑われて、それを台無しにする訳にはいかないと、カイは一人反省の言葉を漏らす。
 そう彼が言う通り、勇者の冒険は今まさに始まったばかりであった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

固有スキルガチャで最底辺からの大逆転だモ~モンスターのスキルを使えるようになった俺のお気楽ダンジョンライフ~

うみ
ファンタジー
 恵まれない固有スキルを持って生まれたクラウディオだったが、一人、ダンジョンの一階層で宝箱を漁ることで生計を立てていた。  いつものように一階層を探索していたところ、弱い癖に探索者を続けている彼の態度が気に入らない探索者によって深層に飛ばされてしまう。  モンスターに襲われ絶体絶命のピンチに機転を利かせて切り抜けるも、ただの雑魚モンスター一匹を倒したに過ぎなかった。  そこで、クラウディオは固有スキルを入れ替えるアイテムを手に入れ、大逆転。  モンスターの力を吸収できるようになった彼は深層から無事帰還することができた。  その後、彼と同じように深層に転移した探索者の手助けをしたり、彼を深層に飛ばした探索者にお灸をすえたり、と彼の生活が一変する。  稼いだ金で郊外で隠居生活を送ることを目標に今日もまたダンジョンに挑むクラウディオなのであった。 『箱を開けるモ』 「餌は待てと言ってるだろうに」  とあるイベントでくっついてくることになった生意気なマーモットと共に。

どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜

サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。 〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。 だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。 〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。 危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。 『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』 いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。 すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。 これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。

『冒険者をやめて田舎で隠居します 〜気づいたら最強の村になってました〜』

チャチャ
ファンタジー
> 世界には4つの大陸がある。東に魔神族、西に人族、北に獣人とドワーフ、南にエルフと妖精族——種族ごとの国が、それぞれの文化と価値観で生きていた。 その世界で唯一のSSランク冒険者・ジーク。英雄と呼ばれ続けることに疲れた彼は、突如冒険者を引退し、田舎へと姿を消した。 「もう戦いたくない、静かに暮らしたいんだ」 そう願ったはずなのに、彼の周りにはドラゴンやフェンリル、魔神族にエルフ、ドワーフ……あらゆる種族が集まり、最強の村が出来上がっていく!? のんびりしたいだけの元英雄の周囲が、どんどんカオスになっていく異世界ほのぼの(?)ファンタジー。

セーブポイント転生 ~寿命が無い石なので千年修行したらレベル上限突破してしまった~

空色蜻蛉
ファンタジー
枢は目覚めるとクリスタルの中で魂だけの状態になっていた。どうやらダンジョンのセーブポイントに転生してしまったらしい。身動きできない状態に悲嘆に暮れた枢だが、やがて開き直ってレベルアップ作業に明け暮れることにした。百年経ち、二百年経ち……やがて国の礎である「聖なるクリスタル」として崇められるまでになる。 もう元の世界に戻れないと腹をくくって自分の国を見守る枢だが、千年経った時、衝撃のどんでん返しが待ち受けていて……。 【お知らせ】6/22 完結しました!

ガチャと異世界転生  システムの欠陥を偶然発見し成り上がる!

よっしぃ
ファンタジー
偶然神のガチャシステムに欠陥がある事を発見したノーマルアイテムハンター(最底辺の冒険者)ランナル・エクヴァル・元日本人の転生者。 獲得したノーマルアイテムの売却時に、偶然発見したシステムの欠陥でとんでもない事になり、神に報告をするも再現できず否定され、しかも神が公認でそんな事が本当にあれば不正扱いしないからドンドンしていいと言われ、不正もとい欠陥を利用し最高ランクの装備を取得し成り上がり、無双するお話。 俺は西塔 徳仁(さいとう のりひと)、もうすぐ50過ぎのおっさんだ。 単身赴任で家族と離れ遠くで暮らしている。遠すぎて年に数回しか帰省できない。 ぶっちゃけ時間があるからと、ブラウザゲームをやっていたりする。 大抵ガチャがあるんだよな。 幾つかのゲームをしていたら、そのうちの一つのゲームで何やらハズレガチャを上位のアイテムにアップグレードしてくれるイベントがあって、それぞれ1から5までのランクがあり、それを15本投入すれば一度だけ例えばSRだったらSSRのアイテムに変えてくれるという有り難いイベントがあったっけ。 だが俺は運がなかった。 ゲームの話ではないぞ? 現実で、だ。 疲れて帰ってきた俺は体調が悪く、何とか自身が住んでいる社宅に到着したのだが・・・・俺は倒れたらしい。 そのまま救急搬送されたが、恐らく脳梗塞。 そのまま帰らぬ人となったようだ。 で、気が付けば俺は全く知らない場所にいた。 どうやら異世界だ。 魔物が闊歩する世界。魔法がある世界らしく、15歳になれば男は皆武器を手に魔物と祟罠くてはならないらしい。 しかも戦うにあたり、武器や防具は何故かガチャで手に入れるようだ。なんじゃそりゃ。 10歳の頃から生まれ育った村で魔物と戦う術や解体方法を身に着けたが、15になると村を出て、大きな街に向かった。 そこでダンジョンを知り、同じような境遇の面々とチームを組んでダンジョンで活動する。 5年、底辺から抜け出せないまま過ごしてしまった。 残念ながら日本の知識は持ち合わせていたが役に立たなかった。 そんなある日、変化がやってきた。 疲れていた俺は普段しない事をしてしまったのだ。 その結果、俺は信じられない出来事に遭遇、その後神との恐ろしい交渉を行い、最底辺の生活から脱出し、成り上がってく。

レベルアップは異世界がおすすめ!

まったりー
ファンタジー
レベルの上がらない世界にダンジョンが出現し、誰もが装備や技術を鍛えて攻略していました。 そんな中、異世界ではレベルが上がることを記憶で知っていた主人公は、手芸スキルと言う生産スキルで異世界に行ける手段を作り、自分たちだけレベルを上げてダンジョンに挑むお話です。

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

俺は善人にはなれない

気衒い
ファンタジー
とある過去を持つ青年が異世界へ。しかし、神様が転生させてくれた訳でも誰かが王城に召喚した訳でもない。気が付いたら、森の中にいたという状況だった。その後、青年は優秀なステータスと珍しい固有スキルを武器に異世界を渡り歩いていく。そして、道中で沢山の者と出会い、様々な経験をした青年の周りにはいつしか多くの仲間達が集っていた。これはそんな青年が異世界で誰も成し得なかった偉業を達成する物語。

処理中です...