ダンジョン経営から始める魔王討伐のすゝめ 追放された転生ダンジョンマスターが影から行う人類救済

斑目 ごたく

文字の大きさ
276 / 308
カイ・リンデンバウムの恐ろしき計画

ボス戦 1

しおりを挟む
 その部屋に踏み入る瞬間に奔った、この脈打つような異物感にリタは思わず足を止める。
 それはこの部屋の奥から感じる、異様な闘気とは関係ないだろう。
 むさ苦しさが具現化したような蒸気が蔓延している、この部屋から漂う気配は確かに強いが、それはこの聖剣を思わず震わせるほどのものではない。

「うわぁ!?ちょ、どうしたんですか急に!?いきなり立ち止まらないでくださいよ、リタ!」

 急に立ち止まったリタに、彼女の背中を守るように後ろを駆けていたマーカスは、当然すぐには止まることが出来ずにその背中へとぶつかってしまう。
 彼女がそんな衝撃にもビクともしなかったのは、それを予想して備えていたからではないだろう。
 彼女は今、あらゆる危険に備えて神経を研ぎ澄ませている。
 そんな彼女の踏ん張った足腰ならば、その程度の衝撃など苦もなく凌げるのも当然であろう。

「・・・マーカス君は感じなかったの?さっきの・・・こう、変な感じ」
「へ?さっきですか?いえ、特には・・・そ、それよりもリタ!この部屋、何か今までとは違う雰囲気がありませんか?こう、うまくはいえないのですが・・・まるで―――」

 うなじ辺りの産毛が逆立つような異物感に、リタはいつまでも落ち着けずにいる。
 そんな彼女がマーカスにも同意を求めたのは、それが勘違いではないと知りたかっただろう。
 しかし彼はそんな彼女の不安など露知らずといった様子で、この異様な雰囲気の部屋の様子の方が気になっているようだった。
 確かにこの部屋は彼が言う通り、今まで通ってきた部屋とは違った雰囲気であり、どこか重苦しい空気が流れている。
 それはこの見通しの効かない部屋の様子が齎したものか、それともその奥に佇む存在が醸し出したものか。
 どちらにせよそれは、同じ理由によるものだった。

『まるでドラゴンの巣穴に迷い込んだみたいってか?あながち間違っちゃいないぜ?お前らが生きて帰れねぇ、ってのは変わりねぇんだからよぉ』

 マーカスの台詞を遮って、その部屋の奥から進み出てきたのは、巨大な体躯誇る角の折れた鬼、セッキであった。
 その全身に夥しい量の汗を浮かべているセッキは、その身体からまるで吹き出すように蒸気を立ち上らせている。
 それは勇者と戦える事が待ち遠しすぎてジッとしていられなかった彼が、身体を動かし続けていた結果であろう。
 しかしそれは、まるで彼の身体から立ち上る闘気にも見え、ただでさえ凶悪な彼の相貌により一層の迫力与えていた。

『あ、兄貴!お、おでも!おでもあいつと闘いたい!!』
『おでもおでも!!』

 明らかな強敵の登場に、マーカスは緊張に生唾を飲み込んでいる。
 その時、そんな緊迫した雰囲気を弾き飛ばすような間の抜けた声が、セッキの後方から響いていた。
 それは彼と勝るとも劣らない体格を持つ、二体のトロールが上げた声であった。

『あぁ?馬鹿野郎!あれは俺様の獲物だって、さっき散々説明しただろうが!!』

 折角待ちに待った獲物がようやく目の前に現れたというのに、それを横から掻っ攫おうとする彼らの存在にセッキは怒りを顕にすると、それをそのまま彼らへとぶつけていた。
 それは比喩でも何でもなく、正真正銘拳でだ。
 振り払うようなセッキの動きに、一番硬い拳の部分は当たらなくとも、その二体のトロールは見事なまでに吹き飛ばされてしまっていた。

『いでで・・・で、でもよぉ兄貴・・・あ、あいつ強そうだよ。おで達、強い奴と戦いたい!』
『おでもおでも!!』

 数秒間滞空した上、そのまま壁へと叩きつけられたにもかかわらず、まるで何ともないようにぴんぴんしているのは、流石は丈夫な種族という所か。
 彼らはかつて、セッキが集めてきた現地の魔物達の中にいたトロール達だろう。
 戦闘能力はぴか一ではあるが、頭が悪くその大きな体躯は無駄に目立ってしまうために、相応しい働き場所が見つからなかった彼らは、セッキの暇つぶし相手としてここに配置されていたのだった。
 ダンジョンのボスとして、表向きの最後の部屋の主と配置され暇を持て余していたセッキは、彼らを小突き回すことでそのストレスを発散していた。
 そんな境遇に不満を溜めるかと思われていた彼らは、意外な事に寧ろそんなセッキな強さに強く憧れ、その舎弟へと収まっていたのだった。

『ちっ、うっせぇなぁ・・・どうしたんもんか。こいつら言っても聞かねぇからなぁ・・・おっ、丁度いい所に丁度いい奴がいるじゃねぇか!おい、ミギにダリ!てめぇらはあいつの相手をしてろ、いいな!!』

 頭が悪いその二体のトロール相手では、言って聞かせた所でそれを守るとは思えない。
 それに何より彼らと一緒に勇者と戦っては、彼自身が彼らの事を忘れて戦ってしまうだろう。
 ようやくの獲物に今でこそまだ冷静に振舞えているセッキも、戦いが始まってしまえばきっといつかは我を失ってしまう。
 そうなれば巻き込まれて、彼らが死んでしまってもおかしくはない。
 いや、きっとそうなるだろう。
 それはセッキの望んだ結果ではなかった。
 ましてその二体のトロールは、頭が悪く使い道は限られてるとはいえ、このダンジョンにとって貴重な戦力であることは間違いない。
 それを自らの手で殺してしまえば、後でどんな事を言われるか分かったものではないのだ。
 それはなんとしても避けたいセッキは、丁度いい相手を見つけては歓声を上げる。
 彼の視線の先にいたのは、その得物である金属製の杖を構え、こちらを警戒しているマーカスの姿であった。

『で、でもよぉ兄貴・・・あいつ、弱そうじゃねぇか?』
『そうだそうだ!だってあいつ、こんなちっぽけだぞ!!あんなのつまんねぇよ!おで達もあいつがいい!あいつと戦いたい!!』

 しかしマーカスと戦えとセッキに指示された二人は、それで納得などはしない。
 何故なら彼らが戦えと言われた相手は、彼らよりも明らかに小さく、弱っちそうな人間であったからだ。
 体格だけを見るならば、リタはマーカスよりも小さかったが、その存在から漂ってくる雰囲気は愚鈍な彼らであっても分かるほどに、はっきりと強大なものであった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

固有スキルガチャで最底辺からの大逆転だモ~モンスターのスキルを使えるようになった俺のお気楽ダンジョンライフ~

うみ
ファンタジー
 恵まれない固有スキルを持って生まれたクラウディオだったが、一人、ダンジョンの一階層で宝箱を漁ることで生計を立てていた。  いつものように一階層を探索していたところ、弱い癖に探索者を続けている彼の態度が気に入らない探索者によって深層に飛ばされてしまう。  モンスターに襲われ絶体絶命のピンチに機転を利かせて切り抜けるも、ただの雑魚モンスター一匹を倒したに過ぎなかった。  そこで、クラウディオは固有スキルを入れ替えるアイテムを手に入れ、大逆転。  モンスターの力を吸収できるようになった彼は深層から無事帰還することができた。  その後、彼と同じように深層に転移した探索者の手助けをしたり、彼を深層に飛ばした探索者にお灸をすえたり、と彼の生活が一変する。  稼いだ金で郊外で隠居生活を送ることを目標に今日もまたダンジョンに挑むクラウディオなのであった。 『箱を開けるモ』 「餌は待てと言ってるだろうに」  とあるイベントでくっついてくることになった生意気なマーモットと共に。

どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜

サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。 〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。 だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。 〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。 危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。 『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』 いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。 すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。 これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。

『冒険者をやめて田舎で隠居します 〜気づいたら最強の村になってました〜』

チャチャ
ファンタジー
> 世界には4つの大陸がある。東に魔神族、西に人族、北に獣人とドワーフ、南にエルフと妖精族——種族ごとの国が、それぞれの文化と価値観で生きていた。 その世界で唯一のSSランク冒険者・ジーク。英雄と呼ばれ続けることに疲れた彼は、突如冒険者を引退し、田舎へと姿を消した。 「もう戦いたくない、静かに暮らしたいんだ」 そう願ったはずなのに、彼の周りにはドラゴンやフェンリル、魔神族にエルフ、ドワーフ……あらゆる種族が集まり、最強の村が出来上がっていく!? のんびりしたいだけの元英雄の周囲が、どんどんカオスになっていく異世界ほのぼの(?)ファンタジー。

セーブポイント転生 ~寿命が無い石なので千年修行したらレベル上限突破してしまった~

空色蜻蛉
ファンタジー
枢は目覚めるとクリスタルの中で魂だけの状態になっていた。どうやらダンジョンのセーブポイントに転生してしまったらしい。身動きできない状態に悲嘆に暮れた枢だが、やがて開き直ってレベルアップ作業に明け暮れることにした。百年経ち、二百年経ち……やがて国の礎である「聖なるクリスタル」として崇められるまでになる。 もう元の世界に戻れないと腹をくくって自分の国を見守る枢だが、千年経った時、衝撃のどんでん返しが待ち受けていて……。 【お知らせ】6/22 完結しました!

ガチャと異世界転生  システムの欠陥を偶然発見し成り上がる!

よっしぃ
ファンタジー
偶然神のガチャシステムに欠陥がある事を発見したノーマルアイテムハンター(最底辺の冒険者)ランナル・エクヴァル・元日本人の転生者。 獲得したノーマルアイテムの売却時に、偶然発見したシステムの欠陥でとんでもない事になり、神に報告をするも再現できず否定され、しかも神が公認でそんな事が本当にあれば不正扱いしないからドンドンしていいと言われ、不正もとい欠陥を利用し最高ランクの装備を取得し成り上がり、無双するお話。 俺は西塔 徳仁(さいとう のりひと)、もうすぐ50過ぎのおっさんだ。 単身赴任で家族と離れ遠くで暮らしている。遠すぎて年に数回しか帰省できない。 ぶっちゃけ時間があるからと、ブラウザゲームをやっていたりする。 大抵ガチャがあるんだよな。 幾つかのゲームをしていたら、そのうちの一つのゲームで何やらハズレガチャを上位のアイテムにアップグレードしてくれるイベントがあって、それぞれ1から5までのランクがあり、それを15本投入すれば一度だけ例えばSRだったらSSRのアイテムに変えてくれるという有り難いイベントがあったっけ。 だが俺は運がなかった。 ゲームの話ではないぞ? 現実で、だ。 疲れて帰ってきた俺は体調が悪く、何とか自身が住んでいる社宅に到着したのだが・・・・俺は倒れたらしい。 そのまま救急搬送されたが、恐らく脳梗塞。 そのまま帰らぬ人となったようだ。 で、気が付けば俺は全く知らない場所にいた。 どうやら異世界だ。 魔物が闊歩する世界。魔法がある世界らしく、15歳になれば男は皆武器を手に魔物と祟罠くてはならないらしい。 しかも戦うにあたり、武器や防具は何故かガチャで手に入れるようだ。なんじゃそりゃ。 10歳の頃から生まれ育った村で魔物と戦う術や解体方法を身に着けたが、15になると村を出て、大きな街に向かった。 そこでダンジョンを知り、同じような境遇の面々とチームを組んでダンジョンで活動する。 5年、底辺から抜け出せないまま過ごしてしまった。 残念ながら日本の知識は持ち合わせていたが役に立たなかった。 そんなある日、変化がやってきた。 疲れていた俺は普段しない事をしてしまったのだ。 その結果、俺は信じられない出来事に遭遇、その後神との恐ろしい交渉を行い、最底辺の生活から脱出し、成り上がってく。

レベルアップは異世界がおすすめ!

まったりー
ファンタジー
レベルの上がらない世界にダンジョンが出現し、誰もが装備や技術を鍛えて攻略していました。 そんな中、異世界ではレベルが上がることを記憶で知っていた主人公は、手芸スキルと言う生産スキルで異世界に行ける手段を作り、自分たちだけレベルを上げてダンジョンに挑むお話です。

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

俺は善人にはなれない

気衒い
ファンタジー
とある過去を持つ青年が異世界へ。しかし、神様が転生させてくれた訳でも誰かが王城に召喚した訳でもない。気が付いたら、森の中にいたという状況だった。その後、青年は優秀なステータスと珍しい固有スキルを武器に異世界を渡り歩いていく。そして、道中で沢山の者と出会い、様々な経験をした青年の周りにはいつしか多くの仲間達が集っていた。これはそんな青年が異世界で誰も成し得なかった偉業を達成する物語。

処理中です...