ダンジョン経営から始める魔王討伐のすゝめ 追放された転生ダンジョンマスターが影から行う人類救済

斑目 ごたく

文字の大きさ
286 / 308
カイ・リンデンバウムの恐ろしき計画

エヴァンの戦い 1

しおりを挟む
「お・・・お逃げください・・・エヴァン、坊ちゃま」

 目の前のゴブリンの心臓を貫き、それを絶命させたアビーはしかし、同時に自らも力尽きるように崩れ落ちてしまっていた。
 彼女は地面へと倒れ伏す前に、エヴァンへと逃げるように呼び掛けている。
 その理由は、彼女の周辺を見てみれば分かるだろう。
 彼女の周辺には夥しい数の魔物達の死体と、それと同じくらい力尽きぐったりと倒れ伏している魔物達の姿があった。
 この場で今だ立っているのはエヴァンと、その前で彼を庇うように立っている商人風の男ぐらいだろうか。

「それは・・・出来ぬ!お前を・・・共に戦ってくれた皆を置いていく事など、私には出来ぬのだ!!」

 逃げろと願って気を失ったアビーの言葉を受けて、苦しそうな表情を作ったエヴァンはしかし、その場から動こうとはしなかった。
 ここには彼女だけではなく、彼を守り闘ったエルトンとケネスも倒れ伏している。
 そんな彼らを見捨てて逃げることなど、彼には出来なかった。

「その通りです、勇者様!ここで皆を見捨てて逃げるなど・・・あいつは私が押さえてみせます、その間に止めを!!」

 エヴァンの言葉に感動したように震えてみせる商人風の男、カイ・リンデンバウムはそんな状況にありながらもまだ、彼の力を見たがっていた。
 こんな絶体絶命な状況にありながらも、エヴァンはまだその大剣を背中に括りつけたままで、それを抜こうとする気配すら見せていない。
 そんな彼の姿にカイもいい加減、彼が勇者その人ではないと気づきそうなものであった。
 しかし残った魔物が最後のチャンスであれば、とにもかくにもやらねばならないという気持ちの方が勝ってしまったのかもしれない。
 命を盾にしててでもその機会を作ってみせると叫んだカイは、そのまま最後に残った魔物へと向かっていく。
 その魔物は、もはやその立派な鎧すらボロボロにしてしまった、屈強な体躯を持ったゴブリンであった。

「し、しかし・・・いや、分かったぞキルヒマン!!私だって、それぐらい・・・それぐらい、やってみせる!!」

 エヴァンから見れば命を投げ打つ行為に見えるカイの振る舞いに、彼は一瞬躊躇いの表情を浮かべていた。
 しかしそれしかやりようのないこの状況に、迷いを振り切った彼は覚悟を決めると力強く頷いている。
 彼は早速とばかりに背中の大剣へと手を伸ばすが、やはりそれは中々うまく抜けないようだった。

『動くなよ・・・よし、では適当に抵抗する振りをしろ。いいな』

 ゴブリンへと接近したカイは、囁くような小声でそのゴブリンへと命令を下す。
 ボロボロの状態のためか、自らの前にいる存在が何者か気づかずに、その得物を振るおうとしていたゴブリンは、その声に稲妻を浴びたかのように動きを止めていた。
 そんなゴブリンの動きに満足げに頷いたカイは、素早く彼に組み付くとその動きを拘束するように手を伸ばす。
 自らの主人のそんな不可解な命令を耳にしたゴブリンは、戸惑いながらも何とかその願いを叶えようと、もぞもぞとその四肢を動かしていた。

「今です、勇者様!!私に構わず、その剣を・・・聖剣アストライアをお振るいください!!!」

 ゴブリンを拘束したカイは、いかにも必死でそれを押さえているという雰囲気を醸し出しながらエヴァンへと呼び掛けている。
 彼は涙すら浮かべて、自分の身体ごと切り捨ててくれて構わないと叫んでいたが、果たしてそれは本当だろうか。

『目の前の少年が切りかかってきたら、私を振り払え。いいな、動きがあったらすぐに振り払うんだぞ。出来るだけ遠くにだ、分かったな?』

 その命を犠牲にする事すら厭わないと叫んだカイは、その口で自らの身の安全を最優先にするように囁いている。
 カイのその真剣そのものな口調に、それが絶対に遵守しなければならない命令なのは嫌でも理解出来るだろう。
 カイから拘束されている振りをしているゴブリンも、そんな彼の口調に激しく頭を揺すっては了承を示していた。

「キルヒマン、そうまでして・・・くっ、分かったのだ!!待っていろ、今行くからな!!」

 そんなやり取りが行われているなど露知らないエヴァンは、カイが叫んだ言葉を額面どおりに受け取っては、感動に言葉を詰まらせてしまっている。
 彼はゴブリンを必死に拘束しているように見えるカイに向かって指を差すと、すぐにそちらに向かうと宣言する。
 そして彼は言葉通り、その背中の大剣を掴んでは走り出そうとしていた。

『よし、今だ!振り払え!!私を思いっきり弾き飛ばすんだ!!』

 走り出そうとするエヴァンの姿に攻撃の兆しを感じ取ったカイは、自らが拘束するゴブリンの耳元へと口を近づけると、今すぐ振り払うように命令を下す。

『っ!がぁぁぁっ!!!』
「くっ、これはっ!?・・・うわぁぁっ!!?」

 カイの命令に弾かれたように顔を上げたゴブリンは、雄叫びを上げると激しく四肢を暴れさせる。
 その圧力には思わずカイも弾かれてしまっていたが、しかしそれは大きく吹き飛ばされるほどではない。
 安全圏には程遠い場所に弾かれたカイは、その場に踏み止まった一瞬にわざとらしい悲鳴を上げると、自らの足で大きく飛び退いてみせていたのだった。

「さて、これでようやくお目に・・・あれ?」

 自らダイブした地面は、危険な要素もなく大して痛くもない。
 そのためすぐに体勢を立て直すことが出来たカイは、地面へと倒れこんだ姿勢のまま顔を上げると、エヴァンがその剣を振るう場面をその目にしようとしていた。

「ちょ・・・抜けない。な、何故なのだ!?ベルトか、ベルトがいけないのか?ちょっと待つのだ、そこのゴブリン!!今ベルトを緩めるから・・・あれ、ここを外せば・・・あれ?あれれ?」

 しかしその目に映ったのは、今だにその背中の大剣を抜くことが出来ず、戸惑っているエヴァン姿だけであった。
 大剣を抜き放っては駆け出そうとしていたエヴァンは、その最初の一歩で躓いてしまったことで、その場から一歩も進んではいない。
 彼はそれがうまく抜けないのは、それを背中へと固定しているベルトが悪いのだと考え、なにやら腰の方に手を回してはカチャカチャと弄り始めていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界転生、防御特化能力で彼女たちを英雄にしようと思ったが、そんな彼女たちには俺が英雄のようだ。

Mです。
ファンタジー
異世界学園バトル。 現世で惨めなサラリーマンをしていた…… そんな会社からの帰り道、「転生屋」という見慣れない怪しげな店を見つける。 その転生屋で新たな世界で生きる為の能力を受け取る。 それを自由イメージして良いと言われた為、せめて、新しい世界では苦しまないようにと防御に突出した能力をイメージする。 目を覚ますと見知らぬ世界に居て……学生くらいの年齢に若返っていて…… 現実か夢かわからなくて……そんな世界で出会うヒロイン達に…… 特殊な能力が当然のように存在するその世界で…… 自分の存在も、手に入れた能力も……異世界に来たって俺の人生はそんなもん。 俺は俺の出来ること…… 彼女たちを守り……そして俺はその能力を駆使して彼女たちを英雄にする。 だけど、そんな彼女たちにとっては俺が英雄のようだ……。 ※※多少意識はしていますが、主人公最強で無双はなく、普通に苦戦します……流行ではないのは承知ですが、登場人物の個性を持たせるためそのキャラの物語(エピソード)や回想のような場面が多いです……後一応理由はありますが、主人公の年上に対する態度がなってません……、後、私(さくしゃ)の変な癖で「……」が凄く多いです。その変ご了承の上で楽しんで頂けると……Mです。の本望です(どうでもいいですよね…)※※ ※※楽しかった……続きが気になると思って頂けた場合、お気に入り登録……このエピソード好みだなとか思ったらコメントを貰えたりすると軽い絶頂を覚えるくらいには喜びます……メンタル弱めなので、誹謗中傷てきなものには怯えていますが、気軽に頂けると嬉しいです。※※

異世界翻訳者の想定外な日々 ~静かに読書生活を送る筈が何故か家がハーレム化し金持ちになったあげく黒覆面の最強怪傑となってしまった~

於田縫紀
ファンタジー
 図書館の奥である本に出合った時、俺は思い出す。『そうだ、俺はかつて日本人だった』と。  その本をつい翻訳してしまった事がきっかけで俺の人生設計は狂い始める。気がつけば美少女3人に囲まれつつ仕事に追われる毎日。そして時々俺は悩む。本当に俺はこんな暮らしをしてていいのだろうかと。ハーレム状態なのだろうか。単に便利に使われているだけなのだろうかと。

転生したら遊び人だったが遊ばず修行をしていたら何故か最強の遊び人になっていた

ぐうのすけ
ファンタジー
カクヨムで先行投稿中。 遊戯遊太(25)は会社帰りにふらっとゲームセンターに入った。昔遊んだユーフォーキャッチャーを見つめながらつぶやく。 「遊んで暮らしたい」その瞬間に頭に声が響き時間が止まる。 「異世界転生に興味はありますか?」 こうして遊太は異世界転生を選択する。 異世界に転生すると最弱と言われるジョブ、遊び人に転生していた。 「最弱なんだから努力は必要だよな!」 こうして雄太は修行を開始するのだが……

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

墓守の荷物持ち 遺体を回収したら世界が変わりました

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕の名前はアレア・バリスタ ポーターとしてパーティーメンバーと一緒にダンジョンに潜っていた いつも通りの階層まで潜るといつもとは違う魔物とあってしまう その魔物は僕らでは勝てない魔物、逃げるために必死に走った だけど仲間に裏切られてしまった 生き残るのに必死なのはわかるけど、僕をおとりにするなんてひどい そんな僕は何とか生き残ってあることに気づくこととなりました

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

~唯一王の成り上がり~ 外れスキル「精霊王」の俺、パーティーを首になった瞬間スキルが開花、Sランク冒険者へと成り上がり、英雄となる

静内燕
ファンタジー
【カクヨムコン最終選考進出】 【複数サイトでランキング入り】 追放された主人公フライがその能力を覚醒させ、成り上がりっていく物語 主人公フライ。 仲間たちがスキルを開花させ、パーティーがSランクまで昇華していく中、彼が与えられたスキルは「精霊王」という伝説上の生き物にしか対象にできない使用用途が限られた外れスキルだった。 フライはダンジョンの案内役や、料理、周囲の加護、荷物持ちなど、あらゆる雑用を喜んでこなしていた。 外れスキルの自分でも、仲間達の役に立てるからと。 しかしその奮闘ぶりは、恵まれたスキルを持つ仲間たちからは認められず、毎日のように不当な扱いを受ける日々。 そしてとうとうダンジョンの中でパーティーからの追放を宣告されてしまう。 「お前みたいなゴミの変わりはいくらでもいる」 最後のクエストのダンジョンの主は、今までと比較にならないほど強く、歯が立たない敵だった。 仲間たちは我先に逃亡、残ったのはフライ一人だけ。 そこでダンジョンの主は告げる、あなたのスキルを待っていた。と──。 そして不遇だったスキルがようやく開花し、最強の冒険者へとのし上がっていく。 一方、裏方で支えていたフライがいなくなったパーティーたちが没落していく物語。 イラスト 卯月凪沙様より

外れスキルは、レベル1!~異世界転生したのに、外れスキルでした!

武蔵野純平
ファンタジー
異世界転生したユウトは、十三歳になり成人の儀式を受け神様からスキルを授かった。 しかし、授かったスキルは『レベル1』という聞いたこともないスキルだった。 『ハズレスキルだ!』 同世代の仲間からバカにされるが、ユウトが冒険者として活動を始めると『レベル1』はとんでもないチートスキルだった。ユウトは仲間と一緒にダンジョンを探索し成り上がっていく。 そんなユウトたちに一人の少女た頼み事をする。『お父さんを助けて!』

処理中です...