ダンジョン経営から始める魔王討伐のすゝめ 追放された転生ダンジョンマスターが影から行う人類救済

斑目 ごたく

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カイ・リンデンバウムの恐ろしき計画

エヴァンの戦い 2

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「えーっと、これは・・・そ、そうだな!とにかくもう一回やってみよう!」

 エヴァンのその姿に、何ともいえない気まずさを感じたのは、何もカイだけではないだろう。
 カイの事を振り払い、エヴァンに切り殺される筈であったゴブリンも、もはや何をしていいのか分からず、先ほどから頻りにチラチラと彼の方へと視線を向けている。
 そんなゴブリンの振る舞いに、とにかくもこのままではいけないと察したカイはそそくさと立ち上がると、慌てて彼の下へと再び駆け寄っていく。

「ゆ、勇者様!まだ大丈夫です!私が押さえておきます、押さえておきますから・・・今の内に準備を!!」

 どうしていいのか分からないと途方に暮れていたゴブリンも、再びカイに組み付かれれば合点承知と喜んで抵抗を開始している。
 その四肢の動きはもはや慣れたものなのか柔らかく、それでいて本気で抵抗していると周りからは認識される動きであった。
 そんなゴブリンの抵抗を全身で受け止めながら、カイは必死な様子でエヴァンへと呼び掛けていた。

「う、うむ!助かるのだ、キルヒマン!!その、もう少しで終わるからな・・・ここを、こうすればどうだ?」 

 一連のカイの動きとそれに対応しているゴブリンの振る舞いは、どう考えても不自然なものだろう。
 しかし自らの事で手一杯なエヴァンは、どうやらそれには気付かなかったようで、再びゴブリンの動きを押さえては声を掛けてくるカイに、感謝の言葉を返している。
 そうして再び自らの腰の辺りへと視線を戻したエヴァンは、相変わらずそこを何やらカチャカチャと弄っていた。
 その時、そこからカチャリと何かが外れる音が響く。

「よし、これで!待っていろ、キルヒマン!!今行くからな!!うおおおぉぉぉぉっ!!!」

 留め金が外れたベルトに、ようやく準備が整ったと確信したエヴァンはそれを大声で宣言すると、雄叫びを上げながら駆け出していた。
 その手に掴む大剣は今だ、その姿を現してはいない。

「今度こそ、いけるか?いや、まだ分からないぞ。ギリギリまで粘って・・・それで離れよう」

 こちらへと駆け出したエヴァンの姿に、すぐに飛び退こうとしたカイはしかし、先ほどの事を考えてそれをギリギリのタイミングまで待とうと考えていた。
 そんな事を考えては一人ぶつぶつと呟いていたカイは気付いているだろうか、エヴァンがもはやその大剣が届きそうな距離にまで近づいてきているのを。
 必殺の間合いにまで踏み込んだエヴァンは、その大剣の柄を強く握る。
 後はただ、それを思いっきり振り下ろすだけという状況であった。

「えっ!?うおっ、マジか!!?間に合わ―――」
「いっけぇぇぇぇぇっ!!!」

 カイがその状況に気がついたのは、エヴァンが気合の雄叫びと共に、その大剣を振り下ろそうとするのと同時であった。
 咄嗟にその場から離れようとするカイにも、拘束に伸ばした腕がゴブリンの身体へと絡みついてすぐには動けない。
 それをようやく振りほどいた彼はしかし、その場から一歩も動くことは出来なかった。

「あ、あれ?何が、うひゃぁ!!?」

 留め金を外したベルトは、それを括りつけていた衣服をもはや拘束はしない。
 そのベルトによって留められていたのは、何もその背中に括り付けれられた大剣だけではなく、エヴァンの身に纏った衣服も当然のように含まれていた。
 それを外してしまえばどうなるか、答えは簡単である。
 仕立ての良さに何とかその形を保っていた衣服も、駆ける動きの振動に揺すられればいつまでもその位置を保っていられない。
 ずり落ち地面へと近づいた衣服はエヴァンの動きを制限し、やがて踏みつけたそれに盛大にすっ転ばせてしまうだろう。
 うまく動けなくなった違和感に疑問を覚えたエヴァンはすぐに、悲鳴を上げては思いっきり地面へと身を投げてしまっていた。

「勇者様!?一体何・・・嘘だろっ!!?」

 しかしその派手な転倒は何も、失敗だけを齎した訳ではない。
 ベルトの拘束を失い、転んだ拍子で宙に舞った大剣の鞘は、もはやそれを抜く事を遮りはしない。
 明後日の方向へと飛んでいったそれに、瞬いたのはその大剣の刃だろう。
 エヴァンの悲鳴に、必死に逃げようとしていた身体を止めたカイは、その瞬いた刃に切り裂かれる自分と、そしてゴブリンの姿をその目でしっかりと目にしていた。

「・・・?あ、あれ?痛くないぞ?これは、もしかしてあれか?達人に切られると、切られたことにすら気づかないという奴か!?」

 しかし確かにその刃に切り裂かれ、真っ二つにされた筈のカイとゴブリンは、いつまで待ってみても二つに分かれることはなかった。
 それどころか痛みすら感じない身体に、カイは恐る恐る全身を触っては無事かどうかを確かめている。
 彼は必要以上に慎重にそれを確かめていたが、きっとそれは無駄に終わるだろう。
 何故ならエヴァンが振るったその大剣は聖剣アストライアではなく、それどころか鈍らでしかないただの飾りなのだから。

「やはり、駄目か・・・すまない、キルヒマン。実はこれは―――」

 その事実を知っていたエヴァンはしかし、僅かな可能性に駆けてそれを振るったのだろう。
 今この場で、残った敵を葬れるのが自分だけだと信じて。
 そんなささやかな望みが叶うほどには、現実は甘くない。
 彼は刃が奔った痕がうっすらと残っているだけのゴブリンの姿に、顔を俯かせるとがっくりと肩を落とす。
 そうしてカイへと謝罪の言葉を零した彼は、全てを暴露しようと呟き始めていた。

「・・・えっ!?マジかっ!?本当にそんな感じなの!!?」

 そして、そんな彼の願望を叶えてしまうほどに、この場所は残酷であった。
 その事実に最初に気がついたのは、そのゴブリンの背中へと取り付いていたカイであろう。
 最初は目の錯覚とも思えた違和感は、時が経つにつれにはっきりとした変化として現れる。
 糸を引くように、余りに見事に両断されたゴブリンは、その死にも気付いていないようにきょろきょろと周りを見回しながらゆっくりと左右へと別れ、ただの肉塊へと変わっていく。
 その様はまさに、カイが口にしていた達人の業前そのものであった。
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