【二章開始】『事務員はいらない』と実家からも騎士団からも追放された書記は『命名』で生み出した最強家族とのんびり暮らしたい

斑目 ごたく

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第一章 最果ての街キッパゲルラ

飛び火

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「あー・・・やっと終わったぁ」

 大きく伸びをしているマルコムの前には、先ほどよりも減った書類の山の姿があった。

「思ったよりも掛かったね。でもこれで何とか―――」

 マルコムとは反対に机に突っ伏してはぐったりとしているシーマスは、その顔を横にすると力なく微笑んでいる。

「えっ?な、何で・・・!?」
「ん?どうしたシーマス、何が・・・っ!?」

 そんなシーマスの視線の先で、片付けたばかりの仕事の書類が燃え始める。

「どういう事だ!?シーマス、何があった!?」
「分からないよ!?突然、目の前で燃え始めて・・・」
「そんな訳ないだろ!?くっ・・・とにかく早く火を消すんだ!」

 僅かに目を離した隙に突然燃えだした書類、それに何があったと問いただすマルコムにシーマスは自分にも訳が分からないと返すしかない。
 マルコムはそんなシーマスに苛立ちながらも、近くに用意してあった飲み物を手に取り、それを燃え盛る書類へとぶちまける。

「何、だと・・・どうして消えない!?」
「こっちも消えないよ、マルコム!?」

 しかしそれを浴びても、火の勢いは弱まる事はない。
 それに信じられないと固まるマルコムに、シーマスの声が飛ぶ。

「くっ、とにかくやり続けろ!このままじゃ全部・・・!」

 それは絶望を知らせるものであったが、マルコムはそれでも諦めず消火を続けろと叫ぶ。
 彼らの目の前には、燃え続ける先ほど終えたばかりの仕事の姿があった。



「あぁ・・・全部、全部燃えちゃった。やった分の書類も、まだ手を付けていない書類も全部・・・」

 床に両手をつきがっくりと項垂れるシーマスの前には、燃えカスすら残っていない。
 そして先ほどまであれほど山積みになっていた書類も全て、なくなってしまっていた。

「どうする、シーマス?」
「どうするって、こんなのどうしようもないじゃないか・・・」
「そうじゃない。このままじゃあいつらが、これを俺達の責任に―――」

 がっくりと項垂れるシーマスの肩に手をやったマルコム、この後どうするのかと彼に尋ねている。
 それにどうしようもないと返すシーマスに、マルコムは静かに首を振ると、それとは別に問題があると口にしていた。

「おい、こいつはどういう事なんだシーマス!?」
「ちっ、遅かったか・・・」

 マルコムの懸念、それはこの事態を自分達の責任にされてしまう事だった。
 そしてその懸念通りの事が、彼の背後で起こる。

「どういう事って・・・その、突然書類が燃え始めて」
「何を訳の分からない事を言ってるんだ!?書類を燃やしたのか、ここにあったのを全部!?ここには騎士団の予算に関わる重要な書類だって・・・お、お前らの責任だからな!!」

 何があったのか尋ねられても、シーマスには突然書類が燃え始めたと答えるしか出来ない。
 しかしそんな話は当然信じられる筈もなく、この執務室に現れたシーマスに仕事を押し付けた騎士達は、それを彼らの責任だと指を突きつける。

「・・・この仕事は本来、貴方達がやる仕事ですよね、先輩?」
「そ、それがどうした!?」
「だったら、今回の事も貴方達の責任では?僕達はあくまでも、善意で手伝っただけなんですから」

 この時間、ここで仕事をしていたのは本来、目の前の騎士達であった筈だ。
 であれば、ここで起きた問題も彼らの責任であるとマルコムは告げる。

「はぁ!?そんな理屈通る訳ないだろ!!?お前らだろ、お前らがここの書類を燃やしたんだろ!?」
「―――書類が燃えただと?それは一体どういう事だ?」

 マルコムの主張に、その騎士は顔を真っ赤に染めるとそんな訳があるかと叫ぶ。
 そんな彼の背後から、大柄で髭面の男が現れていた。

「っ!だからそれはこいつら、が・・・だ、団長!?」

 その男とはこの黒葬騎士団の団長、オンタリオその人であった。

「で、だ。つまるところどういう事だ?誰か説明を・・・」
「私が」
「マルコムか、話せ」

 不穏な言葉に説明を求めるオンタリオに、マルコムが一歩前に出てはそれに名乗り出る。

「・・・この執務室の書類が謎の発火を起こし、全て焼失してしまいました。ちなみにその時この部屋の担当だったのはそちらの方々で、私とこちらのシーマスは偶然その場に居合わせ事件を目撃しただけであり、今回の件とは全く無関係であります」
「ち、違う!!出火の原因はこいつらです!!大体、俺達はこいつらに仕事を押し付けて、この場にすら―――」
「おい、それは!!」

 オンタリオの登場に騎士達が動揺している隙に、マルコムは必要な事を一気に話してしまう。
 それに慌てて騎士達も口を出すが、彼らは同様の余り余計なことまで口走ってしまい、慌てて仲間から口を塞がれる有り様であった。

「ふむ、よく分からんが・・・この部屋の書類が全て燃えてしまった事は確かなのだな?」

 食い違う主張に、オンタリオは事情がよく呑み込めないと首を捻っている。
 しかしこの部屋の様子に、彼が訪ねたそれを否定出来る者はおらず、皆一様に頷いてはそれを肯定していた。

「この・・・・・・馬鹿者共がぁぁぁ!!!!」

 沈黙に、たっぷりと息を吸い込んだオンタリオの大音声が響く。

「ここには騎士団の運営に関わる大事な書類も、歴史的に重要な書物も保管してあったのだぞ!!それを、それを・・・全て燃やしてしまうとは、何たる事か!!!」
「お、俺達のせいじゃない!俺達はここにはいなかったんだ!!」
「えぇい!!口答えをするなぁぁぁ!!!」

 この期に及んでも責任逃れしようとする騎士に、オンタリオの怒りの鉄拳が飛ぶ。

「はー、はー、はー・・・貴様らには罰として、王都クイーンズガーデン周囲の魔物討伐の任を与える」

 暴力を振るう事で多少は怒りが収まったのか、オンタリオは静かにそれを告げる。

「は?魔物討伐ですか、しかし・・・」
「さっさと行かんか!!!」
「「は、はいぃぃぃ!!!」」

 しかしそれに口答えしようとした騎士に、またしても怒りをぶり返させると彼はその場の騎士達を無理やり外へと追い出していた。

「・・・今回の件、これで済んだと思うなよ?ま、精々後ろには気をつけるんだな」

 別れ際、騎士達は後ろを振り返るとそんな捨て台詞を吐く。

「後ろに気をつけろ?誰に向かってそんな口を聞いてるんだ?この建物から出れば、騎士という肩書も先輩という立場も守ってはくれないんだぞ?・・・実力の差を思い知らせてやる」

 そんな騎士達の姿を見送りながら、マルコムは冷たく笑う。
 シーマスはそんなマルコムの姿に、ごくりと生唾を飲み込んでいた。
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